Re:SAO ~return recollection~ 作:寄す処の空
「抜刀術三式、みだれ桜」
太刀を突剣のように持ち、突きと斬撃の八連撃を繰り出す。
棍棒を持った巨体の鬼はそれを腹部に受けると痛みに声を上げるが踏ん張り手に持つ棒を振り回した。
その棒がシオンの腹を横殴りしようとするが刀身で受け止めることで攻撃を往なす。
「スイッチ!」
「はーっ!」「やーっ!」
両サイドからアスナとシリカが飛び出し巨体にソードスキルを打ち込む。
よろけた体にキリトが追い打ちをかけ、鬼は叫ぶと共にその姿を消滅させた。
「うっし」
武器を納めディアベルにメッセージを送る。
第二班、キーモンスター討伐完了。
現在第十三層にて攻略組は四班に分かれてキーモンスター討伐と迷宮探索に努めていた。
ディアベルのいる本隊が迷宮探索にあたり、キリト達と数パーティがキーモンスター討伐及び周囲のモンスター討伐にあたっている。
残りの二班はフィールド探索がメインでレアアイテムや新種の素材なんかが無いかを探しているのだ。
この二つの班の人数は本隊、二班に比べて少人数ではあるが、そこをカバーするため攻略組以外にも協力を仰いでいた。
最前線プレイヤーの護衛の下最上層のモンスターを狩り、尚且つアイテムも入手することが出来るということで志願者も多くいた。
おかげで本隊に多くの人数を投入できるのだ。
ちなみにこのシステムを考えたのもディアベルだったりする。
「これからどうするか」
シオンが太刀を地に刺しつぶやく。
キリトも剣を背にかけ一息ついていた。
今日の攻略組としての仕事は終わった。
今からは個々に自由な時間である。
「週末くらいかねー攻略会議」
「さあな」
「なんだ、疲れてるのか?」
「ちげーよ」
素っ気ないキリトにんー?とのぞき込むとそっぽを向かれてしまった。
その素振りを特に気にすることもなく腰を下ろすと急に目の前が陰る。
なんだなんだと顔を上げるとそこにはアスナの姿があった。
「シオン君、ちょっといい?」
「なんですかアスナさん」
「その太刀ちょっと見せてもらってもいい?」
「ん、いいですけど」
地に刺した太刀を抜きアスナに手渡しする。
受け取ったアスナは一瞬顔をしかめるとこんこんと軽く叩き、すぐに返してきた。
「これ、ほんと重いのね」
「結構STR振ってますからね。あまりプレイスタイルには合いませんけど、この武器を使うにはこうしなければいけないので」
「武器を変えるっていうのは無いのかしら」
「今のところは無いですね。ユニークスキルを入手しましたし、この太刀は大切なものですから」
「ユニークスキルねぇ。そんな情報どこにも無かったのに」
「入手方法の開示をしても誰もゲットできないんですから、ユニークなんですよ」
「こんなの振り回してる人の気が知れないわ」
「……もしかしてdisられてます?」
「褒めてるわよ」
「もっとほかの言い方とかは無いんでしょうか」
無いわ、というような当然とばかりの顔をする。
彼女は別に天然キャラではない。
アスナのポーカーフェイスから放たれる言葉の真偽のほどは分からないが、前のアスナの片鱗が既に目の前の彼女に表れていることにぞっとする。
想像しただけで背中に何か冷たいものが走った。
「それで何の用で。まさかただ重さ確かめただけじゃないですよね」
「そんなわけないじゃない。シオン君、これ結構使ってるでしょ」
「二層あたりから使ってますね。それが何か」
「結構ボロボロじゃない。耐久値が落ちてるわよ」
「またかぁ」
「また?」
「あぁいえ、もう既に鍛冶屋には何度も出していて。そろそろ寿命なのかなぁ」
愛用の太刀ではあったが刃こぼれしては研ぎを繰り返していたせいで刀身が脆くなっていた。
鍛冶屋に出しに行く間隔が短くなっていたのも事実でそろそろガタが来ている。
名残惜しいところもあるが、これ以上使い続けていると返って自身が危険にさらされるだけだ。
潮時かと悲しげに顔を上げるとアスナがにこにことこちらを見ていた。
「……人の不幸は蜜の味」
「そんなこと考えてないわよ!私シオン君に何かした?!」
「このタイミングでする顔ではないなとは思った」
「良いこと教えてあげようと思ったのに」
「何ですかー?」
「もう教えてあげない」
「な……!」
