ロックマンX二次創作   作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ

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ゼロにひそかな思いを寄せるレイヤー。悪夢にうなされるゼロの姿を前に、彼女は?
(2021年1月31日~2月2日)


Fear

ある日のハンターベース。出撃予定の無いハンターたちとナビゲーターたちが談笑しているところへ、シグナスとライフセーバーが険しい顔で現れる。

 

 

 

シグナス:

おい、ゼロ!

 

ゼロ:

(ドキッとして)こ、これはお二人で……

 

ライフセーバー:

ゼロ、何度も言っているが、定期メンテの期限を忘れてはいないだろうな。

 

アクセル:

(驚いて)え、まだ受けてなかったの?

 

エックス:

(困り顔で)はー、やっぱりか。いつもギリギリだよね。

 

エイリア:

大変! 早く受けないと、ハンターの資格を剥奪されちゃうわよ。

 

パレット:

そうですよ! ゼロさん、クビになりたくないでしょ?

 

レイヤー:

(心配そうに)ゼロさん、早くメンテを受けてください。目に見えないダメージが、身体に蓄積されている可能性もあります。

 

シグナス:

その通り。おまえには、そのメンテをたった今から受けてもらう。忙しいとは言わせんぞ。最近は、凶悪事件も少ないからな。願ってもないタイミングだろう。

 

ゼロ:

(追いつめられた顔)う……

 

ライフセーバー:

もう逃がさんぞ。観念したまえ。

 

ゼロ:

(ため息をついて)……わかった。(仲間たちに)突然だが、行ってくる。しばしのお別れだ。

 

エックス:

(うなずいて)大丈夫だよ、ゼロ。また明日。

 

ゼロ:

(微笑む)ああ。また明日。

 

アクセル:

ははは、大げさだなぁ。

 

 

 

 

ゼロ:

そうだ、コレを……(レイヤーのそばを通りながら、彼女にセイバーを渡す)戻るまで預かっておいてくれ。頼む。

 

レイヤー:

(慌てる)えっ、あ……はい、わかりました。

 

 

 

ゼロは、シグナスとライフセーバーに挟まれながらその場を去っていく。

 

 

 

アクセル:

……なんか、連行されるイレギュラーみたい。

 

エイリア:

それにしても、いつもギリギリですって? どうして早く受けないのかしら。

 

パレット:

(首を傾げる)確かに、ゼロさんはアクセルと違っていつも忙しいと思いますけど、ハンターの義務ですしねぇ。

 

アクセル:

は? 何ソレ、どういうこと?

 

パレット:

だってキミ、いつも遊んでばっかじゃん。

 

レイヤー:

私も気になります。エックスさん、何か理由を知りませんか?

 

エックス:

うん……理由は、オレもよく知らないけど……彼はね、なぜか定期メンテを怖がってるみたいなんだ。

 

一同:

(驚く)え?

 

アクセル:

なんで? 自分は寝てるだけだし、起きたらすっかり直ってるから、すごく気持ちいいのに。

 

パレット:

意外……ひょっとして、お医者さん嫌い?

 

エイリア:

すごく悪いところがあったらどうしようとか、そんなことを思うのかしら。

 

レイヤー:

……(両手の中のセイバーを見つめる)

 

 

 

メンテナンスルームでは、ゼロのメンテナンスが始められようとしている。

 

 

 

ゼロ:

また、この時が来た。オレは、これから一度バラバラになる。身体と一緒に、心もバラバラになって、溜まった汚れや膿のようなものが、表に出てくる。……その時は、決まって悪夢を見る。

 

 

 

 

深夜。レイヤーは独り、ひそかにメンテナンスルームへと向かう。

 

 

 

レイヤー:

ゼロさんは、ちゃんとメンテを受けているかしら。……私がそんなこと心配しても、仕方がないんだけど……いいの、それを確認するだけ。確認したら、すぐに戻るから……

 

 

 

レイヤーは足音を忍ばせ、そっと、『使用中』の表示が灯るメンテナンスルームの前に立つ。扉に嵌め込まれたガラスを通して、内部の様子が見える。

中には、メンテナンスベッドに横たわり眠るゼロの姿がある。彼の身体は至るところにコードが繋がれ、アーマーもところどころが外されて、内部の機械があらわになっている。その姿が、レイヤーの目にはひどく痛々しく無防備に映る。

 

 

 

レイヤー:

(ほっとして)よかった、ゼロさんはちゃんとここに居るわ。……それはそうよね。

でも……どうしてかしら。あの人のこういう姿を見るのが、こんなにつらいなんて……別に、今は戦って傷ついているわけじゃないのに……なんだか、とても苦しそうだわ……

(我に帰る)はっ……い、いけないわ。私としたことが。と、とにかく、これで目的は果たしたんだし、戻らなくちゃ。明日だって、朝早いのよ。

 

 

 

レイヤーは独りで何度もうなずき、踵を返して戻ろうとする。

不意に、眠るゼロの表情が歪む。

 

 

 

ゼロ:

う、うう……

 

レイヤー:

(振り向く)ゼロさん……?

