ロックマンX二次創作 作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ
(2023年11月2日~9日)
十月三十一日。今夜は、ハロウィンです。
電脳世界ディープログの中にも、妖しくも陽気なお祭りムードが漂っています。
管理人のリコも、さっそく、アイドル姿ではめを外しています。お揃いの衣装を着せられたアイコは、ちょっぴり恥ずかしそうですが、まんざらでもない様子。
ヴィアは珍しく、ダークな雰囲気のタキシードに、フード付きマントといういでたちです。とはいえ、いつもの軽口は変わりません。
任務を終えたハンタープログラムたちも、思い思いに、夜の街へ繰り出そうとしています。
(ここぞとばかり大騒ぎするオタクロイドたちには、注意が必要ですけれどね!)
もちろん、アイリスも。
彼女は、ドキドキそわそわしながら、ゼロが任務から戻ってくるのを待っていました。
今夜のアイリスは、いわゆるゴシックロリータスタイルの、黒ずくめのドレスを着ています。
ゼロには、その衣装で会うことは秘密にしています――彼は、彼女の姿を見て何と言うでしょうか?
「うふふ。ゼロはきっと、このドレスを見たら驚くわね。……でも、もし彼が気に入らなかったらどうしよう。似合うって言ってくれるかしら……?」
実は彼女は、ハロウィンの夜にゼロと出かけるために何を着たらいいのか、何日も前からずっと悩んでいたのです。
悩みすぎたあまりに、一度などは本気で"ジンオウガの鎧"を着ていくつもりになり、心配したカーネルと渾然に全力で止められたのでした。
街は輝きを増し、ちょっぴり不気味なハロウィン風ブルースステージのメロディーが、夜風に乗って聞こえてきました。
いまだ現れない想い人を待ちながら独りたたずむアイリスの傍らを、仲間たちが次々に通り過ぎていきました。
「やぁ、アイリス。」
最初に通りかかったのは、エックスとエイリアです。
エックスは、デビルメイクライのダンテの格好をしています。普段青いアーマーの彼が全身赤の衣装を着けているのは、とても新鮮に見えます。
「ゼロを待ってるの? 彼ったら、遅いのね。」
エイリアが心配そうに訊ねます。彼女は、キラキラ光る黒いスパンコールのミニドレスに、コウモリの翼を模したケープを羽織っています。
「エイリア、ステキ……!」
いつもより大胆なエイリアの姿に、アイリスは思わず見とれそうになりながら答えました。
「え、ええ。"プレーヤ"さんが離してくれないみたいなの。でも、きっともうすぐ戻ってくると思うわ。」
「そうだね、すぐ来るよ。アイリス、寒くないようにね。」
「ありがとう。」
エックスとエイリアは、寄り添いながら街の方へ歩き去っていきました。
アイリスは、二人を見送りながら呟きました。
「私も、もっと大人っぽい服にすればよかったかしら……?」
そこへ今度は、アクセルとパレットがやってきました。
「ハーイ、アイリス。待ち合わせ?」
アクセルは、白いコートのアイドル姿でバッチリキメています。
ところが、先ほどのエックスとエイリアとは違い、二人の間には微妙な距離が開いています。
アクセルの後ろから、パレットがおずおずとついてきます――彼女の衣装は、もこもことしたかわいらしい黒猫の着ぐるみです。
「まぁ、パレット、かわいい!」
アイリスは、思わず声をあげました。
するとパレットは立ち止まり、顔を赤くしながら、すごい勢いでこちらへ走り寄ってきました。
「ア、アイリス! ア、アタシ、裏切られたの!」
「えっ?」
「ア、アイツが、お揃いにするって言うから! ア、アタシ、コレ用意したのに! じ、自分だけ、あんなビシッとキメちゃって……! ア、アタシ、合わないじゃん……!」
でも、アクセルはあっけらかんとしています。
