解釈違い多々存在します
ご了承ください
「魔力を強化する指輪ですか?」
「はい!魔法統括協会からの依頼なんですがどうも大変な場所らしくて……。それでぜひイレイナさんとに行きたいなーと思いまして!」
たまたま立ち寄った街で出会ったのはサヤさんでした。なんでも使用者の魔法の力を増大する指輪があるとかないとか。協会としても確保しておきたいのでしょう。指輪一つで魔力が上がるのであれば原理の解明や悪用防止の為にも手元に置きたいと思います。でも大変な場所に行くのは面倒くさいですね。
「面倒くさそうな顔してますよイレイナさん。でもそんなイレイナさんも可愛いです!」
「あら、顔に出てました?」
「それはもうガッツリと。手伝ってただければお金は出しますし、なんらな上乗せしますよ?」
「やりましょう!」
と、まぁ二つ返事で答えてしまったのが駄目だったのでしょう。目の前の惨劇を見れば……。
場所はとある朽ちた王都の地下街。暗く湿っており、空気がとても重いです。ただそれだけなら、気味悪い地下街で住みます。でもそこには枯れ木にようにやせ細り生気もなく動く人々が跋扈し痩せこけ血に飢えた犬が眼光をギラつかせ歩いています。すでに人の住む場所ではありません。確かに大変な場所ですね。ここを隠す国もこの場所自体も。
「……イレイナさん」
「……なんでしょうか?」
サヤさんからもただならぬ雰囲気を感じます。普段の活発な雰囲気は何処へやら。年相応の怯えと恐怖を感じます。ですが同時に捕食者のような眼光も受けている気がします。
「とても怖い場所ですね。……あの辺の人からなにか話し聞けませんかね?」
「どう見ても難しいでしょうね。さっきからアーだのウーとしか言ってませんよ」
「ですよねー。どうしますイレイナさん。情報聞いて回収ってもう無理ですよ」
「もう、全員倒して行けば良いのではないですか?面倒ですし。倒しても問題なさそうですよ?」
「流石にそれは協会の一員として見逃せません。何かあったらもっと面倒ですし。こっそり横抜けていきませんか」
サヤさんの提案に乗り静かに、安全に歩みを進めます。道中、何度か住人にバレそうになりましたが見つかることなく進めました。数ブロック進むとちょっとした広場に出ました。空は開けており新鮮な空気と暖かな日差しが差し込んできそうです。露店があり、大きな噴水があり、花壇がある。とても素敵なところだったのでしょう。賑わっていたと確信できました。でも今は露店は朽ち、売り物は腐り蛆が湧いています。噴水には濁った水に人であっただろう物が。花壇には手入れの届かなくなった木々が生い茂り、赤い果実が実っています。唯一の実りがとても不気味ですね。幸い住人も居ませんし休憩としましょう。
「一体ここはどうなってるんですかね、イレイナさん」
「そうですね。まるで生活している様子は無いですし、そもそも生きていないようです。まるで生きた死体のようですね」
「生きた死体ですか……。確かにそうですね。というか、この仕事おかしくありませんか?絶対に指輪より先にこの街をどうにかすべきですよ」
「全くです。なんで行くと言ってしまったのでしょうか?しっかり報酬はいただきますからね」
それはもちろんです!と言ったサヤさんでしたがこちらを向いたまま固まっています。いえ、口は動いてますね、アワアワと。振り返ってみれば……非常にまずい状況でした。私達の背後から住人と犬が歩いてきます。それも相当の数が。すぐに隠れる、というのも難しいでしょうね。バッチリ目があってしまいました。よりによって犬と。私達に気付いた犬は全力疾走で走り寄って来ます。慌てて箒にまたがり空を飛びます。犬からの攻撃は避けられました。ですが問題が生じました。一つは地下街の天井が低く逃げるに逃げにくい事、もう一つは広場の天窓から逃げた先にも住人達が武装して待っていること。八方塞がりですね。
