ロックマンX二次創作 作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ
(ゼロ)
彼は長い間、自分の過去というものを知りませんでした。
いつ、どこで、誰の手によって造られたのか。
目覚めた時に彼が持っていたのは、"ゼロ"という名前と、戦うすべ――ロボットを確実に破壊する技術、ただそれだけ。
もっとも、その時から始まった"イレギュラーハンター"としての日々には、ただそれだけがあれば充分でした。
過去のことなど、気にする暇はありませんでした。
人類と"レプリロイド"が共生するこの世界では、常に"イレギュラー"による事故や事件が起きていたからです。
彼は数多くの任務をこなし、たちまちのうちに、"特A級ハンター"にまで昇りつめることとなりました。
名誉欲などはありませんでしたが、彼は常に、渇望するかのように"戦い"を求めていました――ただ二つの思いによって。
人の世にとっての脅威となるものを、速やかに、全て排除しなければならない。
そのために、更に強くなりたい。
やがてある日、ゼロたちの部隊に新しい隊員が配属されることになりました。
その"エックス"と名乗る新人ハンターを見た時、一瞬、不思議な感覚がゼロを捉えました。
なぜか、今初めて会うのではないような、ずっと以前から知っているような気がしたのです。
無論、その青いアーマーを身にまとった、まだ頼りなげな小柄な彼の姿は、ゼロのただでさえ不完全な記憶のどこからも現れそうにはありませんでした。
でも、その時その瞬間に、すでにゼロの心は確信していたらしいのです――エックスが、"特別な存在"であるということを。
奇妙なことに、エックスもまたゼロと同じように自分の過去を知らず、どこから来たのかもわかっていませんでした。
その共通点が、出会って間もない二人をすぐに近づけた、一つの要因でした。
そして、エックスの持つ、ある意味での"特異性"。
エックスは、ハンターとなったにもかかわらず、イレギュラーを破壊することに強い抵抗を示していました。
彼は、被害を受けた人間やレプリロイドだけでなく、加害者となったイレギュラーをも救おうとしているようでした。
そのため、実はかなりの戦闘能力がありながら、それを自分で使いこなせず、"B級ハンター"に甘んじているような有様でした。
そんな彼の姿を近くで見ているうち、なぜか、ゼロはこう感じるようになっていきました。
今は表に出ていないが、恐らく、エックスはもっと大きな"力"を秘めており、"きたるべき時"にこそ、それは発揮されるのだと。
共に戦い、鍛え合ううち、いつしか、ゼロとエックスは互いに無いものを補える最高の相棒となり、"親友"と呼べる間柄になっていました。
ゼロには、戦う理由がもう一つ増えました――友として、必ずエックスを守る。"きたるべき時"、エックスの持つ真の力が必要とされる、その時のために。
でも、ゼロにはまだ知る由もありませんでした。
自分が、エックスを、"何"から守ろうとしていたのか。
やがて時を経て、彼は自分の過去とともに、その答えを知ることになるのです。
*
(Dr.ワイリー)
アルバートは直ちに、彼のプログラムを書き換えることを決めました。
人にとっての"英雄"となりうる性質である"HEROプログラム"から、全てを破壊し、無へと還す"ZEROプログラム"へ。そう、この時、彼の名は"ゼロ"となったのです。
肉体の寿命が尽きてからも、アルバートはこの地上に意識を残し、ゼロの封印が解ける時を待ちつづけていました。
やがて、ゼロは激しい暴走状態で目覚めました。彼は新プログラムの命ずるまま暴れ狂い、出会った全ての"レプリロイド"たちを、ことごとく残虐に破壊しつくしました。
まさしく、ここまではほぼアルバートの期待通りでした。このままエックスを見つけ、破壊することさえできれば。
ところが、不測の事態が起きました。
それは、あの"シグマ"を襲った時。
