Q or…?   作:涛子

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【12】Quirinas Quirrell(リラン・エアクイル)

 現状はこうだ。

 スリザリンの愚か者どもに鬱憤をぶちまけているといつの間にかセドリックが居たので思わず『何故お前がここに居る?』と名前を呼んだ突然号泣された。

 

 成る程、心の底から脈絡がない。

 リランはただ、『独りにしてごめんね』と謝った彼が何か言いよどんでいたから『わかってる。もう話しかけない。お前の気持ちは伝わった』と気持ちを汲んだだけなのだ。

 要望通りにしたのに泣くなんて……思春期の少年は実に面倒だ。やはり感謝など柄でもないことをするものではない。

 リランの中ではセドリックの『話しかけずにいてごめん』は『君のことは別に嫌いでも好きでもないんだけど一緒にいると悪目立ちするからごめんね』といったネガティブな方向に解釈されていた。

 これは生前の気質(ボッチ)による認識と本人の性悪さからのズレだった。もし、ここに彼女の心を読み『違う、そうじゃない』と張り手を飛ばせる人間が居たら、彼女は誤認を改めることが出来ただろう。

 それにしても、タチの悪さならホグワーツの随一を争いかねないスリザリン相手に、よく一人で突っ込んできたものである。

 流石は入学早々に、ハッフルパフの王子様なる異名をつけられた男だ。

 リランの実態は三十路に肩が入った野郎だ。しかもかなり()()()()をしたプライドの塊のような男であるから、見下し切っている連中の虐めも問題ない。むしろダメージよりも煩わしさの方が圧倒的に勝っているくらいだ。

 だから、周囲の人間が想像するような事態———心を病む、悲しみに打ちひしがれる、等々———は一切存在しないし、セドリックの勇敢な行動も、彼自身の今後が危ぶまれる無謀な優しさとなってしまった。

 リランが本当にリランそのものであれば、彼の行為は何物にも耐え難い優しさとなったのだろう。救いの光にもなり得たかもしれない。折角の整った顔面を、涙と鼻水でべちゃべちゃに汚しながら控えめに啜り泣くセドリックに、先程の凛々しい面影は全く見られない。叱られた犬染みた酷い顔だ。嫌悪感は不思議と湧かない。

 

 ———あぁ、そうか

 

 すぐさま疑問は解けた。なんてことはない。ただ純粋に人から心配されたのが、リランは初めてだったというだけだった。

 いや、あのロクでもない【クィレル】の頃にもきっとあったのだろう。でも、あの時は受け止める余裕も人間性もなかった。だからそういった意味合いでの初めてということだ。

 気付かぬうちに自己肯定感が上がったのかなんなのか。リランは胸の端にともった奇妙な感傷を解こうとしたが、人目が集まってきたことに気がついた。仄かな暖かさは湧いた焦燥に押しのけられてしまった。

 

「セドリック」

 

 しかしことがことであるためにすぐにここから離れなければならない。

 リランは戸惑うセドリックにハンカチを持たせると、少しばかり強引に手を引きハッフルパフの机に押しやった。寛容なハッフルパフは薄情に大広間を去るリランを咎めなかった。

 

 ▼▽▼

 

 ブーツのヒールがコツコツと廊下に響く。規則的に刻まれる硬い音に、リランは吹きこぼれそうな程に煮えたぎった感情が徐々に平穏へと戻っていくのを感じた。

 大広間から勢いをそのままに、ひたすら歩き回った彼女の足はやがて女子トイレに辿り着いた。殆ど走るようにして個室に駆け込んだリランはドアの鍵をかけた途端、ずるりと座り込む。

 

(うおおおおおおお!? 何だこの爽快感!!!)

 

 両手を組み神妙な顔をしたかと思えばこの心中。かつてのトラウマ(虐めっ子共)に一矢報いたことは想像以上にリランの心を軽くさせていた。

 確かに少々騒ぎすぎた気もする。だが自分の姿は、大広間を出るまで取り巻きとデカブツに囲まれていのた。加えて大声も出さずにさっさと姿を眩ませた。この程度ならリカバリーがきくだろう。

 興奮しながらも、リランは先の状況を思い出し『セーフ』と判断した。無理やりだろうがなんだろうが、暴力もなくものの数分の出来事だ。無問題である。実際はかなりアウトよりのセーフなのだが、彼女にそれを知る由はなかった。

