ロックマンX二次創作 作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ
(2024年9月22日)
今年もまた、夏が終わろうとしている。
真昼にはまだまだ熱く燃えさかる太陽も、次第に早く沈むようになり、無機質なガラスの摩天楼の谷間にも、ひんやりとした風が秋の気配を漂わせはじめる頃。
その日の午後、ゼロとアイリスの姿は、人気のかき氷専門店にあった。
それぞれ、イレギュラーハンターとレプリフォースという組織に属する二人が一緒に過ごせる機会は、そう多くはない。
忙しい任務の合間を縫って、ようやく取り付けた約束の日。
まぶしい光が降り注ぐ通りに面した窓際のテーブル席で、二人は互いの笑顔を確かめるように向かい合っていた。
「ゼロ、今日はありがとう。本当にひさしぶりね。元気そうでよかったわ!」
声を弾ませるアイリスの前には、ガラスの器にふんわりと盛られた、マンゴーとパッションフルーツのかき氷が置かれている。
まもなく販売終了となる、この夏の限定商品だ。
「あ……あ……ああ、キミも。今年は、その……なかなか時間が取れなくて、すまなかった。」
ゼロの目は、ずっと、表の通りにあふれる光よりもまぶしいアイリスの姿に釘付けになっていた――自分の前の、白玉抹茶小豆の氷のことすら忘れるほどに。
今日の彼女は、涼やかな菖蒲柄の浴衣に身を包み、髪もアップに結い上げて、向日葵の簪で飾っている。
急ぎ足で過ぎ去っていく夏を追いかけるような装いだ。例え、会えるのが短い間だけだとしても、そのために時間をかけて選び、準備してきたのだろう。
「夏らしいな。初めて見たが、よく似合う。……といっても、特段、夏らしい場所にも行けなかったが。」
「ううん、いいの。ゼロと一緒に、このお店に来られただけでも充分よ!」
輝くばかりの笑顔でそう応えた後、アイリスは静かに付け加えた。
「……それにね、ゼロが無事でいてくれたことが、何よりもいちばんうれしいの。特別なことなんて無くても、短い間でも、一緒に居られるだけでいいのよ。だから、今日はこうして会えて、本当によかった。」
「アイリス……」
彼女のその言葉、今日の装い、屈託の無い笑顔。
それらに少しでも報いるためにどうするかということを、ゼロは、自分の氷が溶けてしまっても気づかないほど集中して考えはじめていた。
「んー、冷たい! おいしいわ! ……ゼロ、どうしたの? 早く食べないと、溶けちゃうわよ。」
サクサクと軽い音をたてて自分の氷を口に運びながら、アイリスが慌てた声で言う。
「アイリス、この後に行きたいところはあるか?」
「あ……特に考えてないわ。ゼロは?」
「オレも、たった今思いついたんだが……プラネタリウムはどうだ?」
「え?」
アイリスの瞳が、期待に満ちはじめた。
「浴衣には、夏祭りや花火が似合うはずだが、そういったものを見る機会は無かったからな。せめて、一緒に星空を眺めるだけでもと思ったんだ。」
「まぁ、ステキ! それなら、お祭りや花火が終わった後みたいな気分になれそうね!」
大賛成の様子で、はしゃいだ声をあげるアイリス。
その頬がほんのりと染まり、彼女は小さく呟いた。
「……それに、ゼロともっと近くなれるわね。」
例え人工の疑似体験であっても、そこにあるのは"夜の闇"だ。寄り添う恋人たちの味方となってくれるだろう。
「ああ。……キミをひとりじめできる。」
カチャン、と鋭い音がした。ゼロの言葉に真っ赤になったアイリスが、思わずスプーンを手から離してしまったのだ。
二人は慌てて肩をすくめ、周囲を見回す――それなりに客は居るが、彼らを見咎める者はないようだ。
二人は顔を見合わせ、くすくすと笑った。
「よし、そうと決まれば、すぐに向かおう。」
「ちょ、ちょっと待って! ゼロったら、まだ食べ終わってないじゃない。もう溶けちゃってるわよ!」
「し、しまった!」
この後、彼らが向かうのは、満天の星空の下。
きらめく星座たちに見守られ、そこにはきっと、どんな物語にも負けない、二人だけの夏の思い出が生まれるはずだ。
(完)