ロックマンX二次創作   作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ

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(2024年3月31日)誤字報告ありがとうございます。
ストーム・イーグリードの名前が『イグリード』となっていますが、岩本作品の二次創作であることを示したくて、あえてこの表記にしました(実際のX2の漫画では『イーグリード』になっていますが、あえてです)。

いつもありがとうございます。(*^◇^*)"
岩本佳浩先生のコミック版『ロックマンX2』のクライマックス。額に埋め込まれたΣチップをエックスに破壊され、倒れたゼロが再び立ち上がるまでの間に、彼の中で起きていたこととは?
(2022年5月5日~9日)


"MIRACLE"Another Side

暗闇の底に、ゼロは倒れていた。

ずっしりと重く、それでいて脱け殻のように冷たく、頼りなく、思うように動かない身体。

 

虚ろなその身体を満たしているのは、先ほどまでの熾烈な戦いの記憶。

灼熱の(セイバー)を振り上げ、振り下ろし、憎しみではなく深い悲しみを込めて幾度も自分の名を呼ぶ"相手"を、情け容赦なく傷つけ、打ちのめした。

 

裏切りの黒か、返り血の赤か――今、自分の(アーマー)はどちらの色なのか、それすらもわからない。

 

『よう、どうした? 何をしょぼくれてんだ? ははは、おまえらしくないぜ。こんなところで寝てんなよ。』

 

場違いなほど陽気な声とともに、懐かしい姿が――もはやこの世のものではないはずの旧友の姿が、闇の中に現れた。

背中に畳まれた二枚の翼、小憎らしいような笑みを浮かべた嘴。かつて『天空の貴公子』と呼ばれた、気高き大鷲の男。

 

「イグリード……オレは……オレは、どうすればいい……?」

 

彼の足元に横たわったままで、力なくゼロは問いかける。

 

「今、オレは……戦っていたんだ、エックスと……シグマに、操られて……」

『目が覚めたんだな。それなら、早く戻ってやれよ。エックスは今、この瞬間にも、ズタズタの身体で、独りでシグマと戦ってるんだぜ。これ以上待たせるな。』

「できない……!」

 

ゼロはよろよろと上体を起こし、弱々しくイグリードを見上げた。

 

「アイツを、さんざん傷つけちまったんだぞ……! 生命まで、奪おうとしたんだ……アイツを殺して、自分も死のうとした……! シグマの鎖につながれた"裏切り者"のオレが、どの面下げて、アイツのところへなんか戻れるんだよ……?」

 

 

 

 

ゴン! と鈍い音がした。

イグリードの鉄拳が、ゼロの脳天に振り下ろされていた。

 

「痛ッ! ……何しやがる!」

 

思わず大声をあげるゼロの前で、イグリードはやれやれといった様子で、大袈裟に肩をすくめながら言った。

 

『あーあー、がっかりしたぜ! 相変わらず馬鹿だな、てめーは! そんなんだから、いつまで経ってもオレに勝てねーんだよ。この、オカマもどきの金髪ヤローが!』

「何だと……、もういっぺん言ってみやがれ、この鳥ガラ!」

 

ゼロは我を忘れ、イグリードに掴みかかろうとした。

だが実際には、いまだいうことをきかない身体が、ほんのわずか這うように動いただけだった。

 

昔の悪友時代に戻ったように、イグリードは笑いながら挑発的に言葉を続ける。

 

『バーカ! シグマの鎖だ? そんなもん、もうどこにも無ぇだろうがよ。さっき、エックスにぶっ壊されたのを忘れたのかよ! ……鎖はな、身体を縛ることはできても、魂までは縛れないんだ。』

 

ゼロははっとした。そうだ、この男も同じだ。

シグマの最初の反乱でその軍門に下り、多くの犠牲を払いながらも、最後にはエックスを"希望"と呼び、新たな力を与えた――自らの生命と引き換えに。

 

「シグマの鎖は……おまえの魂は、縛れなかったな……」

 

呟くゼロに、イグリードはうなずいた。

 

『ああ。おまえだって、そうさ。たとえ、まだ縛られていたって、自分で断ち切れるだろ? ……オレと彼女(ティル)のことだって、いつまでも引きずってんなよ。アレは、おまえのせいなんかじゃない。』

 

 

 

 

「イグリード……!」

 

青臭いライバル意識や、過剰なまでの自信。

若々しい明るさに満ちていた"あの頃"。

 

大空にはかなく散っていった花と共に、突然に訪れた、その終焉。

そして、握り返すことができなかった、和解の手。

 

彼と共にあったこれまでの記憶が、閃く稲妻のようにゼロの中を駆け抜けた。

 

『おら、いつまでそうやってんだ! わかったら、さっさと立てっつーの!』

 

"あの時"のやり直しででもあるかのように、イグリードの手が、もう一度ゼロの前に差し出される。

ゼロは、左手を地面に突きながら、今度こそはとばかりに、必死で右手を伸ばした。

 

だが、震えるその手がもう少しで届きそうになった瞬間、イグリードは突然、自分の手をひょいと引っ込めた。

掴まろうとしていた支えを失い、ゼロの上体は、再びその場に崩れ落ちてしまった。

 

