ロックマンX二次創作 作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ
『ふたり』シリーズ第二弾(?)一夜を共に過ごしたゼロとアイリス。別れの朝は淋しいけれど、次の「ただいま」「お帰りなさい」まで、少しの辛抱です。
(2023年6月8日)
夜が明けようとしている。
窓ガラスの彼方に広がる漆黒の空は次第に明るくなり、深い藍色へと変わり、残っていた星たちも次々に姿を消していく。
メンテナンスベッドに身を横たえ、ゼロは視線をじっと窓の向こうに向けていた。
しばらく前から目覚めていたが、すぐ傍らに眠るアイリスを起こすまいと、彼は身じろぎもせず、空の色の移り変わりを眺めていた。
愛する者と二人、小さな巣のようなベッドで安らかに寄り添っているこの時が、少しでも長く続くように。
柄にもなく、心の中でひそかにそんなことを願いながら。
だが、近づく夜明けの足音は待ってはくれない。
それは、精一杯の優しさで彼らに気づかないふりをしながらも、決して立ち止まることはない。
やがてゼロは小さくため息をつくと、意を決して、それでも可能な限り静かに、身を起こした。
彼の指の間をすり抜けて、彼女の深い茶色の髪が滑らかにこぼれ落ちる。
その感触を、昨夜の余韻を惜しむように、ゼロは空になった手を握り、また開いた。
不意に、彼のその手を、彼女の手が捉えた。
――行かないで。
ほんの一瞬、強く込められた力が、そう訴えていた。
ゼロは戸惑った。やはり、起こしてしまったか。
しかし、アイリスの手からはすぐに力が抜けた。
無論、彼女にもわかっているのだ――足早に過ぎ去っていく夜も、再び戦いにおもむく彼も、自分の手で引き留めることなどできないと。
ゼロの手が、アイリスの手の中からするりと出ていく。
そのまま離れるのではなく、小指だけが残って、アイリスの小指にしっかりと絡んだ。
――必ず戻る。
その仕草は、鋼鉄のフックよりも強く二つの心を結びつける絆を示していた。
アイリスはうなずいた。朝に満たされていく部屋の中で、彼女の笑顔がはっきりと見えた。
ゼロも笑ってうなずき返すと、小指を解いて立ち上がり、決然たる足取りで部屋の戸口へと向かった。
そして、すぐに引き返してきた。
彼ともあろうものが、うっかり挨拶もせずに出ていくところだった。
ベッドの上に起き上がったアイリスの身体を、ゼロはもう一度、両手で抱擁する。
それから、優しく唇を重ねた。
窓から飛び込んできた朝日の光の矢が、もはや何の遠慮も無しに、彼らの姿を照らす。
そのまばゆい光の中で、二人は初めて言葉を交わした。
「行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
なんということのない、朝の挨拶。
それでも、互いの愛を存分に確かめ合い、満ち足りた心からの、力強い言葉。
戦う者は帰る者に、祈り待つ者は迎える者に、
――ただいま。
必ず、再びなれる時が来ることを信じて。
――お帰りなさい。
(完)