ロックマンX二次創作   作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ

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(※引き続き、残酷な描写があります)
広い心でおつきあいいただき、本当にありがとうございます…………
(~2021年5月13日)


The Court Of The Crimson King・2

相手からの返答は一切無い。研究者は、気を取り直して続けた。

 

「……キミには、これから我々のために働いてほしいと思っているんだ。イレギュラーハンターになど、もう未練は無いだろう。まず、今のキミの戦闘能力を確かめ――……!」

 

マイクが、耳をつんざくような音を発した。研究者は思わずそれを放り出した――跳躍とともに手刀を横に一閃、スピーカー付きメカニロイドの頭部が吹き飛んでいた。

 

首無しとなった仲間の骸が床に倒れるのを待たずに、残り二体のメカニロイドが、巨躯に似合わぬ素早さでゼロに襲いかかった。二本の灼熱のスタンロッドが、火花を散らしながら迫る。

 

わずかでも触れれば電流に身を焦がすことになるその武器を、ゼロは風のように巧みにかわしつつ、一体の敵の背後に回り込んだ。

 

その背中に続けざまに打ち込まれる、重く速い拳。更に、よろめいた相手の足元に自分の足をかけ、転倒させた。

 

背後からもう一体が振り下ろしたスタンロッドをかわすと、倒れた敵の身体を踏み台のようにして再び跳躍、その顔面に、鋭い蹴りをめり込ませる。

 

折り重なって倒れた敵の巨体に、その手からもぎ取ったスタンロッドが、深々と突き立てられた。激しい火花が散り、爆発の炎と煙が、モニター画面を満たした。

 

 

 

もはや、これ以上の"実験"は不要だった。研究者も、仲間たちも悟っていた――今のゼロの力はすさまじく強大であり、自分たちには制御不可能だということを。

 

皆、口にはしなかったが、一瞬こんな期待をいだいていた――この厄介な被験者が、スタンロッド・メカニロイドたちの爆発に巻き込まれて消し飛んでいてくれないものだろうかと。

 

しかし、当然のように彼は健在だった。画面の中の煙が晴れた時、一同は思わず、体裁も忘れて恐怖の声を上げていた。

 

機械の残骸が生々しく散らばる、焼け焦げた床の上。そこで、ゼロは爛々と光る赤い目でこちらを睨みつけて立っていた――メカニロイドの腕を、新たな得物のように肩に担ぎながら。

 

「ヤ、ヤロー……ぶっ潰してやるぜ!」

 

鉄球男が、必死に自分を奮い立たせるように大声で叫び、部屋を出ようとした。ノコギリ男と火炎放射器男も、あまり気は進まないながらも、その後に続こうとする。

 

だが、影男が言った。ひどくうろたえた声で、実際にその身体は震えているようだった。

 

「ま、待て……ヤツには敵わん。それより、今のうちに逃げる算段をした方がいい。どのみち、失敗すればこの研究所は破棄する心づもりだったのだろう。ヤツを閉じ込めたまま、爆破するのだ!」

 

 

 

「……いや、それも無理だろう。完全に計算外だった。」

 

研究者が、うなだれて弱々しく応えた。そのそばから、金属を叩きつけ合うような激しい衝撃音が聞こえてきた。

 

ゼロが、自分を閉じ込めた部屋の扉を破ろうとしているのだ――恐らく、時間の問題だろう。

 

ノコギリ男と火炎放射器男が叫んだ。彼らも、臨戦態勢に入ったようだ。

 

「ちくしょう、ここで黙って待ってられるかよ! どうせ来るなら、こっちから出迎えてやる!」

 

「心配ねーよ、こっちは三人がかりだ! ド派手に火葬してやろうじゃねーか!」

 

「た、頼むぞ、おまえたち……!」

 

先ほどまでとは打って変わって哀れな様子の研究者に見送られ、三人は部屋を後にした――恐れからの、一種異様な興奮に駆り立てられるように。

 

 

 

拘束部屋の扉は無残に歪み、中央が大きく破られていた。

 

自らの拳で開いたその大穴から、ゼロは通路へ踏み出そうとする。

 

と、空気を切り裂いて飛んできた鉄球が彼を突き飛ばし、再び部屋の中へと押し戻した。

 

「こんちくしょう、すっ込んでやがれ!」

 

