Q or…?   作:涛子

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【18】Lobelia(悪意)

「……」

 

 クリスマスまでもう少しという十二月も半ばの早朝、あまりの寒さにリランの目はすっかりさえてしまった。

 ただでさえ明かりが届かない地下牢は、部屋の広さも加わっていつにもまして冷え込んでいる。

 これはかなり雪が積もったなと、億劫そうに身支度を整えながらリランは顔を顰めた。

 念入りに保温魔法をかけたリランは、久々にしもべ妖精の所へ行こうと早々に談話室を後にするが、地下廊下に差し掛かった辺りでふと歩みを止めた。

 リボンに彩られた松ぼっくりやヒイラギといった控えめなクリスマス飾りが目に入ったからだ。

 

「……」

 

 彼女にとってクリスマスという行事はあまり縁のないものだった。薄っすらと残る【クィレル】としての意識が覚醒する前の記憶にも、メンター家を乗っ取った数年間にも祝った覚えが一切ない。

 また、【クィレル】自身の思い出にも特に馴染みはなかった。母子家庭故に贅沢は出来なかったし、イギリス人ではないマグルの母はそもそもキリスト教を信仰していなかった。

 僅かばかりに通っていたプライマリースクールの同級生の話や、絵本、店の広告などで知識としては知っていたが、『知っている』と『やったことがある』は同義ではない。

 マグルの世界で育ちつつも宗教的な意味合いで、クリスマスの文化自体触れていなかった当時の自分は、ホグワーツのクリスマスにさぞかし驚いた。

 とはいっても、学生時代は闇の帝王の全盛期だった上に、陰湿な虐めやクリスマスのもつ一定の年齢で気づく残酷な意味合い(リア充共がイチャつき盛る日)により、素直に感動したのは入学年くらいだったが。

 塩分濃度の高い思い出に浸っていたリランは、可愛らしい装飾品を前に突然んん? と首を傾げる。パチパチと瞬きを繰り返し、やがて合点が言ったと言わんばかりにふむと頷いた。

 

「……まともにクリスマスを祝うのは今年が初めてか」

 

 入学許可書が届く以前もピーブズはホグワーツに帰っていたし(というかクリスマスを楽しむ間柄ではない)、リランも去年、一昨年と冬休みは屋敷に帰省していた。

 成人もとい教師になってからはもはや気にも留めていなかった白い聖夜を、人生初めてと言っても良いくらいに迎えるという事実にリランは妙に感心していた。

 

 うん、そうか、そうなのか、

 

 胸の奥からじわりと滲みだす不慣れな感情を持て余したリランは、それを誤魔化すように再び歩き出す。

 足取りはどこか覚束なかった。

 

 

 ▼▽▼

 

 

「お、お、おはようご、ざいますっ、ぉ、お久しぶりですね、ミ、ミス・エアクイル……!」

「オハヨウゴザイマス」

 

(——————いやいやいやいやいやッッ!!!!!!!!!!!)

 

 数分前の柔らかな心中はどこへやら。荒波雷鳴突風渦巻く大惨事な脳内で力いっぱいリランは叫び散らした。

 

 時を戻すこと十五分。密かな趣味である押し花の材料採集にと、中庭へ足を運んだリランは温室の扉が開いている事に気づいた。

 スプラウト教授が植物の手入れをしているのだろうか、もしかしたら新鮮な花が貰えるかもしれないとハウスへ入った彼女はまさか、一番会いたくない人物が居るとは夢にも思っていなかったのだ。

 

 よく考えれば、自分自身であるクィリナス・クィレルと行動や思考回路が被ることは予想できた筈である。しかし、リランはクリスマスプレゼントと言う名目でしもべ妖精に後腐れのない贈り物が出来ると浮かれていたのだ。

 

(兎に角この場から退散……いや、いきなり逃げるのも露骨か? よし、それとなく会話をして隙を見て逃げよう———ッッ!!!)

