ロックマンX二次創作   作:クリスチカ・マリビエ・ダンセルジオ

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ゼロがピンチに陥った時、姿無き謎の存在が彼に語りかけてきます。……しかし、舞台とか事件とか敵とかバトルとかいろいろなことがたいへんテキトーです。どうかよろしくお願いします。
(2021年1月27日~2月11日)


Walking In The Air

『ははは……全く、情けねーな。なんてざまだ!』

 

「だ、誰だ?」

 

『おいおい、落ち着けよ。大声出すと、傷に響くぜ。』

 

「くっ……おまえか、"F"……」

 

『へー、覚えててくれたのか。なんせ、出番が無くてヒマでな。』

 

「こんな時に……、何の用だ……!」

 

 

『はー、だいぶヤラレてんな、おい。喋るのもやっとじゃねーか。』

 

「邪魔をするな。用が無いなら消えろ!」

 

『だから、大声出すなっつってんだろうが。……どうだ? オレの力を、受け入れる気になったか?』

 

「……そ、そのことか……」

 

『早くしろ、そのままだと確実に死ぬぞ。オレの力があれば、そのダメージもすぐさま回復できるし、あのデカい敵だって秒殺だぜ?』

 

「……」

 

 

 

『……おい、シカトすんな!』

 

「……わかった。いいだろう。」

 

『フフン、やっとその気になったか。』

 

「今のままでは、あのイレギュラーを倒せない……それに、エックスも動けない状態だ。なんとか、彼を助けないと……!」

 

『……"助ける"ってのは余計だ。オレは、ただ思いっきり暴れたいだけだからな。』

 

「いいか、"F"。おまえの力が発動しても、このボディを制御するのは、オレの意志だ。オレは、自分が思う通りに動く。」

 

 

『あー、つまんね。おまえがそんなこと言うんなら、やっぱやめるわ。』

 

「本当に、それでいいのか? オレがこのまま死んだら、おまえも存在できなくなるんじゃないのか?」

 

『……っるせーな、このヤロー! 女みてーな無駄に長い髪しやがって! 昔から気に食わなかったんだよ!』

 

「時間が無い! やるのか、やらんのか!」

 

『……ちくしょう、見てろ……そのボディ、いつか乗っ取ってやるからな……!』

 

「無駄口叩くな、早くしろ!」

 

 

 

ここは、どこだろう……空中?

 

どうやら、そうらしい。吠えるような風の音と、力強い羽ばたきの音が、すぐ近くで聞こえる。

 

羽ばたき? いったい、何のだろう。

 

あたりを舞っている白いものは、雪……? さっきまで、オレたちの上には、真っ赤な火の粉が降り注いでいたはずなのに。

 

……信じられない。これは、夢の続きなのか……?

 

――オレは今、巨大な漆黒の翼をもった"悪魔"の腕の中に居る。

 

 

「……気がついたか、エックス。」

 

その"悪魔"は、オレのよく知った顔をしていて、聞き慣れた声で、優しくそう言った。

 

「ゼロ……? ゼロなのかい?」

 

「おっと、動かないでくれよ。空を飛ぶのは、慣れてないからな。」

 

漆黒のボディ、コウモリの羽根のモチーフが付いたメット、オレの身体を支える両手には、鋭く光る爪。

 

恐ろしげな"悪魔"の姿になっているが、確かに、彼は親友のゼロだ。ゼロに間違いない――でも、いったい、どうして?

 

 

 

「……驚いただろう。こんな格好、できれば、キミには見せたくなかったんだが。」

 

羽ばたきを続けながら、"悪魔"のゼロが、ため息をついて呟いた。

 

「でも、キミもオレも、まともに動けなかった。あのイレギュラーを倒すには、こうするしか無くてな。」

 

その言葉に、オレは先ほどの戦いを思い出した――灼熱のスクラップ処理場から地獄の業火をまとって現れた、生きた巨大な鉄屑の塊。

 

「……ゼロ、それじゃ、さっきアイツを倒してくれたのも、キミだったの?」

 

「なんだ、それも見てたのか。」

 

 

かつて戦火に焼かれ、長い間打ち捨てられたままだった人工島。最近になって、その再開発がようやく始まっていた。

 

荒れ果てていた環境は整えられ、さまざまな研究を目的とした施設の建設も進んでいた。

 

しかし、ソレは突然起こった――ハンターベースに入った連絡は、一瞬、耳を疑いたくなるような内容だった。

 

『廃棄物処理場となっている小島から、本島へ向かって、燃えさかる異形の怪物が海上の橋を渡ってくる』と。

 

