Re:SAO ~return recollection~ 作:寄す処の空
「ただいま……」
シオンが部屋の扉を開け帰宅したことを伝える。
借りた部屋にただいまというのもおかしな話だが、既にここに三日住んでいることに加えシリカがいつも待ってくれているためこれが自然になっていた。
いつも大体一層ごとに五日分の宿を借りている。
その層に五日も滞在しないことがほとんどだが、攻略が早く進んだ場合はしっかりと五日分消化してから次へと行く。
こんな借り方は今までしたことがなかったが、高いところでもそれなりに値引きしてもらえるため最近はずっと続けていた。
ギルドを創ったりマイホームなんかを買えたりと出来たらいいのだがお金も無ければ立地の良いところもほとんどない。
だからリズベットもあんなに奥まったところに店を構えているのだ。
ギルドに関してはシオンにそんな器は無いわけだし、どちらも今すぐには出来そうになかった。
「おかえりなさい。遅かったですね、楽しかったですか?」
「前半はなぁ。後半はシリカといた方が百倍楽しかったよ」
「前半はどこに?」
「ああ、鍛冶屋に武器を預けてきてね。今回はやっと信用できそうなところに」
「やっと見つかったんですね。いつも鍛冶職人を見つけてはため息ばかりついていましたから」
「そんなにか?まあ、頼りないなくらいには思ってたけど」
「そんなにですよ。いつ取りに行くんですか?」
「明日でいいってさ。もうちょっとゆっくりでも全然良かったのに」
「それなら明日私もついていっていいですか?」
「んー、明日はだめかな」
「む、何でですかっ」
「なーいしょー」
むすっとしているシリカに笑う。
明日ついて来られるとサプライズの意味が無くなってしまうのだから仕方がない。
良い鍛冶職に先に出会えたらやりたいこととずっと考えていたのだ。
彼女の助けにもなってくれるだろうから早く紹介したいという気はやまやまだがここは抑えておくしかない。
「ほら、夕飯食べに行くぞー」
「はーい」
シリカは少し不満そうな顔をしながらも部屋を出るシオンの後をついていった。
■ □ ■
「次のボスってどういうのなんだろな。めんどくさいのじゃなかったらいいけど」
手に持つ剣を鞘にしまい迷宮区を進んでいく。
今日は迷宮探索、レベリングも兼ねて迷宮区に来ていた。
ちらほらと他プレイヤーも目に入るが今日は攻略組関係なしの二人での行動だ。
キーモンスターの討伐が終わったので明日ごろには攻略会議が開かれるだろう。
「次のボスは物理攻撃メインで刺突系が良く効くと聞いたので大きくて硬い系じゃないですか?」
「今回はアスナか」
「シオンさんも使うじゃないですか。それにあたしも」
「俺はメイン斬撃だもん。どうせまた俺とシリカはボスのヘイト集めだろうしなぁ」
「仕方ないですよ。今までそれでうまくいっているんですから」
「まあ俺は百歩譲って良いとしてシリカは斬りこみでも良いと思うんだけどなぁ」
「まあそこは安全を考えてとかだと思いますよ。多分?」
「俺一人じゃ不安てかちくしょう」
シオンの心配も上の空シリカが笑っている。
こちらは本当に心配しているのだが、それを分かっているのかあえて誤魔化されているような気がした。
もう実力の方を考えれば当然心配する対象ではない。
シオンの想像以上に彼女は強い、ならば尚更その心配は余計に不要だ。
だがいつまでも彼女を子ども扱いしていたいシオンは本来彼女自身があるべき姿を想像し、自然とその虚像に対する接し方を彼女にも行っていた。
自分が何を考えているのかなんてもう既にシオン自身にも分かっちゃいない。
彼女をどうしたいのか、そんな答えすら誰かに求めていた。
「もう少し進んだら引き返しますか」
「そうだな。レベルは申し分ないし俺らがルートを覚えなくても先行してくれるだろうしな」
「鍛冶屋も行かないとですしね」
「ついてくるなよ?」
「行きませんよー」
むすっとした顔で返してくるが諦めてはくれたようだ。
こうまでして彼女には隠しているわけだが喜んでもらえなかったらと思うと途端に怖くなってきた。
考えないでおくのが身のためだ。