「イレイナさん、仕方ありません。戦いましょう」
「いいのですか?」
「ここ迄仕事を放棄していた協会も悪いですしある襲ってくるんですから正当防衛で大丈夫ですよ」
わかりました。そう言い終えた時には既に戦闘の火蓋は切られました。敵のボウガンを風魔法で防ぎ、魔力の弾を撃ち出し気絶させる。言ってしまえば大した事ありません。ひとりひとりの能力は少なく、統制も取れていませんでした。空を飛びつつ攻撃し逃げる。これだけでだいぶ戦うことができました。しかし数が多すぎました。倒せど倒せど現れる。非常に厄介です。
「イレイナさん!あそこへ逃げ込みましょう!」
指差す先には大きな扉のついた建物がありました。見た感じでは扉の造りは頑丈であり、閂さえあれば中々破られそうにありませんでした。視線で合図すればサヤさんは先行し、扉を開けました。私が入ればすぐに扉を締め閂をかけてくれました。中々良い連携だったのではないでしょうか。
「ひー疲れたぁ。ホントなんなんですかーここ!いきなり襲ってくる人とか訳わからないですよ」
私も同感です。さて、逃げ込んだは良いけれど安全なのか。バックからランタンを取り出し明かりをつけました。見渡すと本ばかり。どうやら図書館のようですね。ホコリは被り、空気が淀んでいるくらいで住人は居なそうです。侵入経路も地上を覗く天窓と正面の扉だけのようです。せっかくの図書館ですから少しこの街の歴史を見るのも良さそうですね。サヤさんに一言告げ本を見て回ります。幸い本の状態は良く、ホコリだけ拂えば問題なさそうです。
数冊斜め読みして分かった事が2つ、それとメモも見つけました。
一つ目はこの街の名前です。「かつては不死街と呼ばれていた事。眠らない街、夜が来ない街。永遠に輝く生者の楽園。死なない、死ぬことのない街」その様な街だったそうです。
二つ目が魔力増幅の指輪について。「正式な名前は吠える竜印の指輪。古より生き続ける竜の血と金属を混ぜて作られた指輪。古より生きる竜は魔力を溜め込んでおり、血には多くの魔力が含まれている。指輪から古の竜の血を介して魔力を受け取り利用する。不死街に存在した魔法学校の卒業検定を主席で合格した者に与えられた。見た目は青い石に竜が飛ぶ絵が描かれている」と、言う事が。
そしてメモです。生きた死体のような住民に関することです。「赤い果実を食べたら寿命が無くなった。食べる必要も水を飲む必要もなくなった。彼らは人を超えた。だが失ったものはあまりにも大きかった。死を乗り越え、人を超え、残った物は体だけ。感情も、感覚も、知能も全て失った。彼らを亡者と名付ける」と記載が。赤い果実。あの花壇にあったものでしょうか?であればある意味納得できますね。手入れもされず同じ花壇。普通であれば養分は無くなり枯れるでしょう。しかし養分を必要としなければ?栄養も水も日光もいらないとしたら?亡者と言われた住民達とそっくりではありませんか。
この街について色々とわかりましたが何故ここまでの事が隠蔽されているのでしょうか?疑問が増えました。仕入れた情報をメモに取り、
仕入れた情報を伝えにサヤさんの元へ戻るとそこにはサヤさん以外にもう一人人影がありました。どうやら老婆のようですね。背中が丸まっており、ローブを着ていました。ただ少し“臭い”ますね。
「あ、イレイナさん!話が通じる方がいましたよ!指輪の場所も教えてもらいました!」
「お嬢さんもお仲間かい?ヒヒヒッ指輪は魔法学校の地下にあるよヒヒッ。そうだ、これを食べなされ。美味しい美味しい果物だよ」