鎖を握りしめながら、鉄球男が叫んだ。

 

ゼロの身体は、拘束部屋の床に激しく叩きつけられ、転がった。

 

彼を追って、鉄球男が、更にノコギリ男と火炎放射器男も、拘束部屋に踏み込む。

 

機械の目をぎらつかせながら、三人は、倒れたゼロを取り囲んだ――すぐに終わらせてやる。

 

 

 

身を起こそうとするゼロに、ノコギリ男が躍りかかった。

 

その腕の武器は唸りを上げ、獰猛な無数の歯を激しく回転させていた。

 

「おとなしくしてな!」

 

背中に、腕に、脚に、所構わずノコギリが振り下ろされ、火花が散る。

 

たちまち全身に傷を負い、呻き声を上げながら、それでも怯むことなくゼロは体勢を建て直し、後方へ飛びすさった。

 

そして、反撃に転じる――しかしその瞬間、待ち構えていた火炎放射器男が、ガラス瓶のようなものをゼロの身体に叩きつけた。

 

瓶は粉々に砕け、ゼロは全身に黒い液体を浴びていた。油の臭いが不吉に漂う。

 

「"Funeral Pyre(火葬の薪)"――特製の燃料カクテルだ。じっくり味わえ!」

 

 

 

危険きわまりないカクテルの仕上げとばかりに、火炎放射器男の腕が、超高温の炎を噴き出した。

 

ゼロの身体はそれに飲み込まれ、一瞬のうちに、巨大な火柱となった。

 

すでに充分な距離を取っていてさえ、鉄球男とノコギリ男も、思わず、目を庇いながら更に後ずさる。それほどの威力だった。

 

轟音と、ゼロの絶叫が響き渡る。

 

「生きたまま灰になれ! ざまーみろ!」

 

まだ勝利を確信しきれていないかすれ声で、火炎放射器男が叫んだ。

 

ゼロは紅蓮の炎に焼かれ、もがき回る。

 

その光景に戦慄しつつも、鉄球男とノコギリ男は、再び身構えた――例えこの"火葬"を生き延びたとしても、跡形も無く叩き潰し、切り刻んでやる。

 

 

 

だが、そんな彼らの前で、またしても信じられないことが起こった。

 

なんと、ゼロは笑い出したのだ――いまだ、灼熱の炎を全身にまといつけながら。

 

そのさまは、一瞬、極限の苦痛がついに今際の狂気をもたらしたかに見えた。

 

しかし――誰も認めたくはなかったが――そうではないことが、すぐにわかった。

 

ゼロの身体の動き――炎に全身を噛まれ、消化されつつあるはずなのに、それはもはや、苦悶のあがきなどではない。

 

まるで、地獄の業火をきらびやかな衣装となして踊っているかのような優雅さだ。

 

そしてその間にも、彼の、快楽(エクスタシー)に酔い痴れたような笑い声はますます高らかに響く。

 

底知れぬ恐怖に心臓を鷲掴みにされ、今度こそ、三人組ははっきりと悟った。コイツを倒すことなど、不可能だ!

 

 

 

観念した三人組が、誰からともなく一斉にゼロに背を向けた、まさにその時。

 

音の無い爆発が起こした爆風のようなものが、後ろから彼らを突き飛ばした。

 

屈強さを誇っていた三人の身体は、あっけなく次々と床に転がる。

 

無様に倒れ伏し、歯の根も合わぬほどに震えながら、それでも彼らの目は再び、ゼロの信じがたい姿に吸い寄せられる――自らの身を焦がした炎を跡形も無く吹き飛ばし、より強力な、紫色を帯びた"闘気"をまとって、天井近くまで空中に浮かび上がったその姿に。

 

想像を絶する正体をあらわにした"化け物"の前で、三人は今や我を忘れ、ただ金切声を上げてわめくばかりだった。

 

立ち上がることもままならず、這うようにして、必死にその場から逃れようとする。

 

そんな彼らの背後に舞い降りたゼロは、禍々しい"闘気"を込めた拳を振り上げ、足元の床を目がけて叩きつけた。

 

すさまじい衝撃とともに"闘気"は床全体に走り、大地を突き破ってあふれ出す溶岩のようにそこかしこから噴き上がり、哀れな三人組の身体を、床板もろともズタズタに切り裂いた。

 

 

