ロックマンX二次創作 作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ
(2021年1月18日~2021年1月21日)
VAVA:
ははは! おい、あの新人、またやらかしたんだってな!
ハンターベース内、訓練棟のトレーニングルーム。市街地を再現したバーチャルリアリティー空間で、エックスが射撃訓練を行っている。
彼の腕のバスターは、四方から現れる仮想敵を次々に正確に捉えていく。
だが、彼の表情には暗い翳りが見える。
VAVAが口にしているのは、正に彼のことだ。
ここは、司令棟の廊下にある待機スペース。ブリーフィングを終えた第十七部隊の面々――ブーメル・クワンガー、スパーク・マンドリラー、ゼロの姿もある。
クワンガー:
(呆れて)……また、こんなところでサボっていたんですね。いいかげん、我々に説明させないで、直接聞いてくれませんか。
VAVA:
(ドリンク自販機の横のベンチに座っている)今度は何だ? ついに、とち狂って味方を攻撃したか、ビビって逃げたか?
マンドリラー:
いや、そんなんじゃないが……エックスがもたもたしてたせいで、破壊対象が大暴れして、交通事故を起こしちまってよ。ま、それでもケガ人は出さずに済んだ。
クワンガー:
(ため息をついて)幸いにも、対象は一般家庭用のケアレプリで、戦闘能力はありませんでしたからね。あんなスリルの無い仕事、我々二人だけでさっさと済ませればよかったんです。長引かせすぎました。
VAVA:
(嬉々として)おー、それはそれは……オレたちは別ルートで助かったよな、ゼロ。アイツと居たら、一歩進むごとにトラブルが降ってきそうだぜ!
クワンガー:
VAVA、それについてはもう心配ないですよ。彼は、明日からはゼロと二人で行動することに決まりました。
VAVA:
なに?(けたたましく笑って)そうかそうか、おまえがアイツのお守りか! とんだ災難だな!
ゼロ:
(冷ややかに)あんたと組むよりは、よっぽどましだ。
VAVA:
あぁ? 何だと、このヤロー!(立ち上がる)
マンドリラー:
(慌てて)おいおい、落ち着け!
クワンガー:
しかし……ゼロ、あなたもよく引き受けましたね。まあ、おかげで私は助かりましたが。彼と一緒に行動すれば、ある意味スリルには事欠かないでしょうが、責任を負うのはごめんです。
マンドリラー:
うう、オレも遠慮する。幾らシグマ隊長の言いつけでもなぁ。
VAVA:
オレも絶対にごめんだ。冗談じゃねーぜ。
ゼロ:
心配するな。隊長があんたを指名することはありえない。何かあった時、余計にややこしくなるからな。
VAVA:
(金属の壁をバンと叩く)てめー、さっきからケンカ売ってんのか!
マンドリラー:
(再び慌てて)だぁ~、落ち着けって!
VAVA:
ゼロ……オレも聞くぞ。なんで引き受けたんだ? よっぽど自信があるらしいな。
マンドリラー:
オレも気になる。おまえの実力は確かだが。
ゼロ:
自信はそんなに無いが……彼には、興味がある。
クワンガー:
ほう?
VAVA:
(笑って)そうか、そうか……おまえも気になってんのか。
マンドリラー:
何が?
VAVA:
あのエックスってヤロー、Dr.ケインがシグマ隊長に預けたレプリなんだってな。そのことは、おまえらも知ってるだろ?
クワンガー:
ええ、確かにそう聞きましたが。
VAVA:
ところがな……ヤツを造ったのは、Dr.ケインじゃない。どこぞで拾ったんだか掘り出したんだか知らねーが、とにかく、ヤツがここに来る以前のことは、機密扱いになってるらしいぜ。
ゼロ:
(VAVAを睨みつける)あまり、余計なことに首を突っ込むんじゃない。
VAVA:
はは……オレも、興味があるんだよ。あの甘ちゃん坊やが、いったい、どこから来た何者なのかってな。
ゼロ:
甘ちゃん坊やか……
VAVA:
おうよ。ゼロ、明日からヤツによーく教えとけ。ハンター稼業は遊びじゃないってな。
ゼロ:
……あんたには、彼が対象を撃つのをためらった理由がわかるか?
