Re:SAO ~return recollection~ 作:寄す処の空
「諦めてくれりゃいいのに」
武器を失い両手を広げて襲いかかってくる第二層ボス〝バラン・ザ・ジェネラルトーラス〟にとどめの一撃を加える。
コボルトロードをシャープにし、筋力と俊敏性を特化させたような見た目とステータス面以外変わらないモンスターだ。
その前にナトなんちゃらとかいうボスがいたが別段苦戦もしなかった。
あまりにも呆気ない終わり方だったため勝利のファンファーレが鳴らないことにも驚きはしない。
まさかこれで終わりだなんていうわけが無いだろうというくらいに。
”ガラッ”
岩が擦れるような音がし、後ろを見る。
そこには頭に王冠をつけた、先ほど相手をしていたものよりもまた一回り大きいモンスターが立っていた。
〝アステリオス・ザ・トーラスキング〟
「流石にこいつが最後だろうな」
太刀を持ち上げ、目の前に集中する。
上層の方でもフロアボスが複数いるケースはそう多くはない。
そして複数いる場合は決まってどの個体も中途半端なステータスだ。
それが分かっている時点でそう構えるものでも無い。
「もう少しよろしくな」
独り言のようにつぶやくと再びボスの下へと駆けだした。
■ □ ■
「呆気ない」
ボス攻略による盛大な音楽に包まれながら、次の層への階段へ歩を進める。
結局王冠をつけていようが、雑魚は雑魚だった。
相手の行動がほとんど分かることに加え、安全マージンを異常なほどに超えたレベルとステータス。
持ち前のセンスとそれ以上のステータスが彼に負けというものを与えなかった。
初見で相手の行動が分かるというのはそれだけでチートだ。
この世界は経験が物を言い、結果がレベルやステータスにつながる。
そんな世界で二度目のシオンが劣るはずがない。
「前の世界の俺とは違うんだよ」
太刀を撫で、ストレージへとしまう。
このまま三層もなんて考えていたが、ボス戦が終われば自分が疲れていることに気づく。
仕方なく宿に泊まる事にするがまだ休むことは許されない。
転移門のある街では眠れない。
シリカ達が探すとすれば探しやすさも含め一番が主街区だ。
そんなところで寝ていたらすぐに居場所がばれてしまう。
今はまだ、皆に会うわけには行かない。
「ほんとは、探してほしいだけだったりしてな」
冗談のように呟きため息を吐く。
シオンに課せられたミッションは自身の持つ立派なハンデを生かしこのデスゲームを攻略すること。
先へ先へと進めば死者は減り金策やレベリングもやりやすくなる。
時を見てまた攻略組の一員になればそれでいい。
それは恐らく十層や二十五層になるだろう。
「それまではもってくれよ、頼むから」
高鳴る鼓動を落ち着かせるようにつぶやく。
一人でクリアなんて言ってはいるが、怖いものは怖かった。
元々そんな勇気のあるタイプではないため自分を騙し騙しでここまで動かしている。
考えることを放棄しているおかげでなんとかここまで来ているのだ。
立ち止まって心意を確かめてしまったら二度とこの足は動かなくなってしまう。
心を無にして殺して無理やりこの慣れないソロプレイを続けるしかないのだ。
辞めてしまいたい、逃げてしまいたい、ここまでやれなんて誰にも言われてはいない。
だがどうしてか。
一層の後にちらついたあの記憶だけが、あんなものだけは二度と見たくないとシオンの背中を無理やり押していた。
「なあ、どうしたら良いんだよ茅場晶彦。どっかで見てるなら教えてくれよ!」
ヒースクリフがいつからこの世界にいたのかは知らない。
だがシオンの求めるその人物は、しばらく姿を現さなかった。
■ □ ■
第五層 フィールドボス〝タイラントスパイダー〟
迷宮区へと続く道を塞ぐ蜘蛛に足踏みをしていた。
蜘蛛型のモンスターは既に何体か出会っていたが、フィールドボス級はこれが初めてだ。
そのモンスターに対し隠蔽で隠れつつ舌打ちをする。
既にこれに挑むのは三回目。
最初の一、二回は撤退に終ってしまった。
一度目は偵察だったのでそれでよいのだが、殺しにかかった二度目ですら退却させられたのは想定外だ。
取り巻きが六体。
倒しても時間が経てばすぐに復活し、ボスは足を切り刻んでも元に戻る。
つまり、体勢が崩れないのだ。
だからとボスばかり見ていると取り巻きの蜘蛛の巣というスタン攻撃が待っている。
一度捕まってしまえばボスの攻撃でかなり削られるか、最悪死ぬだろう。
ソロプレイの限界とはこうも早いものなのか。
「安全マージンって言っても、もうここじゃ通用しないよな」
現在のシオンのレベルは22。
安全マージンは優に超えているのだが、安全マージンは悪魔でそのフィールドにいるモンスターと十分に戦えるというライン。
それを超えているからといってフィールドボスを楽に倒せるというわけではない。
ましてやソロでなんて。
「こんなのに手こずっててどうすんだよ」
右手に太刀を握りしめ隠蔽から索敵へと切り替える。
既に向こうの警戒圏内なので気付かれるのは分かっているが全部倒せばいいのだ。
言ってしまえば簡単、やることは単純だ。
一度深呼吸をすると、隠れていた林から飛び出す。
すぐにボスは気づき、やがて取り巻きもこちらを向いた。
「寝床で大人しく寝てろよ」
