Re:SAO ~return recollection~ 作:寄す処の空
ディアベルの手に握られた剣が輝く。
瞬間シリカはバックステップをし身構えた。
が、その彼女の体を襲ったのはえぐるような
後方へと吹き飛ぶ彼女にスタンの表示が出る。
ディアベルは動けなくなったシリカに近づき、剣を振り上げ一言呟いた。
彼女の中で渦巻く感情に、敬意を払うために。
「ごめんね」
振り下ろされる剣と共にブザーが鳴る。
ディアベル自身も本当はこんな汚い手を使って彼女と戦いたいなど思ってはいなかった。
だが、今はそれよりも別にすべきことがある。
だからこの戦いはまた次の機会に。
それが彼の決断だった。
もう一度彼女に一瞥すると剣をしまいシオンの元へと向かう。
「勝ってきたよ」
何事もなかったかのように武器をストレージにしまい向かってくるディアベルに対し何とも言えない感情がシオンを襲う。
その向こう側、座り込んだままのシリカが目から離れなかった。
「
「シオン君だったらどうだい?勿論、スキルの名前しか知らなかったとしたら」
「……同じ負け方をするんだろうね、この場合は」
「普段の彼女相手ならこんな真似はしないさ」
「卑怯だな」
「本気で言ってるのかい?」
「……冗談だよ」
思わず出てしまった言葉に口を紡ぐ。
別にシリカが負けたからといって自身に何かがあるわけではない。
ディアベルに負けるはずがないと期待をしていたわけでもない。
それでも彼女が負けてしまったという事実が、なぜかシオンの心を締め付けた。
無意識の矛盾に自身でも理解など出来ていない。
だからこそただシリカが負けたという現実だけがここに残っていた。
「でも、彼女を傷つけてしまったかもしれないね」
「まあ」
先ほどまでシリカのいた場所に姿は無く、二人が話している間にアスナと同じように転移結晶を使ってどこかへ行ってしまっていた。
フレンドリストを見てほかの街に行っただけなのは確認済みのため特に問題はない。
当初の目的は自身の対人戦においての力不足を自覚してもらうことだったわけだが、終わってしまえばもっと他にやり方は無かったのかと考えてしまう。
人の心が傷つくなんて、そんなもの気にする人間では無かったというのに。
「それでどうしてディアベルは勝ったんだ?」
「シオン君、たまにひどいこと言うよね」
「そういうことじゃなくて」
「分かってるよ。シリカちゃんに絶対に勝てる保証は無かったんだけどね」
「無理してでも勝とうとするタイプだったか?」
「勝たなきゃいけない理由があってね。本当はシリカちゃんとシオン君の戦いも見たかったんだけど、彼女を危険に晒すわけにはいかないから」
「俺が危険だって言いたいのか」
「違うよ。そのあとの話」
「は?」
シオン主催のトーナメント戦はベスト4まで進み、いよいよ終盤に差し掛かっていた。
ディアベルの戦いのあとキバオウと見知らぬ一般人の戦いが始まった。
終わるまでにかかった時間はほんの数分だ。
キバオウに対してそこまでの期待をしたことは無かったが、一応ここまで勝ち上がるだけの実力は兼ね備えていたのだ。
それをこのベスト8というタイミングでこうもあっさりと。
それに、勝利した一般人がまた奇妙な戦い方をしている。
対モンスターでは考えられない戦法。
何度も言うがその名前に見覚えは無い。
だからそうというわけではない。
そうではないと分かっているのに自然と背中に悪寒が走った。
「次は俺たちの番だね。シオン君、行けるかい?」
「ごめん、ちょっと待ってくれ」
ディアベルの促しに答えず自分の右手を握り確かめる。
無論このゲームの世界で手が震えるというのはイレギュラーでない限り発生しないのだが、シオンはその震えるはずのない手を握り締めていた。
その姿を見てディアベルは何かに気づいたのかはっとなる。
「俺と戦うのがそんなに怖いかい?こっちが震えたいくらいなのに」
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
「相変わらず正直だね君は。……まあ、そう好きにはやらせないつもりだよ。俺もシオン君と同じ気持ちだからね」
「何の話だ?」
「こっちの話。ほら、早くいかないと客がいなくなっちゃうよ?」
「俺らには一銭も入らないんだから別にいいだろ」
「それもそうだね」
「俺が負けるよ」と小さい声でディアベルが呟く。
その声にはっとなるが、既にディアベルはいつもの武器を持ち、定位置へと向かっていた。
彼くらいの立場だとさすがにこの状況の異常さにも気づいていたようだ。
シオンはその二人が怪しいと踏んでいるためこうも警戒を厳としているわけだが、気づいているはずのディアベルが余裕そうなのはどうしてか。
