「やあ~ッッ! ハッピーハロウィ~ン!!!」
光陰矢の如し。不確定要素に怯えながらリランは十月三一日を迎えた。噎せ返るくらいの甘ったるい匂いも、耳障りな声もただただ精神を削るばかりである。
「アララ! いつもなら言い返すのにどうしたのさぁ!」
「……お前本当に性格悪いな」
リランの心労を分かっているだろうに、わざとらしくピーブズはおちょくってくる。冗談抜きで殺意の波動に目覚めそうだった。
ハリー・ポッターと予期せぬ形で遭遇したリランは、一周回って吹っ切れていた。この世界が前世と違っていたとしても、過去の記憶と今の状況が全く噛み合っていない訳ではない。
そもそも根本的に異質な自分が居ることでシナリオが崩壊しているのだ。つまり、多少の改変は当たり前。というかアイツが時を遡ったのだと言っていたのではなかっただろうか。
色々と開き直ったことで冷静になったリランは、ピーブズの矛盾した台詞に気付きかけたのだが、その日の夜、当の本人による衝撃の事後報告により恐怖心が戻ってしまった。
『おい、ピーブズ! お前、私のことを揶揄っていたな? 意味深な適当を言いやがって!!』
『ンン? 何のことぉ? 朝からしかめっ面してさあ、美容に悪いんじゃない?』
『何をとぼけてるんだクソ野郎。大方、私を呼び出したのもおふざけの妄言だろう!』
『フーン……じゃ、ハリー・ポッターがこの間の夜中に抜け出して、三頭犬と賢者の石を見つけたことは言わなくて良いんだぁ~!!』
残念だったなと勝ち誇っていたリランの余裕は瞬く間に消え失せた。
リランは、ピーブズの『並行世界の相違』という台詞は『向こう側』の知識に基づいているものからだと考えていた。クィレルから引き継いでいるハリー・ポッター達の行動の記憶は、実際のところ彼らが賢者の石の存在に気づいたところからしかない。どうやって真実にたどり着いたのかさえも最期まで分からなかった。
対してピーブズは学校中を駆け回るポルターガイストだ。生徒の秘密の一つや二つくらい握っているだろうし、彼は魂やら魔法を喰らう目的でホグワーツに住みついている。英雄なんて格好のトラブルメーカーを見逃す筈もないし、実際にクィレルの本性にも気づいていた。
ということはだ。ピーブズの言うことは、十中八九かつて過去で起きたことである。
カンニングに頼らなければ死んでしまう立場のリランにとっては『英雄の行動』、一つ一つが重要なのだ。
しかし、前世の疑問が解消されても、それは不安を煽るだけだった。今年はただでさえ死のリスクが高いのだ。しつこいユニコーンの呪いが闇の帝王なんて絶好の地獄を易々と手放すと思うか? いや、絶対に有り得ない。
単にピーブズの嫌がらせだとしても、有益な情報だった。逆に近づこうとかそんな悠長なことを言っている場合ではない。たったの一ヶ月弱で、ハリー・ポッターは危険に突っ込んでいる。
ちょっと前までマグルの所にいたよな? 何故そうアグレッシブになったんだ。誰だアイツの闘争心に火をつけたのは!!!
リランは混乱に混乱を重ね合わせ激昂した。それはもう盛大だった。突然のシーカー任命だの、真夜中の外出だのと大体がドラコ・マルフォイが着火マンだと思い出したときはそれはもう徹底的に荒ぶり散らした。
元々いけ好かない小僧だと生前から認識していたリランは、自身が入学したばかりの頃の考えなしないじめっ子どもと同じようにやたらと自分を厭けざるマルフォイに対し
『
『現状にご不満があるのならば、ただ喚くのでなく、いっそ貴方が何か変えてはみては如何ですか?
