Re:SAO ~return recollection~   作:寄す処の空

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第二話 終焉と回帰

 シオンとヒースクリフの戦いが始まった。

 

 シオンの戦闘は相手がボスクラスでない限り基本その場から動かなくても勝てる。

 体が動き、精神統一さえできていれば、武器を自由に宙に舞わせることができるからだ。

 そんな彼にモンスターは近づくことは出来ない。

 近づけば一瞬のうちにミキサーだ。

 

 少しチートのようなスキルにも思えるが、弱点も多くある。

  

 まず、フロアボス級のモンスターはそう簡単にはいかない。

 いくらミキサーにしようがそう簡単に飛んでくれはしないし、ボスのヘイトを完全に集めてしまっては、防御力が無に等しいこのスキルは一撃くらっただけでもHPを根こそぎもっていかれる。

 盾を持っている事はできるが、同時に二つのスキルを発動出来ないため盾のスキルを使えば武器は全て落下、スキルを使わなければ盾なんてただのおもちゃだ。

 

 もう一つは、このスキルでキリトに勝った事は無い。

 これは例にすぎないが、キリトのように規格外に速度の速い人物やモンスター、次の行動の予測できない者には攻撃がまったくといっていいほど当たらない。

 ホーミングのように追尾させる技もあるが、直線よりも遥かに速度は落ち、ヒットしそうな所でキリトなんかはそれを叩き落とす。

 だから勝てないのだ。

 

「ストレートアロー」

 

 宙に舞うピックを数本、真っ直ぐヒースクリフめがけて放射する。

 だが、さきほどと同様盾と剣をうまく使い、それら全てを防いでいた。

 

「相変わらず、君の攻撃は規格外に速いね」

 

「余裕そうな顔でよく言うよ」

 

 彼の涼しそうな顔に舌打ちをする。

 今の一撃で倒せるとはもちろん思っていないが、彼を倒す術をシオンは持ち合わせてなどいなかった。

 ただの人間なら勝算はあるが彼は人間である前にこのゲームの開発者である。

 そのため、思いつく策も彼に聞くのかという段階で全てリセットがかかっていた。

 距離を取っているのはスキル後の硬直が怖いから。

 既に焦りの顔が見られた。

 

 だが、啖呵を切った以上ここで諦めるわけにはいかない。

 

「抜刀術・一閃」

 

 踏み込み刀を一振り。

 これは武器破壊を可能とする技だ。

 だが、ヒースクリフもまた神聖剣。

 それを防ぐと距離を取っていた。

 

「どうして攻めて来なかった」

 

「それはそうだ。私の頭に、標準を合わせていただろう」

 

「……ちっ」

 

 時間差で飛んでいった剣をヒースクリフは弾く。

 やはりばれていたようだ。

 

「硬直への対処は悪くない。だが、そんなもの私には通用しないさ」

 

「いちいち癇に障るなおい」

 

 さらに一歩下がり、ヒースクリフを睨みつける。

 彼がなぜ攻めて来ないのかは分からない。

 さきほど言った通り、シオンの守備力はゼロに等しい。

 それは数値的な話ではなく、目に見えたものである。

 

 それがシオンに決定的な敗北を与えようとしているだとか、キリトが乱入してくるのを待っているとか、理由はなんであれシオンには好都合である。

 出来れば一生そこで鎮座してもらえたら助かるわけだが。

 

「普段とは違い、随分と慎重じゃないか」

 

「俺を脳筋ばかみたいにいうな。あんたが相手じゃなかったらこうはならないよ」

 

 

 太刀を手から離し深呼吸をする。

 それはすぐに空へと浮き、シオンの手から武器が全て失われた。

 防御力はここで真にゼロへと変わる。

 

「ヘブンズ・ジャッジメント&ヘル・ジャッジメント」

 

 宙に浮く武器の塊が二つに分かれ、空と地からヒースクリフへ矛先を向ける。

 その数は五十を優に超えていた。

 

「行け!」

 

 手をかざすと共に一斉に飛び出す。

 いくら速いとはいえヒースクリフも重装備。

 キリトのように余裕でかわすことはできないはずだ。

 だから全ての武器を使う。

 彼の行動手段はただ一つ。

 

「本体がガラ空きだよ」

 

 瞬時に体勢を低くし、こちらに向かって走り出す。

 その行動にシオンは苦笑いをしていた。

 やはりこの人は……速い。

 

 ”ズンッ”

 

 シオンの腹部に深々とヒースクリフの剣が刺さる。

 その衝撃に体が揺れるが、小さく笑みを浮かべた。

 

「絶対、離すなよ」

 