「シオンさん集中してください」
「すみません」
こちらの気など知らずにシリカは目の前の敵を屠っていく。
どうやら集中していないのは自分だけだったようだ。
前の彼女も成長すればこんな風に戦っていたのだろうかとふと思う。
前のシリカをシオンは知っているが、悪魔でシオンの後ろをついてくるのでやっとという感じだった。
後二,三か月あったら補助なんてせずとも隣に立つことくらい出来たかもしれない。
その時の隣は当然シオンのでは無いわけだが。
「シオンさん!」
「はーいー」
■ □ ■
迷宮区でのレベリングを終えてシリカと別れたシオンは真っ先にリズベットの鍛冶屋へと向かった。
シリカと話していた時は多少澄ましていたが、正直なところ楽しみで仕方が無かった。
ボロボロになった太刀が元通りになり新しい短剣が手に入る。
今まで消耗品でしかなかった短剣だが、良いものが手に入った場合は装備の一つとして大事にしようと決めていた。
街の奥、路地裏を進んでいきリズベットの鍛冶屋に到着する。
よく見ると脇にある小さな看板に『リズベット武具店』と書いてあった。
小さくてなかなか気づかないようなところにあったが、それは性格とは反して消極的な彼女らしくか細く、されどどこか自分の存在を強調しているようで本当に彼女らしかった。
入口に立ちそばにあるベルを軽く鳴らす。
チリンチリン、と乾いた音が路地裏に響き渡り、少しすると中からリズベットが出てきた。
夜に伺ったせいか前のようなメイル姿ではなく軽装である。
鍛冶職人とは思えない、どこか柔らかい印象をシオンに抱かせた。
「遅かったわね」
「時間かかるかなと思って夜にしたんだけど」
「明け方にはもう終わってたわよ」
「もしかして寝てないのか?」
「今から寝るつもりよ。心配しなくてもちゃんと成功したわ。大成功とまではいかないけど納得できるくらいにはね」
「心配なのはそこじゃ」
「何が言いたいのかは分かっているわ。でも、私がしたいと思ったからこうしたの。あなたとは違うかもしれないけど、私にだってちょっとくらい無理をしないといけない理由があるのよ」
「……そっか」
彼女の発言に先ほどの言葉を心の中で訂正する。
リズベットの言いたいことはなんとなく分かる、分かってあげたい。
彼女は戦いから逃げたのではなく自分なりの戦い方を見つけたのだ。
そのために無理をするというのならこれ以上何も言うことはない。
ここでそれを言ってしまうのは彼女の決意を踏みにじるも同然の行為だ。
「中に入って。お店閉めちゃうから」
「アスナのほかにも誰か来るのか?」
「あとはあなたくらいよ。こんなところに建ってるからね」
「勿体ないな」
「まだ何も見てないのによく言うわね」
「そういうことじゃなくてさ。なんか、勿体ないなって」
「なんかってなによ」
言葉に表そうにもそれに見合った言葉が見つからず曖昧な返事で終わってしまう。
その返しにリズベットはむっとした顔をしたが、特に詮索をするでもなく迎え入れてくれた。
小さくお邪魔しますと言うとリズベットの後をついて奥へと進む。
少し進むと途中で多くの武器が飾られた部屋が目に入った。
武具店としての売り場なのか、壁やショーウィンドウにいくつもの武器が並べられている。
どれもそこらの武器より一,二回りもいいものばかりだ。
「ここにある武器は全部売り物か?」
「ええそうよ。一応小さく値段なんかも書いてあるわ。誰も買いには来ないけどね」
「じゃあなんで作るんだ?」
「練習用と、後は武器が並んでる方が鍛冶屋っぽいかなと思って」
「案外可愛い理由なんだな」
「うるさい」
本命を忘れふむふむとショーウィンドウに入っている武器を眺める。
近くに来てみるとやはり彼女の作った武器はどれもいいものばかりだった。
こんなにいい腕を持っているのにそれを生かせないなんてとんだ宝の持ち腐れだ。
武器をまじまじとみるシオンの姿にリズベットは不思議そうな眼差しを向けるが、次の彼の言葉がさらに彼女を困惑させることになる。
目の前の彼はショーウィンドウから目を離し立ち上がると壁にかけてあった剣を手に取り口を開いた。
「ここにある武器、全部もらっていいか?」