と盛大に説教という名の憂さ晴らしを真顔で告げた。
主に嫌味と頭髪への嫉妬を精神年齢だけなら二回りも小さな子供にぶつけた大人気ないリランは、数日後に妙に大人しいマルフォイと一部のグリフィンドール生を中心に蔓延っているらしい『リラン・エアクイルはやっぱりすげえ奴』的な噂を耳にし、死にたくなった。
なんだか話が盛られている気がする。絶対に双子が犯人だろう。セドリックの純粋な瞳に辛さを覚えながらリランは半ば黒歴史と化している武勇伝からひたすら目を逸らした。
クィディッチの練習に忙しいグリフィンドール勢が絡んでこなかったのが唯一の幸運だろう。リランは初めてこのスポーツがあったことを喜んだ。
そんなこんなで、クィレルを警戒しつつ面倒な野郎どもを躱すという半ば自業自得のハードな毎日を過ごしたリランは、心身ともに萎れきった状態でハロウィンに挑むことになったのである。
▼▽▼
「トリックオアトリート!!」
「お菓子かイタズラどっちをお望みだい?」
「はい、どうぞ」
ウィーズリーの双子にとってハロウィンとは狩りと同義である。中々に捕まえられない友人を、昼食前に見つけられた彼らは手渡されたカップケーキをしげしげと見つめてしまった。
「あの、それじゃ駄目でしたか?」
あんまりにも動かない双子に、リランが不安そうに首を傾げた。一見すれば感情の起伏が薄そうに見えるが、リランは存外よく笑う性格であり、とくに瞳は雄弁である。
「いや! めちゃくちゃ嬉しいけど……」
「その、なんていうか君から貰えるとは思ってなくて」
「……そんなに薄情に見えますか」
「いやいやいや!!!」
慌てて弁解を述べた二人はありたいに言えば心底驚いていた。一年生はともかく二年生の冬頃に関わるようになった自分達が、あのリラン・エアクイルとハロウィンを楽しんでいる。その事実が何だかむずがゆかったのだ。
オレンジのカップケーキはたっぷりとチョコレートソースでコーティングされており、添えられた小さな白いコウモリが可愛らしい。見るからに手作りなそれに、フレッドとジョージは自分達のお菓子の詰め合わせが申し訳なくなってしまった。
実際のところリランがお菓子を作ったのは、クィレル時代に見た双子のいたずらが恐ろしかっただけであったし、カップケーキはアンリーの作品である。
だが、そんなことを知る由もない双子はどんな贈り物がリランに相応しいか頭を悩ませた。
「カップケーキ、サンキューな!」
「あのエアクイル様に貰えるなんて僕たち運がいいぜ?」
「だが待て、フレッド。この対価にこーんなちっぽけなお菓子で割に合うと思うかい?」
「ぜったい足りないな。どうする兄弟?」
突然の掛け合いに戸惑っていたリランだったが、双子の言わんとしていること察したのだろう。彼女はいつかの雪玉合戦の時のような、悪戯っぽい笑みを浮かべクスリと呟いた。
「……お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ?」
「悪戯万歳!」
クスクスと笑いながらヒョイとリランが杖を降った。たちまち、双子はキラキラとした柔らかい風に包まれる。ほんの数秒で終ったそれにリランはニッコリ笑うとその場を去っていった。
「んん? パッと見て特に変わった所はないな?」
「変な匂いも全然ないし……」
双子は揃って首を傾げたが、学年首席の悪戯なのだしきっと遅効性のものだろうと納得して大広間に向かった。数時間後、魔法薬学の授業中に頭からカボチャの蔦を生やす羽目になることを二人はまだ知らない。
「あっははははは!! キミって最高だよ!」
「グリフィンドール十点減点!!!」
▼▽▼
「ここら辺でいいか……」
ハロウィンの晩餐会をひっそりと抜け出したリランは女子トイレの見える廊下に佇んでいた。記憶の通りならもうすぐクィレルがトロールを城に招き入れる頃だ。キチンとシナリオが進んでいるかを確かめなくてはならない。
【クィレル】のときはかなり手の込んだ芝居と共に誘き寄せたのだが、忌々しくもスネイプに邪魔をされてしまった。そして判断力が大いに欠けた子供達により本格的に計画を妨害されたのである。
前世でトイレに駆けつけた際と同じならば、無謀なハーマイオニー・グレンジャーがトロールを倒すと宣ってハリー・ポッター達に助けられるという手筈だった。
恐らく真相は違うものだろうが、ともかく重要なイベントであることには違いない。リランは壁に身を寄せるようにしてジッとその時を待った。
やがてブオーブオーと地鳴りのような醜い声が聞こえてきた。しかし、一向にハーマイオニー・グレンジャーは現れない。
(そっちのパターンだったか……!)