何も知らないからこその能天気なら興味は無いが、落ち着ける何かを知っているなら是非とも教えてもらいたかった。
こんなチートレベルのハンデをもらっておきながら未だに臆病な自分が嫌になる。
太刀を納刀したままのシオンにショートソードと盾を構えるディアベル。
試合開始のブザーが鳴ってもなお両者微動だにしなかった。
やがてしびれを切らしたようにディアベルがシオンの元へと走る。
だがあと一歩のところに来るまでシオンは動かなかった。
そしてその一歩でシオンの姿が消える。
次の瞬間目に映ったのは部位欠損を起こしたディアベルと地に転がる腕と剣。
そして依然として納刀したままのシオンだけだった。
「抜刀術四式『刹那』」
振り切ったシオンが納刀したまま背を向ける。
その背を見ながらディアベルは静かに片腕を上げた。
ブザーと共に降参の合図が出る。
この土壇場で新しい技を出され成す術も無かった、というところだろうか。
……周りから見れば。
終了のブザーと共にディアベルが小さく笑う。
その表情に次の戦いへの不安なんて消し飛んでいた。
この技を人前で見せたのは初めてだというのに。
その後もう片方のブロックの準決勝も呆気なく終わった。
予想通りと言えば予想通りだが、やはり二人はグルなのだろう。
決勝の相手、ディアベルの準決勝の相手も含めてシオンに見覚えはない。
かつて全メンバーをリスト化していたシオンにとってそこに狂いはなかった。
となると、少なくともラフィンコフィンではない。
当然他にも殺人ギルドはあったし、個人でやっていたものや消え失せていったものもある。
シオンの知らないPKerなんて数多くいるわけだが、シオンの知らないという点が彼の気持ちを幾分かマシにさせた。
シオンの前にフードを被ったプレイヤーが立つ。
Player name ”Rin”
準決勝の前に決勝をやることになったためディアベルたちの前に出ることになった。
理由は二連続でつまらない試合をしたというギャラリーからのクレームだ。
一試合目は迫力があっただろうと内心ぼやくが、ギャラリーは一瞬で終わるよりもバチバチの接戦が見たいのだろう。
そんなことやってられるかとため息をつくが、集まってしまったのだからしょうがない。
決勝に対してそんな余裕も無いのだが。
「決勝残るなんてすごいね。みんな攻略組ばかりなのに」
「慣れてますから」
中性的な、どちらとも取れない声が返ってくる。
依然として顔を拝むことは出来ないが、声色だけではとても悪い人には思えなかった。
だがそこで手を緩めるはずもなく、相手を探るべく質問を続ける。
「以前他のVRゲームをやってたとか?」
「違います」
「へー、一対一は良くするのか?」
「たまに、そこの人と」
指差す先には次のディアベルの相手がいた。
顔を隠す様子はなく、十中八九男性だろうと思えた。
グルであることを隠す気は無いらしい。
二人でよく遊んでいるというだけならいいのだが。
「もしかして探ってる?」
「まあ、ぼちぼち?見たところレベルもそんなに低くないし、これを機に攻略組に入ってみないか?そりゃあモンスターと人じゃ全然違うけど」
「死ねって言うの?」
「辛辣だな」
探りの手を緩める。
そういうことに詳しいのか警戒されているのか、これ以上続けても意味が無いと判断した。
余計面倒なことになっているがここはどうしようもないと割り切るしかないだろう。
「お手柔らかによろしくな」
「………」
沈黙という返答と共に試合開始のブザーが鳴る。
瞬間目の前の相手がマントをはためかせ、フードの向こう側とマントの内両方を見せてきた。
いくつか付けられた短剣と小道具。
フードが外れたことで伺えると思われた顔には白い狐のような絵の刻まれたお面があった。
視覚で混乱させようという策だろうか。
決勝でそれを使ったということはそれまでの戦いは全て前座であり、ここまで勝ち上がれる自信を元から持ってたということだ。
やはり経験者というのが妥当だろう。
つめてこないのを確認すると背につけてあった太刀を抜刀する。
「それがあなたの戦い方」
「まあ一応?他にも色々あるけど」
「どこかで習った」
「習ったというかシステムだろ。教えてくれた人がいるのかって話ならそんなのはいなかったと答えるよ」
「……そう」
短く返事をするとガーターベルトからククリナイフ二丁を取る。
気づかなかったわけでは無いが、最後まで隠していると思っていた場所から見せてくるとは思わなかった。
ククリナイフ。
また随分とマイナーな武器を持ち出したものだなとため息をつく。
この武器は癖が強く使用者、その相手共に厄介を極める武器である。
前者は、そもそもこの世界のスキルがククリナイフ向きのスキルではないことだ。
剣を突剣のように扱うスキルはそもそも突剣用ではないククリナイフには不向きである。
