ロックマンX二次創作 作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ
シグマもルミネも姿を消したのち、『W-レリック』と名付けられた存在が新たな脅威となりつつある世界。戦うことへの自信を喪失し、バスターを撃つこともできなくなってしまったエックスは、休養のため、独りで旅に出ます。その先で彼を待っている、不思議な出会いとは?
(2022年4月1日~11日)
ハンターベース訓練棟、トレーニングルーム内。エックスは、左手を握ったり開いたりする動作を繰り返している。
開いた手。手のひら、手の甲。再び手のひら。その手が握られ、拳になり、次いでバスターに変形する。
それを構え、左へ、右へと素早く向けるエックス。少し離れて、ライフセーバーと、心配そうな顔のエイリアが彼を見守っている。
エックスは何を狙うでもなく、やがて大きなため息をつき、力なくバスターを下ろす。すぐに変形が解け、バスターは手に戻る。
エイリア:
エックス……(歩み寄る)
ライフセーバー:
やはり、それ以上の維持は無理か?
エックス:
(ひどく沈んだ様子で)ああ……やっぱり、ダメみたいだよ。バスターを保つことができない。
エイリア:
(エックスに寄り添って)大丈夫よ、そんなに気にすることないわ。腕には異常は無いんだもの。疲労というか、ストレスというか……とにかく、"精神的な原因による一時的な不調"なんでしょう?
ライフセーバー:
(うなずいて)そうとも言える。だが、その不調が本当に一時的なものかどうかは……
エイリア:
え……
エックス:
(左手をじっと見ながら)……このまま、もう戦えなくなるかも知れない、ってことだね。
エイリア:
エックス、そんなこと……!
エックス:
(笑って)いや、いいんだ。あのさ……実はオレ、しばらく前から考えてたことがあって……
エックスは、二人に胸の内を明かす。エイリアの顔には驚きの表情が浮かび、それから、深い悲しみのそれへと変わる。
外は曇天。灰色の雲に覆われた暗い空から雨が降り出し、トレーニングルームの窓をぽつりぽつりと濡らしはじめる。
エイリア:
(やがて、話を聞き終えて)そう……わかったわ、エックス。
エックス:
(慌てて)ごめんよ、エイリア。本当にごめん。なんていうか、その……キミに心配かけたくないと思って、なかなか言い出せなくて……
エイリア:
(優しく微笑む)ううん、いいの。正直に言ってくれて、ありがとう。それが、今のあなたにとって最良の選択だと思うなら、心に従ってちょうだい。誰にも遠慮することなんかないのよ。
エックス:
エイリア……
ライフセーバー:
……気持ちは理解したが、シグナス総監が何と言うかだな。まあ、そう早まることはない。いずれにせよ、今のエックスに休養が必要なことだけは、確かだからな。私からは、総監にそれだけ伝えておこう。
エックス:
休養、か……
シグナスの執務室。デスクの傍らで、大きな窓に向かって立っているシグナス。
強い雨がしきりにガラスに打ちつけている。シグナスの背中に向かう格好で、デスクのこちら側にエックスが立っている。
シグナス:
(エックスに背を向けたままで)ライフセーバーからは聞いている。おまえには、休養が必要だと。だが……
エックス:
……
シグナス:
(エックスに向き直って)……本気なのか。ハンターを辞めたい、と?
エックス:
(うなずいて)ああ。そう考えていた。
シグナス:
(大きく息をつきながら椅子に座る)理由は何だ? もう、戦いに疲れたとでもいうのか。……まあ、わからなくはないがな。
エックス:
オレは……(左手を握る)いつ、どこで生まれたのか、わからない。ただ、目覚めた時から、戦う力を持っていた。その力は、人を助けるために備わっているもので、それを正しく生かせるイレギュラーハンターの仕事は、まさしく"天職"みたいなものだと思ってた。
シグナス:
"天職"か。これまでのおまえの働きを見れば、確かにそういえるだろうな。
エックス:
(うつむいて)でも……最近、なんだか、戦うことへの自信っていうか、確信が持てなくなってきたんだ。
シグナス:
ほう?
エックス:
ハンターとして戦うことで、オレを造ってくれた人の思いに応えることができる。ずっと、そう信じてきたけど……(顔を歪めて)もう、そうじゃないのかも知れない……
シグナス:
どういうことだ?
