Re:SAO ~return recollection~   作:寄す処の空

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第十五話 想い想われ

 迷宮区から戻ってきた夜、シオンは宿屋にてディアベルに告げたもののほとんどをシリカに話した。

 

 デスゲーム二回目だなんてこの際どうでもいい。

 この道を歩んで死にかけたことや死者が何百も出たこと。

 少なくとも攻略組なんていう道を歩まなければシリカは最後まで無事で生きていてくれたことなど、とにかく彼女が怖気づくようなことをずらっと並べていった。

 

 かなり大人げない手法だとは思うが今更手段がどーのなんて言える状況ではない。

 当然彼女が最前線に残ることを良しとしたわけではないのだ。

 

 だが、それでも退かないのならもう止めるのはやめようと思った。

 これでも退かないのならもう何をしても無駄だろう。

 諦めと言われたら否としたいところだが実際その通りである。

 最終手段として脅しなんかもあったが、それをする勇気をシオンは持ち合わせていない。

 これ以上恩人を傷つけるなんていくらシオンでもできなかった。

 

 どこかに過去は絶対に変えてはならないという言葉がある。

 

 同時に過去を変えても未来は変わらないという言葉がある。

 

 矛盾極まりないが、未来が変わらないのならそれでいい。

 彼女に関しては。

 

 

「…………あたしは、シオンさんが一人にならないのであれば、何でもいいんです」

 

 しばらくの沈黙のあと、ぽそっと口を開いた。

 シオンが予想していた言葉とは少しだけ逸れていて。

 

「シオンさんは何故かよく一人でいます。それはこう、言い表しにくいんですけど、私が隣にいたとしても、です。シオンさんだけがどこかに行ってしまっているようで、それが嫌なんです。シオンさんの話を聞いて少しだけその理由がわかりました。それこそ会ってまだそんなに経っていない私が出しゃばって言うことではないのは分かっています。だからあたしと一緒になんて言いません。誰か、シオンさんを一人ぼっちにしない人と一緒にいてください。一人になるのだけは」

 

 真剣な眼差しで語るシリカの顔をじっと見る。

 どれだけ見つめても彼女の表情が崩れることはなかった。

 同時に自分は今どんな顔をしているのだろうと考える。

 

 なんでシリカに、こんな小さな子にこんな顔をさせているのだろうと考える。

 一体自分はどれだけのものを彼女に背負わせてしまっていたのだろうか。

 普通この歳の子がこんな顔をするか?

 そんなわけがないと自分を小ばかにしながら。

 

 結局昔から何も変わっちゃいない。

 

 

「子供はどっちだっての」

 

「え?」

 

「シリカはさ、こんな俺だけどまだ信用してくれるのかい?」

 

「はい。シオンさんはシオンさんですから」

 

「意味わかんないっての。……また、裏切るかもよ?」

 

「そのときはまたちゃんと止めて、ちゃんと叱ってあげるまでです」

 

「お前はお母さんか。……敵わないな、ほんと」

 

「えへへ」

 

 頭の上に手を乗せ、そっと揺する。

 その手の中で微笑む少女に思わず頬を緩める。

 全てちゃんと話すべきだっただろうか。

 

 それは過信しすぎなのかもしれない、だからシオンはいくつか言葉を省いた。

 彼女にこれ以上いらないものを背負わせるわけにはいかない。

 例え彼女がシオンの期待以上の人物だったとしても。

 

 

「まだ12歳」

 

「へっ……?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

「なんか今、少しだけびっくりなことが」

 

「なんでもないよーん」

 

 わしゃわしゃと頭を揺すり誤魔化す。

 今の彼女には既にキャパオーバーだ。

 これ以上面倒ごとを共有しようなんて今は思わない方がいい。

 降りかかる災難は全て処理する。

 例えそれが一人ぼっちになってしまったとしても。

 

「シオンさーん?」

 

「なんだよー。よいしょっ」

 

「わわ、シオンさん降ろしてください!自分で歩けますから!あの、ハラスメントコード出てますからぁ!!」

 

「押すなよー押すなよー、絶対押すなよー」

 

「何ですかその棒読み!あと、それ押す流れですから!」

 

「ぽいっと」

 

「きゃっ」

 

 お姫様抱っこしたシリカをベッドに放り投げはにかむ。

 投げられたシリカはむすっとしていたがどこか楽しそうだった。

 

「平和だなぁ」

 

「どこがですか!」

 

「……ありがとな」

 

「はい?」

 

 良く聞こえなかったといった風にのぞき込んでくるシリカの頭を押さえ無理やり揺さぶる。

 何か誤魔化していることに気づいたようだったがそれを受け入れると追及はしてこなかった。

 

 

 それから二人とも夜中まで話を続けた。

 この平和がずっと続けばいいのだ。

 迷宮攻略なんかやめて隠居してでも。

 それが出来れば苦労はしない。

 

 自分がいなくてもこのゲームは攻略されるかもしれない。

 だが、そのために戻ってきたわけではないのだ。

 何が何でもこの手で。

 

 

 

 

 ■ □ ■

「第五層ボス攻略開始!全員、シオン君に続け!」

 

「「「おぉぉ!!!」」」

 

「なんで俺に続くんだよ」

 