『ギャハハハ、ざまーみやがれ! 本気で手ぇ貸すとでも思ったのか、あ? この馬鹿が!』

 

イグリードの馬鹿笑いが響く。だが、すぐ目の前に居たはずの彼の姿は、どこにも無い。

 

「イ、イグリード……どこだ?」

 

嘲弄された怒りよりも不安を感じて、ゼロはすぐさま身を起こそうとした。

相変わらず、重く鈍い身体。だが、それを持ち上げようとする両腕には、確実に、前よりも強い力が込もりはじめていた。

 

闇の中から――明らかに、先ほどよりも遠くから――イグリードの声が聞こえてきた。

 

『あがけ、あがけ! ……オレは、もう"過去"なんだ。"過去"にしがみつくな! おまえがシグマに操られてたのだって、もう"過去"だ。おまえは、"現在(いま)"を生きてる。エックスもな! 生きてるなら、あがけ! 最後まであがいてみせろ! "未来"のために!』

 

 

 

 

彼の気配が、完全に立ち去ったのがわかった。

ゼロは、暗闇の中に独り残された。

 

「く、くくく……」

 

地面に這いつくばった格好のままで、ゼロは笑いだした。

 

「馬鹿はどっちだよ、鳥公が! 誰がてめーの手なんざ借りるかよ。あがいてやるさ! 独りで立ち上がってやる、今すぐに!」

 

脱け殻のように虚ろだった全身に、次第に力がみなぎってくる。

断ち切ってやる。シグマの呪縛も、戻らない過去も。

 

現在(いま)を生きろ、未来のために。エックスのために!

 

 

爆煙の中で、エックスは、辛くも立ち上がった。

苛烈な戦いの連続に、彼の身体は軋み、悲鳴をあげていた――その胸には、冥府から舞い戻った魔王の署名(サイン)のように、深い切り傷が生々しく刻みつけられていた。

 

「相変わらずの根性だな……しかし、もう"恐怖"は感じんぞ。」

 

両手の甲に長く鋭い爪を光らせたシグマが、残忍な笑みを浮かべる。

エックスは、再びバスターを構えた。その顔を、もう一度ひきつらせてやる!

 

だが、ショットを放とうとしたその瞬間、不意に、何者かの手がエックスの腕を掴んだ。

音もたてず、黒い影のように、傍らに立っていたのは――ゼロだった。

 

「ゼロ?」

 

驚きと失望に、エックスの身体は凍りついた。

無二の親友でありながら、敵として現れたゼロ――その額に埋め込まれ、彼を操っていたΣチップは、確かに破壊したはずなのだ。

 

だが、今、エックスのバスターに手をかけながら無言で立つゼロの鎧は、いまだ、シグマの悪意にまみれたような漆黒に染まっている。

ダメなのか……ここまで必死に自分を奮い立たせてきたエックスの心が、震えた。

 

 

 

 

その時。

ピシリと音をたてて、ゼロのヘルメットが、真っ二つに割れた。

 

息を飲むエックスの前で、輝く金髪がひるがえり、まばゆい光がみるみるうちにその全身を染め変えていく――絶望の黒から、生命の赤へ。

割れたヘルメットは二人の足元に落ち、エックスの目の前には、それを脱ぎ捨てた親友の晴れやかな顔があった。

 

「おまえ独りの力じゃ、シグマは倒せないぜ。」

 

完全に呪縛から解放された彼の、懐かしく、頼もしい笑顔。

エックスの心は、もう一度震えた――長い長い孤独と苦難の道のりの果てに、ようやく、自分の知る彼を取り戻した、歓喜の瞬間だった。

 

――しかし、ひとまず、挨拶は後だ。

 

「協力してくれ、ゼロ!」

「決めるぞ、エックス!」

 

復活した最強の相棒(バディ)の反撃が始まった。

二人の全エネルギーを、シグマにぶつける。

 

エックスはバスターに、ゼロは拳に、それぞれ、持てるありったけのエネルギーを込めて放った。

空を切るエックスのチャージショットと、地を這うゼロのアースクラッシュ。

 

二つのエネルギーの塊は互いに引き合い、融合し、巨大な光となってシグマに迫った。

 

 

「……かかったな、愚か者どもめ。わしのこのボディは、ただのダミーなのだ。この一撃で力を使い果たしたキサマらは、もう動けまい。わしの本体は、この基地そのもの……ダミーボディの破壊と同時に開始される、人類抹殺を見ながら朽ちていくがいい!」

 

目前に迫った邪悪な計画の実現に、シグマは早くも酔い痴れる。

――だが、勝利を確信し、傲った彼が、ついに知る由もない。

 

青と赤、二人の勇者が放った渾身の光。

それが、世界を覆う闇を打ち払う、最初の狼煙となることを。

 

やがて、"心"を知るマザーコンピューターが、その狼煙に応え、

"白衣の老人"に託されたプログラムにより、勇者に新たな力を与え、

 

魔王を再び冥府へと送り還す、更に大きな光を生むことを。

 

 

(完)

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