 否、知っていても教えない奴がいると言った方が正しいだろう。

 

「やあ、久しぶり! 調子はどうだいお嬢様ァ?」

「……たった今死ぬほど具合が悪くなった」

 

 聞きなれた人を食ったような声色に顔を上げれば、濁った双眸とかち合った。正体は、鈴飾りの帽子を片手にこちらを見下ろすピーブズだった。

 リランは、生気が感じられない紙色の肌と弧を描く大きな口、そして四方に伸びるぼさぼさの黒髪———額の真ん中で申し訳程度に分けられている———を苦虫を噛み潰したような顔で見つめた。汚い面である。

 

「……何さ?」

 

 流石に見すぎたのか疑念を露わにピーブズが言った。首元のオレンジ色の蝶ネクタイをジッと見つめ、もう一度ピーブズの顔を見上げ、再びネクタイに目をやった。リランの口元にはフッと勝ち誇った嘲笑を浮かんでいた。

 

「いや、随分とブサイクな面だなぁと」

「は?」

 

 突然飛び出した罵倒にピーブズはポカンと口を開けたままリランを凝視してきた。顔面崩壊寸前までに泣き腫らしていたセドリックよりも顔のバランスが狂っているなと、リランはサラリと毒を吐いた。

 

「いや、すまない。久方ぶりに醜いものを見たものだから、つい口が滑ってしまった。はは、私が美し過ぎるばかりに目が肥えたみたいだ」

「オイ、お前、そんなナマいってただですむ……ア゛!?」

「……思い出したか? クソ野郎め」

 

 ストレスというのは大切なことまでも忘れさせてしまうらしい。先の一件で軽減された負担は、リランの性悪さを呼び起こした。

 

 ———ピーブズは制約によりホグワーツの生徒に危害を加えることはできない

 

 リランは現在ホグワーツ生である。そしてひょんなことにもスリザリン生に所属している。スリザリンはピーブズが魂レベルで忌避している血みどろ男爵の寮である。

 つまり、それは何をしようともやり返されないということ、即ち、散々っぱらに人をコケにした悪霊野郎への逆襲の合法化である。

 

「……立場逆転だなぁ?」

「……ぶ、ぶち殺すぞクソガキィ!!!!」

「っくはっはっはは、やれるもんならやってみろ!! ハッハァ!!」

 

 歯をむき出しにして怒鳴り散らすピーブズに、リランは堪えきれずに笑い出した。とても暴言を吐いたものとは思えない、鈴を転がすような可憐な笑い声だった。

 なんて清々しい気分なのだろうか。こんなに声を上げたのは本当に久しぶりだった。便座から立ち上がり軽く裾を払ったリランは上機嫌にトイレから出た。無我夢中で気が付かなかったが、どうやらここは三階の女子トイレだったようだ。

 嘆きのマートルが運良く不在で良かったと、ギャアギャアと騒ぐピーブズを無視ししながらリランは軽やかに廊下を歩いた。

 

「くっそ、マジでほんっっっっと腹立つね!」

「それは大変光栄ですね」

「ウッワ、相変わらずサブいぼが立つよお前の敬語! なんとかしてよ気持ち悪い」

「嫌なら近寄らないでくれませんか? ……あぁ、怖い血みどろ男爵が居ない今が、唯一威張れる機会でしたね。忘れていました」

「ハァァッッ!? なあに調子のっちゃってんの!?」

 

 容赦のない煽りに、ギョロついたタレ目をガン開きにしながらピーブズが絶叫する。それを馬鹿にしきっていたリランだったが、青筋を浮かべたピーブズが懐から水風船を取り出したのを見てギョッと目を剥いた。

 

「……教えてやるよ、リランちゃん。命に関わんなきゃ何してもいいってことをさ!! ———頭冷やしな!!」

 

 リランが何か言うか言わないうちに、ニヤリと悪どく笑ったピーブズは水風船を投げつけた。

 

「は!? ———んぶっっ!?」

 

 ビュンビュンと剛速球のそれがリランの顔面に直撃する。ばしゃりと破裂しリランは頭から水を被ってしまった。

 

「あっははははははぁっ! ざまあみろ!」

「この……!!」

 

 腹を抱えて宙を転げるピーブズへ、滴り落ちる水をそのままに教科書の入ったバッグを投げつけた。遠心力で勢いをつけた鈍器がブーメランのようにボルターガイストの腹部にめり込む。

