ロックマンX二次創作 作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ
・シエルの研究所は『シェルター』の中にあり、彼女はそこで避難民たちと暮らしている。
・エックスはボディを持たず、『青い光』の姿でゼロの前だけに現れる。ゼロには、過去の彼に関する記憶も無い。
(2025年10月16日~19日)
「シエル、お水持ってきたよ!」
「ねぇねぇ、今度は私が撒きたい!」
「はーい、ありがとう。見て、ほら、昨日より葉っぱが大きくなってるわよ。」
「本当だ!」
「かわいい~!」
「みんなで大事に育てて、キレイなお花を咲かせましょうね!」
「はーい!」
『ふふ、おはよう、ゼロ。やっと目が覚めたみたいだね。とはいっても、長い遠征の後だから仕方ないか。お疲れ様。』
エックス……あの子たちは、何をしているんだ?
『小さいけど、花壇を作ったんだよ。花の種を撒いて、みんなで世話をしてるんだ。』
そうか。……子供たちもシエルも、しばらく見なかったような笑顔だな。
『そうだね。……今、みんなのあの笑顔があるのは、キミのおかげだよ、ゼロ。』
シエルの笑顔。
それは、特別な力を持っている。
このシェルターの中の重苦しい空気を吹き飛ばし、子供たちひとりひとりを安心させ、勇気づける力だ。
だからこそ、彼女はみんなに慕われ、必要とされている。
まさに、輝く太陽のような笑顔。
……その太陽の光は、オレにも届くだろうか。
オレも、あの子供たちの輪に加わって、彼女の笑顔のそばに居ることが許されているのだろうか。
……いや、違う。何を考えている。
オレはレプリロイド、"機械"だ。そして、彼女たちは人間、"生命"。
"生命"を守るために存在する"機械"、それが、ここでのオレだ。あの笑顔の輪に加わることなんてできない。遠くからそれを守る、盾であらなければ。
『……ゼロ、みんなのところへ行かないの?』
ああ。……特に、シェルター内に異常も無さそうだしな。オレは、次の戦いのために、武器の準備でもしておこう。
『でも、シエルはキミのこと、ずっと心配してたよ。しばらく、ろくに話もしてなかったでしょ。戦いっぱなし、眠りっぱなしだったんだから。』
……戦うのは当然だ。挨拶は、また後でもいい。今は、彼女と子供たちの時間だろう。
『そんなこと……子供たちだって、キミの顔を見たら喜ぶよ。行ってあげようよ!』
「あ、ゼロ!」
「ゼロが起きてる!」
「あら、ゼロ! ああ、よかった……!」
おい、エックス! ……チッ、消えやがった!
「身体は大丈夫? ここへ戻ってきた時、ひどい傷だったのよ。何日も眠りっぱなしで……どれだけ心配したか……!」
シエル……泣いてるのか。オレなんかのために、涙を……?
……問題は無い。身体機能は、全て回復した。また、すぐにでも戦える。
「ゼロったら……相変わらずね。こんな時まで、そんな調子でなくてもいいのに……」
「えへへ。なんかゼロってさ、シエルと居る時、わざとツンツンしてるよね?」
「そうよね! 本当は、シエルのこと好きだけど、恥ずかしいんでしょ?」
「ちょ……ちょっと、あなたたち!」
「だって、そういうふうに見えるもん!」
「シエルもゼロが好きなんだから、そう言えばいいのに!」
……ありえん話だ。人と"機械"の間に、そんな関係は生まれない。
「……、そ、そうね……」
「シエル……」
「シエル、また泣きそう……」
……しまった。やはり、口を開くべきではなかったか。
「ううん、大丈夫よ。それじゃ……後で、新しい行動計画の話をしましょう。」
「ねぇゼロ、戦いのことばっかりじゃなくてさ、この花壇見てよ!」
「みんなで、頑張って作ったのよ! ほら、こんなに葉っぱが出てきたの!」
「そうそう。野菜の種と一緒に、花の種も手に入ったのよ。大切に育てて、このシェルターのみんなの心の拠り所になればいいと思ってるの。」
ああ……確かにこのご時世、花は貴重だな。コレは、何の花なんだ?
「ヒマワリだよ!」
「ヒマワリって、小さいお日様みたい!」
「うふふ。今はヒマワリだけだけど、もっとたくさんのお花を育てられるようにしたいわね。」
「うん! ボクたち、植物のデータをいっぱい見て、勉強したよ!」
「そう、いっぱい覚えたのよ! バラに、マーガレットに、水仙……ヒヤシンスに、アイリス!」
なに? ……何だって?
「ゼロ?」
違う……ソレは、単なる花の名前じゃない……
オレの過去、遠い昔……思い出せない、いや、思い出してはならない、何か……!
うわああああ!
「どうしたの? ゼロ、大丈夫?」
ダメだ! オレは、オレは、壊しちまう……壊しちまうんだ……!
「ゼロ、しっかりして!」
この手は、壊してきたんだ! これまでにも、多くのものを……数えきれないほどの、大切なものを……!
