Re:SAO ~return recollection~   作:寄す処の空

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第九話 幕開け

 迷宮区三階先頭集団。

 そこにシオンとシリカ、そしてキリトとアスナはいた。

 攻略会議から一日経った今日、この第一層迷宮区を攻略するべく攻略組は歩みを進めている。

 

 迷宮区に入ってからすぐ、集団を三つの班に分けた。

 先頭中央後方。

 どの班にも12人前後のプレイヤーがいる。

 

 なぜそのように班を分けたかというと、ボスフロアに着くまでになるべく体力を温存しておくためだ。

 このゲームに疲労というステータスはないため実際体力が無くなることはないが、気力が無くなることはある。

 肉体への疲労が無かったとしても頭を使いすぎると疲れるものだ。

 

 なにせ迷宮区は一階だけではない。

 第一層こそ三階までで終わっているが、上に上がれば当然階数も増えていく。

 一度ボスフロアにたどり着き回廊結晶で再度その場に一瞬で行けるなんてことが最初からできれば楽なのだが、当然そんなアイテムはこの頃には無かった。

 となると歩くしかないためローテーションが一番楽なのだ。

 いくら雑魚とはいえボスフロアまで延々と相手をしていてはたどり着いた頃にはへろへろだ。

 

 今のところこの作戦は上手く機能しており、後ろの方は既に戦闘を終えたメンツでまるで遠足にでも行くようなテンションで騒いでいる。

 もう少し静かにしてくれてもいいくらいだが、気落ちしているよりはましだ。

 三分割で人数が減ったところでそこは全く問題はない。

 

「よいしょっと。シリカ、スイッチ」

 

「はい!……てやぁっ!」

 

 攻撃を弾くとシリカが一閃。

 成す術なくモンスターは消滅した。

 

「ナイススイッチですシオンさん」

 

「シリカこそナイスアタック」

 

 軽く武器を合わせお互いを称える。

 シリカとコンビを再開して一日とちょっとだが十分なコンビネーションは取れているように感じた。

 

 昨日の攻略会議のあと、すぐさまシオンとシリカは迷宮区に潜っていた。

 長時間というわけでは無いが、お互いどれだけのことが出来るかという確認だ。

 技量的に合わせに行くのは当然シオンなのだが、初見のプレイヤーに合わせるというのは至難の業であり、その業をシオンは持ち合わせていない。

 そのためこうして前日に急遽確認をしているのだ。

 

 キリトなんかはそれを自然にやってのけるのだろうが、こればっかりは経験とは別の何かが関係しているのだろうとシオンも諦めていた。

 結果こうして上手く戦えているわけだし、一日を費やしたところでどうってことはない。

 シリカの腕もシオンの想像を遥かに上回るところまで上がっていた。

 

 

 

 

「あぁそうだキバオウさん」

 

「ん、なんや」

 

 傍で歩いているキバオウに声をかける。

 こっちの四人がモンスターを次々と屠っているので退屈そうに歩いていた。

 先ほどの攻略会議での言動のせいか、彼の周りにプレイヤーはほとんどいない。

 話してくれるとしてもおそらくディアベルとその優しい仲間たちくらいだろう。

 同情はしないがなんともまあ可哀そうなやつだ。

 

「良かったらキバオウさんの持ってる武器買い取らせてもらえませんか?もちろん使わない武器でいいので。なんせ俺のプレイスタイルこれですから、武器がぽいぽい飛んでいくんですよ」

 

「いくらや」

 

「提示してくれればそれに見合った額を出しますよ」

 

 金さえあればいいんだろというスタンスで満面の笑みで交渉の場に立つ。

 だが生憎、シオンはお金を持っている。

 優位に立つのは俺だという気持ちでキバオウは来ているのだろうが、この交渉の場についた時点で優位もくそもあったものではない。

 それに気づかないまま生きていくわけではあるが。

 

