Re:SAO ~return recollection~   作:寄す処の空

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第十八話 鼠

 翌日、シオンは五層のフィールドでモンスター狩りをしていた。

 隣にシリカの姿はなく、ソロだ。

 

 しばらくソロでフィールドには出ていなかったが、特別何かが変わるわけでもなく淡々と敵を倒していく。

 シリカも普段なら許してはくれないところだが、下層であることとその本当の理由を知っているため心置きなく送り出してくれた。

 最上層でソロをやりたいなんて言った時には絶対に許可は出ない。

 前科持ちだから仕方がないのだ。

 

 

「これで五十体。……そろそろ出てきてもいいんじゃないですか?」

 

「バレてたカ」

 

「攻略組舐めないでください。あと、ここほとんど隠れる場所無いから」

 

 そこにいる人物に話しかけると岩陰からぴょこっとアルゴが出てくる。

 目が合うとニャハハといたずらのばれた子供のように笑っていた。

 

 大して敵の強くないこの層では索敵スキルをフルに使える。

 いくらアルゴが隠蔽スキルを多用するプレイヤーだからといってシオンの索敵には敵わなかった。

 

「それで、オネーさんをこんなところまで呼んで一体何の話カナ?」

 

「そりゃ昨日の話に決まってるだろ。なんでここまで呼んだかは、まああれだ、昨日みたいにならないようにな」

 

 苦笑いをしながら空を仰ぐ。

 思い返せば昨日の自分が過激だったことは目に見えていた。

 その理由を何も知らないものが目にしたら、当然驚くほかない。

 だが、それを抑えられるほど今も心の持ちようが定かではなかった。

 

 

 殺人ギルド。

 名を挙げてしまえば『笑う棺桶(ラフィンコフィン)

 シオンが彼らを許すことなどありえない。

 それくらい彼らとは因縁の仲なのだ。

 心身のコントロールが効かなくなってしまうくらいに。

 

 だからこそ、自身以外にコントロールを委ねることにした。

 第五層、フィールドボス一歩手前。

 初めてここに来た時死にかけた場所だ。

 

 ソロですべてを片付けようとした阿呆が呆気なく殺されそうになった場所。

 ここでなら暴走して単騎突撃なんて馬鹿なことは考えなくなるだろうと思っていた。

 実際そうでなかったとしても心の持ちようの問題だ。

 コントロールを委ねるなんて馬鹿なことを考えている時点でまともな思考をしていないのは分かりきっている。

 だからこそここでなら冷静を装って話せる、そんなものが必要だった。

 

「話してくれるか?」

 

「シー助、オレっちからタダで情報を聞き出すつもりカ?オレっちは情報屋だゾ?シー助からしたら報酬無しでクエストを受けろって言われているようなものダ」

 

「それもそうだな、これが商売なわけだし。それで?今回は何が欲しい、いくらだ?」

 

「随分あっさりと認めるんだナ」

 

「お前が言い出したんだろ。報酬を渋るつもりは毛頭ない」

 

 シオンの表情を見てアルゴはため息をつく。

 昨日のように怒る気が無いのは彼女にも伝わっていたが、その顔を見れば急かされているのだと一目で分かった。

 探りを入れてみるといつもの彼らしくない返答が返ってくる。

 彼が言葉巧みな人物であることは分かっているが、アルゴにそれは通用しなかった。

 

 だからここで素直に教えてしまっては二の舞だ。

 彼のその怒りがどこから来るものなのかは考え難いが、そんなものは関係ない。

 アルゴがしたいことは一つだけなのだから。

 

「物はいらないヨ、お金もいらナイ。……なあシー助。シー助は約束は守る方だよナ?」

 

「なんだよ急に、珍しいこと言うな。何もいらないってお前らしくない」

 

「質問に答えてくレ」

 

「質問?あー、約束ね。そんなこと考えたことも無かったけど守る方じゃないのかな?破って関係が崩れたりするのはあんま良くないだろうから」

 

「そうカ、なら約束ダ」

 

 アルゴのいつもとは違う雰囲気にん?と疑問を浮かべるが、突然腹部にぶつかってきた彼女に思考が全て持っていかれる。

 すぐに背後に手が回ってきて、いよいよ訳が分からなくなっていた。

 

「あのー、アルゴさん?」

 

「オレっちからのお願いダ。……無茶だけはしないでくれ、一人で解決しようだなんてそんなことはオネーさんが許さないからナ」

 

 背後に回された手に力が加わる。

 俯く彼女の表情は伺えず終始驚くことしか出来なかった。

 

 シリカと同じようなことを言うなぁとシオンはただ思っていた。

 この問題を他の誰かと解決しろという方が難しい。

 こんな約束守れるわけがないとシオンは思っていたが、先手を打たれてしまってはどうしようも無かった。

 言ったそばから嘘なんてつけなかった。

 それに、相手はアルゴなのだから。

 

「分かったよ。約束だ」

 

 眼下にいる鼠の頭をそっと撫でる。

 するとびくっと反応し勢いよく後ずさっていた。

 

「急に触るナ!びっくりしたじゃないカ!」

 

「そんなに驚くことか?なんかちょっと傷ついたな」

 

「今のはシー助が悪イ」

 

「そりゃどうもすみませんでした」

 

 ぺこりと頭を下げると手のひらを見つめていた。

 どこかで触ったことのある、懐かしい感触だなと。

 

 

「それで、話してくれるんだよな」

 

「せっかちだナ」

 

「ここまで伸ばしといてそれ言うか」

 

「もう少し人を待つことを覚えないとモテないゾ?」

 

