Re:SAO ~return recollection~ 作:寄す処の空
シオンの言葉にリズベットはぽかんとしていた。
この人はいったい何を言っているのだろうと頭の中で考えるが、完全に思考が停止してしまっているためそれを口にするどころか顔に出すことすらできなかった。
そんなリズベットに対し前の男はおいおーいと手を振っている。
「あのー、もしもーし?無視ですかー?」
「ごめん聞き間違いかもしれないからもう一回聞いていい?」
「ここにある武器全部もらっていいかなって」
「良かった聞き間違いじゃなかった。……って、冗談はよしてよここにある武器って全部合わせたら三十はあるのよ!?」
「お金はあるから大丈夫だ」
「大体全種類武器使う人なんていないでしょ。配るの?」
「そんな勿体ないことしないよ。俺は全部使うからね」
「随分とデタラメね」
「攻略組を舐めないでもらおう」
「変態だとはよく聞いてるわ。いろんな意味で」
「アスナさん、君はいつも何の話をしているんだい」
はぁとため息をつくと所持金から武器代を抜きオブジェクト化する。
目の前に現れたそれはガシャンと音を立てて床に落ちた。
「確かに大金だけど目の前にするとめちゃめちゃ重そうだな。まあ持ち上げる機会なんてそう無いけども」
「本当に全部買うの?」
「心配しなくても転売はしないよ。本当に全部俺が使うから。それに早くお金貯めてもっといいところに店構えてほしいしね」
「……そう」
二人の間にある無駄に大きな袋をリズベットが回収すると不思議そうにシオンを見た。
「どうしてそんなに信用するの?まだ武器もらってもないのに」
「なんでだろうなぁ。自分でも分かんないや」
「アスナの紹介だから?」
「んーどうだろうな。確かにアスナの紹介が無かったらここには来なかっただろうけど、武器を見て、リズベット自身を見て、武器への愛を知ったらそれで充分かなって」
「随分と曖昧なのね」
「武器好きなんてそんなもんだろ」
そういうとリズベットは一瞬考えるようなしぐさをするが、やがてふふっと小さく笑っていた。
武器好きという点では彼女も同じで、通じ合う何かがあったのだろう。
そんな彼女を他所にシオンはショーウィンドウの中や壁にかけてあった武器を取り一つずつしまっていく。
武器を調べると確かにプレイヤーメイドのものであり、クリエイターにはリズベットの名がしっかりと刻まれていた。
手に取ってみて改めて実感したが、やはりどれも良い武器ばかりだ。
「はい、これ」
シオンが武器を漁っている間にリズベットが太刀と短剣三本を持ってきた。
太刀は前まであったキズや刃こぼれなどが綺麗に無くなっており、刀身も厚みを取り戻している。
それに加え重さと攻撃力もしっかりと付与されていた。
「短剣もちゃんと要望通りで」
「こっちが本命だからね。もうちょっとだけうまくいくと思ってたんだけど」
「いや、十分すぎるくらいだよ」
受け取った太刀を鞘から抜き軽く振る。
剣先が空を切る音が響き周りのものがカタカタと震えるが、それ以外の音は一切なかった。
店内で武器を振るうというのは普通おかしな話だが、そこはリズベットにも理解がある。
これでどちらかが不満をこぼすようならこの武器はそれまでだ。
リズベットは心の中で小さく合格と頷くと、鞘に太刀をしまったシオンもそれに応える。
彼が嬉しそうに笑う姿を見た途端リズベットは緊張が解けたのか長い溜息をついた。
「その様子だと大丈夫そうねー」
「そりゃもう満点だよ。こんなすごい出来でしかもこの速さで終わらせた人なんて初めてだって。もしかしなくてもアインクラッド一なんじゃないか?」
「それはいくらなんでも盛りすぎよ。それに、実戦で使えなかったら意味が無いわ」
「まあそう言うだろうと思って今からちょっと行ってくるんだけどさ」
「今から?」
「そう、今から」
もう時間遅いよ?と目で訴えてくるリズベットを尻目に受け取った短剣を腰につけ出かける準備をする。
新しい武器の感触を調べるだけなのでこれといった持ち物はない。
武器を持って外に出かけるシオンは子供が新しいおもちゃを買ってもらった後のそれによく似ていた。
「大切に使ってよ?」
「そりゃもちろん。また来るから、武器いっぱい並べといてね」
「次来るときは移転してるかもよ?」
「どんなとこ?」
「そうねぇ……自然豊かで水が流れていて。水車なんかもいいわね」
「またすんごい田舎とかじゃないだろうな」
「次はもっと来やすいところにするわよ」
「さようで」
太刀をアイテムストレージにしまうと踵を返す。
お邪魔しましたと家を出るとリズベットが家の外まで見送りに来てくれた。
「リズベット武具店をこれからもご贔屓にー、またね!」
「はいよー」
リズベットが手を振りシオンもそれに応える。
入り組んだ道を進む彼の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。
やがてその姿が消えると店の中へと戻りすっかり何もなくなってしまった店内を見る。
