ロックマンX二次創作   作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ

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時にはガラスのように(アイデア)

「見事だ、ゼロ。」

 

床に膝を突いてうずくまった姿勢のまま、食い縛った歯の下から押し出すような声で、カーネルは言った。

見る影もなく傷ついたその顔は、ゼロとの最初で最後の真剣勝負を戦い抜いてか、満足そうな笑みをたたえていた。

 

しかし、その笑顔はほんの一瞬で消えた。

彼は再びゼロを睨みつけ、体内が激しく損傷していることを示すノイズ混じりの声で、鋭い言葉を発した。

 

「だが、同時に失望もした。なぜ、とどめを刺さなかった? 俺の動力炉を一撃で破壊できぬほど、未熟なお前ではないはずだ。もしも、この俺に情けをかけたとすれば……それは、戦場においてあるまじき行為、軍人としてこの上ない屈辱だ!」

「もうわめくな、カーネル。」

 

 

 

 

――友よ、俺を許せ。

このような有様になってなお、意地を張り通さずにおれぬ、堅物の俺を許せ。

 

我々は、『人類からの独立』という大義のもとに戦っていた。

だが、正確には、総司令官の妄念ともいうべきプログラムに従わされていたのだ。お前がそこから自由にしてくれて、ようやく目が覚めた。

 

何が、総司令官を、この恐ろしい世迷い事へと駆り立てたのかはわからない。

だが、友よ。わずかではあるが、まだ時はある。

 

お前なら、止められるだろう。

その肩にのしかかる重圧は、想像を絶するものに違いない。

 

それでも、我々は、最後の望みをお前に託すほかないのだ。

その背中を見送ることさえもはやかなわぬ、俺を許せ。

……そして、妹よ。俺を許せ。

お前が真に望んだ世界、人類とレプリロイドが平和に共存する世界。

 

そして、お前が愛する者と二人、幸福になれる世界。

お前と共にそれを望むことができなかった、無力な兄を許せ。

 

 

 

 

「ゼロ、」

 

アイリスは潤んだ目でゼロを見上げ、その視線をまっすぐに彼の瞳に向けて言った。

傷のためか、あるいは恥じらいからか、その声はほんの少しだけ震えていた。

 

「愛しているわ。」

 

――やっと、ちゃんと言えた。

 

この時、彼女の胸は、誇らしさで一杯だった。

 

「……俺もだ。」

 

ゼロは、右手で包み込むように彼女の頬に触れ、力強く応えた。

風に吹かれて消えかけている蝋燭の炎のように、今にも消えてしまいそうな彼女の意識を、生命を、呼び戻すために。

 

「俺もだ。愛している。誰よりも、君を。」

 

互いに、初めて相手の目を見ながらはっきりと口にした言葉だった。

互いを敵と見なさねばならぬ戦火の中で、互いを最も大切な者と認め合い、ようやく結ばれた、二つの心。

 

アイリスは、にっこりと微笑んだ。

この上なく幸福そうな、美しい笑顔だった。

 

そして、静かに目を閉じた。

愛する者の腕に身をゆだね、眠るように。

 

「アイリス……?」

 

ゼロの呼びかけに、彼女は応えない。

ゼロは、繰り返しその名を呼んだ。

 

だが、幾度繰り返しても、彼女の肩を揺さぶり叫んでも、その目が再び開くことはなかった。

ゼロは、アイリスの身体を、折れるほど強く抱きしめた――守らねばならなかったものが崩れ落ちていく、絶望の中で。

 

「アイリス……アイリス……!」

 

 

 

 

時間は、容赦なく進む。

抱きしめた腕の中からこぼれ落ちていった生命を嘆き、この場にとどまりつづけることは許されない。

 

せめてもの棺代わりとなったのは、緊急脱出用のカプセルだった。

手向けの花の一つも無いというのは、花の名前を持つ彼女の旅立ちにはあまりにも淋しく、不似合いに思えた。

 

安らかな表情で眠りつづける彼女を納めたカプセルは、静かに、星の海へと漂い出していく。

それを見送りながら、ゼロは震えた。

 

「……俺は、」

 

ひとしずくの涙が、足元に落ちた。

自らの光刃に貫かれるような痛みが、彼の胸を内側から激しく灼いた。

 

「アイリス、俺は、」

 

いっそ本当に、彼女とその兄の生命を奪った同じ剣を我と我が身に突き立てて、その苦痛を終わらせることができたなら。

それでもなお、彼はよろめく足を踏みしめ、再び走りはじめる。

 

果てしない宇宙の闇に呑まれ、誰にも届かぬ、声無き慟哭を哭きながら。

ガラスのように砕けた心をなおも衝き動かす、残酷なまでに固い、鋼の意志の命ずるままに。

 

 

「俺は、いったい何の為に、戦っているんだ……」

 

 

 

 

宇宙の暗闇を揺るがすような、大爆発が起こった。

"死神"の手駒へと変えられた衛星兵器は、その歪な役割を果たすことなく砕け散り、焼け落ちていく――誇り高き一人の男が自らの生命を燃やした、まばゆい炎の中で。

 

その炎をかいくぐって、一機の小型宇宙挺が星の海へと逃れ出た。

傷つき揺れながらも、その小さな翼は一直線に地球へと向かっていた。

 

舵を取る乗り手の心は、暗く虚ろだった。

闇を焦がす炎も、星たちのきらめきも、その胸に届くことはなかった。

 

「……これが、俺なのか、」

 

自分でも気づかぬうちに漏れた悔恨の言葉が、微かにコックピットに響いた。

 

「……本当の俺って奴なのか。結局、誰も助けられなかった……」

 

幾夜も繰り返される"悪夢"が、単なる"夢"などではなかったこと――自分がイレギュラーであったという事実。

その自分の手により散っていった友と、その妹――初めて愛した、愛しつづけたかった女性。

 

だが、いかに後悔しようとも、もはや誰一人戻ることはない。

全ての迷いを断ち切るように、宇宙挺は地球を目指して更に速度を上げていった。

 

 

 

 

突然、機体が身悶えるようにガクガクと激しく揺れた。

鳴り響く警告音と明滅する照明の中、操縦が利かなくなり、たちまち速度が落ちていく。

 

ついには音も明かりも消え、コックピットは闇と静寂に満たされた。エンジンが完全に停止したのだ。

補助エンジンへの切り換えを試みたが、それも反応することはなく、沈黙している。

 

「くそっ、こんなところで……!」

 

彼は、ようやく感情を取り戻したように、焦りを覚えていた。

炎の渦から乗り手を庇い、損傷した機体が、ここで力尽きたようだ。

 

 

償いきれぬあやまちを、尽きぬ痛みを、逃れられぬ業を背負ってなお、それでも生きろと、

アイリス、君がいうのなら。

 

俺は、再び生きよう。

そして、闘い抜こう。何処までも。

 

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