 キバオウが恐る恐るといった形で短剣を一本掲示する。

 それは最初の店で売っているような初級に近い武器だ。

 別にそれでいい、何も強い武器を寄こせと言っているわけでは無い。

 それを確認すると、シオンも金を出した。

 店での売値の五倍だ。

 

「なんや、こんな額もろおてええんか?!」

 

「もちろんですよ。緊急の要求なので。良かったらもうちょっと頂けませんかね」

 

「おぉ、ええでええで!」

 

 すると持っている武器をぽんぽんと提示してくる。

 本当にちょろい男だ。

 その武器一つ一つに適当な額のお金を交換していった。

 

 売値の五倍、四倍、三倍、二倍。

 徐々に下げていっても今の彼は気付かない。

 それがおかしくてたまらなかった。

 

 武器が無くなって終わればいい、そんなことは考えてはいない。

 いくら馬鹿でもそこまで手放す奴なんていないだろう。

 だからせめて武器が減って買いに行くことが増えたとか結局お金で損したとか時間を無駄にしたとかそんなことでいい。

 少しでも不幸になって欲しかった。

 

「ありがとうございます。大切に使いますので」

 

「ええで、また言ってくれや」

 

 本当に嬉しかったのか満面の笑みを浮かべて下がって行く。

 どうせ今キバオウはこう思っているのだ。

 

『あいつは使える良い金稼ぎに。覚えておこう』

 

 と。

 

 それでいい、それがシオンの狙いだ。

 思い通りに行くと思うなよと背を向けるキバオウを静かに睨んでいた。

 

 

「次のフロアを抜けたらボスフロアだ、気を引き締めていこう!」

 

 ディアベルの声が先頭集団を励ます。

 それに呼応するように皆武器を高々と掲げるが、シオンは何も出来ないでいた。

 依然として、ディアベルのことを不思議な目で見ている。

 

 ここに来るまで彼が誰なのか記憶を遡ったが、やはり誰か分からない。

 そんな人物前回はいなかっただろう、というくらいに。

 

「シオンさん?」

 

「あー悪い。ちょっとぼーっとしてた」

 

「しっかりしてくださいよーもう少しでボスフロアなんですから」

 

「分かってるよ」

 

 考え事をやめ武器を握る。

 彼女の言う通り余所見なんてしている暇はない。

 前回いなかったプレイヤーがこの世界では現れた。

 ただそういうことにすればいいのだ。

 

 

 

 

 ■ □ ■

「ここが、ボスフロア……」

 

 プレイヤーの一人が呟く。

 今となっては懐かしい感情だが当時のシオンも同じことを思っていた。

 初見のプレイヤーにとっては予想の遥か上を行く規模だろう。

 攻略組にいるものでも必ずしも全員が事前にここまで来ているとは限らない。

 シオンもその一人であり、前の世界でもちびりそうで帰りたくなったくらいだ。

 こんな扉、人生で到底お目にかかれるものではない。

 それくらい幅も高さも異常だった。

 

 

 一人の呟きで他のプレイヤーも不安の色を見せ、どよめきが起きる。

 これはデスゲーム。

 この扉の先にはボスがいる。

 今までの雑魚なんかとは比べ物にならないくらいの。

 そんな考えが、多くのプレイヤーの頭の中を駆け巡っていた。

 

 仕方のないことだ。

 皆そうならないように事前に予想はしてきた。

 だがそれを上回るものがここにあった。

 それだけだ。

 ただそれだけだが、それだけが皆をこうさせるのだ。

 それがこの世界、このSAOという命を懸けた世界なのだから。

 

 

 

 だが、彼はそうではなかった。

 

「みんな、ようやくボス部屋まで辿り着くことができた」

 

 扉の前に立つディアベルの澄んだ声が一瞬でそのどよめきを終わらせる。

 大した声量でもないのに一瞬で全員の注目の的になった。

 

