Re:SAO ~return recollection~ 作:寄す処の空
シオンはシリカを連れ次の村へと向かっていた。
道中彼女に聞いた話によると、今はデスゲーム開始の日から三日目だとか。
茅場の話を聞いて全てを一番乗りしようとしていたシオンにはいきなりの痛手だった。
三日なんて些細なハンデかもしれないが、そもそも他人と比べているわけではない。
三日あれば何が出来ただろうと考えるとその損失が大きいことなど容易に想像できた。
「大丈夫かシリカ。結構飛ばしてきちゃったけど……」
「大丈夫です。それに、シオンさんのおかげで戦い方も覚えましたし」
「もう少しで街につくからそしたら休憩しような。俺の武器もそろそろ限界だ」
手に持つ斧を見る。
既に耐久値は壊れる寸前にまで来ていた。
壊した武器の数は既に八本。
シオンのプレイスタイルは一癖も二癖もあるためそれ用にカスタマイズした武器でないと簡単に限界がやってくる。
なら変えろというのが普通の話だが一年以上も続けていたプレイスタイルを変えるというのは至難の業だ。
今の時期にそのプレイスタイルが通用しないことも勿論理解していたが、少しずつ模索していくしか方法は無かった。
初回から持っている武器のほとんどがおじゃんになり、街にも寄っていない為大したものしか残っていない。
あと残っているのは。
〝彗星の太刀〟
前回のSAOでシオンにとっての相棒とも言える太刀だ。
それをこの世界に送ってきた茅場に感謝と共に悪寒が走るが、やはり今までずっと一緒だった、思い出の詰まった武器に会えたのはかなり嬉しい。
入手方法はLAボーナスなんかではなく、どこか辺境の地で手に入れたようなものなのでなんせ入手時の記憶が無い。
拾った時はなんだこの厨二臭い名前はと思っていたためまさかここまで共に過ごすなんて想像もしなかっただろう。
今は筋力要求値が満たしていなく具現化した所で装備できないが、いずれ装備出来るようになった頃にはまた一緒に冒険する事になるはずだ。
こういうのを粋な計らいというのだろうか。
「シオンさんはどうして戦うのが上手なんですか?もしかしてβテスターだったり?」
「まあそうだね、βテスターではあったよ。……他にも色々あるけど」
「えっ?」
「いやあなんでもない。あっ、それよりほら見て、村が見えてきたよ」
指差す先、小規模の村が見えてきた。
ここは迷宮へ向かう一番最短ルートにある村だ。
もう三日も経っているため人は大勢いるが、今からでも第一層攻略には余裕で間に合うはずだ。
皆慎重になっているため第一層攻略までにはそこそこ日がかかる。
その間に差を埋めて……
(あれ、なんで俺は、こんなに一層攻略に焦ってるんだ?)
ふと抱いた疑問に頭を抱える。
そんなに急がなくてもいいはずだ。
第一層攻略で活躍した覚えなどとてもじゃないが無い。
なんなら二層攻略からでも……
「シオンさん!」
「ん、なんだ?……って、うわ」
考え事から我に返ると顔のすぐ真横を剣が一本通った。
何事かと飛んできた方を見るとプレイヤーらしき者が見える。
だが、遠すぎてそれが誰なのか、あるいは本当にプレイヤーなのかすら分からない。
「くそっ、索敵スキルはまだ振ってないか」
前回との感覚の相違に苛立ちを覚えるが、今はそれどころではない。
投擲者の技術の低さから考えどちらを狙っているのか分からないが、このままではシリカに当たってしまう可能性もある。
「急いで村に入るぞ。村の中ならそう攻撃もしてこないだろ」
「は、はい!」
シリカに背を向け攻撃者の方を目を凝らして見る。
依然としてはっきり見える事は無いが、それでも飛んでくるのが遅い武器は十分に目で追えた。
「武器もらうぞ」
正面から飛んできた短剣をうまく避け、その柄を掴む。
体が若干勢いに持っていかれるが、踏ん張ることでその勢いを殺した。
「やっすい武器だな。ま、今の俺のよりは良いものか」
その武器をしまうとシリカを追う。
短剣が最後の一個だったのか、以降攻撃は来なかった。
■ □ ■
「大丈夫だったか、シリカ」
村に入り、奥にある小屋の椅子に腰かける。
ここまでくれば相手に身バレもしていないはずなので大丈夫だろう。
それに建物の中は安全圏のため万が一先ほどの者が来たとしてもすぐに身をひそめることが出来る。