後者はククリナイフの特徴を知っているものが持つと対処に困るから。
どんなに強度のある武器を持っていようがリーチの長いものを持っていようが、一歩間違えば奪われてしまう可能性がある。
対人戦で持ち出してきたとなれば、それなりに自信があるということなのだろう。
「余所見」
「してないよ」
両手に持ったククリナイフがシオンに襲いかかる。
太刀一本で処理をするのはなかなかに困難だが、だからと言って負ける気などさらさらない。
ここで負けでもしたら今後の自身のメンタルに支障をきたすことになる。
対人プレイヤーに対して勝てないかもしれないなんて感情はあってはならないものだ。
だが、その余裕も数分後にはすっかり消えてしまっていた。
依然として両者ほとんど攻撃を受けることは無く、淡々と進んでいく。
それは想定内なのだ、本気だってまだ出していないのだから。
だがシオンの手には、無い汗がじっとり滲んでいるような気がした。
鼓動が早くなっている、焦りが募る。
相手に伝わらないように必死に隠すが、そのせいで全く集中など出来ていなかった。
嘘だろ、という言葉が何度も頭を駆け巡っては消える。
気持ち悪い、冗談にしては度が過ぎる。
一手加えるたび、自分の予想通りの対応をされる。
相手の一手に対して、まるで誘導でもされているかのようにたった一つの抜け道で対応する。
相手の攻撃の仕方はシオンの予想通り、まるままそのままだと言うのにそれでも対応することが出来ない。
考えたくも無ければ口にしたくもないが。
まるで自分自身と戦っているようだ。
「君こそ、それはどこで習ったんだい?」
「この世界。違う?」
「皮肉だな」
おふざけにしては度が過ぎるほどに完成度が高い。
一瞬ヒースクリフ、茅場昌彦の姿が過るがすぐにその考えは消し去った。
目の前の人物が彼である可能性はほぼない。
このプレイスタイルは決してこのゲームの中だけで身に着けたものではない。
二年やそっとカーディナルを通して見たところでここまでの完成度は有り得るはずがない。
その答えに至るといよいよ恐怖がシオンを襲っていた。
「雑念が見える」
「怖いこと言ってくれるなよ。あんたとどっかのおっさんのせいだっての」
太刀を納刀し、無言で一閃を発動する。
だがその攻撃は読まれており、パリィで返されてしまった。
このギリギリの緊張状態でよく出来るなと思う。
自分は余裕だと言い聞かせていないとやっていけそうもなかった。
納刀した太刀を再び抜刀すると鞘と共に相手へと投げる。
そのふいの攻撃に一瞬怯んだ隙を狙い短剣二丁を取り出した。
だが一撃目がかみ合った途端にそれは剣舞へと変化する。
周りから歓声が上がるがそんなの冗談じゃない。
相手はこの状況に焦りを覚えないのだろうか。
それとも手加減されているのか、だとしたら最悪だ。
平静を装ってはいてもこちらは焦りを隠すことが出来ない。
打つ手は他にもあるが、こんな遊び場で種明かしをするほど馬鹿ではなかった。
だからこそ、シオンはシフトチェンジをした。
この試合は負けてもいい、その代わりに相手の仮面の奥を見る、と。
デメリットは少なくないが、目の前の未確認生物をそのまま野放しにしておくわけにはいかない。
PKerなら対処しなければならない。
PKerなら今ここで手の内を明かすわけにはいかないのだ。
仮面を取る方法は二つ。
一つはそのまま、仮面に手をかけ外すこと。
服や鎧などは引ん剝くことが不可能だが、ハットや仮面はそれが可能である。
もう一つは仮面を破壊すること。
ぶっちゃけこちらの方が楽である。
勝つことが出来なくても、せめてそれくらいはしないとこの試合で何も得られませんでしたじゃ話にならない。
短剣をしまうとストレージからメイスとバックラーを取り出す。
その瞬間相手の動きが一瞬止まった。
「知らない武器」
「ただのメイスだよ、どこにでもあるだろ」
「そんなの見たことない」
「そりゃ好都合だな」
メイスを片手に敵との距離を詰める。
さっきまでとは裏腹に仮面の人の動きはどんどん鈍くなっていた。
こちらより遥かに動きやすいはずなのだが、どちらにしろ好都合だ。
「まず一本」
メイスの一振りと噛み合ったククリナイフをアームブラストで粉砕する。
手元から一つ武器が失われ、バランスを崩したところにすかさずシオンは追撃を加えた。
「
下からアッパースイングで顔めがけて一撃を打ち込む。
その攻撃がヒットした瞬間仮面の耐久値が切れ結晶となって消えていった。
瞬間、武器が地に落ちる音が周囲に広がる。
重量のあるどんっという音は、同時にシオンが落としたものであると周知させた。
だが試合終了のブザーは鳴らない。
武器を落としたシオンはやがてバックラーも手からずり落ち、その腕を無気力に放り出していた。
「嘘、だろ」