舌を打ったリランは女子トイレに足を向けた。詳細を知らないリランはハーマイオニーがトロールを追いかけてトイレに入ったのか、それともトイレに入ってきたトロールを迎え撃ったのかが分からない。下手に動いて面倒なことになるのは御免である。リランは、目視確認という手段に頼るしかなかった。
もし見つかれば怪しまれること必須で、杖の直前呪文を絶対に調べられる。人探しだとか探知系の魔法ならまだ良いが監視やら盗聴なんぞの呪文を使ったことがわかればもう逃げようがない。
脳裏に浮かんだTHE ENDの文字を振り払うように、リランは女子トイレの扉を開けた。
▼▽▼▽▼▽▼▽▼
『まったく悪魔みたいなヤツさ』
ロン・ウィーズリーの言葉がいつまでたっても耳から離れない。じわりと滲んだ涙をハーマイオニーはグッと堪えた。わかっている。自分が嫌われていることくらい。だが、わかっていても傷つかないわけではなかった。
少し話をした同級生は 誰も彼もが勉学にあまり真剣ではなく、寮による偏見を持ち合わせた全く自制心のない人間ばかりで、ハーマイオニーは早々にうんざりしていた。
———みんな子供っぽくって嫌になるわ
一人で行動するようになったハーマイオニーには噂や喧騒がよく目に入った。大抵耳にするのは、汽車で出会ったハリー・ポッターと何やらワケありの生徒、リラン・エアクイルの話題だった。
ハリー・ポッター。彼はとても無謀な人物だ。ルールを破って許可なく箒に乗るなんて! 自分が素晴らしい飛行に目を奪われてしまった事を弁解するように、ハーマイオニーはハリーに殊更強く憤った。
ハーマイオニーがリラン・エアクイルの事情を初めて知ったのは、飛行訓練の騒動後の夕食時だった。フレッドとジョージ・ウィーズリーを中心に、グリフィンドールの生徒が盛り上がっている。そこにはロンとハリーの姿もあり、気づけばハーマイオニーはコッソリと耳をそばだてていた。
別に、ただ同じマグル出身であるリランのことが気になっているだけであって、彼らの仲間に入りたいわけではない。純粋にホグワーツの歴史を書きたいだけなのだ。
聡明な彼女はそれが一体誰に対しての言い訳なのかを考えようとはしなかった。
▼▽▼
結論から言えばハーマイオニーは散々な目にあった。
くだらないお遊びの為に、真夜中寮を抜け出すなんて信じられない。大体、何故リラン・エアクイルの話を聞いた後でそんな発想に至るのだ。彼女の、正々堂々規則を守った上での行動と自分達の蛮行を同じ勇気にたとえるなんて! ハーマイオニーは男子二人の思考回路が全く理解できなかった。
「……彼女なら止められたのかしら」
スリザリン生がマグル生まれを蔑んでいることをハーマイオニーはよく分かっていた。本で読んだ史実や自分に言われた言葉の数々、そのどれもが魔法界の在り様だった。
ホグワーツは夢のような場所で、同時にとても窮屈な所だった。だからこそリラン・エアクイルに憧れた。自分と同じマグル生まれで、自分よりとても辛い境遇で、真っ直ぐに生きている彼女が理想の姿だった。
故に思うのだ。何故自分は彼女のように上手く行かないのだろうと。美人じゃないから? 友達がいないから?