偶然にも、シグマは戦いの中で、ゼロの新プログラムの一部を自らの内に取り込んでしまったのです。
戦闘不能となり停止したゼロは、満身創痍のシグマと、彼の仲間の"イレギュラーハンター"たちに回収されました。
そして……次に起動した時には、あろうことかそれまでの記憶を全て失い、よみがえった旧プログラムに支配されていました。
アルバートにとって、いささか困ったことが始まってしまいました。監視対象としてイレギュラーハンターの一員となったゼロは、めざましい活躍ぶりを見せ、"人の世の平和のために戦う"旧プログラムの優秀さを、余すところなく証明してみせたのです。
後から、同じ部隊のハンターとしてついにエックスが現れた時にも、ゼロが自らの新たな使命を思い出すことはありませんでした。彼はエックスと共に戦う日々の中で、いつしか、エックスとの間に固い"友情"を築いていきました。
何をしておるのだ――アルバートは、思わず歯ぎしりしたいような気持ちでした。このままでは、いつまで経ってもトーマスに勝てません。
一方、皮肉にも、ゼロの代わりに新プログラムの性能を証明することとなったのは、シグマでした。
彼はある日、"人類からの独立"を掲げて反乱を起こしました。
新プログラムは、シグマの内部で独自の成長・進化・増殖を繰り返し、いつしか、シグマのボディという依り代をまとった"悪霊"――倒されても、新たな依り代を得て再びよみがえる"シグマウィルス"へと変貌を遂げていたのです。
この、思いがけず手に入った"新しい実験体"が見せた結果に、アルバートは大いに興味を引かれました。
そこで、彼は自らに"サーゲス"という仮のボディを造り、シグマの復活に直接手を貸すことにしました。
ゼロのボディを奪い、改造し、新プログラムによる人格を目覚めさせる。
しかし、またしても不測の事態が起きました。エックスの攻撃を受けたゼロは、再び旧プログラムの人格に戻ってしまったのです。
そう、まるで、エックスというロボットそのものが、新プログラムを無力化できる唯一の存在であるとでもいうかのように。
彼が二度に渡りシグマを倒すことができたのも、そのためかも知れません。
サーゲスのボディを失ったアルバートは、それから何年も、遠くからシグマ・ゼロ・エックスの観察を続けていました。
その間、シグマは、今度は"Dr.ドップラー"を利用して二度目の復活を果たしました。彼はもはや、アルバートの手助けなど必要としなくなっていました。
そして――当然の結果のように、またしてもエックスとゼロに倒されました。ゼロの中の新プログラムは息をひそめたままでした。
この時、シグマにとどめを刺したのはドップラーの開発した"抗体"であり、ウィルス体であるシグマは今度こそ完全に消滅したかに見えました。
その頃から、アルバートは"夢"を通して直接ゼロに語りかけることができるようになっていました。
*
(ゼロの独白)
オレはいったい、何なんだ。
人の世を守るために戦っていたはずなのに。
人の世に害を為す、多くの"イレギュラー"を倒してきたはずだったのに。
それなのに、なぜ、カーネルやアイリスまで、この手にかけた?
なぜ、守ろうとすればするほど、尊いものが壊れていく?
オレはただ、見境のない殺戮を欲しているだけなのか……?
あの"夢"の中のスクラップの山、血に染まったこの両手。
アレが、かつて本当に、本当にあったことなら……
シグマの言う通り、血に飢えた獣のような"イレギュラー"は、このオレだ!
今、やっとわかった。
オレが、エックスを"何"から守ろうとしていたのか。
それは、オレ自身――オレの中に居る、オレも知らないもうひとりのオレだったんだ。
いや、もしかしたら……
……本当は、"ソイツ"の方が本物で、今ここに居るオレは……
"ソイツ"が表に出たら消え失せる、幻……なのか……?
『ゼロ、わしの最高傑作……』
あんた、誰だ!
『倒せ、アイツを……』
あんたがオレを造ったのか? エックスを倒すために?
