Re:SAO ~return recollection~   作:寄す処の空

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第二十八話 身の上

「リン、スイッチ!」

 

「はーっ!」

 

 第十六層草原エリアにて太刀を持つ男と短剣を握り締めた少女がモンスターを蹂躙していく。

 その姿をフィールド探索に割り当てられた討伐隊はただ眺めていた。

 つい昨日一昨日くらい前に不穏な空気を漂わせていたというのに、その二人が今目の前でタッグを組んで戦っているのだ。

 不思議に思わない方がおかしい。

 それに予定ではフィールドボスまではまだ距離があるため別段魔物狩りをする必要はなく、安全マージンを取れている者たちはこうやって傍観しているのが正しかった。

 あんなところに割って入りたいという者も当然いない。

 

「えっと、ルネさん?でしたっけ」

 

「あーこれ打ち間違えただけなんでルーで良いっすよっ。あと、さんは無しで。堅いのは無しっす」

 

「あ、じゃあ私も全然シリカとかで」

 

「それは出来ない相談っすね、兄貴のご友人とあれば敬意をもって接するのが俺の流儀っす!」

 

「は、はぁ」

 

 ふふんっと鼻を鳴らして背伸びをしている。

 勿論シリカにとってはかなり年上に当たるわけで当然敬語で話されるような立場でもないので対応に困っていた。

 先ほどからシオンのことを慕っているように見えるため、どういう関係なのだろうかという疑問が浮かぶ。

 

「あのえと、あの二人、息ぴったりですね」

 

 次々とモンスターを倒していく二人を遠目で見る。

 二人の動きには洗練されたものがあり、そんじゃそこらのコンビでは到底真似できないものがそこにはあった。

 つい最近まで隣は自分のものであったのに、もう二度とあの場に戻れなくなってしまうのではないかと思うほどに。

 

「実の兄妹っすからねぇ。当然じゃないすかね」

 

「……本当に兄妹ですよね?」

 

「俺はそう認識してますよー。……なるほど、そういうことっすか」

 

 ルーがふむふむと頷く姿を不思議そうに見るが、その意味を理解した瞬間にぼっと顔が赤くなる。

 

「ち、ちがいますよ?!」

 

「隠さなくてもいいっすよ、俺はそういう鈍感系男子じゃないんで!まあそうっすねぇ、あの二人はそろって鈍感かもしれないっすけど」

 

「……もしかしてルー、さんも?」

 

「俺は違うっすよー恐れ多いっす。あっそうだ、兄貴はシリカさんにどれだけ自分の話をしてるんすか?」

 

「自分の話?」

 

「身の上話っす。まあでもその感じだとほとんど話してないみたいっすね。……相変わらずずっこいっすね」

 

 ルーの何かを隠すような言い方にはてなが浮かぶ。

 身の上という言葉と同時にシオンが以前話した二周目の話が思い浮かんだ。 

 今話しているのはそのことなのだろうか。

 だがそれを聞こうと振り向いた先にはシオンの背があった。

 

「やめろ」

 

 戦闘を中断して飛んできたのか武器を握り締めたままルーと対峙している。

 背中しか見えないが声だけでどんな表情をしているのかなんとなく分かった。

 仲が良いと思っていたが案外そうではないのかもしれない。

 

「何もしないっすよ、ただやっぱり話してないんだなぁと思いまして。これから姉御も巻き込むんすから、それくらいは話した方が」

 

「それとシリカは関係ない。それにお前の発言は立派な規定違反だ」

 

「殺しに違反も何もないっすよ。これからすることに本当に関係ないって言うんなら、兄貴も随分甘くなったっすね。それともなんすか、兄貴にとってこの子はその程度の────「やめて」

 

 煽るように言葉を続けるルーにリンが仲裁を入れる。

 我を忘れて言葉を発していたことに気づいたのかルーはすみませんと言って大人しく下がった。

 その姿にリンはため息をつく。

 

「ごめんね、ルインはいつもこうだから。ちゃんと考えてるんだけど、空回りしちゃうっていうか」

 

「おいおい、名前出ちゃってるぞ隠せ隠せ。心配しなくても分かってるよ、昔っからお前の周りはそんなんばっかだからな。全然覚えちゃいねーけど」

 

「えー酷くないっすかー?俺は兄貴のこと何回も見てるのにー」

 

「ちゃんと顔覚えときゃよかったって初めて後悔してる頃だよ」

 

「あの……さっきから私だけ置いて行かれてる気がするんですけど……」

 

 申し訳なさそうに手を上げるシリカにごめんなと手を合わせる。

 身内の喧嘩なのだから当然入ってこれるわけがない。

 

「まあ折角の機会だし戻ったら話すよ。別段面白い話でもないけどな」

 

「ほんとですか、ありがとうございます!」

 

「良いんですか?リアルの話はしちゃだめだって。それもこんな子に」

 

「聞いちゃダメなだけだよ。俺は何もしてない」

 

「俺だって」

 

「お前はギルティだ。罰としてフィールドボス俺と一緒に討伐な」

 

「お、久しぶりに兄貴とっすか?!それは願ったり叶ったりっす!」

 