 魔法で水気を切ったリランは床に落ちたバッグを拾うと、蹲るピーブズをバッサリと切り捨て足早に授業へと向かった。

 

「くっそ、制約さえなきゃお前なんて、……ンン? それじゃ本末転倒? ハァ?」

「間抜け。目的を見失ってどうするんですか」

「カ———ッッ!! 腹立つぅ!!」

 

 リランは最高に楽しかった。ホグワーツは最高に楽しい場所であると認識を改めなければいけない。

 何せこちらには、悪逆非道のピーブズが、わざわざ身体を一度置いて(サボク・オーを置いてピーバジーと)合体する程に警戒している、アルバス・ダンブルドアがバックについているのだ。

 彼の恐ろしさは賢者の石を奪おうとした際の異様な罠の時点でとっくに知っている。あの時は本当に愚かだった。

 要は、神秘の石すらも駒にしてまで現行犯逮捕を望んだ男が、ピーブズの本質を知ればどうなるか。利用しない手立てはないという点こそが一番リランの強みだった。

 何よりも束縛を嫌うポルターガイストは、そんな致命的な結末を避けるため、余計なことはできない。勿論、リランも気を引き締める必要があるが、皮肉なことにピーブズの緻密な計画により身分の正当な証明がある。立場は圧倒的に有利であり、万が一正体が割れかけたとしてもピーブズのせいにしてしまえば問題ない。というか実質その通りだ。

 不本意だがピーブズに助けられたという建前がある以上、リランは今まで下手に出ることしか出来なかった。しかしホグワーツの学生である7年間は実質、自由なのだ。

 

「……ふふ、そ、それでは授業なので」

「!? ……おま、おっまえ!!」

 

 あくどい脳内と反比例した、花が綻ぶような華やかなリランの笑みに、良からぬ感情を察したらしいピーブズが呻いていた。腹立たしさに言葉が出ないらしい。ざまあみやがれである。

 

 ———案外、楽しめそうだなこの人生

 

 ポツンと浮かんだモノローグは、思いもよらない『希望』の(いろ)で綴られていた。自分には到底似つかわしくないが、苦痛でなければそれで良い。

 

「では、さよならピーブズ」

 

 鞄を抱え直したリランは、不敵な意志を美麗な微笑に隠しグッと前に踏み出した。

 

 だがしかし

 クィリナス・クィレル(リラン・エアクイル)の人生に幸福など訪れない。

 罪を犯した彼には、どうあがいても絶望の未来しか用意されていないのだ。

 望みも、願いも、祈りも。何もかもが届き、与えられることはない。

 観客が望むアンコールは、泥船に乗り込み地獄を目指す悲劇である。

 決して償うことのできない呪いは、死をかけても祓われず、傲慢に慈悲深く彼女を蝕んでいく。

 愚かな男が、自身の罪の重さを自覚するのはまだ先のことである———

 

 

 序章『 Quirinas Quirrell(魔術師の再演)』 【完】




これにて序章終了。以下、簡易プロフィール

リラン・エアクイル 1978 9/26 155cm、41kg(11歳)

セミロングのブルージュの髪、切れ長の茶水晶の瞳の美少女。幼少期の弊害により痩せ過ぎ。食にうるさい。
年中タイツ履くことでスカートに耐えている。生脚は耐えられなかった。ヒールブーツは作者の趣味


クールビューティー()な敬語女子のフリをする性格うんこ野郎。
食欲と自己保身が旺盛。メンタルは強いが自分の失態には弱い。
純粋無垢が天敵。クィレルに厳しい。僅かな善性が生きるか否かは、今後の展開次第。

クィレル先生

童貞。


ピーブズ

なんかヤバいポルターガイスト。悪趣味。
原作通りの外見。ピーバジーは彼の別称。性格下痢野郎。
くさやにハマった。物持ちは良い。


セドリックくん

凄く純粋無垢。今はリランより小さい。
いずれはチョウ・チャンと付き合う。
リランは親友。性格良し男


作者は最新刊での彼の未来にお茶漬けを溢した。セドリックェ


ユニコーンの呪い

リランの幸せを全力でぶっ壊すマン。フラグ建築率を90%近くまで跳ね上げた巨匠。とてもつよい。今後の展開はこの方が握っている。


作者は、『銀色の血』を完全に鼻水で想像していた。
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