Q or…?   作:涛子

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【10】Sorting ceremony(組み分け儀式)

「では、皆さん一列に並んでください」

 

 戻ってきたマクゴナガルの指示におずおずと従った一年生たちは、時折躓きながら彼女の後ろに続いた。

 なんとか玄関ホールを抜け、大広間に入れば四つのテーブルに上級生たちが座っていた。宙に浮く何本もの蝋燭の炎が、食器の金色に反射して眩しく煌めいている。

 まさしく()()のような素晴らしい光景に、セドリックをはじめとした一年生はすっかり感激しきっていた。揺らめきざわめく魔力の気配に、皆呑まれてしまったのだ。

 否、一人だけ例外がいた。その冷静さは表面上だけであり、内心は浮き足立っていた。

 天井に瞬く銀色の星と神秘的な月は、喜色の気配もなく一人戦場に赴く佇まいであるリランをじっと見下ろしていた。

 なんとなく咎められている気がしたリランは、出来るだけ視界を狭めようと、前に立つ少年の靴を見つめた。

 数分経った頃だろうか。絢爛豪華な雰囲気にザワついていた新入生達は、壇上に置かれたスツールとボロボロの帽子に気を取られていることに気がついた。

 ぴくぴくと痙攣する不気味なそのとんがり帽子に広間の視線が集中している。突如として、水を打ったかのように静まり返った空間に、一年生は皆恐縮している。『何が起こるのだろう』と言う不安な心が直接伝わっているかのように、肌の表面がピリリと揺れた。

 一年生は恐々と、その他は静かながらも楽しげに見守る中、帽子の裂け目が口のように動きだした。アッと誰かが声を上げたかもしれない。いずれにせよ意気揚々と歌いだした帽子に遮られたようだった。

 

(グリフィンドールは嫌だ、グリフィンドールは嫌だ、グリフィンドールは嫌だ!!!)

 

 だが残念ながら、全神経をアンチグリフィンドールに注ぐリランに、組み分け帽子の歌は一切聞こえなかった。命をかけているのだ。歌なんぞに気を割く余裕など無いに決まっていた。

 

「すごかったねリラン!!」

「そうですね」

 

 切られる拍手の嵐に紛れ話しかけてきたセドリックを微笑んで誤魔化しやりすごす。下手に会話を続けると聞いていなかったことがバレてしまう。拍手と歓声が完全に止むと、マクゴナガルが懐から羊皮紙の巻紙を取り出し、広げながら椅子の横に立った。

 

「名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組み分けを受けてください」

 

 ABCのアルファベット順で最初の生徒が呼ばれた。リランの性は『Airquills(エアクイル)』だ。もうじき順番が回ってくる。

 6人ほどのAの生徒が組み分けされ各々の寮の席へ向かっていく。セドリックが小声で『頑張れ』と言うのがどこか遠くに聞こえた。

 

「リラン・エアクイル!!」

 

(グリフィンドールは死んでも嫌だ!!!)

 

 名前を呼ばれたリランは、壇上を断頭台に赴く死刑囚の気分で登った。自分の呼吸がやけにうるさく、体の末端が氷のように冷たかった。

 かつてのように、およそ三十年ぶりに、恐る恐る古ぼけた木製のスツールに腰掛けたリランの視界は、次の瞬間、完全な闇へと変わった。

 

「フム……これはまた難儀な子が来たものだ」

 

(頼む。グリフィンドールだけはやめろ!)

 

 頭の中に響く低い声にリランは即座に言った。殆ど怒鳴った懇願をサラりとかわし帽子は答える。

 

「落ち着け少女よ。そう慌てなさるな。まだまだ君の選別は始まったばかりだ」

 

(グリフィンドール以外に!!!!!!)

 

 リランは窘める帽子に構わずに頭の中一面に願いを込めて全力で祈った。濁流の如き声に、帽子は戸惑ったようにみじろぎつつもじっくりと考え込んでいた。

 

「君は、フム、賢く冷静だが、自己中心的……かと言って情がないわけではない。忍耐力は実に並外れている。だが、とても、そう、酷く複雑だ。十一歳の子供とは思えん」

 

 ドキリと心臓が軋んだが流石の帽子も、完全に入れ替わった魂を見抜くのは難しいのだろう。例え見られても守秘義務により、リランの秘密は明かされることはない。それよりも組み分け先が大事なのだ。

 

「フム……その口ぶりからすると君は、いやはや、とんだ覚悟だ……」

 

 何やら急にポソポソとぼやき出した。五分程たっただろうか。悩む帽子にじれったさが募っていく。きっと外は騒ついているのだろう。

 面倒くさいがもう組み分け困難者で注目されることは妥協する。いずれ忘れられる。兎に角いまはグリフィンドール以外に入れて欲しいのだ。

 

「度胸がある割には壊滅な程逃げ腰……土壇場をくぐる勇気、懐に入れたものには少々甘い」

 

 殆ど悪口な見解に苛立つも、そこにグリフィンドール要素は見当たらない。いいぞその調子だと、リランは念をおくった。

 

「しぶといが諦め癖有り、冷静で生真面目。理論派な思考回路……うむ」

 

 どうやら生前同様、レイブンクローになりそうだ。ようやく決断した組み分け帽子にリランは安堵した。セドリックには悪いがこの際あんな高飛車寮でも良い。

 

 リランが肩の力を僅かに抜いた時だった。

 

「日和見で狡猾、粘着質で執念深いがひたむきな心……」

 

 リランの余裕は不穏な言葉の羅列に揺らいだ。

 

(は? おい、待てまさか———)

 

「ふむ、君の強い野心はやはりレイブンクローでは叶わないだろう」

 

 ぶわりと汗が噴き出る。脈打つ鼓動が耳の奥で轟いた。リランの心は途方もない焦燥感に埋め尽くされた。

 そう物事は上手く運ばないというのが現実であると、言われた気がした。

 

(いや、いや、まて、マグル生まれだぞ……!? 有り得ないだろうが!?)

