Re:SAO ~return recollection~ 作:寄す処の空
《Congratulations!!》
第十六層フロアボスが消滅し各々プレイヤーの視界にいつもの文字が映し出される。
今回のボス討伐も特に苦戦することは無く指示通り淡々とこなしていた。
おそらく二十層までは順調にクリアすることが出来るだろう。
油断は禁物ではあるが、経験上明らかであるためシオン自身特に気にすることはなかった。
今回の戦闘のLAはシオンで、彼の視界には追加でボーナスアイテム贈与のメッセージが出ている。
そのメッセージの内容を確認することなくしまいポーションを咥えると、端の方で剣を納める黒服にそっと回復結晶を渡していた。
「はいこれ」
「なんだよいきなり」
「今から俺とデュエルな」
は?と疑問符を浮かべるキリトを背に距離を取り武器を構える。
他の攻略組の連中も同様の疑問を抱いていたがシオンは一切気にする素振りを見せなかった。
「なんだよいきなり」
「そんなのお前のお姫様にでも聞いてくれ」
シオンの発言に終始理解できないという表情を浮かべるが、はよはよと促すとキリトも諦めたのか回復結晶を使っていた。
それを確認するとシオンは太刀をそっと抜刀する。
不本意そうに肩にかけている剣を抜く姿を目にした瞬間一気に距離を詰めた。
「ちょ、デュエルは?!」
「この方がスリルがあるだろ?あ、攻撃はちゃんと避けてくれよじゃないと死んじゃうから」
呟きながら伸ばした剣がキリトの頬を掠め、途端にシオンのアイコンがオレンジに変わる。
急に始まったデュエルとそのメンツに一瞬盛り上がりかけたが何もセーフティーをつけていないことにどよめきが起きていた。
当然注意しようがしなかろうが死ぬ可能性があるのは事実。
目の前で、簡単に言えば殺人が始まったのだ。
もし大きな攻撃が何度か当たれば確実に死ぬ。
それくらい誰でも分かっていた。
加えていつもなら間に入るはずのアスナが微動だにしない。
その異様な光景が誰も動けない状態を作っていた。
「なんかすごいの始まったっすね」
「あれが攻略組の黒の剣士キリト。なかなか面白い太刀筋」
「お、姉御も一戦交えたいって感じすか?奇遇っすね、俺もちょっと思ってたところっす」
「一緒にしないで」
二人が呑気に語り合う中、シオンとキリトのデュエルはより一層迫力を増していた。
シオンの大振りの攻撃を回避と受け流しで避け空いた懐に攻撃を試みる。
それに気づいているシオンは鞘と太刀を駆使してすべての攻撃を防ぎきっていた。
一手、さらに一手を加えても動じずに反撃を加えてくるキリトに小さく笑う。
そうだ、これが対人戦だ。
スキルを無理に連発せずに相手の隙を突く。
その隙もわざと作られたものであると予想しながら慎重に。
シオンが求めていた者を持ち合わせている人間にやっと出会えた気がした。
攻略組も捨てた者じゃない。
流石英雄は違うなと込み上げてくる高揚を押さえることが出来なかった。
攻略組一と言われる理由がこういった場面でも確かにあるのだ。
「今度ディアベルともやってくれよ、きっと面白いと思うよ」
「嫌だよ!」
真剣な表情のまま拒否するキリトにちぇっと舌打ちをすると太刀を納刀し先ほど仕込んでおいた短刀を二本取り出す。
突然の出来事に一瞬硬直するが、すぐに一歩下がるとシオンの出方を伺っていた。
「まあ正解かな。そういえばキリト、最近ソロで何やってるんだ?」
「別に」
「なんだやましいことか?お兄さんそういうの探りたくなっちゃうんだけど」
「やめろ」
すっと距離を詰めてくるキリトにアーマーピアースを打ち込む。
その攻撃をギリギリのところで避けるとキリトも単発ソードスキルスラントを発動した。
瞬間二人の間に一本の腕が落ちる。
「は?」
目の前の腕を失ったプレイヤーを見てキリトの体が自然と硬直する。
彼の繰り出した攻撃はシオンの腕にもろに重なり、その右腕を斬り飛ばしていたのだ。
瞬間体力ゲージが一気にイエローまで落ちていく。
だが勿論、そのことにシオンは焦りなどしていなかった。
「詰めが甘い」
スキル硬直か否か停止しているキリトに左手の短刀を振りかざす。
その攻撃がキリトの手に重なると左手を切り落としていた。
「っ……!」
「チェックメイト」
慌てて振り下ろした剣に納刀したままの太刀を当て、無防備な右手に抜刀した太刀を重ねる。
その手から剣が落ちたのを確認するとシオンは武器を全てしまった。
「はいこれ」
両の手を失ったキリトに回復結晶を使うとみるみると体力が回復していき、失った両手が元に戻る。
シオンも自分に使用すると赤に差し掛かっていた体力が止まり、一気に回復していた。
「はーっ、やっぱキリトは強いなー」
「負かしといて何言ってんだよ」
「いや、今回のはズルだからね」
今の戦い方はただ情に訴えただけというもの。
キリトも対人戦が強いだけで人としてのそういう部分を欠如しているわけではない。
だからこそこんなの実戦で使えるわけが無い。
本当にただズルをしただけなのだ。
「何やってるのかは知らないけど、まあ無茶はするなよ」