 

 脱出経路を描き出したリランは、いつも以上に深く猫を被り直すとしゃがみ込むクィレルの隣に近づいた。

 びくりと跳ねた背中に苛立つも、構わず距離をつめ話しかける。

 

「……先生はどうしてここに?」

 

 掴みは無難な問いかけだ。先に相手の目的を知っていたほうが会話を合わせられる上に、トンズラしやすい。仄かな笑みを覆い隠し【クィレル】の限界接近距離である三十センチの空間を保ったリランは何気なく話を降った。

 

「ひぇ……え、えっと、そうですね、じゅ、授業の教材に使えるものがあったらと、スッ、ス、スプラウト先生に鍵をお借りしたん、ですよ、えぇ」

 

 しきりに目を泳がすクィレルが花を見つめながらひきつった声色で答えた。やめろ気持ち悪いなと思いながらリランも躊躇いがちに言葉を返す。

 

「……お仕事の邪魔をしてしまってすみませんでした」

 

 若干の間をおいて謝罪を述べれば右横の気配がヒュッと揺らいだ。手ごたえありだ。拳を握りしめたリランの脳内では、頼りなさげに謝り倒すクィレルとそれを気にかけつつも逃げおおせる自分の姿がありありと想像できた。

 

「私がいると気が散るでしょうし、お暇させて頂きま———」

「いえ、構わないですよ?」

「……え……?」

 

 あともう一押しだとトドメの台詞を吐いたリランは、思わぬ返答に呆然と固まった。

 

「こんな早朝にやってくるのですから、大切な用事なんでしょう?」

 

 神経質な三白眼を逸らすクィレルにリランは混乱を通り越してもう泣きそうだった。

 乱舞する小宇宙とビックバンをすり抜けた瀕死体の冷静沈着な自分が、いいから逃げろと怒号を上げる。

 

「でも、また別の機会に来ますので、ホントお気になさらず……」

「この時期に外で花を見つけるのは苦労しますよ?」

「……」

「……ゆっくりどうぞ」

 

 今にも飛び出しそうな、どもりはどうしたとか、もう黙ってくれだとか、お前誰だとかと言ったあらぬ暴言をリランは黙り込むことで抑え込んだ。

 縮こまったひょろ長い図体を横目に、開花期真っただ中のクリサンセマムを眺めるリランの脳ミソは衝撃の展開に考えることを放棄していた。

 

 ———いや、もう、ほんとに何なんだ……

 

 茫然自失の胸中に、雪深い白と陽だまり色の花びらがそよいでいる。

 この温室で管理されているのは、魔法植物や薬草だけではない。魔力を持たない普通の花は退職する教師への手向けだったり、ちょっとしたお見舞いの品として役立たれている。魔法により季節を問わずに咲き誇る花たちはいつ見ても壮観だったが如何せん、隣りのコイツが怖すぎる。

 

(待てよ、どうしてこの男は私の目的を知っていたんだ……?)

 

 まともな対人コミュニケーションをかましたクィレルのインパクトに霞んだが、浮かび上がった疑問は紛れもなく不穏だった。ぞわぞわと背筋を駆け巡る悪寒にリランはもう普通に限界寸前だった。

 すわストーカー行為かと怯えるリランは、すくっと立ち上がったクィレルの顔をまともに見ることが出来なかった。そんなリランに気づいているのか否か、ローブを軽くはたくクィレルは何かを差し出した。

 

 ぱちり

 

 瞬いた先には、まろやかなシルクが連なったアネモネの花が咲いていた。花柱から生えた五つの花弁を包むように、一回り大きな花弁ががくを縁取るそれは一足早い春を纏っている。

 

(ど、どうすればいいんだ……?)