「あははは、ごめんごめん! 本気だったんだよ。本当にお揃いにする気はあったんだよ、三日前までね。」
「なんで急に気が変わったのよぅ! しかも、なんで言ってくれなかったのよぅ……!」
「ごめんごめん。だって、やっぱりこの方がかっこいいかなって思ったんだよ。それにさ、ボクと衣装が合わなくたって、パレットがかわいいことには、全然変わりないでしょ?」
すると、パレットはますます顔を赤くしながらうつむきました。
彼女は、その顔を、もこもこの着ぐるみの両手で覆うようにしながら、小さな声で言いました。
「え、あの……本当? ア、アクセル……アタシ、かわいい……?」
「本当だよ。パレット、いつもかわいいじゃん。ね、だから恥ずかしがらないで、行こう。」
「うん……!」
アクセルが優しく差し出す手を、パレットはそっと取りました。
「アイリスも、ゼロと一緒に行くんだよね?」
「ええ。きっと、もうすぐ来るわ。」
「あんまり遅かったら、アタシも一緒に怒ってあげる。また後でね!」
ようやく、仲良く並んで歩けるようになった二人を見送って、アイリスはくすくす笑いました。
「よかったわね、パレット。……ああいう衣装もいいわね。やっぱり、コレだとちょっとありきたりかも……」
それから、アイリスはまた待ちました。
今度は、キュートでセクシーな女性三人組と、ノリノリな男性三人組がやってきました。
いつもと違うカラーリングで開放的なデザインの衣装を着たマリノ、春麗の衣装に"にゃんこグローブ"を着けたシナモン、モリガン・アーンスランドに扮したレイヤー。
そして、吸血鬼風のスーツをまとったシグマと、ボディカラーをダークレッドに変えたVAVA、なぜかスイカ模様の身体にレイを着けたアイシー・ペンギーゴ。
「わぁ、みんな、すごいわね!」
アイリスは感嘆の声をあげました。
六人は、口々に応えました。
「あれ、アイリス。まだ出かけないのかい?」
「ステキなドレスですね! お姫様みたいなのです!」
「ゼロさんを待ってるの? 任務、まだ終わらないのかしら。」
「ふむ、ゼロはどんな仮装をしてくるのか、気になるな。」
「ヒャッハー! とにかく、はじけてりゃいいんだよ! ……つか、このスイカヤローは何考えてんだか、オレでもわからんがな。」
「黙れクワ。ハロウィンを楽しむのに、難しく考える必要は無いクワ!」
アイリスは思いました。
「そうね、私もこのくらいはじけてみてもよかったかも。……やっぱり、今から"ジンオウガ"に変えてこようかしら?」
やがて、彼らが街へ向かった後も、アイリスはまた独りでゼロを待ちつづけました。
自分の衣装は本当にベストだったか、ゼロはどんな衣装で現れるのか、彼に最初にどんな言葉をかけようかと、さまざまに思いをめぐらせながら。
けれど、その彼は、待てど暮らせど影すら見せません。
大勢の仲間たちと、夜風に吹き飛ばされる落ち葉と、長い時間が、次々に彼女を追い越していきます。
最初にここに来た時のときめきはすっかり鳴りをひそめ、今、アイリスの胸は不安でいっぱいになっていました。
「どうしよう……ゼロの身に、何かあったのかしら……?」
オペレーションルームには、新たな顔ぶれが加わっていました。カーネルと渾然です。
リコもアイコもヴィアも、お祭り騒ぎを一時中断して、二人と一緒に何かを待っているようです。
そこへ突然、誰かが駆け込んできました。
息せききって入ってきたのは、アイリスでした。
彼女のただならぬ様子に、みんなはびっくりしました。
「ア、アイリス?」
「どうした、大丈夫か?」
「兄さん……渾然さん……みんな……」
アイリスは一同の顔を見渡し、叫ぶように言いました。
「お願い。今すぐ、私にダイブアーマーを着せてほしいの!」
「え、ええぇぇ?」