 さらにヒースクリフへと近づく。

 瞬間、シオンの背中に長剣が突き刺さった。

 それはヒースクリフをも貫通して。

 

「ぬうっ」

 

「来い!」

 

 そして、宙を舞う五十超の武器が二人を無差別に、乱雑に、突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 ボスフロア中央、二つの欠片が静かに宙を舞った。

 

『俺の勝ちだ、ヒースクリフ』

 

 

 

 ■ □ ■

 目を開けると辺り一面真っ白の世界が映る。

 ここは死後の世界なのだろうか、そんなことを考えていた。

 白しかない、寂しい世界。

 ここが天国か地獄だとしたら、地獄だろう。

 寂しさに押しつぶされそうだ。

 

 ふと向こうから誰かがやってきた。

 白衣を纏い、この世界に溶け込むかのようにゆっくりと。 

 それは誰が見ても見間違えるはずのない、天才ゲームクリエイターにしてこのデスゲームを作り出した。

 

 茅場晶彦だ。

 

 ヒースクリフではない、二年前、テレビやら新聞やらで引っ張りだこになっていた茅場晶彦その人だ。

 この顔はいつになったって忘れるはずがない。

 

「……今更なんのようだよ。あんたは俺との戦いに負けた、それだけだ。俺の命と他の生存者の命を天秤にかけたらこうするしかなかった。あんたは俺のスキルを知らなすぎたんだ。いくらこのスキルを考えたからって、俺はこいつと命懸けて戦ってきたんだ。あんたの想像じゃこのスキル全ては分からないよ。照準が俺じゃ(・・・・・・)気付こうにも気付けなかっただろ」

 

 結局自死でしか勝利を掴めなかったわけだが、それこそ生き残ったプレイヤーの数に比べればおつりが出るようなもの。

 敗北だなんて誰にも言わせない。

 

「……すまない」

 

「はっ?」

 

 突然の彼の言葉にうまく声が出なかった。

 それはシオンの言葉への返答として合っていたのだろうか。

 

 一体だれに対しての謝罪だろうか。

 今更デスゲームに招いてごめんなさいだと?

 一緒に死なせてすまないってか?

 そんなわけがない。

 

 彼が続けた言葉はそのどれにも当てはまらない、奇怪なものだった。

 

「外部からの予想外の干渉により、私を含むSAOの生き残ったプレイヤー約6000名全員の脳に強電磁パルスが流されることとなっている」

 

「はっ?それってどういうことだよ。強電磁パルス……?」

 

 遥か昔に聞いたことがある気がする。

 それこそこのSAOが始まったばかりの頃に。

 

 このSAOの世界でHPをゼロに、全てロストしたものはナーブギアによって脳に強電磁パルスが流れ死ぬ。

 或いは外部から強制的にナーブギアを取り外そうとした場合、電源を断たれた場合脳に強電磁パルスが流れ死ぬ。

 

 あぁ、その強電磁パルスだ。

 

 記憶をたどるようにそのワードを思い出し虚ろな視線を茅場明彦に向けると彼はそっと頷いていた。

 

「そういうことになる」

 

 ヒースクリフの言葉を頭の中で復唱するが理解ができなかった。

 科学に疎いとか今更そういう話ではない。

 頭が真っ白になり何も考えられなかった。

 だが時間が経てば事の重大さが身に染みて分かるようになる。

 

「……じゃあ、今までやってきたこの二年間はなんだったんだよ。さっきの戦いは、みんなの決意は!……ふざけるなよ、ふざけるなよ!!」

 

 瞬時に近づき、頬を思いきり殴る。

 彼は何の抵抗をすることもなく吹き飛んだ。

 だがシオンはさらに歩み寄り、その胸倉を掴む。

 

「調子乗んなよ……あんたは人殺しなんだよ、謝って済むと思うなよ!!」

 

 もう一度拳を振るう。

 だが、その拳は茅場晶彦によって止められた。

 

「最後まで聞いてくれ。今ここで争っていても解決はしない。だが、解決方法がないわけではないんだ」

 

「なんなんだよそれは」

 

「これを見てくれ」

 

 彼が差しだすものに手を伸ばす。

 それは、プログラムで出来た種のようなものだった。

 

「〝ザ・シード〟これを使えば再びSAOの世界を作ることができる。用は、もう一度リンクスタートをしたあの日に戻る事ができるのだ。お願いだ、もう一度このゲームをクリアしてくれないだろうか」

 