 

 突拍子のない不可解な行動に思わずクィレルを見上げる。

 膝に片手を置き、中腰で佇む彼の表情は全く読めず、しかし、どこか歪でリランはおずおずと花を受け取るしかなかった。

 

「ぁ、ありがとうございます……」

 

 クィレルの凪いだような、それでいて今にも泣きだしそうにも思える見たこともない表情に、どもりが移ってしまった。どういたしまして、と返すやはり平淡な声に何故だか不快感は覚えない。不気味な筈なのに、嫌いな筈なのに。

 今日は何だか調子が可笑しいのかもしれない。熱でも出したかなとコッソリ手首の脈を図るが心拍は至って平常通りだった。

 

「アネモネは押し花に最適です。きっといいものが作れますよ」

「!! どうして……」

「あー……この間の提出物にその、しおりが挟まっていて……」

 

 レポート課題は分厚いですものね。盗み見のような形になってすみませんと、少し眉を下げるクィレルにリランはただただ頷くことしか出来ない。もっとエゲつないものを想像していたからに、随分と健全な理由で拍子が抜けた。

 

(え、(クィレル)ってこんな感じだった……?)

 

 大事な何かが溶け出しかけたリランの本能は、即座にこの場を離れろと喚きだした。逃げろ、さもなくば死ぬぞ! 今までの認識が、私の中の私が溶けてしまうぞ! 

 

「あ、栞は今度の授業でお返ししますね」

「丁寧にありがとうございます、あの、そろそろ図書室が空くころなので失礼させて頂きます」

「ああ、はい、行きなさい。で、ではまた……ちょっと待ってください」

 

 セドリックやハーマイオニを前にした時のような独特の危機感に従ったリランの背に、静止の声がかかった。

 近づく影に今度は何だと身を固めるが、何か触られた感触はない。やがて頭上のクィレルが身を引いた。

 

「髪に花びらがついていたので呼び止めました。そこのロベリアの花ですかね、あぁ、もう行ってよろしいですよ」

「……ありがとうございました」

 

 骨ばった指に張り付いた瑠璃色から目をそらし、手短にお礼を述べたリランはようやく温室から立ち退くことが出来た。

 

 

 ▼▽▼

 

「…………」

 

 ハウスを抜け角を曲がり切ったときリランは手のひらを額にあてがった。伝わる体温は冷気に冷えて熱いどころかさっきより低い。

 

 中庭のベンチに腰かけ、手元のアネモネをなんとなく朝日に透かしてみる。雪の乱反射を集めた花はキラキラと小さな銀河を生み出していた。

 

『アネモネは押し花に最適です。きっといいものが作れますよ』

 

 いつもの野暮ったさのない、さらりとしたクィレルの言葉が鼓膜を撫でる。

 

「———そんなこととっくの昔にしってるよ」

 

 わたしがいちばんよく知ってるんだ

 

 

 

 

 

 ▼▽▼

 

 

 

 

 ———いやもう何なんだ。お前の中で一体全体何が起きたっていうんだよ、ホントに。心の底から、力いっぱい、大真面目に意味がわからない。わかるわけない。わかりたくもない。どういうことなんだ、何を考えているんだ

 

 予想だにしないクィレルとの遭遇から数時間。正しく、心ここに在らずな有様で午前の授業を終えたリランは図書室の片隅で頭を抱えていた。

 本棚の影に隠れていても噛み締めた唇や、眉間のシワから滲む彼女の困惑は計り知れない。

 普通に会話をして、共通の趣味があって、おまけに花まで貰って……しかも、ただの花では無くアネモネときたものだ。長年の趣味で愛用してきた植物の花言葉をリランが知らない筈もない。

 これまでのリランなら恋慕を確実に向けられているこの時点でそれなりの態度を取っただろう。自分が傷つく態度などお茶の子さいさいだのと宣って、表向きは当たり障りなく負の感情を伝えて、内心では己の持ち得る限りの罵倒を尽くし、全力で恋の芽を摘む。