VAVA:
知るか、そんなもん。
ゼロ:
だろうな。
マンドリラー:
うむ、さっき話は聞いたが、オレにもわからなかったぞ。
クワンガー:
ええ。全く、理解に苦しみます。
VAVA:
つーか、単純なことだろ。イレギュラーどもをぶっ壊すのが、オレたちハンターだ。それをためらうようなヤツは、甘ちゃん坊やなんだよ。違うか?
ゼロ:
ああ、その通りだ。オレもこれまでは、あんたと全く同じように考えていた。
……ただ、彼を見ていると、そう単純なものじゃないように思えてきてな。
VAVA:
……何だゼロ、ずいぶんとヤツの肩を持ってるみたいじゃねーか。
ゼロ:
(鋭く)さっきのあんたの言葉を、そのまま返す。あんたは面白半分の狩りか何かだと思ってるようだが、ハンター稼業は遊びじゃない。(VAVAに背を向けて歩き去る)
VAVA:
(ゼロを見送って)て、てめー……このヤロー……!
VAVAは、獣のような怒りの唸り声をあげながら、すさまじい力で自販機を叩き、蹴り、破壊する。警報が鳴り渡る。
マンドリラー:
(三たび慌てて)ギャーー! コイツ、また自販機ぶっ壊しやがった!
クワンガー:
(頭を押さえる)はー、やれやれ……これで三度めですね……
VAVA:
(鳴り響く警報の中で)ゼロめ……てめーも、アイツと似たようなもんじゃねーか……てめーもシグマ隊長に拾われたレプリで、やっぱり、ここに来るまでのことが明かされてない……それも、最高機密と来てやがる……! いったいどこの馬の骨なんだ、てめーらは……?
ゼロ:
……対象を破壊することをためらった理由について、彼はこう語った。
訓練棟内のエレベーターの中で、ゼロは先ほどのエックスの証言を思い出している。
エックス:
破壊対象……『ルイス』と呼ばれていた、ケアレプリロイド……あの時、彼は、足の不自由な女性に付き添って歩いていました。自分がその姿を目にしたのは、ほんの短い間でしたが、二人の間には、強い信頼関係があることがわかりました。そんな彼が、突然暴走してしまって……彼女は、どんなにショックを受けたでしょう……
暴走した彼の姿を見た時、すぐに撃たなければならないと思いました。でも……それと同時に、撃てないと思いました。きっと、彼女にとって、それまでの彼は、家族同然の存在だったはずです。そんな彼女の目の前で、彼を撃つことが……オレには、できませんでした……
ゼロ:
(エレベーターを降りながら)……わからんな。確かに、生身の人間なら、同じ状況でああいうふうに言うかも知れんが……彼は、仮にもハンターだからな。
ゼロは、目的のトレーニングルームの中に入る。そこでは、エックスがいまだ激しい訓練を続けている。
ゼロ:
おい、エックス。……エックス。
ゼロの声はエックスに届かない。彼を取り巻く仮想空間は、工業用の大型メカニロイドが市街地で暴れ狂う場面となっている。大勢の人が逃げ惑う姿も見える。
エックスは、先ほどの迷いを振り払おうとするように、敵を攻撃しつづける。不意に、空中に『
ゼロ:
大丈夫か、エックス。ちょっと無理しすぎだぞ。
エックス:
あ、ああ、ゼロ……
ゼロはパネルから離れ、エックスの横に立つ。
ゼロ:
(大型メカニロイドの映像を見上げ、呆れたように)また、ずいぶんとデカい敵だな。キミには早すぎるんじゃないか。
エックス:
(おずおずと)ゼロ……あ、あの……なんか、ごめん……その、いろいろと……
ゼロ:
あー、確かにいろいろとな。
エックス:
(すまなそうに)だ、大丈夫かい? オレなんかと、組まされることになって……
ゼロ:
(くすりと笑って)そのことは気にするな。イカレヤローのVAVAと組むより、よっぽどいい。何しろ、いつも、事件が無ければ自分で起こしかねないヤツだ。
エックス:
(更に困惑して)で、でも……オレは、どうしたらいいんだ……ゼロほどのすごい人と一緒にされたら、絶対足手まといになっちゃうよ……! さっきのことだって、またみんなに迷惑かけたし……
ゼロ:
覚悟の上さ。だが、早く足手まといでなくなってもらわないと困る。オレは、あまり気が長い方じゃないからな。
エックス:
(思わず身体をすくめる)ひえっ……
ゼロ:
……キミが、あのイレギュラーを撃てなかった理由……もう一つあるんだろう。
エックス:
え……?
