Re:SAO ~return recollection~ 作:寄す処の空
朝起きたら、昼だった。
この世界に来てからこんな生活数えるほどもしていないというのにどうして今日なのだろう。
結局何時まで話してたんだ?
寝坊、そうだよ寝坊だよ。
「あー!なんで攻略会議に遅刻しなきゃいけないんだ!シリカ、全部お前のせいだぞ!」
「なんで全部なんですか!シオンさんが起こしてくれればよかったじゃないですか!」
「おま、あんなぐっすり寝てたら起こせるわけが無いだろうが!」
起きる時間を超え多少寝坊しつつも目を開けたが、いっぱい寝ていたはずのシリカがまだ爆睡していた。
揺すっても揺すっても「もう少し……」と起きない為強くいけないシオンは諦めそっとしておき横になる。
それがすべての敗因だ、起きたらこんな時間になっていた。
もう既に攻略会議開始の時刻は過ぎている。
まだ10分やそこらだが、大事な話をしているのなら聞き逃すわけにはいかない。
手に入る情報は全て得てから万全の状態でボスに挑まなくては。
「やっと着きました!」
「間に合ったか?……ん?」
石造りの舞台を囲む形で多くのプレイヤーが段に腰掛けている。
その中央に二人のプレイヤーがいた。
うち一人のプレイヤーが大きな声で何かを叫んでいる。
その姿には見覚えがあった。
忘れるはずがない。
彼のせいで一体どれ程のプレイヤーが苦しんだことか。
「……キバオウ」
その姿を見るなり静かな怒りがシオンを包み込む。
前の世界でのキバオウを知ってしまった以上、彼を見るだけで自然と拳が握られていた。
一層のことなんてほとんど覚えちゃいないシオンの頭にも彼が第一層攻略会議で口にしていたことは鮮明に記憶されている。
βテスターを、金とアイテム欲しさに侮辱した男。
そのために嘘偽りを平気でペラペラ並べた男。
βテスターがビギナーを見捨てた。
そんな嘘、今となってはアルゴ一人だけで解決する。
彼女が一番、βテスターの中でビギナーや前線プレイヤーを支える存在となっているだろう。
第一、いつ誰がβテスターはビギナーを救うべきだと決めた。
別に介護をすることがβテスターの仕事ではない。
前線に立ちたい者は前線へ、そうじゃないやつらは始まりの街で隠居していればいい。
キバオウのような偽善者が、何よりもこのアインクラッド攻略の足を引っ張るのだ。
震える手が武器へと伸びかける。
彼が直接プレイヤーに手を出したことや、彼のせいでプレイヤーが死んだなんてことは聞いたことは無い。
死にかけた者がいるというのは話に聞いているが、それも未遂に終わっていた。
ならばシオンが手を下すいわれはない。
だが一体どうしてか。
世界が変わっても、彼を許そうなどという気持ちは一切湧いてこなかった。
可能なら金品も武器も全部押し付けて、そのままボスフロアのど真ん中に放り投げたい気分だ。
「シオンさん?」
「ああ、なんでもないよ。さて、それじゃあ俺達もどこか座ろうか。見たところもうパーティは組み終わったみたいだね」
「完全にあぶれましたね……」
「いんや、そうでもないよ」
その視線の先、一人の少年とフードのプレイヤーがいた。
その少年を見てシオンは小さく笑う。
この場に彼がいることは、シオンも当然分かっていた。
最初からここに座るつもりで、ここに混ざるつもりだったのだから。
「やっと会えたよ、キリト」
「おわっ?!」
突然の声にその少年は後退する。
すると、隣のフードのプレイヤーに勢いよくぶつかってしまっていた。
「あっ、悪い」
「……大丈夫」
その二人のぎこちないやり取りをシオンはにやにやしながら見ていた。
このフードのプレイヤーが将来キリトの妻になる人。
そう考えると、出会いはこんなに早くこんなものだったのかと思うとにやけが止まらなかった。
前の世界でも時々アスナから過去の話は聞いていた。
あまり交流する機会は無かったが、キリトがいないときに聞けば話すことが楽しいのか一から十まで全て教えてくれる。
馴れ初めからパーティー解消、その後血盟騎士団に入った事やちょっとあれな話まで。
また冷たい態度を取ってしまったのも若者ならではのことであったり、血盟騎士団副団長という立場上どうしようもなかったなど。
鈍感男には当然分からない話だが、実は結構前からキリトの事が好きだったこと。
それら全てを知っているシオンには、今の状況が酷く面白かった。
「シオンさん、何か気持ち悪いですよ」