 大きな盾を手にしたタンク隊がシオンの背後につく中、シオンは太刀を握り締めボスに特攻する。

 今回のボスは宙に浮いた人面のようなものだ。

 性質は金属でできておりぱっとみ何をしたらダメージが入るのか分からないが、叩いたり斬ったりすればしっかりダメージは入るとのこと。

 どこぞの全年齢ゲームで似たようなモンスターを見たことがあったが炎攻撃なんてないのだから効果バツグンはなさそうだ。

 ちなみに第二形態では手足が生えてくるとか。

 ボスの姿も茅場昌彦が考えたのかは知らないがどういうセンスの持ち主なのか問い正したかった。

 

「さっさと倒れてくれよ、面倒だから」

 

 ヘイトを集めるべくスキルを発動し初撃を加える。

 やる気なさげに浮遊するモンスターはそれを食らうと血相を変えてシオンへと襲い掛かった。

 

「気持ち悪いっての。スイッチ!」

 

「はい!てやぁ!!」

 

 一撃に対しパリングを試みよろけたモンスターにすかさずシリカが一撃を加える。

 敵にターゲットチェンジされそうになるが下がるシリカの前に立ち攻撃を加えるとより濃いヘイトがシオンへと向いた。

 

「もっと攻撃してくれよ。パターン見せてくんないとやりずらいだろうが」

 

 独り言のように呟くシオンに先ほどの攻撃と同じものを繰り出す。

 その攻撃に彼は詰まんなさそうに舌打ちすると、タンク隊が一斉に攻撃を弾いていた。

 その隙を見て斬りこみ隊がソードスキルを発動していく。

 

 

「これは一人でも行けたかもな」

 

「駄目ですよ、あたしもついて行きますからね」

 

「冗談だよ。まあ、4,5人いたら十分だろってのは事実だけど」

 

 前線から離れバフを送りながら見学モードに入る。

 決して真似すべき存在では無いがシリカもその隣に立ち暇つぶしに付き合っていた。

 

 可能ならソロプレイなんて二度とやりたくない。

 だがこのサイズのボスに40人強を動員して戦うのもやりずらいというものだ。

 報酬は参加者全員分貰えるのでそれこそ見学者をいれるくらいが妥当だろう。

 やっても交代がベターだ。

 

 やがてボスのHPバーが何本か消えた頃に手足が生えゴーレムという姿になる。

 それを見るとシオンは小さくため息をつき、交換しておいた盾と棍を握り締めボスに特攻した。

 

「ワールウィンドォ!」

 

 変身後の一撃に武器を重ねダメージを受けながらも無理やり攻撃を弾く。

 そこに各々のプレイヤーが攻撃を加えていった。

 別に必要のある行動ではない。

 だが少しくらい、罪滅ぼしのつもりで。

 

「迷惑かけた分少しは邪魔させてもらうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でやぁあ!!」

 

 キリトの一撃がボスの脇腹をえぐる。

 それを受けたボスは一瞬停止した後ガラス片のようにフロア全体へと散っていった。

 

「LAはまたキリトかぁ」

 

「俺もラストアタック決めてーなぁ」

 

 眼前に≪Winner≫表示が広がり第五層攻略を祝福する。

 勝利に喜ぶのと同時にキリトをうらやむ声がちらほら飛んでいた。

 シオンもLAボーナスがもらえないことは多少なりとも残念だ。

 

「お疲れ様シオン君。その、これは悪いことではないんだよね?」

 

「まあ大丈夫なんじゃない?これで無茶をするプレイヤーは見たことないよ。単騎で行って勝てないことはみんな分かってるし、次回からのレベ上げなんかは努力するようになるかもしれないけど、やっぱみんな命は大事だからね」

 

「それならいいんだ。こればっかりは君の知恵を頼らないとね」

 

「大したことないよ。ディアベルもお疲れ様」

 

「今回は何もしてないけどね」

 

「次からはさぼるからそん時はよろしく頼むよ」

 

 ははっと笑うディアベルに苦笑いする。

 今回こそ仕事を無理やり横取りしていたわけだが、実際ディアベルの指示は褒められるべきものだ。

 シオンも目の前にいるものに指示を出すことはできるが、それは悪魔で一瞬の対処法であり軍全体を動かす能力は持っていなかった。

 何度も言うがそれは才能でありいくら頑張ってもシオンが身に着けることはできない。

 だから少しだけ、それがうらやましいのだ。

 

「お疲れ様ですシオンさん!」

 

「お疲れ様シリカ。怪我は無いか?」

 

「大丈夫ですよ。あたしも何もしてませんから」

 

「今日は皆さぼり組だな」

 

「シオンさんは頑張ってたじゃないですか」

 

「俺は奇声あげてただけだよ」

 

 それを聞いてシリカが笑う。

 そうする理由の中に彼女にボスを近づけたくないというのもある。

 

 別に彼女の実力を認めていないわけではない。

 彼女は強い、それは付け焼刃なんてそんなものではない。

 ただどこかで彼女が傷つくことを恐れているのか、真の意味で認めることは出来なかった。

 それは一体いつになるのか、それはシオンにも分からない。

 

「また次もよろしく頼むよ」

 

「はい!」

 

 頭をぽんぽんと叩くと上層への階段に歩を進める。

 その後ろをとことことついてくるシリカに気づかれないようにため息をついた。

 

 

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