Q or…?   作:涛子

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【21】Christmas (クリスマス)

 人間の生命としての成長というものは、他の生き物に比べて非常に愚鈍であり、また非効率的である。

 個体によっての身体機能の差異が顕著であったり、繊細かつ複雑な心理の発達過程を得る割には、そこかしこにロクデナシがひしめいている。

 何故、こんなにも同種でありながらも完成体の質が違うのだろうか。

 

 リランとしては、やはり人格形成を担う幼少期から青年期の合間に秘密があるのだと思っている。

 特に、十代前半から訪れる思春期なるものの影響力は殊更に凄まじい。他者との交流が増えると共に達成感、有能感、自己認識を求める意識が増加するため、個としてのぶつかり合いが大変にエゲつなくそして面倒くさい。

 やたらめったらに、容姿だの性格だの能力だのと誰の基準かも分からないレッテルを貼りつけたカースト制度をぶったてたがるし、排他的な癖に一人を怖がる。

 性の目覚めも成熟し始めればオスとメスの二種類に無理矢理分類される殊更に厄介な時期だって訪れる。

 リランは既に十三歳を迎え、体は子供から大人へ変わりゆく道に足を踏み入れていた。幼いころの劣悪な生活からか初潮など二次性徴の兆しはまだ見られていないが、精神は既に三十路を超えたもう十分な大人だ。平たく言えば、男性のアレやソレらの事情はキッチリ履修済みということである。

 つまり、鼻腔を掠めた覚えのある生臭ささに彼女の意識は一気に叩き起こされた、と言うのが事の次第であった。

 

「………………………………は?」

 

 驚愕に見開かれた琥珀が捕らえたのは、陽だまりの面影を残す可憐な黄色の花弁だった。

 えづきそうな濃い臭気と相反するそれにやや面食らうが、それ以上に臭いを辿った先に佇む、ぐるりと反り返った山羊の角のじみた真っ黒な実と、ヌラヌラと涎のような粘液を滴らせる醜悪な青黒いツルのビジュアルが凄まじい。

 

(オッッッェェァ……!!!! 無理無理無理無理ッッッ!!! 誰だこんな真似をしたド変態は……!)

 

 まさかの絵面に一周回って冷静になったリランは、この悪質なクリスマスプレゼントの贈り主の特定に勤しみだした。眉根を寄せ困惑をありありと浮かべていた面持ちは段々と苦々しく歪んでいく。

 己がモテない万年発情期な野郎どもの餌になっていることを察していたリランは、遂にスリザリンの男子生徒らの性欲が暴発し白ジャムテロを実行してしまったのか! とあんまりな推測をしていたのだが、この様子を見るにどうも勝手が違うらしい。

 おそらく己を襲っている化物の正体は、複数の植物を掛け合わせることで作られた合成生物、キメラだろう。

 キメラを錬成するには非常に高度な技術が必要なため、たかが学生風情が悪戯で扱うには無理な話である。

 ならば外部から取り寄せた可能性もある。が、こんなイロモノは検問所で絶対に引っかかるに決まっているのでこれも論外だ。

 正直、目下の触手プレイ×美少女という眉唾物のブランド(エロ同人的展開)には惹かれたのだが、幾ら性に飢えていたとして穢れた血を相手に犯罪者になりえるリスクをお貴族様達が起こすだろうか。

 見目麗しさにトチ狂ったといった可能性もあり得なくはないが、やはり現実的ではない。

 となると犯人は寮の合言葉を必要とせず、そして熟達した錬成の知識と技量を備えたものに限定される。

 候補としては、クソッタレなピーブズと寮監督のスネイプ、校長のダンブルドア、大穴で屋敷しもべ妖精が挙げられるが……面子だけでわかる。

 大きく舌を打ち悪態をついたリランは寝間着に張り付く湿り気に吐き気を催しながらも、目の前の怪物を排除しようと枕元に腕を伸ばし杖を取り出そうとする。

 しかし、指先は空をきっただけだった。

 

「ヒェッ!?」

 

 なんと頼みの綱の相棒はギリギリ手の届かないベットの淵に挟まっていたのだ。

 命に等しい武器の不在に絶句する肢体に構わず、リランに絡みついた触手達は下腹部を弄りながら足の甲から太股にかけてヌルりと這いずりまわる。

 性的意図を感じる動きとそのおぞましい感触に、全身の感覚機関が総動員で拒絶反応を引き起こすが寝起きの肉体では上手く力が入りきらない。

 リランの顔が更に青褪めた。神聖なるクリスマスの早朝に処女を失いかけているという現状が絶望感とともに重くのしかかってきた。

 そうこうしている内にも蔦は無情に乙女の花園へと迫ってくる。

 