「ゼロ、どうしちゃったの……?」
「シエル……、アタシ、怖い……」
「あ……びっくりしちゃったわね、大丈夫よ。ゼロは、悪い夢を思い出しちゃったみたいね。お部屋に戻っててくれる? ちょっと、二人だけでお話するから。」
「うん、わかった!」
「ねぇ、早く行こう!」
シエル、キミもだ! キミも、今すぐオレから離れろ! オレには、キミたちの近くに居ることなんて、許されない……
「ゼロ……」
「ゼロ、大丈夫よ……」
何をする!
「私は、あなたのことを、ほとんど知らない……あなた自身が、そうであるように……」
触れるな! 離れろと言ったんだ……!
「ここで目覚める前のあなたに、何があったのか……"伝説の英雄"と呼ばれるあなたが、かつて、何を経験してきたのか……でも……」
……温かい腕だ……
温かく、優しく、そして、強く儚い、"生命"を感じる……
安らぎと、不安……このまま、こうしていていいのか……?
彼女を傷つけ、また、取り返しのつかない何かを、壊してしまうかも知れなくても……?
「でも、それでもね……あなたは……あなたは、私の大切な人なの……!」
シエル……!
「……ごめんなさい。変なこと言ってると思うわよね? わかってるの。私の気持ちが、戦うあなたにとっての重荷になるかも知れないし、第一、あなたの心には、私なんかを受け入れる余裕は無いかも知れない!」
シエル、それは……
「でもいいの。これだけは、伝えたかったの。例え、あなたの心の奥に、あなたも知らない深い暗闇があるとしても、私はいつでもそれを抱きしめることができるって……」
まさか、本気なのか……そんな……オレなんかに、どうして……?
「はー……聞いてくれてありがとう、落ち着いたわ。今の話、忘れちゃっても大丈夫よ。それじゃ、また後で。次も頑張ってもらうから、今のうちにしっかり整備しておいてね。」
……待ってくれ、シエル!
「何?」
その……今の言葉は、キミの本心なのか……?
「そうよ。……そうだったら、あなたは……?」
……本当に……
「えっ?」
本当に、いいのか……オレは"機械"で、キミは"生命"だ……
「いいえ、あなたもよ。あなたも、私たちと同じ、"生命"……何も変わらないわ。」
オレも……オレも、"生命"……?
「そう。……鉄の身体で、冷たく見えても、あなたは"怒り"や"涙"を知っている……私たちみんなへの、"優しさ"もね。あなたは、ただ戦うだけの"機械"なんかじゃないのよ。」
……
……シエル、オレの答えを言う。
「えっ……?」
キミは……オレにとって、太陽だ。
「……そ、それって……」
……はは、こんなオレがそうそう口にできる台詞じゃないよな。
だが……ここに来てから、ずっと思っていた。
キミの言う通り、オレの中には、暗闇がある……オレ自身さえも知らない、深い闇が……
……そこにはきっと、いつかキミたちに牙を剥くかも知れないような何かが、潜んでいる。
「……あなたは、ソレを恐れているの? ソレが、大切なものを壊してしまうって……?」
ああ……でも、もう恐れてばかりではいたくない。
シエル……もし、キミという太陽が、オレを照らしてくれるのなら……
「ゼ、ゼロ……!」
オレは、きっと恐れずに戦える。自分の内側の暗闇を。
「……」
ど、どうした……? 体温が急上昇しているようだぞ?
「あ……だ、大丈夫よ……」
なぜ泣く? 泣かせるつもりはなかった!
「うふふ……人間はね、うれしい時にも、涙が出るのよ……!」
そうなのか? うれしい時にも、人は泣くのか……?
「そう! 私……私、今、本当にうれしいのよ!」
シエル……
「ありがとう、ゼロ……! 私が太陽だなんて、もったいないみたいだけど……戦うあなたを照らすことが、私にできるなら……いつか、ここにたくさんの花が咲くのを、あなたと一緒に見たい。」
そうだな。オレも見たい。ここで未来に咲く花を、キミと。
「ゼロ、もう大丈夫……?」
「シエルと、仲直りできた……?」
「あ、あら、あなたたち……だ、大丈夫よ。仲直りっていうか……もう、落ち着いたから。」
「本当?」
「よかった!」
キミたち、さっきは驚かせてすまなかったな。花の名前に詳しいなら、オレにも教えてくれないか?
「え、そう?」
「でも、ゼロ、シエルとお仕事のお話するんでしょ?」
「ああ……それはいいの。ゼロにも、たまにはお勉強が必要だものね。」
「ゼロがお勉強かぁ。面白そう!」
「そうね。それじゃ、アタシたちももっといっぱい覚えなきゃね!」
『よかったね、ゼロ。やっと伝えられた。
キミは、もう独りぼっちじゃない。ここからは、どんなに険しい道になろうとも、彼女という太陽が照らしてくれる。
ボクも楽しみにしているよ、いつか、この場所に色とりどりの花が咲くのを。そして、キミの心の中にもね。』
(完)