「久しぶりも何も初めてだろ」

 

「え、そこからっすか」

 

 あまりにも記憶に残っていないことにため息をつくが、そんなのはお構いなしでシオンはフィールドボスの方へと走り出していた。

 それに一瞬遅れる形でルーもといルインも後をついて行く。

 

 仲が良いんだかという感じだが身内だというのは本当のようで、こちらもそれなりのコンビネーションを見せていた。

 シリカはまたも目にした姿に唖然とし、他のプレイヤーもその姿に見入っている。

 リンだけが小さい声で50点と呟いていた。

 

 それと同時にこの場にいた他のプレイヤー全員が思った。

 あの意味ありげな話、自分達は聞けないのか、と。

 

 

 ■ □ ■

 無事にフィールドボスを倒した夜、広めの宿を借りその部屋に四人は集まっていた。

 円形の机を囲むように座っており、シリカが真剣な面持ちでいる中、リンはどこかつまらなさそうにしていた。

 ルインが言い出しっぺなのだが彼は彼で何か別のことを考えているのか落ち着きが無い。

 どういう風に話そうかとちゃんと考えていたシオンにとってはとんだ拍子抜けである。

 

 当然彼が言うことが間違っていないことなんて分かっている。

 いつか巻き込んでしまうかもしれない、そうなる前に素性を明かしておく必要があると。

 元々シリカを離れさせようとしたタイミングで、最初からこの話をしておけばよかったのだ。

 今となってはもう後の祭りだが。

 

「えと、それでさっきの話って」

 

「ああ。その、単刀直入に言うと俺ら三人とも警察なんだよ」

 

「……へ?」

 

 突然の暴露にぽかんと口を開けたままフリーズしていた。

 驚かれるとは思っていたがまさかここまでとは思っていなかったシオンは少し困惑している。

 それを見たルーが考え事をやめこちらにシフトチェンジしてきた。

 やっと面白いことが始まったとその顔はやけににやついている。

 

「兄貴、大変そうっすねっ」

 

「うるさい。お前は黙ってあっち行ってろ」

 

「面白いもんが目の前にあったら、そりゃあ見るでしょうよー」

 

「少しは隠そうと思わないのか。あのー、シリカ?」

 

「あっ、えとはい。警察というとあのポリスとかパトカーとかそういうことですか?」

 

「言いたいことは分かったとりあえず落ち着け。シリカの言う通りそういうことだよ」

 

「私何か悪いことしましたかね」

 

「事情聴取じゃないよ今」

 

 あれぇ?とまだ現状を理解できていないシリカが混乱している。

 シオンもシオンで周りが皆こんな感じなのでどうしてそんなに驚くのか見当もつかなかった。

 彼からしたら寧ろ警察でない人間を探す方が難しい。

 

「えっと、何分知り合いにそういう人がいないもので……」

 

「まあ俺もそういう人しかいないからな。外の世界はいまいちわからない」

 

「えっと、警察というと……。というか、シオンさんはおいくつですか?」

 

「それはまだちょっと秘密かな。違反になっちゃうから」

 

「あ、すみません。あのでも、警察ってもう少し大人になってからなるものだと思ってまして」

 

「俺そんな若く見える?あーでもまあ、まだそんな時期か」

 

 今現在鏡なんかは無いため容姿を自分で確認することは出来ないが、頭の中で三年経っていたところで姿は変わらないままだ。

 だが自分で見た時もそこまででは無かったと思うが。

 

 一方であれ、あれ?と右往左往するシリカの姿にルインが噴き出していた。

 隣で腹を抱えて大爆笑しているわけだが、それにもノーリアクションでシリカは固まってしまっている。

 その姿がどこか可笑しかったが、これ以上混乱させておくのもどこか可哀そうな気がした。

 

「警察って言っても多分シリカが想像してるのとは違って、国家特命警察っていうのでね。まあ説明するのも難しいんだけど、大昔に忍者をやっていた家系だから普通の警察とは違うんだよ。……説明難しいな」

 

 早口で言っている間に自分でも何を言っているのか分からなくなり、シリカも理解できていないのか相変わらずぽかんとしていた。

 これ以上話す必要があるのだろうか。もう彼が求めていた答えまでは話したはずだ。

 また聞かれたらその時に話せばいい。今はまだその必要は────

 

 そうやって話を終わらせようとしたが、やはり彼が伝えようとしていたのはこれだけじゃなかったらしい。

 先ほどまで笑い転げていたやつが気づけば椅子に座っており、その顔からはあのおちゃらけた雰囲気はすっかり無くなっている。

 

 ああそうか、こいつはそこまで伝えようとしているのか。

 そうだ、ここまで伝えないといけないのだ。

 これを悪いだなんて今まで生きていて一度も思ったことが無かったが、そう思っている自分が既に人間失格なのである。

 なのに、こんなに気にするように否定するように隠して。

 少しでも嫌われることを恐れていたのだ。

 

 

 

 

 

「俺たち、全員人殺したことあるんすよ」

 

 何を隠すでもなく、彼はそれを言い切った。

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