Re:SAO ~return recollection~ 作:寄す処の空
剣を構え、牽制しつつモンスターと距離を取る。
サルの数は残り九匹。
先ほど槍をくらい吹っ飛んだものも気付けば戻ってきていた。
さすがに槍一本投げただけでは倒れなかったようだ。
「くそっ、時間がない」
数は多くない、レベルは最後の一匹くらいで別段強すぎるというわけでもない。
何せさっきのソードスキル一発で簡単に消し飛んだ。
だがもうあの技は通用しないだろう。
あれは相手がまだ警戒態勢に入っていなかったから気にせず発動出来たもの。
今使ってしまえば硬直中に何をされるかが分からない。
だが時間をかけてしまえば向こうにいるゴリラがここに来てしまう。
そうなれば絶体絶命だ。
「ロクにスキルも振ってないんだよなぁ。さっきの一件のせいで索敵スキルに振っちゃったし。タイミング悪すぎなんだ……っよ!」
誰に愚痴を言っているのか独り言を言うと、ストレージから新たな槍を取り出し先ほどぶつけたサルへともう一度投擲した。
既に弱っていたのかそれをもろにくらい、もう一度吹っ飛んでいく。
そこにシオンは追い打ちをかけた。
「お前がこの群れの生贄だ」
串刺し状態の一匹をそのままの状態で引きずり振り回し、周りのモンスターを巻き込んでいく。
ダメージなんてさほど無いだろうが元々システムに囚われた戦闘は好きではない。
最後に勝てばなんでもいいのだ。
それに仲間意識でもあるのか、なかなか攻めて来る姿は無かった。
そうなれば好都合だ。
「プレゼントォ!」
槍の耐久値ギリギリで群れの中へとそれを放り投げる。
槍と共に刺さっていたものは消滅、巻き込まれた連中もそこそこHPが削れていた。
「これで後は。――あっ」
足元の影に気付き振りかえる。
そこには拳を振り上げたゴリラがいた。
□ ■ □
「シオンさん、大丈夫かなぁ」
先ほどいた所から少し離れた木の下でポーションを飲んでいた。
この木はちょっとした麓にあり、ここからシオンの戦闘を確認することは出来ない。
シリカ自身そんなところにまで離れる必要はないと思っていたが、他のゴリラのヘイトが集まってしまったら困ると遠ざけられてしまった。
今すぐにでも助けに行きたいが、まだHPはグリーンになったばかり。
回復しきる前に行ったら怒られるのは目に見えている。
「どうしてあんなに怒られたんだろう」
彼と出会ってまだ一日も経っていないが、それまで優しかった彼とは大違いだった。
戦闘になった途端厳しくなるのは勿論悪いことではないのだが、あそこまで雰囲気が変わってしまってはシリカも驚いて何も言えない。
「やっぱりあたし、足手まといかなぁ」
握りしめる短剣を見つめる。
戦いを教えてもらってそれなりに戦えるようになったつもりでいたが、それは所詮付け焼刃。
教えてくれた人に勝てるはずはないし、実戦経験もほとんどないため彼の足もとにも及ばない。
さっきのが邪魔で怒っていたのだとしたら、彼女は本当に何も言えなかった。
そんなことを気にしつつ、左上のHPバーを見る。
もう少しで完全回復するものと、もうひとつ………
「あれ?」
もうひとつ彼女の下にあるはずのHPバーが、シオンのHPバーが無くなっていた。
「なんで、どうして!」
思考が嫌な方へと加速する中急ぎメニューを開きその理由を探す。
するとシオンから一件、新着メッセージが届いている事に気づいた。
『ごめんシリカ、これでパーティーを解散する。心配しないでくれ。ゲリラクエストの報酬は分からないけど、残りの敵全部倒せばシリカにもちゃんと報酬は行くから。達成報告が来たら村で報酬を受け取ってくれ。後はまかせるよ。勝手な行動してごめんな。それと、オレンジが治るまでは出来るだけ人とモンスターのいないところにいた方が良い。理由は考えれば分かるはずだ』
メッセージを閉じると付属で2000コルがついてきていた。
それは受信者に有無を言わさず所持金へと加算される。
その事実にシリカは唖然としていた。
メッセージの内容を吸収しきれない、意味が分からない。
ほんの一瞬の間を置いて、彼女は無言で走り出す。