ゼロ:
『自分たちと同じ、レプリロイドだから』……だ。違うか?
エックス:
それは……(うつむいて)そう、その通りだよ。
ゼロ:
……
エックス:
……ゼロは、いつも迷わないよね。他のみんなも。……それはそうさ、イレギュラーハンターなんだから。オレも、そうあるべきだと思ってる。
ゼロ:
イレギュラー認定されたレプリロイド・メカニロイドは、速やかに、ハンターによって破壊処分されなければならない。それが、今のところの最善策だ。わかっているな?
エックス:
(うなずく)ああ。
ゼロ:
その、処分を行うのが、オレたちの仕事……キミは、なぜ迷うんだ?
エックス:
(顔を歪める)なぜだろう……頭では、わかってるのに……
ゼロ:
(苛立ちを覚えて)オレたちが居るのは、戦場だ。状況は待ってはくれないぞ。
エックス:
(泣きだしそうに)でも、あの時……オレは、ルイスをイレギュラーと認めたくなかったんだ……だって、ほんの、ほんのちょっと前まで、彼は普通に自分の役目を果たしていたんだ……! ケアを受けていたあの女性だって、きっとそうだったはずだ……まともなレプリロイドと、処分対象になってしまうイレギュラーとの間には、本当にわずかな境界線しか無くて……それを越えてしまったら、もう戻れないなんて……そのことを思ったら……身体が、フリーズしたみたいに――
ガンと重々しい衝撃音がする。エックスは弾き飛ばされ、コントロールパネルに背中を激突させる。仮想空間の一時停止が解除され、訓練用の映像が再び動き出す。
床に倒れた格好で呆然とするエックスの目には、怒りの表情で拳を固めたゼロの姿が映っている。
エックス:
い、いきなり何を……!
ゼロ:
(動き出した映像を示して)見ろ! おまえがそんなふうに迷っている間に、何が起きるか!
床に座り込んだまま、エックスは愕然と仮想空間を見上げる。映像の中の、ハンターが不在となった市街地を、暴走メカニロイドは何の遠慮も無しに破壊しはじめる。
周囲の一般人も巻き込まれ、次々に倒れていく。空中には『
ゼロ:
見てみろ、この有様を。まるで地獄だ。おまえのその迷いが、明日にでも、この事態を現実に引き起こすとしたら、どうする!
エックス:
そ、そんな……!
ゼロ:
持って生まれた力を、武器を、おまえは、ハンターとしてどう使うんだ!
エックス:
……!
しばし、沈黙がその場を支配する。無残に破壊しつくされた街の姿を映した映像が、そのまま静止している。
ゼロ:
……キミをここに連れてきたのはシグマ隊長だが、ここに居るかどうかを決めるのはキミ自身だ。本当に自分がハンターでいたいかどうか、少し考えるんだな。ここを出て、ケイン博士のもとに戻るなら、そうするがいい。(エックスに背を向け、扉の方へ足を向ける)
エックス:
(ようやく立ち上がる)オ、オレは……!