 

「はっはっは」

 

 必死の声にも帽子はただ笑うだけだった。頭の上の悪魔にリランは大声で叫んだ。

 

(辞めろ! ふざけるなよボロ雑巾……! 今すぐ引きずり下して燃やすぞ!!!)

 

 取り繕うこともなく、全てをかなぐり捨てる勢いで怒鳴り散らすが、やはり帽子は動じない。頭の中を見られているからこそ、そんな度胸がないと知っているのだ。

 歯噛みするリランに構わず、やがて組み分け帽子は、罵倒への当てつけのようにゆっくりと口を開いた。

 

(ちょっ、待っ、てほんきでッッ———!?)

 

「退かず、苦難な運命に立ち向かうその生き様に祝福を送ろう」

 

「———スリザリンッッ!!」

 

 明朗に轟いた一線は雷光の如く、リランの首を斬り落とした。

 

 ▼▽▼

 

 割れんばかりの拍手も歓声も全く嬉しくなかった。

 幽鬼のようにリランはスリザリンの長机に歩いて行った。呆然に眩んだ白一色の頭では何もかもが霞がかり、五感の認識が何拍も遅れては怠惰に流れていく。

 おぼつかない足取りでよろめきながらリランは席に座り、俯いた。視界に映る黒色のネクタイが上品な緑に染まっていることに、深く絶望する。

 

「やあ、ようこそスリザリンへ」

 

 監督生らしき男子生徒に声をかけられる。引きつった笑みで返したリランは今すぐ逃げ出したかった。

 

「……死にたい」

 

 組み分けの儀式に夢中になるスリザリン生に、リランの呪詛は聞こえなかったようだ。頭を上げると丁度セドリックが無事にハッフルパフへ入寮していた。

 最悪中の最悪だった。まだグリフィンドールの方がマシなくらいだ。よりにもよってここ! マグル出身者だと完全に除外していた。

 予想外の最低な展開にリランは涙が出そうだった。血みどろ男爵のおかげでピーブズが寄って来ないのが、唯一の救いだが果たして本当にそれは慰めなのだろうか。

 

「———あぁ、そうか」

 

 久しく平和だったせいで、忘れかけていた。油汚れよりもしつこいユニコーンの呪いが、易々と平穏な学生生活を許すはずがない。

 リランは吐きそうになった。悲惨な過去が逆に油断を生んでいたらしい。グリフィンドール()()ならどこでも良いだなんて、なんて自分は阿呆なのだろうか。

 ゴドリック・グリフィンドールの帽子は公平だった。リランがレイブンクローが良いとどうしてもそこが良いと叫んでいれば、偉大な魔法使いの帽子はユニコーンの呪いに()()()のかと、望みを叶えてくれたのだ。

 しかし、リランは間違えた。()()()()()()と、ユニコーンの呪いの性質ならばマグル出身者の自分が地獄(スリザリン)行きになるだろと知っていたのに、知っていなければいけなかったのに!!! 

 無意識のうちに舐めていたのだ。自分はとてつもない愚か者だった。唯一無二のチャンスを己の手でかき消したのである。

 あまりの出来事に狼狽しきったリランはふと、職員席に目をやった。

 まず目に入るのは真ん中に座る白髪の老人、穏やかに微笑むアルバス・ダンブルドアだった。

 校長である彼は勿論、リランの出生を把握しているだろうに動揺の気配が微塵も見られない。リランの知る限り、スリザリン寮にマグル出身者が選ばれた記憶は一切ない。恐らく前代未聞。あらためて事態の重要さを、実感し、再び脂汗が滲み出す。

 しかしダンブルドアが校長なのだ。きっと適切な対応をしてくれるだろう。手汗をローブで拭ったリランは彼の善良さとカリスマ性を信じることにした。

 ダンブルドア以外で視界に多く入るのはやはりこの男、クィリナス・クィレルである。馬鹿でかいターバンが頭でっかちでとても目立つので嫌でも意識せざるを得ない。

 クィレルもまたリランがマグル出身者であることを知っている1人だ。くすんだ肌色の血相が殊更に悪くなっていて明らかに様子がおかしい。

 リランのことを心配しているのはわかるのだが、今こんなことになっているのはあの野郎のせいであると思うと本当に腹立たしさしか感じない。叶うのであれば今すぐ段上に戻りもう一度帽子を被り直したい。

 クィレルに八つ当たりをしても尚、リランの心は暗雲に覆われていた。

 




リラン:クソバカ。唯一の回避ポイントを無駄にした。具体的に言いなさい。
帽子:クソやばい呪いに祟られてるけど、本人的には、茨の道でも道だから行くタイプっぽいし、スリザリンにしよう!!(悪気なし)
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