「失敬な、思い出し笑いみたいなもんだ」
「それを傍から見たら気持ち悪いって言うんですよ」
「あ、なるほど」
なんて冗談を言いつつキリトの方を見る。
彼は依然として怪訝な顔をしていた。
「あんた、どっかで会ったか……?」
「まあ、俺はモブキャラAってことで」
キリトの話を軽く流す。
ちゃんと説明したところで分かっちゃもらえない。
だったらこんなものだろう。
実際、キリトの中じゃモブキャラみたいなもんだ。
まともに行動したのなんて多くて二度あるか無いかくらいなのだから。
最後に名前を憶えられていたのが不思議なくらいだ。
「それより、良かったら俺達もパーティーに入れてくれないか?別に四人で行動するためってわけじゃなくて、悪魔で形として。キリトならパーティーの利点とかも分かるだろ?βテスターなんだし」
「おまっ、それを今言うな」
「聞こえないって。それで、どうかな」
キリトは一瞬考えるような表情になったが、アスナから了承を得るとすぐに申請を送ってきた。
そのパーティー申請に≪No≫のボタンを押す。
「あっ、悪い間違えた」
「あんた今、わざとやったろ」
「言いがかりですよ旦那」
「誰が旦那だ」
もう一度パーティ申請が送られてきて、今度はちゃんとイエスのボタンを押した。
シオンは実際、この状況を酷く楽しんでいた。
今はまだ、お互い存在すら認識していなかったような時期。
そんな時期のキリトと話すのもなかなか楽しいものだ。
勿論周りを見渡せば懐かしい顔もちらほらいる。
装備は変わっていてもあのスキンヘッドは健在だった。
一年越しの再会。
喜ばない方が無理があるというものだ。
「あんた達、レベル高いんだな」
「ん?ああ、ずっとレベリングしてたからな。この子もパーティ組んでたとかで。一緒じゃないけどね」
「私は何度かあなたの姿、見たことありましたよ」
「俺か?まあ、確かに俺もレベリングとかはしてたけど」
「一人ぼっちでしっぽり自家発電か?」
「ちょ、こういうところで言う話じゃ無いだろ!」
「じか、はつでん?」
シオンの爆弾発言にキリトが慌てるがシリカは何を言っているのか分からないようだった。
フードを被ったアスナも表情は伺えないためどういうリアクションかは分からない。
まあまず間違いなく好感度は下がっているだろうなと苦笑いした。
「キリト、もう重要な話とかは終わったのか?」
「いや、まだ何も話してないよ。ちょうどキバオウが下がったところだ」
「そうか、ならよかった」
ほっと一息つき段に腰掛ける。
さっきからシリカがアスナをじっと見ているのが分かった。
恐らくアスナが女性かそうでないかを確認しているのだろう。
SAOは女性の割合が極端に少ない。
男女比で言うと9:1と言ってもいいぐらいだ。
そのためシリカ自身、近くに女性プレイヤーがいることはとても嬉しいようで。
だが、まだ彼女が女性プレイヤーだと確信が持てていないのか、いろんな角度からアスナを見ている。
そのしぐさが妙に可愛かった。
「では気を取り直して、第一層攻略会議を始める!」
中央に立つ青髪の青年の声がここ一杯に広がる。
すると、皆が彼の方を向き真剣なまなざしを送った。
彼はこの集団のリーダー格で、既に信頼を勝ち取っているのだろう。
ほんの十数分で何をしたのかは分からないが、そういう者がいるというのはとても心強い。
前回はそれをヒースクリフが担っていたという実に癪に障る展開ではあったが、彼のおかげで七十五層まで行けたというのも嘘ではない。
それがこの一層の段階からいるというのだから頼もしい他なかった。
集団の統率とは計り知れないほどの気力や度胸がいるのだろうが、それが出来て初めて本当の力というものが現れる。
彼はそれを期待させる人物であり、既にその役を担うほどの技量を持ち合わせていた。
ヒースクリフ以外にそのような人物がいるとは思っていなかったが、まさか一層から現れるとは。
シオンの懸念していた一つが解消されたことに安堵していた。
だがなぜだろう。
自分の記憶力に自信を持った事など一度も無いが、ここまでだとは思っていなかった。
いくらなんでも忘れっぽいなんて言う言葉では片付けられないほどの事象がこの場で起きている。
何が変わった?特別何か違うことをしたか?
分からない、分からないがただ一つだけ分からないという事実だけがここに存在している。
「あいつ……誰だ?」
その声に、その人物に、
一切の見覚えがなかった。