 

ゼロ:

ああああっ……!

 

 

 

レイヤーは、もう一度メンテナンスルームの中をのぞく。ベッドの上で、ゼロが身をよじり、うなされはじめているのが見える。

 

 

 

レイヤー:

(慌てて)ゼロさん? ど、どうしました? 大丈夫ですか?

 

 

 

はずみで開閉ボタンに手が触れ、扉が開く。レイヤーはメンテナンスルームによろめきこむ。

 

 

 

レイヤー:

キャッ……!

 

ゼロ:

あんた、誰だ……!

 

 

 

 

今や、ゼロのメンテナンスベッドがレイヤーのすぐ目の前にある。

 

 

 

レイヤー:

(狼狽)ひえっ! はぁわわわわ……! ご、ご、ごめんなさい! レイヤーです! あ、あの、そう、たまたま通りかかったから、ついでにゼロさんの様子を見ようと……で、でも、中まで入るつもりは無かったんです! 本当に……!

 

ゼロ:

(意識が無いままで)し、知らない……オレにつきまとうな……!

 

レイヤー:

えっ?

 

ゼロ:

(うわごとを叫びつづける)やめてくれ……! 破壊も返り血も、もうたくさんだ……!

 

レイヤー:

……!

 

 

 

 

レイヤーの前で、ゼロの手が激しく震えている。何かを拒むように、振り払おうとするように、同時にまた、何かを探し求めるように、掴もうとするように。

 

 

 

レイヤー:

この時、私はゼロさんがメンテを怖がっていた理由がわかった気がしました。

いつも、こうなのでしょうか。彼はひどくうなされ、うめき、悲痛な叫びをあげていました。

それらは、普段の彼の姿からは全く想像もつかない、聞くに堪えないようなものでした。

『オレを恨んでいるのか』『すまなかった、許してくれ』『何のために戦っているんだ』『なぜ造った』『何もかも壊してしまう』……

それから、私の知らない女性の名前と、エックスさんの名前を繰り返し呼びました。

特にエックスさんの名前を、何度も、何度も。

私は……あまりに乱れた彼の姿が怖いのと、こんなに彼の近くに居ながら何もできないでいることに、耐えられなくなって……

 

 

 

ゼロ:

エックス……オレは、消えなければならないんだ……もう、キミたちと同じ場所には、居られない……!

 

レイヤー:

ゼロさん、失礼します……!

 

 

 

レイヤーは、ゼロの震える手を、そっと両手で握る。

 

 

 

 

ゼロ:

(目覚める)……!

 

 

 

ゼロは目を開き、レイヤーの顔をまともに見つめる。再びうろたえるレイヤー。

 

 

 

レイヤー:

ひゃぁぁ!(慌てて手を離す)お、お、起こしちゃった……! ど、どうしよう……! ち、近いし、すっごい見られてるし……!

 

ゼロ:

(驚いた様子で)レイヤー……? どうした、緊急事態か?

 

レイヤー:

(必死で頭を下げる)い、いいえ! す、すみません、こんなところにまでお邪魔してしまって……!

 

ゼロ:

(心配そうに)そんなに慌てて、いったい何があったんだ? すまんが、オレはまだ当分動けんぞ。

 

レイヤー:

(おろおろと)あ、あの……本当に、違うんです! 事件とかじゃないんです! 私……私は、ただ……

 

ゼロ:

どういうことだ?

 

レイヤー:

……ゼロさんが、ひどくうなされていたから……心配だったんです……

 

ゼロ:

何だって?(ため息をついて)……そんなに、ひどかったか。すまん、余計な心配かけたな。

 

レイヤー:

(おずおずと)ゼロさん……あの、エックスさんから聞いたんですけど……定期メンテを怖がっているそうですね……

 

ゼロ:

え?(笑って)……アイツ、余計なことをバラしやがったな。

 

レイヤー:

それって……今みたいに、怖い夢を見てしまうから、ですか……?

 

ゼロ:

(しばらく沈黙して)……そう、だな……いつも、この時には、決まって悪夢を見てしまうんだ……はは、おかしいよな……ハンターなのに、そんなのが怖いなんて……

 

レイヤー:

(悲痛な思いで)ゼロさん……あなたはハンターとして、あまたの激戦をくぐり抜けてきた方です。だからきっと、その心の中には、身体の傷と違ってすぐには癒やせない、たくさんの傷があるはずです。それが、恐ろしい悪夢として表れてきたとしても、仕方のないことだと思います。おかしくなんかありません。

 

 

 

 

ゼロはしばらく、あっけにとられたようにレイヤーの顔を見つめる。居たたまれなくなるレイヤー。

 

 

 

レイヤー:

あわ、あわわ……ま、また、ゼロさんの視線……! も、もうダメ! は、恥ずかしすぎる……!

 

ゼロ:

(やがて、くすりと笑って)……まいったな。こんなことを、誰かに話すのは初めてだ。

 

レイヤー:

え……?