ゼロ:
(背中越しに)戦えないだけでなく、平和を守ることもできない者は、ハンター組織には必要ない。
エックス:
(両手の拳をぐっと握りしめて)違う……
ゼロ:
ん?(振り向く)
エックス:
違う、違う!(ダッと床を蹴り、前へ飛び出す)
再び、重く鋭い金属音が響く。扉の前で、ゼロは振り向きざまにエックスの拳をアームに受け止めている。ゼロの顔には驚愕の表情が浮かび、エックスの目には輝きが宿っている。
ゼロ:
……速い。それに、何だ、このパワーは?
エックス:
(先ほどまでとは打って変わり、力強く)オレは戦う、平和を守るために! この力は、そのためにあるんだ!
ゼロ:
エックス……!
ゼロはエックスの拳を押し戻し、エックスはよろめいて床に膝をつく。勢いで、ゼロも扉に背中を押しつける。二人ともしばらくそのまま、互いの荒い息遣いの中で動かない。
ゼロ:
(くすりと笑う)……まいったな、エックス。完全に油断してたぜ。
エックス:
(ゼロを見上げて)はは……、オレでも、キミにそんな顔させられるんだ……
ゼロ:
ああ、驚いたよ。
エックス:
(自分の行動の無謀さに改めて気づいたかのように)はー……危なかった……ゼロが本気出してきたら、ただじゃ済まなかった……
ゼロ:
はは、それは間違いないな。
エックスは立ち上がる。
エックス:
(静止している映像に目をやりながら)……ありがとう、ゼロ。キミのおかげで、目が覚めた。戦場では、一瞬一瞬が勝負だもんな。余計なことを考えて、こんな事態を引き起こしちゃいけない……もう、そのことは絶対に忘れないよ。……また、迷うかも知れないけど……
ゼロ:
(扉から離れて)……キミは、いろいろな意味で他の連中とは違う。任務に対する捉え方もだ。その迷う心は、ともすれば命取りになりかねないが……一方で、ハンターの任務がそう単純なものじゃないってことを、オレに教えてくれたかも知れない。
エックス:
ゼロ、オレはハンターを辞めるつもりは無いよ。強くなりたい。もっと強くなって、この手で平和を守りたい。
ゼロ:
あの時の、ルイスたちのような悲しい出来事を、キミはこれから何度となく目にしていくことになるぞ。
エックス:
(うなずく)うん……もう、悲しみにだって負けないよ。(急に不安そうに)……でも、ゼロはどうかな。明日からオレと組むの、やっぱりイヤだとか言わない……?
ゼロ:
は、なんでだ?
エックス:
なんでって、それは……
ゼロ:
(笑って)おいおい、さっき言っただろう。VAVAなんかと組むよりは、よっぽどいい。だから、早く足手まといでなくなってくれってな。
エックス:
(安堵して)そ、それじゃ……明日から、一緒なんだね!
ゼロ:
(右手を差し出す)ああ。頼むぜ、相棒。
エックス:
(ゼロの手を握る)こちらこそ、よろしく……!
二人が司令棟へ戻ると、先ほどの待機スペースの方角が騒然としている。
ゼロ:
何だ? 騒がしいな。
エックス:
どうしたんだろう?
マンドリラー:
おい、ゼロ!
憮然とした表情のマンドリラーとクワンガーが二人の前に立つ。
ゼロ:
何事だ?
クワンガー:
VAVAが、また自販機を破壊したんですよ!
エックス:
(驚く)えっ? じ、自販機……?
マンドリラー:
ある意味、おまえのせいだ。
ゼロ:
(驚く)何だって?(エックスに)……エナジー・リキッドをおごってやろうと思ったが、他のフロアに行くしか無さそうだ。
マンドリラー:
だったら、オレたちにもおごれ!
クワンガー:
あなたが元凶のようなものですからね!
ゼロ:
(困惑)う……、そ、そうなるのか。
マンドリラー:
エックス、おまえもよく覚えとけ。あのVAVAってヤツは、マジでヤバいからな。
クワンガー:
そうです、気をつけてください。何をしでかすかわかりませんからね。非常にスリリングです、イヤな意味で。
エックス:
(困惑)あ、ああ……第十七部隊って、なんか、すごいな……
(完)