エックス:
シグマやルミネが居なくなっても、イレギュラーは無くならない。例え、相手がそうであっても、戦えば、そこには、必ず悲しみが生まれてしまう……破壊を止めるために、破壊を行わなければならないんだ。それって、結局自分もイレギュラーと同じ……こんなことを繰り返していたら、いつまで経っても戦いは終わらない……本当に、これが、"あの人"が望んだオレの在り方なのかなって……
エックスは、これまでの多くの戦いの中で自分を助けてくれた、ホログラムの白衣の老人――"光の博士"のことを思い浮かべている。
シグナス:
皮肉なものだな。だが、この世界が続いていく限り、我々の"仕事"が無くなることはないだろう。現に、ゲイトの報告にあった"謎のイレギュラー群"がまた現れたと聞いたところだ。……世界も、仲間たちも、まだまだおまえを必要としている。わかっているだろうな?
エックス:
ああ、わかってる。でも……(首を左右に振る)ルミネとの戦いを最後に、"あの人"は、もうオレの前に現れてはくれなくなった。確かに、もうパワーアップとかは必要無いけど……それって、オレを見放したってことなんじゃないかって……バスターが撃てなくなったのも、そのせいじゃないのかって……
激しい雨が降りつづいている。
シグナス:
(咎める口調ではなく、静かに)本当にどうしてもと望むなら、おまえを引き留めることはしない。無理強いするわけにもいかんしな。だが、もう少しだけ考えてみてはどうだ?
エックス:
え……
シグナス:
ライフセーバーの言う通り、おまえには休養期間を与えよう。もし、その間に気が変わらなければ、正式な手続きによりハンターの資格を取り消す。それでいいだろう。
エックス:
(慌てて)だって、バスターが回復しなかったら?
シグナス:
するかも知れんぞ。あっさりとな。
エックス:
そ、そんな……
シグナス:
例えハンターでなくなったとしても、籍だけは組織に残しておけばいい。仕事はいろいろあるからな。
エックス:
……
(しばらく考えて)……うん、そうだね。そうするよ。確かに、ライフセーバーにも、早まるなって言われたし……後悔することにならないように、もう一度じっくり考えてみる。(苦笑して)どっちみち、みんなには迷惑をかけちゃうけどな。
シグナス:
……エックス、おまえは間違っていないぞ。
エックス:
え?
シグナス:
……おまえはこれまで、戦うことで、造り手の思いに精一杯応えてきたのだと、私は思う。その人物に見放されたなどと考える必要は無い。気に病むな。
エックス:
(笑って)そうかな。ありがとう、シグナス。
シグナス:
(うなずく)何にせよ、"退職願い"は、一旦、保留だ。ゆっくり休んでこい。
シグナスの部屋を後にしたエックス。司令棟内の通路を歩いていくと、研究棟への入口付近で、妙な叫び声が聞こえてくる。
アクセルの声:
わー! こら、ジェフリー! 待てってば!
猫の鳴き声:
ニャーン!
エックス:
ん、アクセル……?
立ち止まったエックスの前に、交差する通路の角を曲がってきた"何か"が姿を現す。それはボールのように丸く、高速で回転している。
エックス:
(驚く)何だ?
ボールのような物体はエックスの周囲をくるくると回り、空中に飛び上がり、一体の猫型ロボへと姿を変え、着地する。アーティフィシャル・プロテイン製のソーセージを口にくわえている。
エックス:
(更に驚く)わっ、猫?
アクセル:
(猫型ロボを追って走ってくる)あ、エックス! いいとこに来た! ね、その猫、捕まえて! ボクのホットドッグ、取られちゃったんだよぅ!
エックス:
えっ、そ、そうなの?
エックスは慌てて猫型ロボを捕まえようとする。が、猫型ロボはエックスの手をするりとすり抜け、なんと垂直の壁を駆け登り、天井の真ん中に逆さまで座り込んでしまう。
エックス、アクセル:
(仰天する)え、えーー?
ゲイト:
(通路の角を曲がって現れる)ははは、順調そうだね。どうだい、アクセル? 気に入ってくれたかな?
エックス:
ゲイト!
ゲイト:
やぁ、エックス! ちょうどよかった。キミにも、ぜひ見てほしいものがあるんだよ!
アクセル:
エックス~! ね、聞いてよ! ひどいんだよ! あの猫型ロボ、ゲイトがボクに造ってくれたんだけどさ、イタズラばっかりするんだ!