「お前は俺の母親か」

 

 シオンが冗談のように言う中、意を決したのかアルゴはもう一度ため息をつき口を開いた。

 

 

 ここ最近、主に第二層第三層にて殺人が起きていること。

 いずれもフィールドで起きたことであること。

 目撃者のはっきりしたもので十件ほど、目撃者はいないが行方不明になったのち死亡した者がまた数件。

 どれも基本的にソロで行動をしている者を襲った犯行のようだ。

 後者はモンスターにやられたのではないかと思ってしまうが、街中での不可解な出来事の後というものもあり人が手を加えている可能性が高いという推測に至った。

 

 目撃者のいる現行犯があるということは、もうこの世界で確かにPKは始まってしまったのだ。

 まだ圏内でのPKは起きていないようでほっとするが、それも時間の問題。

 PKが広まれば誰かがそれを見つけ、広めるのだ。

 それをシオンは知っていた。

 

「第一層には自警団が設立されて比較的安全になっていル。これにはディアベルが関わってるそうダ」

 

「知らなかったな。そんなことまでしてたのか」

 

「このゲームにも子供はいっぱいいるからナ。シーちゃんと同じ、それ以下でも確認できるだけで100くらいはいるんじゃないカ?」

 

「きっともっといるだろうよ」

 

 シオンの物思いに耽る姿にアルゴは再びしまったと思うが、それ以上には変わらないようでほっとする。

 

「そのためにも、早くこの件は終わらせないとな」

 

「約束は守れヨ?」

 

「当たり前だ。アルゴも無理はするなよ」

 

「オレっちはシー助とは違うからナ」

 

 ニャハハとバカにするようなどこか安心する笑い方にシオンは安堵する。

 もし万が一にでも、この件でアルゴに無理をされては本末転倒だ。

 自分のせいで他の人が被害を受けるなんてたまったものではない。

 

「ありがとう、話してくれて」

 

「気にするナ、オレっちも好きでやってるからナ」

 

「好きで、か。変わった趣味だな」

 

「そういう意味じゃナイ。シー助はどうしていつもそうやって揚げ足を取るんダ?」

 

「冗談だよ。ちゃんとアルゴが何を考えてるのかは理解してるつもりだ」

 

「本当カー?」

 

「本当本当」

 

 アルゴの疑うような眼差しに手を上げて無実を証明する。

 そんな姿に彼女はため息をついていたが、渋々納得したという感じだった。

 

「そうだ、話変わってもう一つ聞きたいことがあるんだけど、キリトとアスナがどうなったか知ってるか?二日も寝てたから知らなくてな」

 

「まだ続いてたのカその言いワケ」

 

「だから本当なんだって!」

 

「いくら情報屋でもなんでも知ってるってわけじゃないんだゾ?」

 

「さすがに分からないか」

 

「コンビは解散したヨ。なんでもキリトから申し出たそうダ」

 

「キリトから?そうなのか。まさか不仲とかじゃないだろうな」

 

「理由はさすがにオレっちでも知らないヨ」

 

「つかなんでそれをアルゴは知ってるんだよ」

 

「一見どうでもいいような情報でもそれがお金になると知ってオレっちのとこに来るやつがいるからナ」

 

「漏らしたのは攻略組の誰かか」

 

「こんな情報シー助以外必要ないしシーちゃんにでも聞けば簡単に答えてくれただろうけどナ」

 

「そりゃ価値の無い情報だな」

 

 とりあえずコンビを解消したのは前回も今回も同じ。

 その理由は知らないわけだが、シオンの介入で今後の二人の関係に影響が出ないかだけが気掛かりだった。

 あんな息ぴったりのコンビが解消される理由が分からないが、何か特別なワケがあるのだろう。

 あとはそのうちまたくっつくのを待つだけ。

 下手にちょっかいを出さなければきっと大丈夫なはずだ。

 それに、アスナが一人になったということはそのうち血盟騎士団も出来るのだろう。

 

 『ヒースクリフ』

 

 彼が団長でない限り恐らくそのギルドは設立されない。

 この世界に来てから今まで一度もヒースクリフの存在は確認できていないため彼がここにいるのかどうかは分からない。

 ゲームマスターなのだからいつでもどこでもぴょこっと出てきそうだが、その出てきた人物が自分の知りえる者か否かが気になるところである。

 

 知っている者なら心強いし、知らない者であるならさっさと暴いて加勢してもらうまでだ。

 知らない者であった場合自分の知る茅場昌彦はどこに行ってしまったのか気になるところだが、科学者の考えることなど到底理解できないためそれは考えないでおく。

 もしかするとこの世界には一生ヒースクリフは出てこないのかもしれない。

 

 今思えばそこらへんもちゃんと聞いておけば良かったと後悔した。

 血盟騎士団が出来なかった場合これからどうなるのだろうか。

 

 

 

 

「なあシー助、聞いてたカ?」

 

「悪い、ちょっと考え事してた」

 

「まだ疲れてるんじゃないカ?」

 

「そんなことないよ。むしろ寝すぎたくらいだ」

 

「なんならオネーさんが膝枕でモ」

 

「今日は随分と気前がいいんだな」

 

「……やっぱ最後のは無しダ」

 

「いつか頼むとするよ。いろいろと聞けて助かった、またなんかあったら言ってくれ」

 

「今度はしっかりお金取るからナ」

 

「お手柔らかに」

 

 シオンが転移結晶を使いその場を後にする。

 アルゴは目の前に霧散するガラス片をすくうように手を伸ばすと小さくため息をついた。

 それは誰もいないフィールドに広がるとやがて空気中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

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