ついさっきまでいた場所だというのに、すっかり別の家のようになってしまっていた。
普通の、どこにでもいる一般人のようにやってきて嵐のように去っていった人。
ほとんど理解が出来なかったが自然と悪い気はしなかった。
攻略組というこの世界を救おうとしている人の糧になることが出来た。
その事実がなによりも嬉しかった。
「私ももっと頑張らなくちゃ」
その顔はこれまでにないほどやる気で満ち溢れていた。
■ □ ■
「ただいまー」
「おかえりなさいシオンさん。随分と遅かったじゃないですか、武器受け取りに行ったんじゃなかったんですか?」
「ちゃんと行ってきたよ、ほら」
そういうとアイテムストレージから太刀を取り出しシリカに見せる。
だが彼女はそれに対してコメントするわけでもなくただシオンをじっと見ていた。
「じゃあ、なんでこんな遅いんですか。今何時だと」
「何時って。……えっ」
慣れた手つきでメニューを開き時間を確認する。
そこには『22:13』という表示があった。
リズベットのところにいったのは18時くらいだ。
それから今までずっとフィールドに出ていたなんて。
自分でもちょっとだけのつもりだったためまさかこんなに時間が経っているとは思わなかった。
「どうしてですか?何か事件でもあったんですか?」
ぐいぐいとシリカが詰め寄ってくる。
別にそんなことは無いのだが、以前も一人帰りが遅かった時にこんなことがあった気がする。
どうしてここまで心配されるのかと考えたが、彼女が優しいことに加え以前無理をしたこともあるので身を案じてくれているのだろう。
だとすると「もらった武器が嬉しくて早く振りたくて迷宮に行ってましたすみませ」なんてとても言えたものじゃない。
だがそんな心配をしてくれている人に嘘をつくのも気が引けていた。
「どうしたんですか?何かやましいことでも?」
「あ、いやその、今日作ってもらった武器を早く振りたくてその……一人で迷宮区に籠ってました、すみません」
「なんだ、そんなことでしたか」
「……怒ったりしないの?」
「別に怒ったりしないですよ、今に始まったことじゃないですし。それにその鍛冶屋さん?と何かあったのかと思ってそっちの方が心配でしたが気のせいだったようですね」
「何があるんだよ。それにシリカこの前俺が一人で勝手に迷宮行ったら怒っただろうが」
「この前はこの前。今は今です」
「なんだよそれー」
シオンが苦笑いするなかシリカははにかんでいた。
どうしてここで笑うのかシオンにはわからないが、怒られないのならそれに越したことはない。
話に一段落ついたところで思い出したようにストレージから一本の短剣を取り出す。
それをシオンはシリカにそっと渡した。
「これ、鍛冶屋の人に頼んで作ってもらったんだ。プレゼントのつもりなんだけど包装する時間というか頭が無くてなんなんだけどどうかな?一応シリカのスタイルも考えて作ってもらったんだ」
シリカはそれを受け取ると言われるがままに振ってみた。
確かに使いやすい、今のステータスにあったもので武器自体の効果もほとんどが今のシリカのものをはるかに上回っている。
その驚きからかプレゼントをもらったことに対して喜ぶタイミングを逃してしまい宙ぶらりんな状態になってしまった。
シオンは武器への愛なのか自分への気遣いなのか自分の太刀の話や作ってもらった短剣、購入した数々の武器の話をノリノリで語っている。
それに対して大した相槌を打つこともできず、頭の中をプレゼントという語と短剣がくるくる回っていた。
「おーい、シリカー?」
「あ、はい!えっと、軽くて振りやすくて良かったです!」
「そかそか、それは良かった。良い武器だろそれ」
「そうですね、こんなすごい鍛冶職人知りませんでした」
「アスナの友人らしいけど、どこで会ったんだろうなぁ」
「あんまり友達いるように見えませんしね」
「ひどい言い方だなぁ。……まあ、あながち間違ってないかもだけど」
お互い顔を合わせて苦笑いをする。
一息つくとシオンは服装を軽装に変え電気を消す。
「もう寝るんですか?」
「なんかゆっくりしたら急に眠気がね」
「子供じゃないですか」
「子供はもう寝る時間だぞー。早く寝ないと大きく……ふあぁぁ」
「こっちはともかく、向こうのあたしがどうなのかは知りませんよ」
「そういうの屁理屈っていうんだぞー。おやすみー」
「屁理屈って何ですか、もう」
自分が気にしている小さいという点を突かれ怒るがそんなことは気にせずにシオンは一瞬で夢の中へといってしまった。
どっちが子供なのだろうとシリカはくすりと笑うと、シオンのベッドの方へと近づく。
彼の方が遥かに年上なわけだが、そんな彼の寝顔を微笑みながらじっと見つめていた。
この気持ちに気づいたのはいつだろうか。
今だと言いたいところだが、きっともっと前からそんな気持ちを抱いていたのかもしれない。
それでも彼女はその言葉をしばらく告げることは無かった。
もっとずっと、このままで。
微笑む彼女はシオンが起きないのを確認すると、彼の髪をそっと撫で顔を近づけた後、静かに隣のベッドへと戻った。