「分かってるよ」
地面に落ちた剣を拾うとアクティベートするためか先に階段を上っていく。
その姿を追うことなくアスナの方を見るとどうですかとアイコンタクトを送った。
少し驚いた顔をしていたがため息をつくと苦笑いをしている。
どういうことだと歩を進めようとすると間にシリカが入ってきた。
何か難しそうな表情を──
「どうしたシリカ」
「バカ!」
ぽこっとオレンジなのを良いことに思い切り殴られた。
■ □ ■
「だからどうしてシオンさんはいつもああやって!」
「あーごめんごめんごめんごめん」
「ちゃんと話を聞いてください!」
「はい」
アクティベートの済んだ第十七層の宿屋で説教を──なんて出来るはずもなく現在シオンとシリカは更生クエストに追われていた。
実際受けるのはシオンだけで充分なのだが、当然シリカもついてきていた。
こっちに来てからもう何回更生クエストをやっているのか分からない。
自身がやるのは一回目だったか数は覚えていないが、人がやるのに付き合ったのもカウントするとそこそこやったのではないだろうか。
既に善人のプレイヤーがこの世界をクリアするまでにやる回数を優に超えている気がする。
こうなることは勿論想定内で、シリカに怒られることもちゃんと考えていた。
本当はここまで怒られるとは思っていなかったが、体力は赤になりかけだったし上に上がってきた途端に更生クエストをやらされてさぞお怒りなのだろう。
まあこの層の攻略も攻略会議に参加できないこと以外は特に問題もないためクエストに勤しんでいた。
「ああいうことをするときは一言ちゃんと!」
「でもアスナに頼まれたんだから仕方ないだろ」
「そんなの分かってますよ!何かアスナさんもいつもと全然違いましたし……。アスナさんの提案だって分かってたら私だって少しくらい」
「どうせ怒ったんだろ」
「それは怒りますよ!」
ぎゃーぎゃーと怒るシリカの声を半分シャットアウトする。
まあそれはそうだ今回は全面的にこちらが悪い。
アスナには戦ってと言われただけであそこまでやってくれとは当然言われていなかった。
いつもの悪い癖が出た結果があれだ。
まあ当然反省なんてしないのがシオンなのだが。
それにアスナもシオンも本当に欲しかった回答をあそこで得ることが出来たわけなのだから。
「こんな世界でソロプレイするやつの考えることなんて分かりゃせんわな」
「それは自分に言ってるんですか」
「今は違いますよーだ」
二人の間に入ってくるモンスターをお互い斬りつけていく。
正面でリスポンするモンスターを脇目にシオンはシリカの顔を見ていた。
その真剣な眼差しは強者そのもので隙などまるで見当たらない。
だが彼女の対人能力はアスナよりも欠けている部分が多い。
例えモンスターと渡り合えたとしても生き残っていけるほどこの世界は甘くない。
そうさせるやつがこっち側にいるのだから。
「なあシリカ。シリカは一対一、対人戦闘強くなりたいと思うか」
「どうしたんですか、いきなり」
一瞬固まりこちらを向くシリカの代わりに正面のモンスターを屠る。
今の余所見は完全にシオンのせいだ。
「いんや、割と真剣な質問」
立ち止まり悩むような顔をする彼女の代わりに集まってきたやつらを片っ端から斬りつけた。
こう空気が読めないところはモンスターの方が面倒か、などと考えながら。
シリカは誰よりも、どこまでもシオンのことを信じている。
だからこそ彼が冗談だと言えばそうだと納得し、真面目と言えばそれに従う。
黒か白か二択にしないでほしいというのがシオンの意見ではあるが、まあそこが彼女の良いところであり可愛いところなのだろう。
「本当は対人戦闘なんてこの世界が終わるまでしたくないですけど、それをしなければならない理由があるのならシオンさんに迷惑をかけないためにも強くならないとですよね」
「……シリカは強いな」
「強くならないとって言ったばかりなのですが!それに、いつもシオンさんに守られてばかりでこの前はディアベルさんに散々にやられましたし」
「よーしっ」
最後のモンスターを狩った瞬間正面に出たウィンドウを避け、マントを羽織り新たな武器をストックする。
その姿に流石のシリカもぴんときたのか距離を取って武器を構えていた。
「いや心配しなくても今襲い掛かったりしないよ」
「そうでしたか、てっきりキリトさんと同じ手かと」
「またオレンジになるのはちょっと……」
元に戻ったアイコンを指差すとシリカは小さく笑っていた。
時間をかければ元に戻るわけだがその時間をかけるのがとにかく面倒なのだ。
「一つだけ今日の対人戦闘で大事なことを教えとくよ」
「なんですか?」
「とりあえずまあ一つ言えることは『相手がどんな言葉を口走ろうがそれに耳を傾けるな』だ」
思い当たる節でもあったのかシリカははっとなると真剣な声音ではいと頷いた。
自分で理解しているだけ十分だ。
後は実際にその通り立ち回れたらいいだけ。
「……ははっ、これだから俺は一生そっちに行けないんだ」
武器を構えるシリカをよそに天を仰ぎながら呟く。
ここまで最低な人間がいるものかと自分を蔑んで。