Re:SAO ~return recollection~ 作:寄す処の空
それから順調にトーナメント戦は進み、ベスト8までが決まった。
気づけばギャラリーも周りが見えないほど多く集まっており、そこら中に屋台やら歩き売りの人たちがいる。
何も公表していないのにこれだけの人が集まるのは誰の仕業だろうとアルゴの姿を思い浮かべる。
彼女のせいだったらそれでいいのだ。
危険のない、こんなどうでも良い話に首を突っ込んでいるのなら。
シオンがトーナメント戦を開いたのは言うまでもなく個々の対人能力を調べるため。
タンク戦は当てにならないが、実際最前線で戦う攻略組の連中が知能のある人間と戦闘になった場合にどんな行動をとるのか、どれだけ能力が落ちるのかを検証したかった。
結果としてシオンの想定内に収まったわけだが、元から過小評価していたため最悪なことに変わりはない。
重たいソードスキルを連発する者やすぐに受け身、それもパリングなどのスキルを使う者。
攻撃の受け流しがざるであり、仕掛けるタイミングを間違えている者もいる。
結局残った八人の半分は予想通りであり、シリカディアベルアスナシオン、エギルとキバオウ、そして一般人二名となった。
エギルとキバオウが残っているのは少し意外だったが、エギルのセンスは元から冴えているところがあるし、キバオウも何だかんだでしぶといところがある。
他の攻略組以外と思われるプレイヤーはどちらもシオンの知らない者。
ラフコフのメンツはここにはいないようだ。
「シオンさん」
シリカが真剣な眼差しで詰め寄ってくる。
それを気にしないように笑って返した。
「ここで決勝とかで当たれたら良かったんだけど、現実はそう上手くはいかないもんだね。準決かー、その前に俺はアスナさんだしな」
「私は優勝しますよ」
シリカの変わらない答えにため息をつく。
ここまで来ると子供のそれにしか見えてこないのはシオンの悪いところなのかもしれない。
真剣なのは事実なのだろうが、彼女もまた対人戦において必要なものを一つ欠いているのだ。
当然それを教える義理は無く、仮に教えたとしても今の彼女は聞く耳を持たないだろう。
彼女の次の相手もディアベルだ。
彼はポジションで言えばタンクに近いわけだが、ここまで上がってきたのだからそう簡単に負けるとは思えない。
仮に負けたとしても準決で教えればいいのだ。
シリカに良いプレッシャーを与えてくれればいいのだが。
「ま、とりあえずアスナさんを倒さないことにはね」
睨みつける彼女の視線を無視し、前方にいるアスナへと目を向ける。
やる気十分でコンディションはばっちりのようだった。
当然負ける気はさらさらないのだが、プレイスタイルはシオンの嫌いなタイプだ。
攻略組の中でも圧倒的な速度を誇る彼女の攻防はかわすのが容易ではなく、またダメージを与えるのも難しい。
勝算はあるが、それがやっていいことなのか悪いことなのか決めあぐねている自分がいた。
本気を出すのは勿論なのだが、やらなくても良いことというのはたくさんある。
「アスナさん。確認ですがその細剣は愛刀ですか?」
「リズに作ってもらったものよ。使い慣れているのは確かね」
「やっぱり」
「あなたには手加減なんて出来ないもの」
「……さいですか」
その言葉に先ほどまで考えていたことを全て捨て去る。
最初から手段なんて選ぶものでは無かった。
開始のブザーが鳴りアスナが一気に距離を詰める。
それに対しシオンは小型の盾のみを構え武器を手にしなかった。
「手加減のつもり?」
「そう思うなら距離を取ってもらえると嬉しいのですが」
「手心なんていらないわ」
「そりゃどうもっ!」
気を遣ってバックステップを踏んだアスナに対し投擲スキルを使い盾にブーストをかけそれを放る。
彼女の言葉で自身のすべきことを改めて自覚した。
だからこそ始まった時から一度も容赦などしていない。
予想外の攻撃だったようで体勢を崩しつつ空いた左手で弾き身を躱す。
次に彼女の視界を覆ったのは無数のピックだった。
「はぁ!」
不意を突く形で現れたピックだったがさすがアスナと言ったところだろうか、その攻撃を素早く細剣で弾き身を翻すことで躱す。
ほとんどかすりもせずに避けたその姿に周囲から歓声が上がった。
だが素人の意見などこの場には一切必要ない。
主催者という観客のターゲットにしやすい位置に立つシオンを倒す姿はさぞ見ものなのだろうが、アスナは観客とは裏腹油断する素振りを見せなかった。
彼女の手心は最初で最後だったようだ。
無防備で立ち尽くすシオンを見てどこかから「行けー!」という声が聞こえるが、アスナは最初のように間を詰めようとしない。
その判断力に称賛を讃えると共に両袖から二本の短剣を取り出す。
周りから唖然といった声があがるがアスナは悪魔で無反応だった。
「あなたがそのマントを手放さない限り油断なんてできないわ」
「ここが俺の宝物庫だからね。初見さんだったらちょろかったのに」
短剣二本でアスナの突きの軌道をそらす。