手に持つ太刀をボスの顔へと投擲する。
でかい図体が幸いし、避けようとしていたが見事に突き刺さった。
瞬間虫独特の鳴き声が響く。
取り巻きは主を攻撃されたことに怒りでも覚えたのか、勢いよくこちらへと向かってきた。
「あんま虫好きじゃないんだよな」
腰につけてあるピックを六本取り投擲。
蜘蛛の顔に突き刺さり、六匹全てがボスの元へと吹っ飛んだ。
その瞬間親玉へと走り太刀を引き抜きソードスキルで横に薙ぎ払う。
ボスを倒すことはできないが、取り巻きが消滅する音が鳴り響いていた。
「これでやっとお前を倒せるよ。長い間ご苦労さまでした」
握った太刀をもう一度輝かせる。
だが、そこで動きが止まった。
「……まさか」
直接確認することはできないが、索敵により背後に一体何かがいた。
「油断した……!」
そこには取り巻きと同じサイズのものがいた。
うち漏らしか別のものか。
雑魚ならいいとかそういう話では無い。
スタンなんてほんの一秒もないもの。
それが切れれば動ける。
だが、敵はその虫だけじゃない。
すぐに目の前の親蜘蛛が新たな技を使い、麻痺状態へと追いやられた。
「くそっ……!」
体が動かない。
回復結晶を持っていようがこの状態じゃ使おうにも使えない。
ソロプレイの悪いところだ。
集団なら、こんな敵雑魚同然だというのに。
部位欠損、出血。
もうシオンの体はぼろぼろだった。
既にレッドゾーン。
いつ解除されるのかすら分からない。
「これ、死んだな」
目の前の光景を見ずに目を閉じた。
呆気ないものだった。
恐怖はない、こんなあほらしいことをした後じゃ寧ろ笑えてくるというものだ。
自分勝手な行動が自らを死へと誘った。
面白い、大爆笑ネタだ。
何がSAO二回目だ、誰も救えず再び茅場に会うことすらできていない。
やりたいことだって何もできなかった、いったい何をしに来たのだろうか。
こんなはずじゃ、無かったのに。
「……ごめん」
「──────諦めるなよ」
その声に意識を戻す。
すると、目の前で黒いコートがモンスターを斬り刻んでいた。
リポップした取り巻きは消滅し、ボスも後ろ四本を斬られたことでバランスを崩している。
「A隊、キリト君に続き残りの足を全て斬り落とせ!E隊F隊はシオン君を守りつつ次の攻撃を警戒!」
「御意!」
ディアベルの指示により各々のプレイヤーが動き出した。
気付けば麻痺状態は解けており、地面に尻もちをついている。
突然の状況に頭が追い付かずその光景を見るだけで精いっぱいだった。
「これ、使ってください」
「あ、ああ」
通りすがり一人のプレイヤーが回復結晶を投げてくる。
それを受け取ると、自然とそのプレイヤーから目を逸らした。
「すまないシオン君、遅れてしまった」
「……冗談言うなよ、アンタが謝る所じゃない」
「それもそうだね」
口癖なのか謝罪から入ったディアベルに強く当たる。
謝るのも、感謝をするのもシオンだ。
そんな皮肉がこもったようなセリフをただの善の心で言われてしまってはいよいよ立場が無くなってしまう。
同情なんてして欲しくはなかった。
「みんな、シオン君に追いつこうと頑張っているよ。現にこうして独自で連携を取り戦えている。攻略組の人数も初期とは違い48人をオーバーしたよ。全部、君のおかげだ」
「俺じゃねえよ。俺なんかじゃ」
下げていた顔を上げると、目の前でボスが消滅していた。
プレイヤー達はお互いを讃え、ディアベルの元へと戻ってくる。
「ディアベルさん、次はどうしますか?」
「これで迷宮区への道は開けた。今日は一度街へ戻り、明日迷宮区攻略へと向かおう」
「了解です」
一礼すると自分の隊へと戻る。
今ここには三つの隊だけが来ていた。
「他の隊は?」
「キーモンスターを倒しに行っているよ」
「あぁ、キーモンスター」
「シオン君は今まで一度も倒していなかったようだね。せっかくのボスモンスター情報なのに」
「時間が、無かったので」
ばつが悪くディアベルから目を逸らしながら話す。
悪いのは完全にシオンのほうだ、そんな状況下で胸を張ってなんてできるわけがない。
この場から逃げ出さないだけましと言ったところだろう。
「俺はシオン君を責めようとは思わない。君のことを客観的に言うと、
「……随分とひどい言い方ですね」
「最後の方だけ取ってもらえると嬉しいな。だからさ、シオン君が抱えているその何かを、よかったら話してもらえないかな?俺でも、キリト君でも。話しやすい人にだ」
「抱えている、もの」
ディアベルの言うそれは、過去と現在をつなげている記憶のことだろう。
つまり過去を、未来から来ましたなんていう馬鹿げた話をする事になる。
そんなもの、普通の人が信じてくれるわけがない。
ただ、それでも話すことで本当に楽になる事が出来るのなら。
もしディアベルが信じてくれるというのなら。
この苦しみから解放されるというのなら。
「聞いてもらえますかね?」
「もちろんだよ」
ディアベルの喜んで!という表情に少しだけ笑った。
結局ディアベルのことは思い出せないし、今回も接点なんてほとんどない。
ただこんなにやさしい人が近くにいることがどこかうれしかった。
ディアベルと共に転移結晶を握り締める。
遠くでこちらを見ている彼女から目をそらすように。