Re:SAO ~return recollection~ 作:寄す処の空
ですので今回は普通にお話が進みます。
お騒がせして申し訳ございません。
前回のあとがきは削除させていただきました。
それでは、本編をどうぞ。
この世界に来てから五か月くらいが経っただろうか。
現在アインクラッドは十五層までクリアされており、攻略組一行は十六層へと歩みを進めていた。
前回よりもかなり早い攻略速度である。
だがそれを知っているのはもちろんその記憶がある者のみで、ほかの者には知る由もない。
未だ攻略組の中で出た死者数はゼロ。
攻略速度もそうだが死者が出ていないことが何よりである。
そのどれもがシオンのおかげ、ではなくディアベルのおかげであることにシオンはやるせない気持ちでいっぱいになった。
どうしてあの時、と。
攻略組の中では現在血盟騎士団とアインクラッド解放隊が大きな派閥となっていた。
他にも小さなギルドはいくつかあるが、二つほどの規模を誇るものは無い。
血盟騎士団のアスナとアインクラッド解放隊のディアベル。
シオンとシリカも両者から勧誘が来たことはあったがどちらも断っていた。
シオンはそもそも群れるのが好きな方ではないし、ギルドという団体に抵抗がある。
それは一種のトラウマに似たようなもので。
対してシリカはギルドに多少興味を持っていたが、シオンが行かないのならそれまでのようだ。
その素振りに勿論シオンは気づいていたが、例え彼女のためであってもギルドに入ることができるほどその気持ちは軽いものではなかった。
「平和ですね、シオンさん」
「なんかジジくさいな、この世界がか?」
「ジジくさいってひどくないですかー?そういうことじゃなくて、誰も欠けることなくここまで来れたんですから」
「百層まではまだまだだけどな。まあ、順調ではあるんだけどさ」
「みんな楽しそうじゃないですか」
「心配なくらいな」
今日も十六層の酒場にて祝勝会が開かれていた。
迷宮区を突破した後には必ずやることだ。
既に十回以上も同じ光景を目の当たりにしているため今更ディアベルが泥酔しているとかそんなことに驚くことはない。
「あんな真面目なディアベルさんがこんなに……」なんて言っている声が聞こえれば一発で新しく攻略組に入った人だと把握することが出来るくらいだ。
人の顔と名前を覚えないシオンでも簡単なことだった。
一層目以降ディアベルのような夢を見ることも無ければ身近に死者が出ることもない。
そういった点では確かに平和かもしれない。
「アルゴは元気にしてるかな」
「アルゴさんがどうかしたんですか?」
「ん?ああ、ちょっとした仕事を頼んでるからさ」
「どんな仕事ですか?」
「んー?いや大したことじゃないんだけどね。ただ人と関わったりもするかもしれないから、相手の人に嫌われたりしないかなーと。たまにきついところあるから」
「……心配ですか?」
「ちょっとだけねー。せっかくだから明日顔見せにでも行くか。あいつこの前は予告無しで来たし。いや、あったのか一応」
「仲良いんですね、二人とも」
「まあそうだな。前の世界じゃ────」
前の世界じゃ。
そこで息が詰まる。
そのあとの言葉がなぜか不自然なほどに出てこなかった。
何かを続けようとした口が金縛りにでもあったかのように動かなくなる。
だが異常が出ているのは決して体ではない。
彼女に対しての記憶が何もないことだ。
この世界で初めて彼女に会ったとき、確かに初対面であり面識なんて当然無かった。
無かったように感じていた。
だが何かがおかしい、記憶とは反して体が何かを言おうとしていた。
それに加えて身震いするほど、恐怖を覚えるほどの白。
記憶を遡ってもアルゴという人物がいない。
あんなに目立つ立ち回りをしているというのに。
彼女は情報屋だ。
「おかしい、こんなこと一度もなかったのに」
「どうしたんですかシオンさん」
「……ごめん、ちょっと外出てくるわ」
「今からですか?もう夜も遅いですよ?」
「なのにあいつが外に出てるから。シリカは先に寝てていい、ちょっと会って確かめたいんだ」
「私もついていきますよ」
「一人がいいんだ」
シリカを突き放すように酒場から出ていく。
どうして鮮明な記憶が無いのか。
あれほどの人物と前回全く関係が無かったのだろうか。
その可能性もあるがその可能性を一番にするほど今の精神状態は良くなかった。
最悪出会う前に死んでしまっている。