 

「せ、"先生"! "先生"よ! も、もうダメだぜ、おい……!」「た、助けてくれ……コ、コイツ、とんでもねー化け物だ……!」「く、来るな! わ、わ、悪かった……! オ、オ、オレたちの負け――ぎゃあああああ!」という、激しく乱れた音声を伝えてよこしたのを最後にモニターは完全に沈黙し、再び闇が訪れた。

 

だが、"助手"たちのむごたらしい最期は研究者に見届けられることはなかった――彼は床に座り込み、補助バッテリーを使ってメインコンピューター内のデータを全て引き出し、もう一人の仲間が先ほど言った通りの"逃げる算段"にひたすら没頭していたからだ。

 

影男は、作業を手伝いながらも、後ろめたそうなひどく落ち着かない様子で、もはや何も映さない漆黒のモニター画面にチラチラと目をやり、低い声で念仏を唱えた。

 

「……まだ済まぬのか。この期に及んで、このようなデータが何の役に立つ!」

 

苛立った影男が背中に怒鳴ると、研究者は一瞬、全身をビクリと震わせて振り返った。

 

データ保存中の小型端末の画面が放っている青白い光が、彼の怯えきった顔と、それでもまだ、掴みかけた"チャンス"を手放そうとしない貪欲なまなざしを照らし出した。

 

影男は立ち上がり、更に大声でわめいた――こんな作業など放り出して、一刻も早くこの場を離れたいのだ。

 

「もはや時間が無い。すぐにも、ヤツはここへ来るぞ! 全く、おぬしには失望した! 仲間たちがあのような最期を遂げたというのに、それを顧みもせぬとはな!」

 

 

 

「……それなら、おまえがアイツらの仇を討ってこい!」

 

追いつめられて自棄を起こしたかのように、研究者が怒鳴り返した。

 

今度は、影男が震え上がる番だった――彼は、喉笛を鳴らしながら、よろめく足取りで暗闇の中を数歩跳びすさった。

 

「しょ、正気か……そ、それがしに、あのゼロのもとへ向かえと……?」

 

研究者は立ち上がり、驚くほどの素早さで影男に近づき、今にも狼狽でその場にへたりこみそうな彼の胸元の"黒布"をひっつかみながら、非情に続けた。

 

「正気だとも、コレが冗談に見えるか? 仲間を顧みないのは、おまえの方だろう! 今回だけじゃない、いつだって、おまえは戦わずにオレにくっついているばかりだ! "用心棒"の看板はハッタリなのか、腰抜けめ!」

 

「無理だ! お、おぬしの言うことはわかるが、い、今のヤツには、誰も……!」

 

「わかっている、ゼロを倒せなどとは言わん。今しばらくの時間稼ぎだ。しばらく足止めするだけでいい! ……早く行け!」

 

 

 

蹴り出さんばかりの勢いで、研究者は影男を通路へと追いやった――腰抜けの"用心棒"は、今や死の宣告を受けたも同然だった。

 

通路は、否応なしに拘束部屋へと向かっている。逃げ出そうにも、窓や通気口などは無い。

 

さしもの影男も、ようやく腹をくくった。研究者に対する呪詛の言葉をありったけ呟きながら、足音も立てずに彼は走り出した。

 

拘束部屋は、大きな爆発に見舞われたような有様だった。

 

壁は歪み、床は深く縦横に引き裂かれ、隆起し、陥没している。

 

もはや囚われの実験体などではなく、その部屋の支配者となった"深紅の王"の背中が見えた。

 

いまだ邪悪な"闘気"にその身を包んだままで、先ほど手にかけた者たちの無残な遺骸を、物足りなげに検めているようだ。

 

不意に、空気を切り裂いて、何かがその背に迫った。

 

 

 

鞭のように長く柔靭でありながら、先端は刃物のように硬く鋭い"黒布"が、その首をよこせとばかりに唸りをあげて向かってきたのだ。

 

跳躍というよりも、再び宙に浮くような動作で身をかわし、ゼロはこちらに向き直った――深紅に染まったその瞳が、新たな獲物を捉えた。

 

だが、"黒布"は一条ではなかった。着地するいとまも場所もろくに与えず、後から後から無数の帯のようになだれこみ、次第にゼロを部屋の奥へと追い込んでいく。

 

