至らない点が多々あると思いますが宜しくお願い致します
【0】
————何も無かった人生だった
絶叫を上げのたうち回る壮絶な外面とは裏腹に、クィレルの心は淡々と凪いだままだった。
期待と失望の繰り返しで、いつも周りの視線を気にしていたと思う。
意気地なしで臆病で、そのくせ見栄を張るのだけは一人前だった。誰かに認められたくて、何かを成したくて……迷走した結果がこのざまだ。
業火に囲まれ、耳を塞ぎたくなる邪悪な叫び声を浴びながら土くれのように崩れ落ちていく。
傾き朦朧とする視界に、蒼白な顔色で泣きそうに顔を歪める幼い英雄が映り込む。己の手で人を殺めた事実に呆然とする様は、あまりにも普通の少年の姿で、遠についえた筈の僅かな良心がツキリと傷んだ。
———安心しろポッター。私は既に屍だったのだから、お前が気に病むことではないさ
爛れきった口はもう動かないけれど、なけなしの力を振り絞りクィレルは言葉を紡いだ。
嗚呼、なんてくだらない……なんて惨めな最期だろう。
気を失い倒れこむ教え子を尻目に、灰になり損ねた想いの残り香が脳裏を掠めた。
それにしても中々に自分の魂はしぶとい。灰になって崩れ死んでも尚、まだ考えることが出来ている。これほどまでに往生際が悪いのは如何なものか。パチパチと燃え盛る炎をぼんやりと聞きながらクィレルは苦笑いを溢した。
———いや、待て。何故まだ意識がある?
走馬灯というには薄く、余韻にしては長すぎるカーテンコールにハッと気付けば、既に身体を蝕んでいたユニコーンの呪いの痛みは消え失せ視界も良好になっていた。
一体何が、なぜ、どうして?
戸惑いのままに手を伸ばした筈なのだ。しかし、今の自分の肉体は夢の中のようにあやふやな存在だった。ただ、思考するという行為だけが許されている。
突拍子もない出来事に混乱するクィレルの耳に突然、ねちっこい男の声色が滑りこんできた。
「おんやぁぁ? これはこれは……中々に愉快になってるねえ!!」
聞き覚えのある声に勢いよく振り向けば——あくまで感覚的にだが——、ニタニタとチシャ猫のように嗤うホグワーツのポルターガイスト、ピーブズが浮かんでいた。
「いやはや、まさかご教授ともあるお方が……いやーゴケンソンなんてなさらずに」
固まるクィレルにあざとく首を傾げ目配せをしながらポルターガイストは芝居がかった仕草を交えべらべらと喋りだす。
「フーム……あんた結構な
コチラの理解を求めない演説。一方的にほとんど一人でまくしたてたピーブズは返答を待つことはなく繰り返し素敵だ素敵だと拍手を打ち鳴らす。
状況は全くの見込めないが、不愉快極まりないことには間違いない。今際の際に現れて人をおちょくるとはロクでもないやつである。苛立ちのままクィレルは鋭くピーブズを睨み付けた。
「ヤダなぁ! 怖いじゃないかセンセイ。そーんなふかしたジャガイモみたいなツラでこっち見ないでください……」
『どんな顔だ。ぶっ殺すぞ』
舐め腐った態度でへつらうピーブズに、クィレルはたまらず毒づいた。声がでたことに驚きつつも、ひとまずコイツを追い払いたい。クィレルの決して深くはない沸点が確実に下がっていく。クィレルの威圧をものともせず、鼻で笑ったピーブズはぐるりと宙を回転しながら意地悪く目を細め言い放った。
「口だけは立派なセンセイに教えてやるよ」
道化から一変、ガラリとまとう空気を悪霊然としたポルターガイストにたまらずクィレルはたじろいだ。
「アンコールはまだ続いてる」
ぐらりと世界が歪む。
「スタッフロールも終わっちゃいない」
水飴のように魂の根幹がとろけていく。
「開演ブザーも観客も喝采も全てが整った!!」
刹那、目もくらむ眩しい暗闇が大きく口を開け、歪な裂け目を作りながらグワリとクィレルを飲み込んだ。
「さあ! 再演の始まりだあ!」
抵抗するどころか声をあげる間も一瞬で引きずり込まれる。
クィレルの意識は、ピーブズの嘲笑を最後にブツリと途切れた。
クィレル先生は割とマジで有能なはず
ピーブズも本気出せば凄いはず