そして今彼女はその危険な状態に常に晒されている。
彼女の記憶が無い理由がディアベルと同じように死と直結していると考えると怖くて怖くて堪らなかった。
■ □ ■
十二層森林地帯。
シオンがフレンドリストでアルゴの居場所を調べるとここにいることが分かった。
だがここの森林地帯は広いことに加え暗く見通しが悪いため人探しは困難である。
追えるのはここまでであとは自力で探さなければならない。
ここに入ってから常に索敵スキルを全開で移動しているが、モンスターとアルゴでない数人のプレイヤー以外察知することは出来なかった。
だがそれは悪魔で想定内なので焦りなどはない。
索敵スキルの範囲外にいるのか、あるいは。
「動く……ナ?!」
ざざっと木々がこすれる音と共に落ちてきたものを勢いよく背負い投げする。
索敵に入らないとなればこういうこともあるのだ。
「元気そうで良かったよアルゴ」
「今言われてもちっとも嬉しくないナ」
パンパンと砂を払うようにして立ち上がったアルゴはどこか悔しそうな顔をしていた。
おそらく追ってきていることに気づいて待ち伏せていたのだろう。
彼女は隠蔽スキル特化型なのでこういう戦闘が良く似合う。
心配はしていたがさすがはと言ったところだろうか。
「それで何の用ダ?からかいに来たって言うナラ容赦しないゾ」
「アルゴは何のためにここに来たんだ?こんな夜に、ただでさえ光が入らないってのに」
「ちょっとした調査だヨ。オネーさんは多忙でネ」
「明日からはやめてくれ。夜は危ない」
「何ダ?オレっちを心配してくれるのカ?」
「心配だよ、とても」
冗談のように言ったアルゴが訝しげにシオンを見る。
普段と様子がおかしいことに気づいたようだ。
「何かあったのカ?」
「何も無かった」
「訳が分からないナ。オレっちを試しているのカ?」
「違うよ。……怖いんだ、とても」
シオンの発する言葉をアルゴは終始理解することが出来なかった。
ただ、シオンが冗談で言っていないことくらいはその声音と表情ですぐにわかる。
だがそれを追求することは叶わなかった。
「……っ!誰だ!」
ざざっと木々がこすれる音に反応するとシオンが瞬時にアルゴを背に庇いつけてある武器に手を伸ばす。
敵の存在に気づいていないアルゴは一瞬動揺したが、すぐに状況を把握したのかシオンに身を預けていた。
「プレイヤーが三人、たぶんこいつらが索敵班だ。ほかにももっといる」
「どういうことダ?」
「絶対に離れるなよ。……俺らはプレイヤーだ!モンスターかなにかと勘違いしてるなら今すぐ失せろ!」
シオンの言葉に一人のプレイヤーが動く。
だがそのプレイヤーは撤退をする素振りを見せず、こちらに背を向け何かもぞもぞと動いていた。
それが他者にメッセージを送っていると分かるシオンは無言で武器を次々とストックしていく。
依然として敵の位置を把握できないアルゴだが、事の大きさは十分に伝わっていた。
「悪い、俺が来たばかりに」
「シー助の言ってたやつらカ?」」
「あれが俺の探してた連中かは分からないけど、こっちの言うことを全部無視ってことは恐らくPKプレイヤーだろう」
「全部カ?」
「何人いるか分からないけどな。かくれんぼが好きなやつらがちらほらと」
「話には聞いてたが、初めて会ったヨ。本当にいるんだナ」
「こんな世界で」
独り言のようにアルゴが口にしなかったその先を口にする。
こういうジャンルのゲームにpvpがあることは決しておかしな話ではない。
pvpというのは実際にほかのプレイヤーが操作しているキャラクターと戦うわけで、当然楽しいしやりがいだってある。
決してpvpというもの自体を否定したいわけではない。
だがこのゲームは例外中の例外でデスゲームだ。
デスペナルティなんて甘いものではなく死んだ者に与えられるのは死そのもの。
そんな世界でpvpをやるということは、人殺しをするのと同等である。
つまり紛れもない立派な犯罪だ。
だが今目の前で起こっていること、以前起こったことに加えてこれから必ず起こることのように何のためらいもなくプレイヤーキル、いわゆる殺人をする者たちがいる。
理由は様々あるがまともな理由を口にしたものなど誰一人としていない。
殺人をする者のなかにまともなやつなんて一人もいないわけだが。
しばらくの沈黙のあとかさかさと木々が揺れる音が響く。
瞬間シオンの左頬を一本のピックが掠めた。