 彼への信頼は一体どこから来るものなのか。

 最初からいなかったシオンには当然分からない話だが、あの日の会議やそれ以前の彼の行動が今の信頼へと繋がっているのだろう。

 SAOを三年もプレイしてきたシオンでさえ、それを真似できる自信など持ち合わせてはいなかった。

 

「このボスを攻略して初めて、アインクラッド攻略への道が開ける。君たちはその立て役者だ。俺はそれが嬉しいよ。だが、どうしても無理だと言うなら俺は止めない。目標は全員生きてこの第一層を突破することだ。無茶はしないでほしい。それでもついてきてくれる人がいるなら、俺と一緒に行こうじゃないか」

 

 皆に背を向け、扉に手を伸ばす。

 彼の行動一つ一つが癇に障る。

 それは決して悪いものでは無く、自分に無いものを持っている者に抱く一種のあれだ。

 彼の存在は記憶にない、なぜこのような人物がいなかったのかと前回のSAOを呪いたくなった。

 嫉妬なんてどうでもいい、そのカリスマ性がもたらす統率力にどこまでも縋りたかった。

 彼を手放したくなかった。

 

 

「行くぞ!」

 

「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

 

 

 ディアベルが扉を開けると共にその隣を大勢のプレイヤーが通っていく。

 中に入ると両サイドと天井に明かりがつき、縦に長いフロアが顔を出した。

 奥には玉座に腰掛ける『イルファング・ザ・コボルトロード』に取り巻きの『ルインコボルトセンチネル』が三体。

 どれも先ほど聞いた情報通り、そして前回の第一層攻略のときと同じだった。

 ならば話が早い。

 

「行くぞシリカ。俺達の仕事はボスにたどりついてからだ」

 

「そうですね」

 

「なんでそんな仕事回されたんだ?別に知り合いってわけでもないのに。結構重要な仕事だろう」

 

「私達が一番レベルが高いからですよ。立派なβテスターですね」

 

「俺はそうだがシリカは違うだろ」

 

「えへへ」

 

「いや、別に褒めたわけじゃ」

 

「あたし、頑張りますよ」

 

「気負いしすぎるなよ?緊張してるのは分かってるから」

 

「大丈夫です、シオンさんがいますから」

 

「……まあ、ちょっとはかっこいいとこ見せないとな」

 

 冗談のように呟くとシリカを無視して先に駆けだす。

 それを後から追いかけるようにシリカも走り出した。

 途中でセンチネルと遭遇するが、軽く蹴り飛ばすとすぐに他のプレイヤーへとヘイトが向く。

 

 ボスの相手をする代わりに絶対にこちらに取り巻きのヘイトを向けないというのが基本だ。

 まあ変な奴でない限りこちらが攻撃を加えなければヘイトはずっと向こうのままだろう。

 そんなこといちいち記憶してはいないが、一層からそんな珍獣がいるとは考えにくい。

 遠くのディアベルの指示の下、他のプレイヤーが一つになりセンチネルに攻撃を加えていた。

 これならコボルトロードの足止めもすぐに終わりそうだ。

 

 時間経過でリポップするらしいがその情報も得てしまえば驚く話では無い。

 何より取り巻きの相手は向こうの仕事だ。

 

「命大事にな、シリカ」

 

「シオンさんもですよ?」

 

「もちろん」

 

 武器を軽く合わせるとシリカと別れ、ボスへと特攻する。

 それに気づいたのか素早く斧を振り下ろしてきた。

 

「遅い」

 

 その斧を右に避けることで交わし、すぐさま足に一撃をお見舞いする。

 相変わらずステータスは低く動きも遅いが、一か月もすればさすがに慣れる。

 シオンがファーストアタックのためヘイトはすぐに彼のほうへと向いていた。

 

 それでいい。

 他にヘイトが向けば気にすることも増える。

 