送られてきた映像の中のソイツは、確かに怪物に見えた――巨大な頭蓋骨を模した装甲車が、炎に包まれ、黒煙を上げながら本島へ迫っているのだ。

 

その車体は全て、ぎっしりと組み合わさった大量のスクラップ部品で構成されていた。

 

 

 

直ちに、オレとゼロは現場へと急行(ワープ)した。現地の防衛システムは全くの無力だった。

 

自走アーマーと、メカニロイドの小型爆撃機が迎え撃とうとするが、"怪物"に近づくことすらままならず、ことごとく自壊あるいは同士討ちとなってしまう。

 

それは、"怪物"が轟音とともに響かせている、泣き叫ぶような不気味な音のせいだった――それにより、ハンターベースとの通信も不可能となってしまった。

 

周囲に散る無残な破片を、ソイツは触手のようにうごめくコードで次々に捉え、頭蓋骨の中へと取り込んでいく。そうして、燃える車体を新たに構築しつづけているようだ。

 

ソイツは何者かに操られているのか、それとも自分の意志を持っているのか、何が目的なのか……一切が不明だ。

 

更に、オレたちが狂わされる危険性もある――だが、もう時間は無い。

 

 

幸い、本島に居たレプリロイドたちの避難は無事に完了しているという。

 

「オレたちも食われる前に、片をつけるぞ!」

 

そう言いながら、ゼロがセイバーを構える。

 

「ああ。行こう!」

 

そう応えて、オレも腕のバスターをチャージする。

 

燃えさかる"怪物"の巨体が、射程圏内に入った。みるみる近づいてくる――すさまじい熱気と轟音、焼け焦げる金属と油の臭い、空を覆う黒煙と舞い散る火の粉、そして、"慟哭"。

 

 

 

オレはショットを放った。青い光弾が頭蓋骨に命中し、その表面のスクラップを吹き飛ばすのが見えた。

 

すかさず第二弾をチャージし、今度は足元のキャタピラーを狙って撃つ。車体が傾いた。

 

それを合図にゼロが地面を蹴り、稲妻のように斬りかかった。

 

光の刃の一振りで、形を失いかけていた頭蓋骨が更に崩される。

 

ソイツは"泣く"のをやめ、今度は、あたりの空気を揺るがすような"唸り"をあげた。

 

そして、歪んだキャタピラーから火花を散らしながら急停止した。

 

 

「気をつけてくれ!」

 

オレはチャージしながら、ソイツの傍らのゼロに叫んだ。

 

「ああ。一気に行くぞ!」

 

ゼロはそう叫び返し、セイバーを構えて再び跳躍する。

 

オレの光弾とゼロの刃は、わずかずつだが、確実にこの"怪物"の巨体を削り、崩し、破壊していた。

 

――だが、やはりソイツは、そのまま黙って倒されてくれる相手ではなかった。

 

 

 

突如、"唸り"が、すさまじい"咆哮"へと変わった。

 

あたりの空気を揺るがし、路面にまで亀裂が走るほどの衝撃波が、"怪物"の周囲に飛んだ。逃げ場が無い!

 

オレたちは弾き飛ばされ、倒れてしまった。ハンター装備の身体さえ、激痛で動かない……

 

間髪入れず、今度は、黒煙に覆われた空から、火山弾のような火の塊が降ってくるのが見えた。

 

"怪物"の背負う炎の中から、燃えるスクラップの――恐らくは、先ほどソイツを止めようとした自走アーマーの――破片が次々と撃ち出されてくる。

 

オレはなんとか身を起こし、危うくそれらをかわした。そして気づいた――ゼロが、まだ起き上がれずにいる!

 

 

「ゼロ、危ない!」

 

オレはほとんど考える間も無く、彼を庇っていた。

 

灼熱の鉄塊が、続けざまに背中を直撃した。

 

「エックス……!」

 

ゼロの叫び声と自分のうめき声の中、オレは再び倒れ込んだ。背中が焼けただれる……が、なんとかゼロを守ることはできた。

 

――しかし、そのゼロも胸部と脚部に、抉られたような深い傷を負っているのだった。

 

 

 

『思イ知レ……』

 

不意に、"怪物"が、それまでとは異なる音を発した。

 

それは、今度は、深い恨みを込めた言葉に聞こえた。

 

『思イ知レ、我ラノ無念……』

 

『負ケテナドイナイ……滅ビテナルモノカ……』

 

『戦イハ、コレカラダ……!』

 

 

まるで、かつての戦火に斃れていった亡者たちが、"怪物"とともに焼かれながら泣き叫んでいるようだ――そんなことがあるのか?