 しかし、ここまで彼女が憔悴しきっているのは、クィレルのアクションに対して即座に反応出来なかったということであった。

 あまりに不気味な展開に脳が麻痺していたのだろう。でなければ、後頭部に闇の帝王を貼り付けた犯罪者に同情心染みた感情など湧くはずがない。頼む、そうであってくれ。

 本棚から取り出したなるだけ分厚い本で集めた花々をぎゅうぎゅうと圧縮する。正気に戻った今、なにか無心になれることをしなければ今度こそ本当に被った猫が剥がれ落ちてしまう。

 学園生活をマシに過ごすために、必死に積み重ねてきた今までの苦労をそう易々と水の泡にしてたまるか。そう、落ち着け、落ち着くのだリラン・エアクイル。今のお前はただの押し花生産機だ。淡々とやるべきことをこなせ。そして速やかにこの悍ましい記憶を抹消するのだ。

 ハッキリと、それこそ目を瞑ってでもわかっていた自分の顔の輪郭が急にぼやけてしまったような、疑うことすらなかった事実が覆ったような、そんなどうしようも無い想いがもやを放ってリランの心に覆い被さっていく。

 不安感のあまり、普段は全て手作業でこなす押し花作りに魔法を使ってしまった。異常なスピードで出来上がっていく作品の山を見ても手は止まらない。心細いだの、寂しいだのとそんな生ぬるいものではない。己の存在意義そのものが崩れ落ちた感覚は実に気色が悪かった。

 

「ハァ……」

「どうしたんだい? ため息なんかついちまって」

「おまけに顔色も雪みたいに真っ白だ」

「!! ……フレッド、ジョージ……!」

 

 折り重なった押し花を片付ける気力もなく、疲労感のあまり思わず深いため息をついたリランは、背後からかかった二人分の声にパッと振り返った。

 

「よぉリラン、元気そう……には、うーんどうみても見えないね」

「最近寒いからなぁ、風邪でもひいたのかもしれないぜ」

「そりゃ大変だ! 医務室にいったほうがいい」

「ところでジョージ、一日一個のリンゴは医者を遠ざけるっていうけど、本当かい?」

「ああ、よく狙って投げればね」

 

 何故か鼻の頭を真っ赤に染めた双子が、会話に入る隙もなく矢継ぎ早に捲し立ててくる。いつもの流れであれば(大変不本意だが)冗談を飛ばしたあたりでリランが流れを断ち切るのだが、生憎と彼女の元気はしおしおと枯れ果てていた。

 

「なぁ、ホントに君平気かい?」

「大丈夫です、ちょっと疲れてしまっただけなので。お二人こそ体が冷えているじゃないですか」

 

 心配そうにこちらを伺ってくるフレッドから目を逸らしつつ適当に話を切り上げる。背丈の分だけ冷気を纏っているので側に寄られると地味に寒いのだ。

 

「ああ、ちょっと外で遊んで来たんだよ。折角雪が降ったんだし楽しまなきゃソンだろ?」

 

 尚も眉根を下げる片割れを小突きながらジョージが快活に笑った。数年付き纏われて分かったが、片割れよりも少しばかり冷静な性質であるらしいジョージが———あくまで微々たる差なのだ———上手く話を逸らしてきた。今だけはありがたい気遣いに便乗してリランも口を開いた。

 

「こんなに寒いのに元気ですね」

「雪が固くなっちゃう前に雪合戦がしたくってさ、あとやーっと明るくなってきたし」

「マジで今日は最高だよ、なんたってクィレルが居ないから午後は授業を受けなくて済む」

「でも、自習課題はあるんでしょう?」

 

 一番聞きたくない言葉にグサッとくるも、はて、自分はこんな時期に休んでいたかとリランは首を傾げた。とりあえず会話を続けねばと優等生らしい返答をするが、首をすくめてニヤつく彼らを見れば答えなど分かりきったものである。

 かつては真面目に授業をこなさないコイツらに殺意も覚えたが、リランとしては一行に構わない。むしろ存分にヤツを困らせてくれ。

 