「そういえばシリカはオレンジだから建物の中に入れないのか」
「そうみたいですね。それに、周りの視線が少し痛いです」
周りにいるプレイヤーの何人かがシリカを不思議そうに見る。
頭のカーソルがオレンジな理由が分からないのか、恐怖とは違った目だった。
「俺のせいだもんなぁ。グリーンに戻すクエストはもうあるのかな?」
「大丈夫ですよ2,3日で元に戻るはずですから」
「そうは言ってもなぁ」
「危ないときはシオンさんが守ってください」
「そうするしかないか」
第一層でオレンジになることがどれだけ危険なのかは分かっているため今すぐにでもグリーンに戻したいところだが、面倒くさいクエストだとかそれ以前にこの村にそれらしきクエストがあるとは思えなかった。
オレンジにしてしまった原因が自分にあることに頭を抱えたいが今はそんなことをしている時間もない。
早く次へ行かなければ。
「どうしようか。ずっと動いてたし休みたいよね。俺はちょっとクエストを受けに」
「一緒に受けますよ!まだ大丈夫です」
「ほんと?あんまり無理しないでね」
「はい!」
彼女の元気な返事に思わず微笑む。
今も前も変わらないな、と懐かしく思った。
「どうしたんですかー?いきますよー」
気づけばシリカがシオンをせかすように立ち上がっていた。
子供というかなんというか。
「分かった分かった、分かったから引っ張るなって!」
シリカに引きずられながらも、二つ屋根の家へと向かった。
「これと、これを受けようかな」
「おお、それはありがたや。頑張ってくだせい、応援してるぞぉ!」
「はいはい」
NPCの言葉を聞き流し家の外へ出る。
さっきから他の人にも同じことを言っているのでもう聞き飽きた。
『あんたどんだけそいつに恨みあんだよ!』
なんて最初はNPCに向かって言ってたっけ。
良い思い出にして立派な黒歴史だ。
「はい、これクエストね」
「ありがとうございます」
紙を二枚シリカに渡す。
一つはデディモンキーというサルの討伐。
一人十体で報酬は片手剣と短剣一本ずつだ。
今使っている武器よりは遥かに質が良く、投げ捨てたりさえしなければそこそこ長い間使っていられる。
投げ捨てたりしなければ。
もう一つは赤と青毛のゴリラを一人一体ずつ、計二体討伐するというものだ。
報酬は一人2000コル。
初回にしてはかなりの額であり、これでいろんなものが買える。
相場は初心者用片手剣が一本500コル、ポーションが100コルで寝床は50コルといったところ。
十分だろう。
その分クエストモンスターは強いはずだが、ここに来るまででシリカは戦闘ができるくらいにはなったし、戦う際の注意などもしっかり教えた。
勿論危ないときの離脱方法なんかも叩きこんである。
距離を取ったりしない限り安心だろう。
「赤と青って、信号みたいですね」
「ん、交互に光ったりするのか」
「それはちょっと気持ち悪いですね」
「そもそも赤と青って時点でだいぶだろ」
「それもそうですね」
二人で冗談を言いながら、目的地へと向かった。
「あの変なサルがデディモンキーですね」
「ああ、そうだな。ちゃんとマークが出てる。……しかし、ゴリラの前にこいつらも結構なきもさだな」
「そうですね……」
二人の眼前に広がる野原に点々とサルが三匹ずつ群れを成していた。
それは良く見るサルをなんたらウイルスに感染させた後のようなものだ。
こんなホラーキャラがR12程度のゲームにいていいものなのかと思うが、これはクエストの特別キャラ。
そう考えたら仕方がない。
「あ、こっちに気付いたみたいです」
「奇襲攻撃は出来ないか」
右手に持つ斧を群れへと投げる。
しかしサルは身軽にそれを避け、斧はというと地面に打ち付けられた途端壊れてしまった。
「シオンさん、武器ないんですから大切にしてください」
「すみません」
「これ、あげます」
指をちょいちょいっと動かすと剣と槍を二つずつ渡してくれた。
「いいのか?」
「はい。あたしはシオンさんみたいに武器を無駄にしないので」
「ん?それは悪口か?」
「気のせいですよ」
彼女の手に持つ武器を頂くと、ポーション三つとそれを交換する。
一瞬彼女の困ったような表情が目に映るが、今気にしている時間は無い。
回復なんてしなくても勝てるような相手だ。
「くるぞ。俺はあっちの群れから相手する。……一人で行けるな?」