 ヘイトを常に集める戦闘なんて今まで一度もしたことが無かったが、自らを安心させる戦闘はこれしかない。

 当たり所が悪ければ一撃で死んでしまう世界。

 ボスを囲むのはどれもAGI特化のプレイヤーで装甲に自信のあるプレイヤーは極少数だ。

 そんな奴らにヘイトなど任せられない。

 

「もっとこっち見ろよ〝ミスディレクション〟」

 

 集まったヘイトをさらに強くする。

 コボルトロードの目つきが何をされたわけでもないのに鋭くなっていた。

 こんなの傍から見たら自殺行為だが、別にどうってことはない。

 これがシオンが望む状態。

 それに。

 

「行け、キリト!」

 

 コボルトロードの脇からキリトが走り、ソードスキルを発動する。

 完全に死角だったその攻撃はクリーンヒットした。

 

「シリカ、スイッチ!」

 

「はい!」

 

 コボルトロードがキリトへと向こうとしたところでシリカも攻撃をしかける。

 それも全てヒットした。

 今のコボルトロードはただ遊ばれているだけの生き物。

 でかい図体だが敵ではない。

 むしろその無駄に大きな図体が仇となっていた。

 

「アスナさん、スイッチ!」

 

 宙を舞うシリカの下を駆け、アスナが一閃。

 それを喰らうとコボルトロードはおたけびを上げた。

 さぞ痛かったのだろう。

 濃いヘイトがアスナへと向いていた。

 その状況に苦笑する。

 

「ほんと、籠の中の鳥だな」

 

 ストレージから短剣四丁を取り出すとそれを全て投擲、胴と頭へと直撃する。

 だが大したソードスキルではないためコボルトロードはこちらに見向きもしない。

 その右手に持った斧がアスナへと振り下ろされようとしていた。

 

「ちゃんと不安要素は取り除かないとね」

 

 背後から背中に飛び乗ると、背に刺さった短剣を踏み台に上昇、頭に昇るとその短剣二本をぐるりと捻じった。

 その攻撃により斧の軌道が反れ、アスナにヒットせずに地を砕く。

 そこでさらにソードスキルを発動し、頭から背中めがけて切り刻んだ。

 

”グウォォォォォォ!!”

 

 雄たけびを上げるとシオンめがけて走り出す。

 いろんなプレイヤーが攻撃をしかけたが、結局は最後のプレイヤー。

 所詮このモンスターはプログラム、それも第一層の低スペックだ。

 まあこんなものだろうと一人感想を述べていた。

 

「タンク隊、ボス迎撃を援護しろ!」

 

「おぉ!!」

 

 後ろから盾持ちのプレイヤーが駆けてくる。

 指示が的確だとは思ったがまさかこんなにも早く援護が来るとは思わなかった。

 頼もしい他ない。

 

「横縦横の三回攻撃だ。正面のやつは二撃目を受けたらすぐ後退」

 

「はい!」

 

 思い切って指示を出してみるが迷うことなく正面のプレイヤーは頷いた。

 一瞬怖くは無いのだろうかと考えたが、今の彼にはそんな感情は無いのかもしれない。

 今はそれよりもただ勝ちたいと、ディアベルの想いが全員の心にはあった。

 

 

「スイッチ!」

 

「はい!」

 

 正面のプレイヤーが下がるのと同時に地面すれすれを通り横攻撃を避ける。

 タンク隊全員で攻撃をはじいた事により一瞬の隙が生まれた。

 そこにすかさず各々がソードスキルを打ち込んでいく。

 

 さきほど無くなった一本のHPバーに加え、残りの三本のうちの一本と半分がみるみる内に減って行く。

 ここまでかなり順調だ。

 このまま行けば勝てる。

 

 誰もがそう思っていた。

 だが。

 

”グウォォォォォォォ!!!!”

 

 再度コボルトロードが雄たけびを上げた。

 右手に持つ斧と、左手の盾を放り投げて。

 

 

 

 

 

 

 

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