 

「エックス! ムチャしやがって……!」

 

すぐ傍らで、ゼロが叫んでいる。

 

「ゼロ、動けるかい……? とにかく、離れないと……!」

 

だが、当然のように、そんな暇は与えられなかった。

 

"怪物"の触手のようなコードが、煮えたぎる空気を切り裂いて、オレたちの上に振り下ろされた。

 

 

 

身体が粉々に砕かれそうな衝撃が襲いかかり、あたりが真っ暗になった。

 

動かなければ、やられる……だが、もう目を開けることもできない……

 

遠くから、なぜか、ゼロが誰かと言い争っているような声が聞こえてきた。相手は、"怪物"の中の"亡者"たちだろうか……

 

……そこから先のことは、まるで夢の中の出来事のようだった。

 

何しろ、次に意識が戻った時、オレが見たのは、あまりにも信じがたいものだったからだ。

 

――禍々しくも美しい翼を広げて空中に浮かぶ、漆黒の"悪魔"の姿。

 

 

オレは混乱し、恐怖を覚えた。頭の中は、疑問符であふれかえっていた。

 

新たな敵なのか? "亡者"が呼び寄せたのか? 傷ついて思うように動かないこの身体で、ヤツらとどう戦う? 何よりも――ゼロは、無事か……?

 

いつしか、あたりには、ただならぬ異様な雰囲気が漂っていた。

 

倒れたままのオレの視界には、いまだ、"怪物"の崩れかけた巨体がある。

 

ソイツは、更に勢いを増すかのような炎に包まれ、黒煙をあげて燃えつづけている。それなのに……

 

――どうしたことだろう、さっきまで沸騰していたはずの空気が、今は凍りつきそうに冷たく感じられる。

 

 

 

『何者ダ!』

 

"亡者"の叫び声が聞こえた。

 

それに応える、"悪魔"の声も。

 

「ここから先は、通さん。冥界へ還れ!」

 

それと同時に、冷たい灰色の霧のようなものが、そのあたり一帯を包み込んだ。

 

"怪物"とオレたちだけが、外界から隔てられたらしい。

 

 

オレは戸惑っていた。突然現れたあの"悪魔"は、"亡者"の仲間というわけではないようだ。

 

……だからといって、オレの置かれている状況がヤバいことに変わりはないのだが。

 

炎まで凍りつかせてしまうほどの冷気が、あたりに満ちた。

 

その中で、"怪物"を目がけて、"悪魔"が銀の矢のように急降下するのが見えた。

 

すかさず、"怪物"は、先ほどオレを叩きのめしたコードの触手をそちらに向けて伸ばした。

 

コードはたちまち枝分かれし、無数の"触手"となって、空中の"悪魔"に迫った。

 

 

 

絡め取られる! オレは一瞬、そう思った。

 

"悪魔"の手元で、何かがギラリと光った――爪だ。刃物のような爪。

 

次の瞬間、"触手"の一部がズタズタに切られ、落ちていくのが見えた。

 

"悪魔"は"触手"の襲撃を巧みにかわしながら、目にも止まらぬ速さで両腕を振り回し、その鋭い爪で、宙に伸びたコードをたちまちのうちに寸断していった。

 

最後に残った数本のコードは、両手で直接掴んで無造作にむしり取る。

 

そして"悪魔"は、頭蓋骨の鼻先に降り立った。彼のまとう異様な冷気は、今や、燃えたぎる炎の熱をも圧倒していた。

 

 

すると"怪物"は、ガタガタと巨体を揺すぶりながら、先ほどよりも更にすさまじい"咆哮"をあげた。衝撃波だ!

 

一瞬早く、"悪魔"が再び宙に舞うのが見えた。オレは、慌てて両腕で顔を覆った――間違いなく、今度こそやられる……!

 

橋全体が、音をたてて軋んだかのようだった。オレの身体の下で、路面がビリビリと激しく振動する。

 

……でも、なぜだ? 確かにヤツの衝撃波の直中に居るのに、何のダメージも無い……まるで、盾の陰でやり過ごしているように……

 

――おそるおそる目を開けてみて、その理由がわかった。倒れたオレのすぐ前に、いつの間にか"悪魔"が舞い降りていたのだ。

 

彼は路面に膝をつき、一方の翼で自分の身を、そして――広げたもう一方の翼で、オレを守っていた。

 

 

 

衝撃波をやり過ごし、やがて"悪魔"は立ち上がった。彼も、全くダメージを受けていないようだ。

 

「よくも、エックスを……!」

 

怒りに満ちた、低い呟きが聞こえた。

 

オレはまた驚いた。彼の声か? あの"悪魔"は、オレのことを知っていて、それで守ってくれたというのだろうか……?