少しずつ溜まっていったそれらはロン・ウィーズリーの一言に爆発してしまった。
憧れが嫉妬に汚れるのがハーマイオニーは悲しくて堪らなかった。素敵なあの人をこんな感情で見てしまう自分が大嫌いで仕方がなかった。
図星を突かれて、トイレで拗ねて、友達の声も跳ね除けるなんて、ああ、
「……わたしがいちばんこどもっぽいじゃない」
ポロリと零れた泣き言は、皮肉にも自分が彼らに下したレッテルで、ハーマイオニーは泣きたくなった。
(泣いているのに泣きたいなんて可笑しな事だわ)
ぬぐっても拭っても溢れ出る涙を乱暴に振り払おうとした時、誰かがトイレに入ってきたことに気づいた。
ハロウィンなのにこんな所にわざわざ来るなんてきっとグリフィンドールの誰かに違いない。先ほども追い払ってしまったのに、お人好しがすぎる。今は誰にも会いたくなかったハーマイオニーは、罪悪感で不安定な心のままに叫んだ。
「わ、わたしのことは放っておいてよ……!!」
とんがったヒステリックな声にハーマイオニーは嫌気が差した。人の親切を無下にするなんて最低だ。自己嫌悪に涙ぐんだが、次の瞬間聞こえてきた声に雫が引っ込んでしまった。
「ハーマイオニー・グレンジャーさん……?」
曇りガラスのような柔らかな声。一度聞いたきりの困惑したそれは、間違えようもなくリラン・エアクイルのものだった。
何故彼女がここにいるのだとか、どうして自分の名前を知っているのだとかとどめなく疑問が溢れ出す。ハーマイオニーはパクパクと金魚のように口を開閉することしか出来なかった。
何か、何か言わなければ。キャパシティーオーバーに呻き声を上げた時だ。
「グレンジャーさん!!! 今すぐしゃがんでください!!!」
鋭い怒号にハーマイオニーは座り込んだ。リランの切羽詰まったそれに反射的に従う。静寂がトイレに木霊したその刹那———
「ブオオオオオオオオオオオオァァァァァッッッ!!!!」
雷鳴の如き轟音が頭上を掠めた。鼻がもげそうな異臭と、パラパラ落ちる木の破片。噴射する水飛沫をハーマイオニーは透明な幕越しに認識した。 開けた視界を呆然と眺めた彼女は、自分に杖を向けるリランを見やり、そして今しがたトイレを破壊したものに目を向けた。
コブのついた太い幹のような足、禿げた小さな頭、筋骨隆々な長い腕と醜悪な相貌。幾度も本で見かけ、読んだ灰色の怪物がそこにいた。
「———ッッ、ぁ、!?」
身の毛もよだつトロールにハーマイオニーは悲鳴を上げそうになった。だが、寸でのところでそれを飲み込む。美麗な顔を険しく歪めたリランの姿があったからだ。
ハーマイオニーは自分を包む透明な盾の中で蹲る。腰が抜けて動くことが出来ない。頭では今すぐ逃げなければいけないとわかっているのに、体が言うことを聞かなかった。
じりじりとトロールがリランに迫っていく。中身のない脳ミソはただリランを潰すことしか考えていない。トロールを刺激しないように声を押し殺したハーマイオニーの目には、振り上げられた棍棒と細い杖がゆっくりと写った。
高度な盾の呪文を使うリランが負けるはずがない。しかし、マグルとしての価値観が強いハーマイオニーには、華奢な少女の体躯が潰されてしまう未来が見えてしまった。
「———逃げてッッ!!!!」
耐え切れず声を上げたその途端、ガチャリと鍵の開く音と共に二人の少年の声が飛び込んできた。勢い良く駆け込んできたハリーとロンだった。
「こっちに来い!!」
「やーいウスノロ!!」
彼らは、リランとハーマイオニーに一度括目すると、床に落ちた石や瓦礫をトロールめがけて投げつけた。
「ウィーズリー君、ポッター君! グレンジャーさんのところに行きなさい!!」
トロールが二人の妨害に気を逸らした隙を狙ってリランがビュンと杖を薙いだ。駆け寄ってきたハリーに背中を支えられたハーマイオニーは、眼球を氷漬けにされた怪物を見た。
壁の隅に固まった三人は、鮮やかな手腕でトロールをノックアウトしたリランを尊敬の眼差しで見つめた。
「皆さん怪我はありませんか?」
一転し、張りつめた空気を解いたリランが心配そうに歩み寄ってきた。近くでみる彼女は本当に美しく、しどろもどろになってしまった。
危機が去ったことに安堵したハーマイオニーは、ハッと我に返った。二人もそれに気がついたのだろう。気まずい雰囲気が流れた。
「あ、あの! 助けてくださってありがとうございます。でも、どうして私の居場所が分かったんですか……?」
居心地の悪さを取り払いたくて、ハーマイオニーは瓦礫を片付けようとしていたリランに声をかけた。一瞬面食らった様子のリランだったがすぐさま優しく笑いかけて答えてくれた。
「先生方から、優秀な貴女の話を伺って……その、何か、悲しいことがあったのなら、同じマグル生まれの先輩として、ええっと、何かできないかなと……すみません、あとをつけてしまいました」
気まずそうに眉を下げた彼女にハーマイオニーは舞い上がりそうになった。
———彼女も私と同じ気持ちだったのね!