老婆から花壇で見た赤い果実を渡されました。老婆はムシャムシャと食べています。
「ほれ、食べなされ」
「いただきま」
「待ってください、サヤさん!!」
食べようとしていたサヤさんを制止しました。サヤさん、そんな顔しないでください。
「イレイナさん……どうしたんですか?急に大声出して」
「指輪の情報ありがとうございます。でも、なんで大丈夫なのですか?」
「大丈夫ってどういう事ですか」
「先程ちょっとしたメモを見つけました。そこには赤い果実を食べたらすべてを失うと。知能さえも。しかしあなたは知能があります。何故ですか!」
「ヒヒヒッヒヒヒヒ。まさかメモが残っていたとはね。まぁいいさね。悪いけどここ迄だよ。ここで死んでもらうさね。いいや、違う。亡者として生きていくのさ」
老婆はローブを脱ぎ捨てました。体は亡者と同様、枯れ木の様にやせ細っていました。手に握るは杖。おそらく魔法使いだったのでしょう。マズイですね……。
「サヤさん!逃げて応援を!誰でもいいので連れてきてくだだい!」
「イレイナさんはどうするんですか!?」
「ふふっ。頑張って凌ぎますよ。こう見えても最年少で魔女になったんですから。さぁ早く行ってください」
「……ごめんなさい!ありがとうございますイレイナさん!早く応援呼んできます!」
サヤさんは窓をするっと抜け飛び去りました。
「ヒヒヒ。勇ましいね、お嬢さん。あの黒髪の子が帰ってくる時まで生きていられるかねぇヒヒヒッ!」
「むしろ貴方の方こそ大丈夫ですか?枯れ木みたいに細ってて折れちゃいますよ?」
「ほざいてな!」
老婆は杖を横へ一閃。風の刃を飛ばしてきました。すかさず応戦。風の刃を飛んで避け、水魔法で攻撃。老婆とは思えない身のこなしで攻撃を避けました。私は老婆から距離を取り着地。したはずでした。目の前には獣のような目をした老婆の顔が。いつの間に接近されていたのでしょう。考える間もなく腹部に重たい一撃が。堪らず空気を吐き出してしまい、痛みに悶ます。痛い、痛い、痛い。でもまだ一撃貰っただけです。サヤさんが戻って来るまで倒れるわけにいけません。
「ほう、立ち上がったかい?まぁ根性はあるみたいさね。いくさね」
老婆はまたしても一瞬で接近してきました。立ち上がる前に唱えていた詠唱の最後の一節。それを攻撃を食らう直前に紡ぎました。老婆の体は私の直前で止まっています。老婆の四肢にツタが巻きつけ動きを封じました。そのままボディーへ魔法を一撃。しかしたいして効いていないようです。その後も一進後退の攻防を繰り広げました。しかし、亡者となった老婆に体力という概念は内容で私だけが疲弊し傷ついて行きました。もう一度ぎりぎりまで攻撃をひきつけてカウンターを。ぎりぎりまでひきつけて今。だけど私の攻撃は出ませんでした。視界外からの一撃。それは私の意識をほぼ持っていってしまいました。……ごめんなさいサヤさん。私はここまでのようです。最後に見たのは老婆が筋肉の人に吹き飛ばされるところでした。なんであの人がここに……。
目が覚めると見知らぬ天井……ではなくサヤさんの泣き顔でした。
「イレイナさん、イレイナさん、なんで死んでしまったんですか!大丈夫って言ったじゃないですか!」
私が死んだと思っているようですね。体の節々が痛いですが生きてはいるようです。現に口に涙の味が広がっています。汚いですね。
「あのーサヤさん?私生きていますよ?」
「イレイナさん!僕と結婚してくれるって言ったじゃないですか!イレイナさんのお母さんとお父さんに挨拶して!ぼくの両親にも挨拶して!幸せに暮らそうって言ったじゃないですか!なのになんでぼくを残して死んじゃうんですか!」
「いつ私がそこまで言いました!それに死んでません!」