アスナがぷいっとそっぽを向く姿に唖然とする。
キリトは小さくため息をつき、シリカも退屈そうにしていた。
何だろう、この気まずい空気は。
というか彼女はこういうことをするタイプだっただろうか。
いじらしいというかなんというか。
ため息をつき手を上げ降参の意を示すとアスナの方を見た。
「俺が悪かったですよ。気になるんで教えてください」
「なんだかすごい投げやりね」
「気になって気になってしょうがないんですよー」
「ふうん」
嘘っぽい言葉に不満げにうなずく。
これ以上続いたら本当に間が持たないので早く教えてほしかった。
「知り合いに腕利きの鍛冶職人がいるの」
「プレイヤーですか?何人かいるのは知ってますけど、どれも変わらないっていう噂ですよ?」
「リズは他とは違うわ。材料もそれなりにいるけどきっとその剣も元通りになるわよ。新しいのを作ってもらうのでもいいと思うわ」
「親ばかってやつですか?ふうん、そんなのもいるんですね」
アスナの言葉に興味無さそうに答える。
興味が無いわけではないが、それが本当だとは思っていなかった。
シオンだって既に何回かプレイヤーに頼んだ身である。
だからこそプレイヤー鍛冶職人をそう簡単に信用は出来なかった。
どれもぼったくりもいいところで、武器を失う恐怖にさらされることの方が多い。
そんな不確定要素の多いやからにとてもじゃないが大事な太刀を預けることなんてできなかった。
「シオン君行くわよ」
「はい。……どこに?」
「リズのところに決まってるじゃない」
「あー鍛冶職の。……え?」
「ほら早く」
「いやいやいきなりすぎでしょえ?何プランとかないの?俺の予定は?!」
「シリカちゃん、シオン君借りていってもいいかしら?」
「大丈夫ですよ。今日は特に予定もないので」
「シリカ?!しかも待て、なんで俺の予定をシリカに聞くんだ!」
「そんなの当たり前じゃない」
「当たり前!?」
「アスナさんなら何の心配もないので大丈夫ですよ」
「そういう問題じゃないだろ……」
ずるずると引っ張られながらシリカに助けを求めるが、気づいていないのか無視なのか、ちっともこちらを見てくれなかった。
頼みの綱でキリトを探すが、彼に至っては既にこの場から消え去っている。
もう誰も助けてくれないのだと悟ったシオンはため息をつき、静かにアスナについていった。
■ □ ■
「それで、どちらに行くんでしょうか」
「もう少しよ」
転移結晶を使い、最寄りの街についてから数十分。
アスナに連れられ結構歩いたはずなのだがいまだに目的地にはついていなかった。
何度か逃走衝動に駆られるが、そのあとを想像すると怖くて仕方がない。
アクティベートして一週間ほどの街に何があるというのだろうか。
元々土地勘が無いのは事実だが、腕利きの鍛冶職人がいるなんていう話は聞いたことが無かった。
「はい、着いたわよ」
アスナが足を止め指をさす。
そこは路地裏の奥の奥にある、小さな家だった。
街中に多くいたプレイヤーやNPCも、ここまで来ると一切その姿を見せない。
当然こんなところに腕利きの鍛冶職人がいるとは思えなかった。
路上でやってるインチキもこんなところにいるとは思えないが。
そんなシオンの考察を無視してアスナは「リズー、お客さん連れてきたわよー」と言って家に入っていった。
扉が閉まり、外に一人放置される。
どうして一緒に入れてくれなかったのだろうか、すぐに気づかないのだろうか。
路地裏の静けさがより一層一人ぼっちを引き立てていた。
「帰りたい……」
はぁとついたため息が路地いっぱいに広がる。
帰りたいのは山々なのだが、そのあとのことを考えると。
既に彼女から鬼の気配は漂い始めているのだ。
家の前の壁にもたれかかること数十分、家の扉が開くのと同時に茶髪のショートヘアーの子が出てきた。
誰かを探すようにきょろきょろしていたが、目が合った途端苦笑する。
ぺこりと頭を下げると「どうぞ入って」と家へ招待してくれた。
「……で」
中に入り奥へと行くと席について何やらおいしそうなものを飲んでいるアスナの姿があった。
この人はこんなに悪い性格をしていただろうか。
突っ込む気も起きずそこら辺に体育座りをした。
「椅子使っていいわよ。えっと」
「シオンです。あなたは確か、リズさんですよね」
「リズベットよ。アスナから聞いたのかしら」