先程の恐怖や悲しみが嘘のように吹き飛んでしまった。憧れの存在に気にかけてもらえていた。その事実がただただ嬉しかった。今なら箒にだって乗れそうだった。
「グレンジャーさん? やはりどこか痛みますか?」
赤くなった顔を覆うハーマイオニーにリランが首を傾げた。知らない一面を知れたことに胸が弾んでいたハーマイオニーとそれに呆れるロンとハリーだったが、聞こえてきたバタバタという足音にサッと蒼ざめた。
▼▽▼
「一体全体、あなた方はどういうつもりなんですか」
蒼白な顔でマクゴナガルが唇を震わせた。駆け込んできたスネイプと、トロールを見るなり悲鳴を上げたクィレルの視線がリランに注がれた。
「エアクイルどういうことですか?」
怒りとそして困惑に満ちたマクゴナガルの声に、ハーマイオニー達は俯くことしか出来なかった。年長者である彼女に責任が問われることは分かっていたが、悔しくてたまらない。
ロンが何やら口を開こうとしたが、三人を庇うように佇んだリランがそれを遮った。
「女子トイレにグレンジャーさんを探しに行ったところ、トロールに襲われてしまいました。そこに同じく彼女を探していたウィーズリー君とポッター君が危機一髪のところで来てくれたのです」
三人は唖然とした。危機一髪? とんでもない、むしろ足手まといになっていたのに。いち早く察したハーマイオニーは、ポカンとするハリーとロンの袖をひきそれらしい顔をした。
「では、何故君がグレンジャーを探していたのかね? 特に彼女との接点はないだろうに」
言外に寮の隔たりを滲ませたスネイプが刺すように言った。何故か視線はハリーに向けられている。
「……私は彼女に興味を持っていました。仲良くなりたい人を心配する、これだけでは理由になりませんか?」
流石に教師の前で
なんてことをしてくれたのだ。目を背けて本当に微妙な程に頬を染めたリランの姿に教師たちも目を丸くしていた。
わかりづらいのに分かりやすいその仕草に、今すぐ叫びたいような、転がりたいような得も言われぬ感情を刺激され、ハーマイオニーは必死でその衝動を堪えた。
トロールが転がるトイレにそぐわないなんとも微笑ましい空気が流れた。
「トロールはあなた達四人が倒したのですね?」
「はい」
ゴホンっと咳払いをしたマクゴナガルにリランが即答した。リランに杖を渡すように言ったスネイプが低く呪文を唱える。ふわりと現れた木霊のような何かに、マクゴナガルは感心したように頷くと続けざまに言った。
「大人の野生のトロールと対決出来る一年生や、見事な防御術、氷結術、失神術を扱える生徒はそうザラにはいません。グリフィンドール十点、スリザリン二十点」
「怪我がないのなら早く寮に戻りたまえ」
おとがめなしで終わったことに驚く間もなく四人は外に連れ出された。後片付けはクィレルがやるらしい。ハーマイオニーは怯える教師に任せて本当に大丈夫なのかと訝しんだ。
コツコツと四人は黙って廊下を歩いた。リランに何か言わなければ、今度こそはとハーマイオニーはお礼を告げようとした。しかし、リランがひたりと足を止めたことで遮られてしまう。
「あの、僕たち……」
「その言葉は他に言うべき人がいるでしょう? ちゃんと伝えなければ」
では、私はこれでと、ハリーに諭したリランは固まる彼らに会釈をし、寮に戻ってしまった。
気まずい沈黙が再び流れる。先に口を開けたのはロンだった。
「ごめん! ハーマイオニー!!! 僕のせいで君を傷つけた……」
「僕もごめんね……あげくにトロールと閉じ込めちゃって……」
頭を下げる二人にハーマイオニーは笑い出したくなった。なんだこんなにも簡単なことだったのに気づかないなんて。
「私こそごめんなさい」
するりと零れた六文字は、ハーマイオニーの心を軽くさせた。ドロドロの恥ずかしい想いはすっかり消え去っていた。照れ笑いを交わした三人の間には確かな友情が結ばれたのだ。
共通の経験をすることで互いを好きになる、そんな特別な出来事があるものだ。巨大な化け物を倒したり、憧れの人物に近づくというのもまさしくそういった経験だった。
リラン:燃えたい
ハーマイオニー:生まれて初めての感情(萌)
浮遊呪文さん :解せぬ
教師陣 :珍しい生徒の姿に不覚にも和んだ