幾条かの"黒布"が次々にゼロの身体に触れ、そこかしこに深い裂傷を負わせた。両腕で武器を操りながら、影男は自らの小心を気取られまいと、大声を張り上げた。

 

「どうした、ゼロとやら! 我らの仲間をあのように屠っておきながら、今は黙って切り刻まれるのを待つだけか! おぬしにも剣があろう、遠慮など要らぬ! さぁ、抜け!」

 

この時、影男は自分のわめき声に熱中するあまり、ついに気づかなかった――言われるまでもなく、ゼロはすでに剣を抜き放ち、空間全体を埋めつくす"黒布"に対抗しうる必殺技を繰り出そうとしていたことに。

 

まばゆい閃光が、影男を我に帰らせた。その光は、巨大な刃となって彼に襲いかかった。

 

"幻夢零(ゲンムゼロ)"。

 

 

 

影男が出ていってから間もなく、データの転送が完了した。

 

研究者は小型端末を抱え、壁の隅にある、彼にしか開閉できない隠し扉へいそいそと向かった。

 

それは秘密の地下道に通じており、そこにたどり着ければ、ひとり乗りのエアカーで逃げられるはずだった――仲間たち全員と共に助かる手段の他に、自分だけが助かる手段も彼は用意していたのだ。

 

そのために充分な時間を――恐らく、生命と引き換えに――稼いでくれた影男のことを、彼はもうほとんど覚えてすらいなかった。その電子頭脳の中は、早くもこれからのことで一杯になっていたからだ。

 

あのゼロが、この先どうなるのか――"トリガー"の効果が切れて元に戻るか、あるいは"覚醒"したまま外で暴れ回り、彼のかつての仲間たちだったイレギュラーハンターの手をわずらわせることになるのか――を、安全な場所から見届ける必要があった。彼を再び拘束するつもりは無いが、あわよくばゲイトがそうしたように、いつか"破片"だけでも手に入れられれば……

 

不意に、外からのノックの音が、研究者の思考を断ち切った。彼は思わず、文字通り飛び上がった。

 

「だ、だ、誰だ!」

 

「それがしだ……開けてくれ、今、戻った……」

 

 

 

もう二度と聞くことは無いと思っていた"用心棒"の声に、研究者が幽霊にでも会ったような衝撃を受けた、その瞬間。

 

外からバンと扉をぶち破って、影男が飛び込んできた――正確には、彼の頭部だけが。

 

「不覚……!」と呟きながら床を転がるソレに続き、今度は、鉄球男とノコギリ男と火炎放射器男の無残な"生首"が次々に投げ込まれる。

 

そして、喉が裂けるほどの絶叫を上げる研究者の目の前に、ついに彼が――幽霊などよりもはるかに現実的な脅威である"深紅の王"が、姿を現した。

 

抱えていた小型端末が床に落ちた――全身の力が抜け、研究者は壁に沿ってズルズルと床に座り込んだ。もう、彼には、命乞いの言葉らしきものを呟きながら両手で無意味に壁を引っ掻くような動作を繰り返すことしかできなかった。

 

最後の獲物――この事態を招いたそもそもの元凶である男――の、あまりにも情けない姿をゼロは赤い瞳で一瞥し、無造作に手を伸ばす。

 

恐ろしい力で首を掴まれ、そのまま身体ごと高々と持ち上げられながら、研究者が見たのは。

 

血に濡れて妖しくひるがえる乱れ髪の中の、殺戮に陶酔しきった美しいまでの笑みだった。

 

 

 

満足だろう。コレこそ、キサマの望んだ結果なのだからな。

 

「ヒィ、ヒィィ……わ、わかった、あ、あんたの強さは、充分わかったから……! 頼む、勘弁してくれ……!」

 

だが、オレはまだだ。まだ満足できない。まだ、足りないんだ。

 

「わ、悪かった……! もう、二度とこんなまねはしない! 本当だ! だから、許してくれ! 頼む……!」

 

もっとだ、もっとよこせ。キサマの恐怖を、苦痛を、後悔を、もっともっとよこせ!

 

「ぎゃあああああ! ぎえええええ……! た、たすけ……だれ、か……」

 

狂宴はまさに、今たけなわだ。心ゆくまで楽しもう。

 

何しろ、オレは今……とても気持ちがいい……!

 

 

(完)

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