ロックマンX二次創作 作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ
ストーム・イーグリードの名前が『イグリード』となっていますが、岩本作品の二次創作であることを示したくて、あえてこの表記にしました(実際のX2の漫画では『イーグリード』になっていますが、あえてです)。
いつもありがとうございます。(*^◇^*)"
岩本佳浩先生のコミック版『ロックマンX2』のクライマックス。額に埋め込まれたΣチップをエックスに破壊され、倒れたゼロが再び立ち上がるまでの間に、彼の中で起きていたこととは?
(2022年5月5日~9日)
暗闇の底に、ゼロは倒れていた。
ずっしりと重く、それでいて脱け殻のように冷たく、頼りなく、思うように動かない身体。
虚ろなその身体を満たしているのは、先ほどまでの熾烈な戦いの記憶。
灼熱の
裏切りの黒か、返り血の赤か――今、自分の
『よう、どうした? 何をしょぼくれてんだ? ははは、おまえらしくないぜ。こんなところで寝てんなよ。』
場違いなほど陽気な声とともに、懐かしい姿が――もはやこの世のものではないはずの旧友の姿が、闇の中に現れた。
背中に畳まれた二枚の翼、小憎らしいような笑みを浮かべた嘴。かつて『天空の貴公子』と呼ばれた、気高き大鷲の男。
「イグリード……オレは……オレは、どうすればいい……?」
彼の足元に横たわったままで、力なくゼロは問いかける。
「今、オレは……戦っていたんだ、エックスと……シグマに、操られて……」
『目が覚めたんだな。それなら、早く戻ってやれよ。エックスは今、この瞬間にも、ズタズタの身体で、独りでシグマと戦ってるんだぜ。これ以上待たせるな。』
「できない……!」
ゼロはよろよろと上体を起こし、弱々しくイグリードを見上げた。
「アイツを、さんざん傷つけちまったんだぞ……! 生命まで、奪おうとしたんだ……アイツを殺して、自分も死のうとした……! シグマの鎖につながれた"裏切り者"のオレが、どの面下げて、アイツのところへなんか戻れるんだよ……?」
ゴン! と鈍い音がした。
イグリードの鉄拳が、ゼロの脳天に振り下ろされていた。
「痛ッ! ……何しやがる!」
思わず大声をあげるゼロの前で、イグリードはやれやれといった様子で、大袈裟に肩をすくめながら言った。
『あーあー、がっかりしたぜ! 相変わらず馬鹿だな、てめーは! そんなんだから、いつまで経ってもオレに勝てねーんだよ。この、オカマもどきの金髪ヤローが!』
「何だと……、もういっぺん言ってみやがれ、この鳥ガラ!」
ゼロは我を忘れ、イグリードに掴みかかろうとした。
だが実際には、いまだいうことをきかない身体が、ほんのわずか這うように動いただけだった。
昔の悪友時代に戻ったように、イグリードは笑いながら挑発的に言葉を続ける。
『バーカ! シグマの鎖だ? そんなもん、もうどこにも無ぇだろうがよ。さっき、エックスにぶっ壊されたのを忘れたのかよ! ……鎖はな、身体を縛ることはできても、魂までは縛れないんだ。』
ゼロははっとした。そうだ、この男も同じだ。
シグマの最初の反乱でその軍門に下り、多くの犠牲を払いながらも、最後にはエックスを"希望"と呼び、新たな力を与えた――自らの生命と引き換えに。
「シグマの鎖は……おまえの魂は、縛れなかったな……」
呟くゼロに、イグリードはうなずいた。
『ああ。おまえだって、そうさ。たとえ、まだ縛られていたって、自分で断ち切れるだろ? ……オレと
「イグリード……!」
青臭いライバル意識や、過剰なまでの自信。
若々しい明るさに満ちていた"あの頃"。
大空にはかなく散っていった花と共に、突然に訪れた、その終焉。
そして、握り返すことができなかった、和解の手。
彼と共にあったこれまでの記憶が、閃く稲妻のようにゼロの中を駆け抜けた。
『おら、いつまでそうやってんだ! わかったら、さっさと立てっつーの!』
"あの時"のやり直しででもあるかのように、イグリードの手が、もう一度ゼロの前に差し出される。
ゼロは、左手を地面に突きながら、今度こそはとばかりに、必死で右手を伸ばした。