 

次々に湧いてくる疑問になどお構い無く、"悪魔"は再び羽ばたき、"怪物"に向かっていく。

 

ヤツの炎の中からは、またも、燃える鉄塊が砲弾のように、続けざまに飛び出してきた。

 

 

そんなものに怯むこともせず、"悪魔"は、再び腕を振りかざした。

 

その腕が空中に真っ白な弧を描くと、彼の頭上から襲いかかってきていた鉄塊が、一瞬、静止したように見えた。

 

それらを包んでいた炎は消え、代わりに、霜がその表面を覆っている――そして、次々と落下し、粉々に砕けていった。

 

恐るべき冷気を操る"悪魔"は、再び"怪物"の上に降り立った。今や地獄の業火も、彼が近づいただけで、嘘のように弱々しくなっている。

 

『マダダ! マダ、終ワリデハナイ……!』

 

「終わりなんだよ、コレで!」

 

 

 

最後の声を絞り出す"亡者"の叫びに、"悪魔"は鉄拳を振り下ろしながら応えた。

 

ズシンと重い衝撃が走り、ついに路面が割れた。倒れたままのオレの身体も、傾いた。

 

"怪物"の巨体は一撃で凍りつき、まるで、氷河から掘り出された異形の化石のように見えた。

 

だが、それを眺めている暇など無かった。橋が崩落する!

 

恐ろしい悲鳴が聞こえた。橋とともに崩れ落ちていく"怪物"の中で、無数の"亡者"たちがあげているのだろうか……

 

その悲鳴と、息が詰まるほどの冷気の中、身体が空中に放り出されるのを感じながら、また、意識が遠のいていった。

 

 

……そして今は、"悪魔"の腕に支えられながら、その空中を移動している。

 

灰色の霧がオレたちの周囲を取り巻き、はるか下には、激しく波立つ海が見える。

 

舞っている雪のようなものは、"怪物"の身体を構成していたスクラップの破片だ。

 

「なぁ、エックス……後で説明するが、今のオレを、キミは信じてくれるか……?」

 

"悪魔"の姿で、ふと不安そうに呟く親友に、オレは笑って答えた。

 

「大丈夫だよ、ゼロ。姿が変わっても、いつもと違う力を持っても、キミは、確かにオレの知っているキミだったから。」

 

 

 

やがて、オレたちは無事に本島にたどり着いた。元の姿に戻ったゼロは、やはり胸と脚に傷を負っていたが、それは"悪魔"になる前よりも軽くなっていた。

 

灰色の霧と"怪物"が起こしていた通信障害により、オレ以外に、ゼロの"悪魔"の姿を見たものは居なかった。

 

"怪物"が突如凍りついたのは、燃えるスクラップに含まれていた何らかの物質が化学変化を起こしたため。負傷したオレたちが崩落する橋からすぐに離れられたのは、狂わされたワープ機能がうまく働いたため――そんなふうに説明がついた。

 

のちに、海からは、数十体分のレプリロイドの頭脳チップが引き上げられた。

 

先の戦争で、追いつめられた一部隊の隊長と全隊員が、ボディを捨てて頭脳のみを保存していた。それが長い時間をかけ、スクラップを新たなボディとし、あの巨大な頭蓋骨の"怪物"となってよみがえったらしい。

 

彼らの頭脳チップは、島の海岸で、哀悼の意を示すモニュメントの中に納められることになった。

 

 

ゼロの中には、"F"と名乗る、姿の無い同居人のようなものが居るという。

 

それが何者なのかは全くわからないが、ゼロが生命の瀬戸際まで追いつめられるようなピンチになった時に現れ、自分の力を受け入れろと迫るのだそうだ。

 

それを受け入れた時、ゼロは"悪魔"の姿となり、あの時オレが見たような強大な力を発揮できるようになるらしい――だが、ゼロは、そうすることによって、いつか自分のボディが"F"に乗っ取られるのではないかと危惧していた。

 

「エックス、そんなことが無いように願っているが、もし、いつかまた、あの"絶対零度の悪魔(アブソリュートゼロ)"が現れたら……その中身が、オレなのか、"F"なのかを見極めてほしい。もしも、オレの意識が完全に消失して、あのボディを動かしているのが"F"だったら……キミの手で、ヤツを処分してくれ。頼む。」

 

ゼロが不安なのはよくわかった。でも(不謹慎かも知れないが)オレは、彼には、あの"絶対零度の悪魔"の姿もとてもよく似合っていたと思った――本人に言ったら、きっと怒らせるか傷つけるかしてしまうだろうけれど。

 

なぜなら、どんな姿になろうと、ゼロは正しい心を持ち、強い力を正しく使うことができるのだから。そんな彼には、きっと、本物の悪魔だって敵わないだろう。

 

 

(完)

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