それがとんっと背後の木に刺さった音にアルゴがシオンの袖をきゅっと掴む。
既にシオンの索敵には十人のプレイヤーが入っていた。
隠蔽スキルが高いものを含めればもっとだ。
攻略組最前線プレイヤーのためレベルは誰にも劣ることはないだろうが、数の暴力というものがある。
いくらレベルが高くてもまだ十五層なため差はそれほどついていないだろう。
だが相手がPK初心者なのも事実だ。
ラフコフほどの脅威ではない。
それに。
「殺しに来るならかかってこいよ。ただ、二つだけ忠告だ。まずひとつ、分かっているだろうが俺は攻略組最前線プレイヤーだ。そしてもうひとつ。……俺は、お前らなんかより遥かに殺人が得意だよ」
一本の槍を手に取り木々の中へとそれを投擲する。
投げた槍が木々を揺らし突き刺さる。
そこには串刺し磔状態のプレイヤーがいた。
「シー助!?」
「俺は平気で人を殺すぞ。オレンジなら誰にもバレずに殺せるよああ素晴らしいね。お前らがメリットにしている慣れは俺には通用しない。対人慣れしてるのはお前らだけじゃないんだよ。二十人でも三十人でもかかってこい。──────皆殺しにしてやる」
両手に短剣を持ち投擲体勢に入る。
だが、木々に多くいたプレイヤーは何もすることなく踵を返し森の奥へと消えていった。
気づけば括りつけられていた者も消えている。
「……っと」
全てのプレイヤーが消えたのを確認すると手を上に伸ばしそのまま地へと叩きつける。
ぐはっと小さなうめき声が聞こえるが気にせずその四肢に短剣を突き立てた。
「お前ら全員オレンジなのな。おかげで俺は心から被害者面出来るよ。……ん?」
さらに腹部に槍を突き立てようと新たに武器を手にするがその腕をアルゴに握られていた。
「どうしたアルゴ」
「もういいダロ、そいつは何も出来なイ」
「何だ、逃がせっていうのか?また襲ってくるかもしれないんだぞ?」
「だから人を殺していいってことにはならないはずダ。……絶対」
「それにだけは賛同しかねるな。俺はこいつらを許す気なんて──────」
アルゴの手を払い槍を突き刺そうと振り下ろすが、そこに槍は無かった。
それどころかシオンの腕は肘から先が切り落とされており、武器を握る手が無い。
自分の体力の減りと背後の人物のカーソルの色を見てため息をつく。
「そこまでしてやることか……?」
背後の人物に問うが答えが返ってくる様子はない。
返答が無いことにため息をつくと、落ちた自分の腕に握られた槍をストレージにしまい、突き刺した四つの短剣を回収する。
拘束が解けたプレイヤーは何か捨て台詞のようなものを吐いて走り去っていくが、そんな言葉に気を向けることはなかった。
アルゴが何を考えているのか言葉を発さないためわからないが、気にせずその右手に無気力に握られた剣を空いている左手でそっと鞘にしまう。
今どんな顔をしているのだろうかと面と向かって顔を見ようとするが、背丈の問題と顔を俯いているせいでそれは叶わなかった。
「だんまり、か」
「……シー助はそっちに行くべきじゃナイ」
「何の話だよ。……まあ、そりゃ行くべき人なんていないわな」
「シー助は今日何をしに来たんダ?」
「それは教えられないよ」
「シー助はオレっちに隠し事をするのカ。オレっちだけ二」
「そりゃ、誰に一番隠し事しなきゃいけないかって言われたらアルゴだろうな」
「情報屋は辛いナ」
「……悪い、ちょっとそのままで居てくれないか」
アルゴの頭にしがみつくようにして顔をうずめる。
突然のことに何が起こっているのか理解できず戸惑うアルゴだったが、頬を伝う自分のものでないそれに気づくとはっとなり小さく微笑んだ。
「オレっちはシー助の味方だゾ」
「なんだよそれ。何もないくせに、お前だけ何もないくせに……!」
「オネーさんだからナ」
「関係ないだろ、ふざけんなよ……。何なんだよこの涙は、ほんとわけわかんないって……!」
「一人で抱えなくてイイ。気が楽になるならオネーさんが話でもなんでも聞いてヤル」
「……アルゴにだけは、話せないんだよ。こんな話、絶対」
「……そっか」
シオンの眼下で静かにアルゴも手を伸ばし身を寄せる。
一瞬驚いたがシオンも抵抗することなくそれを受け入れた。
アルゴは無意識なのか擦り寄るようにシオンの懐へともぐりこむ。
その懐で、誰にもばれない声量で、小さく呟いていた。
「──―シオン」
前書きでも記載いたしましたが、次回は過去編になります。
よろしくお願いいたします。