 

ゼロ:

でも、悪夢よりも何よりも、オレがいちばん怖いのは、オレ自身――(急に静かになる)

 

レイヤー:

ゼ、ゼロさん? ゼロさん……?

 

 

 

ゼロは再び目を閉じ、先ほどまでのうなされようが嘘だったかのように、深い眠りに落ちている。

 

 

 

レイヤー:

(ひとまず安堵して)よかった……

ゼロさん、どうかこのまま、朝までゆっくり休んでくださいね……

 

 

 

レイヤーは、そのまましばらくゼロの傍らに立ちつくす。

 

 

 

レイヤー:

ゼロさんを襲う悪夢、彼の心の奥に潜む恐れ……『いちばん怖いのは、オレ自身』という言葉……

それらに対して、今、自分にできることは何ひとつ無いとわかっているのに、私は、すぐには彼のそばから離れられずにいました。

せめて、このまま朝まで彼を見守ってあげたい。もう二度と、恐ろしい悪夢を寄せつけないように……そんなふうに思いました。

でも、そんなことは無理です。

だから、そうする代わりに……

 

 

 

レイヤーは、もう一度、両手でそっとゼロの手を握る。気づかずに眠りつづけるゼロ。

 

 

 

レイヤー:

(優しく笑って)ゼロさん、おやすみなさい。また明日。

 

 

 

 

そして、翌朝。

 

 

 

ゼロ:

(鏡の前に立っている)メンテの最中には、いつもうなされて……終わると、最悪な気分で目覚めて、そして不安になる……一度バラバラになったオレは、ちゃんと、元通りのまともなオレに戻れてるのかってな……

でも……なぜだろう、今回は違う。こんなにいい気分で目覚めたのは、初めてかも知れない。どうやら、確かにまともなオレらしいしな。

 

 

 

ゼロはオペレーションルームに戻る。そこには、今日も仲間たちが揃っている。

 

 

 

アクセル:

あ、ゼロ、おはよう! どう、平気だった?

 

エックス:

おはよう、ゼロ。気分はどうかな?

 

パレット:

おはようございます! ……あらら? なんか、昨日より更にキリッとしてるかも。イケメン度、上がってるぅ!

 

エイリア:

おはよう、お疲れ様。メンテの効果が早くも表れてるみたいね。

 

ゼロ:

(晴れやかな顔で)ああ、おはよう、みんな。確かに、今回はいつになくいい気分だ。

 

エックス:

(ほっとして)そうか、それはよかった。キミがそんな感想を言うの、初めてじゃないかな?

 

エイリア:

これで、苦手をひとつ克服できたかしら。

 

アクセル:

あはは。次からは、シグナスとライフセーバーにしょっぴかれなくて済むね。

 

パレット:

そうそう。クビの心配も無くなるし――あら? レイヤー……ね、ちょっと、レイヤーってば! もうー、さっきからなんにも言わないと思ったら……!

 

 

 

レイヤーは、自分の椅子にもたれてうとうとと居眠りをしている。

 

 

 

ゼロ:

(驚いて)いったいどうしたんだ、珍しいな。

 

パレット:

(呆れて)やーね。最近、昼間ヒマだからって、夜更かしでもしたのかしら。

 

ゼロ:

(レイヤーに近づいて呼びかける)おーい、レイヤー。戻ったぞ。

 

 

 

 

レイヤー:

(目覚め、ゼロに気づく)……はっ! キャッ……!(慌てて立ち上がって)ゼ、ゼロさん! すみません! お、おはようございます!

 

ゼロ:

(心配そうに)お、おはよう。大丈夫か? 疲れてるのか?

 

レイヤー:

あ、いえ、私は大丈夫です! あの……メンテ、お疲れ様でした。調子はどうですか?

 

ゼロ:

ああ、調子は最高だな。いつ出動になっても大丈夫だ。

 

アクセル:

頼もしい~!

 

ゼロ:

そうだ、早速だが、セイバーを――(ふと)レイヤー……? そういえば、ゆうべ……

 

レイヤー:

(ドキッとして)えっ……?

 

ゼロ:

(しばらくしてから、首を振って)……いや、そんなはずは無いな。きっと夢だろう。(改めて)セイバーを頼む。

 

レイヤー:

(安堵と、軽い失望を覚えながら)あ……はい。

 

 

 

レイヤーは、保管していたセイバーを取り出す。

 

 

 

レイヤー:

その時、ほんの一瞬、私はゼロさんにセイバーを返すことをためらいました。

彼を戦場に引き戻し、いつかまた、あの悪夢を見せることになってしまうかも知れない武器を渡すのを。

でも……それでも、やっぱり、今は彼の笑顔を信じることにしました。

そして……自分は例え陰ながらでも、その笑顔を支えつづけられる存在になりたいと思いました。

例え、彼の中に、私の知らない誰かが住んでいたとしても。

例え、彼が私を選んでくれる時が、永遠に来なくても。

例え、彼の心の奥に、どれほど暗く深い闇があろうとも。

 

 

 

セイバーを差し出すレイヤー。受け取るゼロ。

ハンターベースの新しい一日が始まる。

 

 

 

(完)

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