エックス:
ゲイトが?
ゲイト:
(うなずく)ああ、そうだよ。名前はジェフリー。今、動作確認中なんだ。問題は無さそうだね。
ジェフリー:
(天井で逆さまのままソーセージを食べ終え、くるりと回って床に着地する)ニャン!
アクセル:
(悔しがる)どこがだよ~! あー、ボクのおやつだったのに~!
エックス:
(興味を引かれて)へー、なかなかかわいいじゃないか。アクセルのペットなのかい?
ゲイト:
(自慢そうに)はは、ただのペットじゃないよ。ハンターたちの単独行動をサポートするんだ。敵を追跡したり、攻撃したりもできるのさ。ボクの自信作だよ。これからの戦いに役立ててほしくてね。
エックス:
(感心して)そうなんだ。そりゃすごい。
アクセル:
(不平たらたら)ゲイト~! 絶対この猫、わざと性格悪く造ったでしょ! ボクの言うこと、全っ然聞いてくれないじゃん!
ゲイト:
そんなことないさ。猫は気まぐれだからね。ほら、ジェフリーの方はアクセルを好きみたいだよ。うまくやってけるんじゃない?
ジェフリー:
(アクセルの足元で)ゴロゴロ、ゴロゴロ……
アクセル:
(口を尖らせて)ちぇー、本当かなぁ? 信用ならないなぁ! あーあ、ゼロの鷹はすっごく有能そうなのに! ボクもそっちが良かったよ!
エックス:
え、ゼロには鷹?
アクセル:
そうだよ。……ほら、来た!
今度は、訓練棟の方向から一体の鷹型ロボが飛んでくる。
鷹型ロボ:
キィー!
エックス:
(目を見張る)わぁ……!
ジェット噴射により滑空してきた鷹型ロボは、一同の頭上で羽ばたき、宙にくるくると輪を描く。
ゲイト:
お帰り、ルーカス。
鷹型ロボ:
キィ!
ルーカスと呼ばれた鷹型ロボを追って、ゼロが走ってくる。ルーカスは迎えるようにそちらへ飛んでいき、彼の肩に止まる。
エックス:
(目を見張る)すごいね、ゼロ!
ゼロ:
(アクセルとは反対に、上機嫌で)おう、エックス。来てたのか。
アクセル:
(うらやましそうに)やっぱ、猫よりかっこいいな……
ジェフリー:
(アクセルを睨む)フー!
ゲイト:
どうだった? ……ふふ、その顔だと、満足してもらえたかな?
ゼロ:
(うなずく)ああ、大したもんだぜ、ゲイト。今、市街戦のシミュレーションを試してみたんだが、コイツの張ってくれるシールドは実に頼もしい。
ゲイト:
(喜んで)そりゃよかった! ルーカスも、すっかり懐いたみたいだね。
ルーカス:
キィ!
ゼロ:
エックス、キミもさっそく、自分の"相棒"を見せてもらうといい。
アクセル:
あ、そうだね! ゲイト、連れてきてあげてよ。
エックス:
え、オレにも居るの?
ゲイト:
もちろんさ。ちょっと待ってて。(急いで研究棟の方へ戻っていく)
エックス:
(思わず、わくわくしながら)へー、楽しみだな。
ジェフリーとルーカスが、エックスに興味を示している。
エックス:
ふふ。よろしくね、ジェフリー、ルーカス。オレは、エックスだよ。
ジェフリー:
ニャー!
ルーカス:
キィ!
ゼロ:
ところで、シグナスとは何の話だったんだ?
エックス:
(ドキッとする)え、あ、それは……
アクセル:
……どうかしたの?
エックス:
(みるみる沈んだ顔つきになる)……ごめん。実は、オレ……
ゼロ、アクセル:
え……?
やがて、ゲイトが一体の犬型ロボと共に戻ってくる。
ゲイト:
お待たせ、エックス。名犬マークだよ。彼は、姿を隠している敵を見つけるのが得意なんだ。もちろん、ガレキの下敷きになってしまった生存者を見つけることもできる。事故や災害現場での人命救助に――(その場の空気が、明らかに先ほどまでと違うことに気づく)あれ? ちょっと……何かあったの……?
ハンターベースの上に、街に、強い雨はなおも降り注ぐ。
(続く)