だが、震えるその手がもう少しで届きそうになった瞬間、イグリードは突然、自分の手をひょいと引っ込めた。
掴まろうとしていた支えを失い、ゼロの上体は、再びその場に崩れ落ちてしまった。
『ギャハハハ、ざまーみやがれ! 本気で手ぇ貸すとでも思ったのか、あ? この馬鹿が!』
イグリードの馬鹿笑いが響く。だが、すぐ目の前に居たはずの彼の姿は、どこにも無い。
「イ、イグリード……どこだ?」
嘲弄された怒りよりも不安を感じて、ゼロはすぐさま身を起こそうとした。
相変わらず、重く鈍い身体。だが、それを持ち上げようとする両腕には、確実に、前よりも強い力が込もりはじめていた。
闇の中から――明らかに、先ほどよりも遠くから――イグリードの声が聞こえてきた。
『あがけ、あがけ! ……オレは、もう"過去"なんだ。"過去"にしがみつくな! おまえがシグマに操られてたのだって、もう"過去"だ。おまえは、"
彼の気配が、完全に立ち去ったのがわかった。
ゼロは、暗闇の中に独り残された。
「く、くくく……」
地面に這いつくばった格好のままで、ゼロは笑いだした。
「馬鹿はどっちだよ、鳥公が! 誰がてめーの手なんざ借りるかよ。あがいてやるさ! 独りで立ち上がってやる、今すぐに!」
脱け殻のように虚ろだった全身に、次第に力がみなぎってくる。
断ち切ってやる。シグマの呪縛も、戻らない過去も。
爆煙の中で、エックスは、辛くも立ち上がった。
苛烈な戦いの連続に、彼の身体は軋み、悲鳴をあげていた――その胸には、冥府から舞い戻った魔王の
「相変わらずの根性だな……しかし、もう"恐怖"は感じんぞ。」
両手の甲に長く鋭い爪を光らせたシグマが、残忍な笑みを浮かべる。
エックスは、再びバスターを構えた。その顔を、もう一度ひきつらせてやる!
だが、ショットを放とうとしたその瞬間、不意に、何者かの手がエックスの腕を掴んだ。
音もたてず、黒い影のように、傍らに立っていたのは――ゼロだった。
「ゼロ?」
驚きと失望に、エックスの身体は凍りついた。
無二の親友でありながら、敵として現れたゼロ――その額に埋め込まれ、彼を操っていたΣチップは、確かに破壊したはずなのだ。
だが、今、エックスのバスターに手をかけながら無言で立つゼロの鎧は、いまだ、シグマの悪意にまみれたような漆黒に染まっている。
ダメなのか……ここまで必死に自分を奮い立たせてきたエックスの心が、震えた。
その時。
ピシリと音をたてて、ゼロのヘルメットが、真っ二つに割れた。
息を飲むエックスの前で、輝く金髪がひるがえり、まばゆい光がみるみるうちにその全身を染め変えていく――絶望の黒から、生命の赤へ。
割れたヘルメットは二人の足元に落ち、エックスの目の前には、それを脱ぎ捨てた親友の晴れやかな顔があった。
「おまえ独りの力じゃ、シグマは倒せないぜ。」
完全に呪縛から解放された彼の、懐かしく、頼もしい笑顔。
エックスの心は、もう一度震えた――長い長い孤独と苦難の道のりの果てに、ようやく、自分の知る彼を取り戻した、歓喜の瞬間だった。
――しかし、ひとまず、挨拶は後だ。
「協力してくれ、ゼロ!」
「決めるぞ、エックス!」
復活した最強の
二人の全エネルギーを、シグマにぶつける。
エックスはバスターに、ゼロは拳に、それぞれ、持てるありったけのエネルギーを込めて放った。
空を切るエックスのチャージショットと、地を這うゼロのアースクラッシュ。
二つのエネルギーの塊は互いに引き合い、融合し、巨大な光となってシグマに迫った。
「……かかったな、愚か者どもめ。わしのこのボディは、ただのダミーなのだ。この一撃で力を使い果たしたキサマらは、もう動けまい。わしの本体は、この基地そのもの……ダミーボディの破壊と同時に開始される、人類抹殺を見ながら朽ちていくがいい!」
目前に迫った邪悪な計画の実現に、シグマは早くも酔い痴れる。
――だが、勝利を確信し、傲った彼が、ついに知る由もない。
青と赤、二人の勇者が放った渾身の光。
それが、世界を覆う闇を打ち払う、最初の狼煙となることを。
やがて、"心"を知るマザーコンピューターが、その狼煙に応え、
"白衣の老人"に託されたプログラムにより、勇者に新たな力を与え、
魔王を再び冥府へと送り還す、更に大きな光を生むことを。
(完)