ロックマンX二次創作 作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ
電脳世界の深い森。
万聖節前夜の祝祭に湧くきらびやかな街をこっそり離れ、夜の闇に紛れてそこを目指す人影が、ひとつ。
森の奥で待つのは、妖しき紫のバラが咲き乱れる城。
この特別な夜に、この上もなく相応しい舞台。
黒いマントに身を包み、素顔を見せぬ来訪者。
城の入口を守る甲冑ロボが、その手の籠に無機質な視線を向ける。
『よくぞ参られた。しかし、今宵の合言葉は″Trick or treat″。
もしもそなたが、あるじに気に入られるような″Treat″を持たぬなら、それ相応の″Trick″を覚悟せねばなるまい。』
開かれた大きな扉を通り、来訪者は城の奥へと進む。
その心配は無用と、フードの下で微笑みながら。
今宵、この城のあるじ――誰よりも甘く美しい、その特別な人のために、″Treat″は充分に用意されている。
アップルパイにパンプキンケーキ、色とりどりのチョコレート。
――もちろん、それ以上に、あのひとが望むものもわかっている。
黒衣の下でもう一度微笑み、心なしか来訪者は歩みを速める。
青い炎の蝋燭が彩る、静かな暗い広間を抜けて、城主の部屋へ。
悪戯好きなバットンボーンたちのそこかしこでの羽ばたきも、その軽やかな足取りを止めることはない。
長い螺旋階段を上り終えた先。
ようやく、目指す部屋へと来訪者はたどり着いた。
背筋を伸ばして、ノックする。二度、三度。
――返ってくるのは、沈黙ばかり。
そっと押してみると、扉は何の抵抗も無く静かに開いた。
そこは、客人を待つ、薄暗くも美しく暖かな部屋。
赤々と燃える暖炉に、革張りの長椅子、テーブルの上の燭台が照らし出す紫のバラの花束。
そして――床に横たわる漆黒の棺。
来訪者は、驚きに足を止めた。
しかし、それも長くは続かない。
大切な贈り物の籠をそっとテーブルに置きながら、くすりと笑いがこみ上げる。
″Treat″を差し出すよりも前に、避けられぬ″Trick″が待ち構えていたのだ。
それから来訪者は床に膝をつき、両手でゆっくりと棺の蓋を持ち上げた。
その中に見たのは、城のあるじ、″ナイトデューク″。
高貴なる吸血鬼の装いで、目を閉じて横たわる、想い人ゼロの姿だった。
もはや誰に隠す必要も無いと、来訪者アイリスは黒い頭巾を外す。
さて⋯⋯おやすみ中の城主様を起こしてさしあげるには、どうすればいいのかしら?
おとぎ話では、こんな時にいちばん効くのは、愛する人のキスと決まっているけれど。
彼は、それを待っているのかしら。
アイリスの胸は、静かに高鳴りはじめた。
少し戸惑いながらも、やがてアイリスは、棺の中のゼロの上にかがみ込む。
熱い火照りを感じながら、そっと口づけする――彼の唇ではなく、頬に。
すると、ゼロは笑って目を開いた。
「これはこれは、ようこそ。」
そう言いながらゼロは身を起こし、優しくアイリスの手を握った。
ほっとしたのも束の間、彼女の胸のときめきはますます強くなっていく――妖しく端正な吸血公爵の装いをした彼と二人きりの、ハロウィンの夜がこれから始まるのだから。
「お招きいただき、光栄です。」
そう応えて、アイリスは片手で黒マントの裾をつまみ上げながら会釈をした。
「今夜のキミは、どんな仮装をしているのかな? 魔女か、ダークプリンセスか、それとも⋯⋯」
「それは⋯⋯ぜひ、ご自身の目でお確かめになってください。」
ゼロのまなざしが、熱を帯びる。
かくて、二人の夜は更けていく。甘く危険な、幾つもの″Trick″と″Treat″を味わいながら。
(完)