サヤさんの頬をひねりつつしっかり目を見据えて話しかけます。全く……こんなに目を真っ赤にして。キレイな瞳が台無しですね。
「!!イレイナさん!イレイナさんが行きてた!」
言うやいなや私に抱きついてきました。とても心配させてしまいましたね。そっとキレイな黒髪を撫でつつ
「この通り、ちゃんと生きてますよ。安心してください、サヤさん」
「フィレヒファファン!フィレヒファファン!スゥーーーーハァ」
「どさくさに紛れて何しているんですか!」
撫でていた指でそのままアイアンクローの刑です。
「痛い、痛い、痛い、痛い!でもイレイナさんにやられているのなら……」
だいぶ危ないですね。距離おいたほうが良さそうです。 互いに落ち着き事件の結末を聞きました。サヤさんが助けを求めて飛び立ち直ぐに武装した集団と筋肉の人が歩いているのを見つけたそうです。武装した集団に話をすればどうやら不死街の掃討へ行く軍だったようで状況を話せば行軍速度を上げてくれたようです。私のため直ぐ戦力がほしいと頼んだら筋肉の人を送ってるれました。まぁ、部隊直属でもないからちょうど良かったのでしょう。そんなで私の意識が失う直前の光景に繋がったようです。
「その筋肉の人はどうしたんですか?」
「直ぐに旅立ちました。もっと筋肉を鍛えねば、と意気込んでました」
まだまだ筋肉だるまになるんですかあの人……
今回の騒動も現在事後処理真っ最中のようです。街一つずっと隠されていたのには魔法学校と協会の一部の取引があったとかないとか。指輪も無事回収され、同時に禁忌指定されるようです。製法もすべて押収。もちろん私のメモ帳もです。古より生きたる竜。本当かどうか定かでは無いですがろくな事なりそうに無いので禁忌で妥当だとおもいます。そして亡者。彼らの体からはムカデが出てきたようです。人としての背骨が失われており、本来の背骨の位置にはムカデがいたと。あの赤い果実は大ムカデの卵らしいです。死んだムカデから卵が放出される。その際どう言うわけかムカデの死骸は木々のように生い茂り果実を思わせる見た目になるそうです。その卵を食べる事で体内にムカデを取り込み、取り込まれたムカデはいを食い破り背骨を侵食していたと考えられるそうで……。とんだ迷惑なムカデです。
そしても少し。古より生きたる竜もムカデもどちらも不死に関係するそうです。偶然にも不死と関する街の名前になるのでしょうか?悩んでも答えは協会しかわかりませんね。それよりも大切なことが一つ。
「ところでサヤさん?報酬はいくらですか?」
あ、目を背けました。嫌な予感がしますね。
「サヤさん?ほ、う、しゅ、う、は?」
「すみません!すみません!すみません!報酬はすべてイレイナさんの治療費に消えました!」
私の医療費ですか。まぁそうですよね。でもたった一〜2日でそんな使うでしょうか?
「イレイナさん、イレイナさんが運ばれて既に2週間ですよ?それに全身の傷、骨折、裂傷等々、傷が残らなくなるよう治療持ちてもらいましたので」
「それで全部のお金が治療費に」
「はい」
まさか骨折り損のくたびれ儲けってやつですか。がっかりしていると枕元に革袋をおいて立ち上がりました。
「今回はご迷惑かけてごめんなさい!ぼくはまた次の仕事があるので。それはご迷惑かけてしまった分のお金です。ではイレイナさん、またどこかで」
「またどこかで」
パタンと音を立ててサヤさんは帰ってしまいました。枕元の革袋には一ヶ月良い宿屋に泊まっても問題ないがくのお金が入っていました。それと手紙が。さて、どんな事が書いてあるのでしょうか?静かな風を感じる暖かな昼下り。ベットの上で手紙を読み始めるのでした。
色々解釈違い、口調違いすみません