「ど、どういうつもりなの?」
「と、とにかく、落ち着いてくれって!」
リコ、アイコ、ヴィアが心配そうに彼女の周りを囲みます。
アイリスは、震えていました――彼女の目からは、大粒の涙がこぼれ落ちていました。
「私、どうかしてた……ハロウィンに夢中になって、考えてもみなかったの……ゼロは、まだ、危険な任務の最中で……独りで戦ってるわ……でも、もう、このままにしておけない……私も、彼と一緒に戦う!」
渾然が慌てて言いました。
「ま、待て! そんな必要は無いぞ!」
「やはり、もっと早く言うべきだったな……」
カーネルとリコたちは、気まずそうに顔を見合わせています。
「え、どういうことなの……?」
「ご、ごめんなさい、アイリスさん!」
戸惑うアイリスの両手を、リコがぎゅっと握りしめました。
「長く待たせちゃってるのは、わかってたんです……でも、まさか、そんなに心配させちゃうなんて思わなくて……! ゼロさんも、アイリスさんをびっくりさせたいだろうからって思って、黙ってたんです……! ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
「え……、それじゃ、ゼロは……?」
今度は、カーネルがすまなそうに言いました。
「無事だ。実は、しばらく前に戻ってきている。」
「本人は、すぐにでも貴女のもとへ駆けつけるつもりだったようだが、肝心の仮装の用意ができていなくてな。カーネルと私が一旦引き留めて、ここへ連れてきたというわけだ。」
渾然が、オペレーションルームの奥の研究室の方を示しました。
「本当にごめんなさいね、アイリス。私たち、誰も悪気があったわけじゃないの。」
「サプライズを楽しみにしててほしかったんだが、まさか泣かせちまうとはな……許してくれ。」
アイコとヴィアも、アイリスに詫びます。
アイリスは、リコに両手を取られたままで深くうなだれました。
「ア、アイリスさん……!」
リコは、おろおろと声を震わせました。
すると、アイリスはぱっと顔を上げました。
空中に涙の粒がキラリと散り、見守るみんなは一瞬ドキッとしました。
でも、彼女の顔に浮かんでいたのは、心からの安堵の、明るい微笑みでした。
「よかった……ああ、よかった……! ゼロは帰ってきてるのね! それさえわかれば、もう安心だわ!」
アイリスは本当にうれしくて、感謝したい気持ちでいっぱいで、思わず、今度は自分がリコの両手をぎゅっと握り返していました。
「ありがとう! ありがとう、リコさん!」
「え、えぇ~? あの、わ、わ、私は何も……!」
今度は、リコが戸惑う番。
ともかく、アイリスが笑顔を取り戻したので、みんなは一安心です。
そこへ、
「アイリス……!」
と、驚いた声と共に、ゼロが姿を現しました。
「ゼロ……!」
アイリスの目は、そのいでたちに思わず、文字通り釘付けになりました。
夜を支配する吸血公爵――そんな呼び名が相応しいような、赤と黒のタキシード。
背中にはコウモリの翼のマント、ヘルメットの額には、小さな鋭い角も付いています。
アイリスは頬を真っ赤に染め、初めて見る彼の妖しくも凛々しい姿に、うっとりと見惚れてしまいました。
「ゼロ……ステキだわ……!」
カーネルと渾然がうなずき合い、ヴィアが親指を立て、リコとアイコはハイタッチを交わしました。
どうやら、衣装選びは大正解のようです。
そしてもちろん、想い人の特別な装いに目を奪われたのは、ゼロも同じでした。
「ああ、アイリス……驚いた。見違えたよ。よく似合う、本当に。……でも、ずいぶん長く待たせちまったな。心配させてすまなかった。」
「いいの。もういいのよ、ゼロ!」
アイリスは、今度はゼロの手を強く握りしめました。
「お帰りなさい。本当に、無事でよかったわ。」