『行け! そして破壊しろ、アイツを!』
オレは、エックスを――
……
……
――倒す。
*
(Dr.ライト)
「博士……、オレは、オレは……いったい、何を……」
四肢を失い、痛々しい姿のエックスが、消え入りそうな声で必死に訴えています。
「ゼロを……お願いです、ゼロを助けてください! オレの生命を使って! お願いします、どうか……お願いします……」
エックスは泣いていました。自らの損傷になど気づいてすらいないかのように、ただ、友を思う言葉を、激しい嗚咽の下から、幾度も、幾度も繰り返しました。
トーマスはこの時、肉体が無いことを心の底から呪いました。せめて今だけは、血の通わぬ機械なりとも、彼を抱きしめてやる二本の腕が欲しいと思いました。
そうする代わりに、トーマスが彼に与えたものは、深く長い眠り。
再び立ち上がり、仲間と共に生きるための新しい身体。
そして、封印しました。
彼の心を押しつぶす十字架となりうるもの――最愛の"友"に関する記憶を、全て。
「……眠らせてやったのかね?」
いつの間にか、アルバートが――ほとんど"気配"だけのようなものでしたが――トーマスの近くに居ました。
トーマスは、うなずいて答えました。
「ああ。……キミの方は?」
「こっちもそうさ。……以前のわしなら、こう考えていたかも知れん。エックスを倒せなかったコイツは失敗作、もはや生き返らせる価値は無い、と。だが、今は……」
アルバートは、ため息をつきました。
「……もう、終わりにするべきじゃな。彼を、単なる野望達成のための"道具"として扱うことを……世界は、まだこれからも続いていく。そこで再び生きていく、人と同じ心を持った彼の、"幸せ"について少しは考えてやらねばならんだろう。」
この言葉に、ふとトーマスは懐かしさを覚えました。
自分のよく知っている、若かりし日の友が戻ってきたように感じられました。
*
(エックス)
数えきれないほど何度も、陽は昇り、沈みました。
長い長い混乱の時が過ぎ去り、月日とともに、世界は静けさを取り戻していきました。
シグマとの最後の戦いの後、エックスは生き残った仲間たちと共に、荒れ果てた世界を再生させるための活動を開始しました。
理想郷"ヘブン"を目指すその活動は、様々な困難を乗り越えながら少しずつ着実に進み、ようやく実っていました。
エイリア――今は、彼の"伴侶"となっています――が完成させたプログラムは、イレギュラー発生率を限りなく0に近づけました。
やがて、イレギュラーを破壊処分する"イレギュラーハンター"は解体され、より小規模な"ガーディアン"という組織へと生まれ変わりました。
こちらは、レプリロイドたちを見守り、時折発生するイレギュラーの修理・更生を目的とするものです。
完璧なものなどは無いけれど、今はほとんど全てのことがうまく回るようになったと思えます。
これこそが、"ヘブン"――エックスが思い描いていた、理想郷です。
彼は、この新しい世界に、おおむね満足していました。
……たった一つ、大切な何かが欠けているという感覚を残して。
――その"新人ガーディアン"を見た時、一瞬、不思議な感覚がエックスを捉えました。
なぜか、今初めて会うのではないような、ずっと以前から知っているような気がしたのです。
無論、その赤いアーマーを身にまとい、長い金髪を背中に垂らした"彼"の姿は、エックスの過去の記憶のどこからも現れそうにありませんでした。
でも、その時その瞬間に、すでにエックスの心は確信していたらしいのです――"彼"が、"特別な存在"であるということを。
……いいえ、違います。
エックスは、確かに"彼"を知っています。
「……欠けていたものは、これだ。"彼"だったんだ。」
事務的な自己紹介をさえぎって、エックスはせきこんで言いました。
「待って。オレは知ってる。キミは……キミの、名前は……」
思いがけず涙があふれてきて、言葉を続けられなくなりました。
エックスが突然泣き出したことに驚いた様子だった"彼"も、この時、全てを思い出したようです。
「……エックス。キミは、エックスだな。」
「そうだよ。そうだよ、ゼロ。……お帰り。」
数奇な運命に翻弄されつづけた二つの魂は、今、ようやく再会を果たしました。
新しい世界で、その世界を、今度こそ共に守りつづけていくために。