「もちろんです。シオンさんに勝って見せます」
「無理はしないでくれよ?」
小さく拳を合わせると、その三匹とは別の群れへと向かった。
このクエストは恐らく時間が経つごとにモンスターが三体ずつポップしてくる。
そのため既に二つのグループがここにいた。
時間経過でどんどん湧いてくるなんていうシステムだと後々かなり苦労する羽目に合いそうだ。
素早く確実に処理をする。
「てか槍くれたってことは、投げろってことだよな?」
貰った槍をストレージから出しくるくると回す。
回しながらサルの方へと向かうなか、頭の中で計算をしていた。
やっと、自分の身体数値が体感でどのくらいなのか理解することが出来た。
それから十分ほどが経ち、お互いデディモンキーを十体倒しきる。
最後に湧いてきた一体は他のより少々強かったことに焦ったが、無事に倒す事ができた。
最初はシリカの方も心配していたが、彼女も戦いに慣れたようで終わりはほぼ同時。
HPもイエローの中盤。
そう焦る事もない。
と考えていると、シオンの目の前に赤と青のゴリラが二体ずつ、同時にポップしてきた。
「げっ、全部こっちに来るのかよ。気持ち悪い」
「シオンさん!今行きますからまっ―――――」
「どうしたシリカ、転んだ、か……」
そのとき悲劇は始まった。
もう既にシオンの目にシリカの姿は映っていない。
さきほどシリカがいた場所に、あの気持ち悪いサルが湧いていた。
何が起きたのか理解できないでいると、視界の右上に文字が出る。
”緊急クエスト デディモンキー十体を同時討伐せよ”
その内容に一瞬思考が停止する。
同じ範囲内でクエストなんて基本発生しない。
一つのクエストが終わった瞬間をついて発生したというのだろうか。
そんなの勝手すぎる。
「なんだよ、これ」
何かが背中を走る感覚に襲われる。
緊急クエストは稀なものでは無い、それ自体は良くある話だ。
だがどうして今なのか。
もう、嫌な予感しかしなかった。
「俺のせいで、シリカが……!」
その背後腕を振り下ろすゴリラを睨みつける。
腕を掴みダメージなんてさほどない体術で攻撃をかわす。
今こいつらの相手をしている暇なんてなかった。
「シリカーーー!!」
槍を片手に持ち、投げるモーションに入る。
だが、シリカがあの中にいるとなるとそれも出来ない。
思考回路がうまく機能せず、ただ焦ることしかできなかった。
自分のHPバーの下にあるシリカのそれがレッドゾーンに突入したことで、さらに心臓が高鳴った。
「どけっ、くそザル野郎!」
槍を振り回し、周りからサルを削ぎ落としていく。
戦いを見守っているのか、それらは円を作って中央を見ていた。
その間を無理やりこじ開けると、中でシリカがサルと戦っている。
既にその顔には疲労が見られていた。
「こっち向け!」
手に持つ槍でサルの頭を叩き、ヘイトを自分へと集める。
突然の乱入者に怒りでも覚えたのか、周りにいたサルのヘイトも集まった。
大勢で寄ってたかって一人を攻撃する。
頭が痛くなりそうな光景だ。
「助けに来てくれるって、信じてました」
「ごめん、全部俺のせいだ」
「そんなことないですよ。来たいって言ったのはあたしですし」
「これ飲んで、あの木のとこで休んでてくれ。クエスト発生中だから恐らく他のモンスターは来ない」
「それじゃあシオンさんは」
「俺はこいつらを片づけてから行く。……いいから行ってくれ」
右手に持つ槍をサルの群れへと投げる。
その槍は一体に刺さると共に、抜け道を作った。
「行け!」
シオンの怒声に一瞬驚くが、彼のその顔を見ると小さくうなずき、
「無理しないでくださいね」
というとその抜け道へと走り出した。
そんな彼女をサルたちが一瞬見る。
「お前たちの相手は、俺だ」
新たに片手剣を出すと、スキルを使うことで一体の首を刎ねヘイトを集める。
初めてのことで怖かったはずだ、痛みなんてないこの世界で死を実感することはできないかもしれないけれど、赤まで来れば少なくとも過っただろう。
彼女を危険に晒したのは自分だ。
こんな自分勝手に彼女を巻き込んで何が二度目だ。
生きていた人間を殺してどうする。
「ききゃっきゃっきゃきゃっ!」
「うるせえな、静かに出来ねえのかよ」
近寄ってくるサルを睨みつける。
その目には、相当な殺意が込められていた。