「ほーんとクィレルせんせー様様だよ。できればこのまま休んでくれないかな。ニンニク臭いのは懲り懲りだ」

「元からなんかヤバい感じだったけど、最近のあの人はマジでヤバいよな。あの血走った目を見てみろよ」

 

 まるで、なんかに取り憑かれてるみたいだと呟くフレッドは、存外勘が鋭いようである。こんなクッソ寒い中よく出かけるなと馬鹿にしていたことを謝ろう。まさにその通り、絶賛ヤツは文字通り魔王級の化け物に寄生されているし、これから聖獣にも呪われる予定だ。

 

「ま、何はともあれ彼のおかげで僕らの午後は実質パラダイス。おまけに今日を含めてあと二日寝ちまえばクリスマス休暇だ!!」

「さりげに木曜と金曜を飛ばしましたね」

「重たいタールデイ(thars)なんて飛び越え(……)ちまいたいよ」

「ThursとFriだけにってか?」

「ッフ、それ結局、金曜日に着地してるじゃな、いですか……ふふっ」

 

 あんまりにもくだらないジョークと未だに赤い鼻っ面が無性に可笑しくてつい吹き出してしまった。

 

(ちくしょう、こんなので笑うなんて……!)

 

 らしくないとはわかりつつも、疲れ切った頭はどこか沸点が低くなっているようで笑いは止まらない。得意げに顔を見合わす双子の姿を捉えたところで漸く波が引いてきた。調子に乗らせては後が億劫だとかつての記憶が告げてきたのだ。

 

「わお、いいモンみれたな兄弟よ」

「そうだな。ホラ、彼女の顔色もいい感じだぜ」

「リンゴも医者も必要なかったみたいだな」

「その通り! 投げるのは雪玉だけでよかったらしい。これで僕達の苦労も報われる」

「ああ、心が弾むぜ! クィレルのターバンみたいに。それにしたってよく跳ねたよな、あの雪玉」

「的には上出来な頭でっかちだからかもな? なぁ、リラン君はどう思う?」

「フッ、くぅ、っ〜〜〜!!! し、しりま、ふァ、しりませんっ、よ、そ、んなこと……!」

 

 誰か笑い転げなかった事を褒めたたえて欲しい。我ながらよく耐えた。よくぞここまでで押し込めた。

 気分が落ち込んでいなかったら、顔の穴という穴から液体が飛び出た放送事故待った無しの酷い絵面になっていたところだ。しかし、双子の応酬はまだ終わらない。

 

「ふぅーむ……ベストクールガールのリラン・エアクイルにもわからないとなっちゃあ、僕らにわかるはずがない」

「いや、待てフレッド。ひとつだけ証明出来た事があるのを忘れていないか?」

 

 チェシャ猫のようにブルーの瞳を歪ませた瓜二つの顔面を見た途端、リランは即座に悟った。これ以上コイツらに一言も喋らせてはいけない。

 だが、必死の制止も心の中では無いも同然。

 再び互いを見あった悪戯小僧達はその名に相応しいあくどい笑みを浮かべると言葉を紡いだ。

 

「さて、フレッドおさらいの時間だ。リランの調子は……うん、とっても元気そう見えるね」

「もうすぐクリスマスだからなぁ、彼女もワクワクしてるのかもしれないぜ」

「そりゃ素敵だ! 僕らと一緒に談話室へいったほうがいい」

 

「ところでジョージ、一日一個の雪玉はクィレルを遠ざけるっていうけど、本当かい?」

「ああ、よく狙って投げればね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントにごめんって!!!」

「……別に……怒ってない、です……よ」

 

 とどめを食らった爆笑後、俗に言う賢者タイムに入ったリランは羞恥に死んでいた。よりにもよってウィーズリー達の前で笑い転げてしまうなんて。一旦落ち着いた思考回路は既にクソ野郎のせいでキャパを超え、多重労働による肉体疲労もろとも全てを放棄してしまった。