だが連撃を試みてもアスナの動きは早くなかなか間合いを詰められない。
両者HPは微かにしか減らず、始まって十分未だに両者軍配は上がらなかった。
だからといって別段焦ってなどいない。
こんなの前座以外の何物でもなく、これを防ぐことくらい当然予想出来ている。
一対一の戦いは全てがシミュレーション。
その枠を外れてからがシオンの本当の戦いなのだから。
「ツインシュート」
両手に持つ短剣を左右別軌道で放る。
高音と共にアスナへと突撃するが、それを苦とするわけでもなく華麗にさばく。
次の武器は何かと身構えるが、アスナの視界を覆ったのはただのマントだった。
「しまっ────」
「リニアー」
宙を舞うマントから突如突き出てきた細剣に左肩を貫かれる。
耐久値を失ったマントが輝きと共に消滅する中、その光に包まれてもなおシオンの猛攻は止まらなかった。
「くぅ……!!」
「今アスナさんは何を考えてるのかな。決着はつかないよ初撃は盾で使い切ったから。こんなので終わりってそりゃないもんね、足りない、まだ足りないよ。驚いた?ちゃんとアスナさん用に考えた戦法だよ。マントでの目晦ましに握るはずのない細剣。それも相手の一番得意とする武器で。知り合いだからこそのこの意表の突き方。対人戦において相手の手中に収まった方が負け、……
淡々とつぶやくシオンと彼のその目に一瞬アスナは怯むが、すぐに立て直し反撃の突きを繰り出す。
だがもう彼女の速さやキレもここでは通用しない。
「
アスナの突きと同時にシオンも突きを放ちその先端を重ねる。
両者の手に握られた細剣が耐久値を失い消滅するなか、シオンだけが動きを止めなかった。
「閃打」
武器を失い前のめりになったアスナの腹部に手を埋める。
避ける余裕もなくもろにくらったアスナは後方の奥まで吹っ飛んでいった。
そのタイミングでブザーが鳴り、シオンの頭上にWINNER表示が出る。
またも圧巻といった戦闘と容赦のない攻撃で歓声は上がらなかったが、気にせずアスナの元へ行き新しいマントでその体を包んだ。
「……ごめんアスナさん。武器だけじゃなくて服までだめにしちゃった」
覆ったマントの前側を紐で括ると深く頭を下げる。
マントの向こう側、アスナの腹部には肌が見えるほどの大きな穴が開いてしまっていた。
『
防具に対しての場合剣や槍などではあまり効果が表れないが、打属性攻撃の際は有効なシステム外スキルだ。
アスナの細剣を砕いたものと原理は同じで、どちらも昔キリトから盗んできたもの。
おそらく今の彼はまだこれを習得していないだろうが、前回キリトがやって見せたのをシオンが土下座をして頼み教えてもらったのだ。
悪魔で対モンスター用のスキルなのだが、当然このように対人の時にも使える技である。
後者は本当はやるつもりは無かったのだが、切羽詰まった状況下で無駄に付与してしまったのだ。
今はまだ中央の穴で済んでいるが、そのうち上半身の防具は耐久値を失い消滅するだろう。
女性プレイヤーのノンアーマー時がどのような状態なのかは知らないが、あまりよろしいものではないだろうというのは子供でも分かる話である。
「まだ誰も気づいてないと思うので、早く着替えちゃってください」
シオンが声をかけるがアスナからの返事がない。
自分の攻撃で何か異常が出たのではないかと不安になるが、既に戦闘の決着はついており自動で体力は全回復しているし、ステータスなども元の状態に戻っている。
ここにきて未発見の異常ということも無いだろう。
「……シオン君、強いのね」
突然の小さな声にアスナの顔を見る。
目線は外れておりその声はどこか怯えているようでか細く、憔悴しきっているようだった。
その瞬間シオンの頭をやってしまったという言葉が過ぎていく。
善良な人間にやっていいレベルではないのは自分でも分かっていた。
分かっていてもこういう手段しか思い浮かばず、止まれなかったのが彼の悪いところである。
「ちょっとだけ怖かったの、最後」
「反省してます。あそこまでやるつもりは」
「どっちが本当のシオン君何だろうね」
背を向け新しい服に着替えるアスナに何の言葉も返すことが出来なかった。
本当の自分。
彼女の言う複数の自分がどのようなものなのか本人には想像もできないが、今日彼女に与えてしまった恐怖。
それを意図してやったという残忍な性格。
詫びてはいるが決してやめるわけではないという矛盾。
それがこのシオンというプレイヤーの真実であり本当の彼である。
優しささえ武器にするように出来ている彼が本当の優しさなど持ち合わせているはずがなかった。
そんな彼をアスナが不思議そうな表情で見つめる。
今まで一度も見たことの無いような彼女のそんな姿にシオンは言葉が出ずにいた。
いつもの威厳や近づきずらい雰囲気が完全に無くなっており、寧ろその違和感がシオンに一歩距離を取らせている。
そんな彼の気持ちはお構いなしで、アスナはその一歩を踏み込んだ。
「ねえシオン君」
「はい、何でしょう」
「私とパーティ組んでよ」