「よく喋るので」
少々悪態をつくとアスナがむっとこちらを見ているのに気づく。
これくらい許せよと気づかないふりをすると、リズベットは小さく苦笑していた。
「二人はどういう関係なの?」
「奴隷かなんかじゃないですか?」
「シオン君私のことそう思ってたの?!」
「いや、俺が奴隷」
「あぁ、そうね」
何がそうね、だよ。
「えっと……今日は何の用、かな?」
「もう何の用なんだろうな」
「どういうこと?」
「いやごめん、何でもない。えっと、これを見てもらいたくて」
太刀を出しリズベットに渡す。
それを受け取ると一瞬よろめきながらもなんとか持ち上げていた。
「おっもいわねぇ」
「ごめん、持とうか?」
「これくらい大丈夫よ。それにしても随分と傷が多いわね。それに刀身が結構歪んでる。いつから使ってるの?手入れは?」
ぐいぐいと来るリズベットに肩を竦める。
近い近いと少しずつ下がるがそんなことはお構いなしで彼女はさらに迫ってきた。
「えっと、NPCには何度か補強だけはしてもらって、後結構初期の頃からこの武器は使ってます」
「この武器初期から使ってるの?あなたすごいわね」
「ごめんなさい」
「なんで謝るのよ」
リズベットの圧力に圧倒されていく。
アスナの友達と聞いて予想していたことが的中してしまった。
この人もアスナに負けず劣らずの性格らしい。
武器への愛が強いのか歪んだ部分、傷の付いた部分をなでるようにしてみている。
それを見るたびに自分の使い方の荒さが身に染みた。
その申し訳なさでいつまで経っても頭を上げることが出来ない。
「心配しなくても直るわよ、ちょっとお金と物が必要だけど。新しい武器を作ってもいいけどこれを超えられる自信は無いわ」
「本当か?!金ならある。物は持ってたら渡すし無かったら取ってくるよ!」
「随分と簡単に頷くのね。そんなんだから武器がこうなるんじゃない?」
「はは……ぐうの音も出ないな。ここはあれだ、人を見る目はあるってことで……」
そう言ってアスナの方を見て、小さくため息をつく。
それに気づいた彼女はずかずかと近づいてきた。
「今私の噂話してた?」
「自意識過剰すぎますよ。一言も口に出してません」
「じゃあさっきのため息は何よ」
「気づいてたのか。いや、人を見る目はあるつもりなんだけど……」
そういってじっとアスナを見つめる。
人を見る目というか、アスナのことは少なからず気にはしていたはずなのだ。
それなのに。
あまりいい意味で見られていないと捉えたのかアスナはどこかむすっとしていた。
それを見てリズベットも苦笑する。
「アスナは良い子よ」
「リズ!」
「それは分かってるんだけど、まさか団長になるとはな。何だっけ、なんとか騎士団」
「血盟騎士団よ、もう出来てそこそこ経ってるでしょ」
「興味ないからな、すまん」
「もう!」
アスナが声を荒げるなか「血盟騎士団ね」と小さくつぶやく。
この名前を忘れているわけがない、忘れられるはずがない。
だからこそなぜアスナが団長なんだ、なぜヒースクリフじゃない。
しかも彼は副団長の座についている。
アスナはそもそも団長になんてなるタイプじゃないと思っていたが根本から外れてしまった。
アスナが団を作ったきっかけはヒースクリフに声をかけられたから。
『私が補佐につく。君への希望や信頼を盾にギルドを作ってはくれないか?』と。
こんなありきたりな言葉で団を作るような人柄だっただろうか。
そもそもそんじゃそこらで出会ったおっさんにそんな訳の分からないことを言われて了承する人間がいるだろうか。
前回のSAOでいつどうしてヒースクリフが血盟騎士団を作りアスナが副団長になったのか、その経緯は知らない。
今回の経緯だってほとんど知らない。
だがなぜ彼が団長でないのか。
信頼を、なんていうのなら前回もアスナでよかったはずだ。
寧ろ今回ならディアベルなんかを引きずり出した方がよっぽど信頼云々に当てはまるはずである。
今の彼が誰なのかが分からない。
自分の知るヒースクリフなのか、二年前の彼、いわゆる
何度か顔を合わせる機会はあったが互いに声をかけることはなかった。
それが酷くもどかしかった。
「話がそれちゃったけどこれの修復でいいのよね?何か付加する?」
「可能なら重さを増してもらうか、攻撃力を上げてもらえないかな」