早く、とにかく早く合流したかった。
だが、運命は彼女を裏切った。
先ほどいた場所にシオンの姿が無い。
あるのは適当に配置されたデディモンキーだけ。
単独でいるあたり、クエストモンスターでは無いただ徘徊しているだけのものだろう。
ここが本当にさっきの場所なのかとマップを見るが、一切ずれはなかった。
いますぐ彼の安否を確認するべくフレンド欄を見る。
だが、フレンドにもいない。
その状況が彼女を不安にさせた。
いますぐ始まりの街に戻って安否を確認するか、あるいはシオンが先に行ったと思いそれを追いかけるか。
第一層の序盤で持っている転移結晶はお試し版の一個だけ。
これを使えばすぐに戻れるがここまで戻ってくるのにさらに時間を要することになる。
結晶の相場なんて知らない。
答えは二つに一つだ。
彼女が今一番にしたいことはただ一つ。
「会って、お説教しなきゃ」
そうつぶやくと村の方へと走って行った。
「いいのカイシー助。心配してるようだゾ」
「いいんだよ、これで。それよりありがとな。確かアルゴだったか?助けてくれて」
「ン、オネーさんがちょうど通りかかって良かったナ。報酬の半分くれたら許してやるゾ」
「お前ただ武器くれただけだろ。威張るな」
「ナ……!ちゃんと攻撃したダロ!」
「一回だけな」
「アレが無かったらどうなってたカ!」
「へいへいそうですね。……いや、感謝はしてるよ。ほんと危なかった」
「報酬全部くれたら許してやるゾ」
「増やすなや」
ゴリラの振り下ろした拳はたまたま通りかかったアルゴによって防がれた。
顔には三本のヒゲのペイントがありどこか怪しげなプレイヤーだがとにかくナイスタイミングだ。
その一撃で死ぬことはなかっただろうが、当たり所が悪ければスタンになっていた可能性もあった。
あのなかでスタンなんて食らってしまえば次に何が起こるかなんて言われなくても分かる。
そして現在、その現場から少し離れた所に二人で隠れていた。
隠蔽スキル。
まだ序盤なのでちょっとした索敵を持っていればすぐに見つける事が出来るが、スキルの詳しい説明なんかをしていないシリカは決して振っていないと読んでいた。
それに、前の世界でも彼女は索敵系のプレイヤーではない。
それも込みでの今だ。
「それで、これからシー助はどうするんダ?あの子は行っちゃったゾ?」
「報酬は後でもらうとして、いますぐ次の街に行く。βテスターがこんな遅れを取ってたんじゃ、話になんないからな」
「あまり急ぎ過ぎるなヨ?……ここだけの話だが、βテスターでも既に死んだやつがイル」
「分かってるよ。ご助言どーも」
シリカの姿が見えなくなった事を確認し立ち上がる。
もう彼女と会ってはいけない。
少なくとも七十五層攻略直前まで彼女の生存は確認している。
ならば下手に手を出さない限り彼女はそれまで生き残っているということだ。
途中で危機に晒されるのも知っているが、それはキリトがちゃんと救っていた。
何も手を出さなくても彼女はこの先ずっと生き続ける運命なのだ。
「アルゴも気をつけろよ、フィールドは危ないからな」
「ご助言ドーモ」
「その元気がありゃ大丈夫だな」
小さく笑うと村のある方角とは違う方へと向かう。
次の街、その次の街へと急いで移動しよう。
そうすれば彼女に会う事もない。
そうすれば彼女は……
「それで、このメッセージはどうしたらいいのカナ」
from Silica
人探しをお願いします。シオンっていうプレイヤーです。
なるべく急ぎで、お金なら……持ってます!
「有名人は困っちゃうナ」
第一層始まりの街や各地でこのゲームの説明書もどきを配布し情報屋として名を売っていたアルゴは任意でフレンドという形でネットワークを確立している。
まだ一層で名なんて知れていないがこんな奇怪な活動をしているのもまだ彼女くらいのものだろう。
となれば人探しは当然彼女に依頼するものだ。
「面白いって言ったラ、きっと怒るだろうナ」
ニシシ、と悪だくみをする前のような笑い声を出しそのメッセージに返信する。
最後にフレンドリストからシオンを探し出すと、そっとメニューを閉じた。