 また彼のよく分からない研究成果を見せられている。

 普通に考えたらリンクスタートをした日、つまり二年前に戻る事なんてできるはずがない。

 この世界がSAOの世界だからといって、現実世界とつながっているのだ。

 ここだけ時間ループをしたところで現実はどうなるのだろうか。

 不可能だと思う事を可能にしてきた茅場晶彦の考えはさっぱりだ。

 

 ただ、彼のその真剣なまなざしが嘘ではない事をシオンに告げる。

 だが、これだけで信用しろと言われても無理な話だ。

 

「それに意味はあるのか?本当に過去に戻れるのか?」

 

「あの日に戻すことはできる。一度だけだがね。私も共に戻り、カーディナルに潜入し原因を探る。だから頼む、君にしか頼めないんだ」

 

「今まで死んでいった奴らはどうなるんだ」

 

「詳しく君に教えることは出来ないが、私が救えない命は外部から強制的に離脱したもの、そしてこれはレアケースだろうがバッテリーが切れてしまったもの、それだけだ。このゲームの中で全損したプレイヤーを生き返らせる手段は持っている。そもそも死んではいないがね」

 

「どういうことだ」

 

「それはまだ教えることはできない。いつか、その時が来たら君は知ることになるはずだ」

 

「なんだよそれ」

 

 何を言っているのかさっぱり分からない。

 彼の言葉を理解できない以上信じるなら生きているというそのワードだけだ。

 それすら嘘をついていたとしたら何も無くなるわけだが、どちらにしろ選択肢なんて無いようなもの。

 拒否すればどの道死んでしまうのだから。

 

「もう一度デスゲームを、か」

 

 七十五層まで、ここまで死なずに来れたが、死ぬ事に恐怖を覚えなかったわけではない。

 死にそうになったことだって少なくは無かった。

 

 そんなSAOをもう二年以上やる。

 それがどういう意味なのか、まさか分からないなんて言わないだろう。

 あるいはずっと安全装置をつけていたから本当に分からないだとか。

 実に笑えない話だ。

 

「だが、悪いことだけでは無いはずだ。君には後悔が多く残っているのだろう。もう一度、ということはその後悔を晴らすことも可能だ。それは君にとっての利点とも言える」

 

「なんであんたはそれを知っている」

 

「私はこのゲームの支配者だ。AIによるメンタルヘルスも含め、プレイヤーの行動は記録されてある」

 

「趣味悪いな。あんたは何もかも知っていて、俺に接触してきたのか」

 

「そうなるな」

 

「……はぁ」

 

 茅場晶彦の言葉にため息が漏れる。

 彼にも後悔は多くあった。

 自身のSAOでの行動全て。

 右手左手では数えきれないほどのものである。

 

「あんた、俺が現実世界でなにやってるのか知ってるよな」

 

「それくらいわかっているよ。これは私がゲームマスターじゃなくても分かることだ」

 

「ならいいんだ。俺はあんたを許しはしない。あんたはあの殺人集団と一緒だ、殺人鬼だ。立場上とかそういうのじゃない。あんたを許すわけにはいかないんだよ」

 

「君が言いたいことは分かっているよ。それでも、私には理由があったんだ。やらなければいけない理由が――――「分かったよ。あんたの作戦にのった」

 

 茅場昌彦の言葉を遮るようにその言葉を口にする。

 たとえどんな理由があったとしても、彼を許すことはできない。

 それをすることは、自分の過ちを認めないことと同じだからだ。

 言葉を続けたかった茅場も彼をみてそっと苦笑いをする。

 

 

「本当にいいのかい?言っておくが、今まで歩んできた二年の記憶は君以外残らないようになっている」

 

「それもっと早く言えなかったのかよ。……二度も言わせるな。これでも結構覚悟決めてんだよ」

 

 茅場晶彦に背を向ける。

 

 覚悟は決めたがやはり戸惑いはある。

 もう一度デスゲームを繰り返し、最後まで生き残る事ができるのだろうか。

 案外一層でころっと死んでしまうかもしれない。

 人生に後悔しないように行動するのならば、その可能性もあるのだ。

 どんな熟練者でもこのゲームはそううまくはいかない。

 

「それじゃあシオン君、武運を祈るよ。少しだけサービスしておいたから、無事に着いたら確認をしておいてくれ。……ありがとう」

 

 茅場晶彦の言葉を最後に、シオンの姿は消滅した。

 それを確認すると共に茅場晶彦の姿も無くなる。

 

 

 こうしてこの世界のSAOは、幕を閉じた。

 

 

 

 

 ???「そう簡単にはいかないよ、英雄君。―――――――くっはは、ははははははははは!!」

 

 

 ”ブチッ”

 

 

 ここからが、シオンにとっての本当のSAOの始まりだった。

 

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