「まだ重くするつもり?」
「まあ、その方が使いやすいかなと。それと短剣を三本お願いしようかな。一本は普通ので、もう二本は刀身が長くて重いものを」
「いっぱい来たわね。お金も素材も結構必要になるけど大丈夫?」
「なんなりと」
リズベットがシオンに必要なものと額を提示する。
それを見た後すぐにお金と素材を出した。
お金の入ったズタ袋といくつもの素材が次々とオブジェクト化されていき床にごろごろと転がる。
最後の一つがことんと落ちた後一歩下がりそれを差し出した。
「これで全部かな?」
「すごい、全部持ってるなんて。流石攻略組ね」
「使う機会が無いですから」
シオンが床に落としたものをリズベットが回収していく。
全てを自分のストレージに入れたあともう一度確認し、頷いた後こちらを見た。
「ちゃんと受け取ったわ。明日には出来ると思うからそのときに取りに来て」
「一日で出来るのか?」
「サービスよ。あなたは攻略組だし、一日も惜しいでしょ?」
「そんなことはないけど」
「こういう時は甘えとくものよ」
「はぁ」
リズベットの押しに少しもうしわけないと思いつつ引き下がる。
その姿に彼女は安心したように笑い奥へと歩いて行った。
確かに早いに越したことはないのだが、決して無理はしてほしくなかった。
今更品質の心配などしていない。
アスナに推薦された者であることと、彼女の言動が安心感を与えていた。
案外自分はちょろいのかもなと苦笑した。
■ □ ■
「で、これからどうするかー」
伸びをしながら独り言のようにつぶやく。
リズベットの家を後にして街に戻り適当にぶらぶらと歩いていた。
もう昼下がりだが少しだけ時間が出来た。
買い物をするもよし、早く帰ってゆっくり休むもよし。
この自由な時間もシオンにとっては大事な時間だ。
だが。
「ちょっと、私ここにいるの気づいてる?」
隣を歩くアスナがおーいと手のひらを眼前に振ってくる。
別に盲目になったわけではない、無論気づいている。
気づいているうえで無視をしているのだ。
このほんのひと時をこれ以上邪魔されるわけにはいかない。
だからこれは強行手段だ。
「ちょっと、無視しないでよ!」
「だーうるさいな!ちょっとは気を使えないんですか、もう用ないならアスナさんも自分の団に戻ったらいいじゃないですか!」
「随分冷たいのね、せっかくリズを紹介してあげたのに!」
「それはそれ、これはこれですよ!俺はアスナさんとは合わないんです!プレイスタイルも、ほかも!ちょっとはこっちの気も考えてくれませんか!?」
「何よ私が悪いの?!シオン君がただ私を避けてるだけじゃない!」
一歩一歩下がるシオンに対し同じく、いやそれ以上にアスナが詰め寄ってくる。
これ以上怒らせたら圏内でも腰につけてある細剣を抜かれそうだ。
そうなったらたまったものじゃない。
これ以上一緒にいたくない理由は別にアスナと相性が悪いとか仲良くしたくないとかそういうのではない。
誤解されたくなかったのだ。
「そうだ、最近キリトとコンビは組まないのか?」
「何よ急に。……十層以来一度も組んでないわ。ソロを続けてるみたいよ。別にコンビを組まなくても大して影響もないしね。それに私にはギルドがあるから」
「連絡はとってるのか?」
「たまにね」
「そっか」
その言葉に少し安心する。
二人が不仲になって、もしもうまくいかなくなるなんてことがあったら大問題だ。
そんなの想像もしたくない。
「ねえシオン君、どこか買い物でも行かない?」
「まだ言うか。もちろん遠慮しますよ。それにあまり俺と一緒にいると」
「いると?」
「……火傷しますよ?」
口走りかけて慌てて別の言葉を口にする。
しまったと思った時にはもう遅く、目の前には真顔のアスナだけがいた。
「良くわからないけど、今のはシオン君が火傷したんじゃない?」
「うまいこと言うんじゃないよ」
危うく漏らすところだったことと、自分の恥ずかしい発言に頭を抱えていると上から見下ろしてくる姿に気づいた。
今までで一番と言っていいくらいの長い溜息をつくと渋々顔をあげる。
そこにはどこか嬉しそうにニマニマ笑うアスナの姿があった。
「広められたくなかったら、ね?」
「あんた悪魔だ」
「今回ばっかりは否定しないわ」
ふふっと笑うアスナにもう一度ため息をついた。