「ありがとう。どんな敵にだって、オレは負けないさ。キミがついていてくれさえすれば。」
「さぁ、お二人さん。いよいよ、お楽しみの時間だな。」
ヴィアが、猫のような目を細くして笑いながら言いました。
「そうよ、遅れを取り戻さなくちゃ。」
「早く出かけないと、ハロウィンが終わっちゃいますよ!」
アイコとリコも、二人を促します。
「楽しんでこい。だが、気をつけてな。」
「ふふ、この二人なら心配はあるまい。」
と、カーネルと渾然。
優しいみんなに見送られて、いよいよ、ゼロとアイリスはオペレーションルームを後にしました。
「本当に、すっかり遅くなっちまったな。急いで行こう。アイリス、高速移動は平気か?」
先ほどまで待ちぼうけのアイリスが立っていたあたりで、ゼロが訊ねました。
アイリスはうなずきました。ハンタープログラムである今の彼女には、普通に備わっている身体能力です。
「ええ、もちろん。」
「よし、それなら二人でダッシュだ。息を合わせよう。」
ゼロの腕が肩に回されたので、アイリスの胸は、思わず、トクン! と大きく鳴りました。
たちまち早鐘を打ちはじめる胸を懸命に押さえながら、アイリスも、ゼロの腰に腕を回します。
ぴったりと寄り添った二人は笑ってうなずき合い、今や宴たけなわの街へと向かって、電光のようにダッシュしていきました。
心から信頼しあい、互いの腕に身体を預け、長い髪をなびかせながら滑走するその姿は、優雅なアイスダンスにも似ていました。
不気味な枯れ木や山積みのカボチャ提灯に彩られた石畳の道を駆け抜け、あっという間に、ゼロとアイリスはテーマパークにたどり着きました。
きらめく光、音楽、そして、あふれる歓声が二人を包み込みました。
「大丈夫か、アイリス。疲れたか?」
ゼロがそう訊ねながら、アイリスの肩を離しました。
「い、いえ……大丈夫よ。」
アイリスは、ちょっと慌てて答えました――テーマパークに来た高揚感と、ゼロの手が離れてしまったことへのちょっぴりの名残惜しさと、それでも彼の優しい言葉にまたキュンとして、彼女のハートは大忙しだったのです。
一度離れた二人の手は、今度はしっかりとつなぎ合わされました。
それから、ゼロとアイリスは、仲間たちと一緒にいろいろなアトラクションを楽しみました。
ゴンドラが巨大なカボチャ提灯になった観覧車、いつもと違う不規則な動きのフライングカーペット、それにもちろん、呪われた古城のお化け屋敷も(ただし、お化けを攻撃してはいけません)。
何もかも忘れてひとしきり遊んだ後、二人はベンチで一休みすることにしました。
ゼロはホットワイン、アイリスはカボチャのカップケーキを、それぞれ二つずつ買ってきました。
ベンチに並んで座って、まずはホットワインで乾杯。
はしゃぎ疲れて少し肌寒さを感じていた身体が、内側からほっこりと温かくなりました。
「ああ、旨いな。キミは何を買ってきたんだ?」
「うふふ、コレよ。でもね……」
アイリスは、カップケーキを手のひらに載せて見せながら言いました。
「ハロウィンのお菓子をもらうためには、まず、決まり言葉を言わなくちゃ。」
「トリック・オア・トリート、菓子かイタズラか、か……」
すると、ゼロはアイリスの手からひょいとケーキを取って、こう言ったのです。
「どちらか、なんて選べない。オレは全部ほしい――ケーキも、イタズラも、キミも、全部だ。」
「えっ……?」
驚きのあまり、アイリスの身体は、そのままの姿勢で一瞬固まってしまいました。
ゼロはそんな彼女の手を取ると、ナイトのように、その甲に口づけしました。
アイリスの胸は、また激しく、痛いほどに高鳴りはじめました――妖しく甘く、ちょっぴり危険なハロウィンの夜は、まだまだこれから。
今度は彼女の唇を満たす口づけが、その始まりの合図です。
(完)