 ぺちゃんと机に突っ伏した無防備な姿が珍しいのか、揃って手を合わせて頭を下げる双子の謝罪はどこか意識の外だ。控えめに肩を突かれたり、目の前で掌を降られていても好きにさせてやった。

 疲れに疲れたリランは、絶対に後で面倒くさい事になると分かっていても、そっとローブのフードをかぶせてくる彼らに抗えない。やけになっているともいう。

 

「あらら、マジでこりゃめっずらしいな……」

「おーいリラーン? 寝ちゃダメだって、マダム・ピンスがこっちに来たらやばいよ」

「午後の授業もあるだろ?」

「……あなたたちが、それを、いうんです、か……」

 

(———あ゛〜〜ねむい、かえりたい、お茶飲みたい……)

 

「ンンー……重症だな!」

「やっぱりリンゴが必要みたいだ」

 

 フード越しのくぐもった双子の会話になんとか返事をするも、リランの瞼は段々と下がってきてしまう。司書のマダム・ピンスは本の扱いに殊更煩く、ただ借りるだけでも嫌味を言う。大事な書籍に花を挟んで図書室で眠りこけるなど以ての外。間違いなくはたきで顔を叩かれる。

 それは嫌だな、いっそ授業をサボって厨房で寝てしまうかとうろうろと考えていた時だった。首に引っ掛けたマフラーをグルグル絡めとっていたフレッドが突然、あっと声を上げた。声がデカいと布の隙間から思わず睨み上げるが既にジョージが目線で咎めていた。

 

「おい! リランが起きちゃうだろ!! いや、起こしてたんだっけ……ともかく急にどうしたんだよ?」

「いや、ハリー達からリラン当てに伝言を預かっててさ、今思い出したんだよ」

「ああ、確かに僕らかセドリックしかリランは捕まえられないからな~。いい判断だね」

 

(今なんと?)

 

 ぶっこまれたパワーワードにリランの眠気は一気に霧散した。だが、体は鉛のように重く、いつの間にか頭に乗せられたジョージの腕が振り払えない。リランの戸惑いもお構いなしにポンポンと重大事項が飛び出してくる。

 

「で? 何を頼まれたんだよ?」

「ちょ、ジョージ、うでをのけてくださ」

「なんかリラン、猫っぽいね。ええっと、なんかこの間の、そうそう! クィディッチのお礼が言いたかったんだってよ。今日の放課後」

「おれい」

「ああ、それか! そういやぁハーマイオニーがなんか昨日言ってたな、ニコラスなんちゃらがどうとかこうとか。休暇中は家に帰るらしいからその前に、勉強を教わりたいらしいぜ」

「おそわりたい」

「猫よりも九官鳥みたいになってんな、いやオウムかな? まあ、今日の放課後なら君も空いてるだろ? 最後の科目もクィレルだしさ」

「流石にここまで会えないのは可哀想だし、あってやってよ。あとリランはどっちかっていうとインコだ」

「ほう? いってみたまえよジョージ君」

 

 なにやら頭の上で謎議論が始まったが、リランの聴覚はイベント予告の前に全て遮断されていた。この時期にニコラスなんちゃらだなんて単語が出るあたりいよいよ本場だろう。というかお前ら三年生だろ、世紀の錬金術師の名前くらい覚えておけよ馬鹿。

 

 ———もうマジで帰りたい

 

 結局、リランが動けるようになったのは、猫ならロシアンブルーでインコなら水色だと決着がついた頃だった。

 

 

 




クィレル先生の趣味は押し花(公式)


精神年齢35歳の13歳:SAN値ゴリゴリ削られた。押し花どうしよ。
暫定22歳童貞:ターバンべちゃべちゃ。
フレッド:リランは猫っぽい。雪玉は弾ませてからが本番。フードを被せた。
ジョージ:リランはインコっぽい。リンゴは投げるもの。腕を乗せてた。



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