「〜〜〜〜ッざけんなよあの野郎ォ!? く、っふ、最近やたらと大人しいと、おもッッ〜て!! ッちくしょ、思ってたらァッ!!!」

 

 必死に脚を突っ張り抵抗するが所詮力は少女のもの。勝敗は見るまでもなかった。

 

「うあ゛っ……!?」

 

 不意に指のまたから抜け出した一本に腰回りを擽られた。重力に従い倒れたリランの柔らかなリネンコットンの寝巻きを、不埒な粘液が汗を混ぜながらじっとりと濡らしていく。

 これから自分がどうなってしまうのかを悟ったリランは、分厚い睫毛を震わせる。

 最早逃れることは叶わない。せめてもの矜持で同僚は起こすまいと少女はさくらんぼの上品な唇を歪めた。

 脳裏によぎるのはかつての忌々しい(マリアに襲われた)記憶。無意識に刻まれた残酷なワンシーン。

 それを知ってから知らずか、下世話に嘲笑った不届き者は舌なめずりをするかのように触手を振りかぶった。

 

 

 ▼▽▼

 

 

「ッッ、ァ……ふァ、ア、ンは、っ」

 

 

 薄暗い寝室に響くのは淫らな水音と軋むベッドのスプリング、そして快感に戸惑う少女のあえかな声……

 

 

 

 

 

 などではなく

 

「ッハァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!?」

 

 ビチビチとのたうち回る触手とそれを握りしめる密やかな雄叫びであった。

 雪魄氷姿(せっぱくひょうし)柳眉倒豎(りゅうびとうじゅ)

 濡れ場も凍りつくこの展開はリランの記憶にも既視感のあるものだがそんなことは関係ない。リスクを承知で火事場の馬鹿力を発揮した可憐な美少女の背中は歴戦の漢ものであった。

 

(耐えろ、耐えるのだクィリナス・クィレル! お前は女じゃねぇ、男だ! I'm a man! めっちゃ男!! 日陰者の女々しい童貞! 禿げの心を忘れることなかれ!!!)

 

 必死だった。リランは本当に必死だった。貞操の危機を守るためならば抗う術が無様な自虐だろうが何だろうが構わなかった。

 健やかに眠る少女たちを起こさぬよう小器用に荒ぶり散らし、苦しげに暴れる植物の根を手の甲に血管が浮かび上がるほどに鷲掴む。

 これ以上の面倒ごとは全身全霊でお断りだった。

 しつこいようであるがホグワーツは本気で居心地が悪すぎる。考えても見てほしい。前世も含め、ただでさえ悲惨な思い出ばかりなのに、リランはダンブルドアだの闇の帝王だのハリー・ポッターだのとかいうホグワーツやべえ奴が三乗される世代に在校している。

 更に言えば前代未聞なマグル出身のスリザリン生。そして外見だけは絶世の美少女なのでそれはそれは妬まれるし欲情される。中身はもういい歳のオッサンなのにだ。

 

 何度でも思う、本当に私可哀想。

 

 称賛も優越感も気持ち良いが、所詮は魔力循環がそこそこな凡人スペックなのでボロが出たら終わる。かといってこれからに備えて高度な呪文を覚えようにも教師の目が怖すぎる。少なくともクィレルがいるうちは絶対に出来ない。

 努力せねば文字通り死に至る精神崩壊施設。それがリランにとってのホグワーツだった。

 もし才能と度胸があれば、入学許可証なぞ焼き捨て海外に移住していた。それほどに嫌悪し慄く世界で弱みなど見せてなるものか! 恥辱を黙って受け入れる弱者(メス堕ちヒロイン)になってたまるものか! 

 今にも爆発しそうな万感の想いを胸に、確実にとどめを刺そうとリランは上体を持ち上げた。

 のしかかり、さぁさっさと堕ちてしまえ化け物めと悪役じみた顔のまま力を込めたその瞬間、

 

「なにしてんのお前??????」

 

 背後から憎たらしい声がかけられた。

 

 一閃。

 

 痛いほどの静寂が早朝の寝室に降り立った。

 ただならぬ雰囲気に、空気の流れも時計の秒針も蠢く触手キメラでさえもヒタリと動きを止め、息をひそめて事の次第を凝視する。

 くぐもった湖の波打ちが石壁越しに響いた頃、ようやくリランは首だけを振り返った。

 ゆったりとした動きのそれは寛いだドラゴンのように雄大であるのに、一切の温度を感じないまっさらな表情が、人工的な美と得体の知れない宇宙の造形を思い起こさせる。

 ギラつくスモーキークォーツは無言のままピーブズの濁った(まなこ)を見据えた。

 リランの心は不思議と穏やかだった。先ほどまでの焦燥も恐怖も痛みも怒りも何もかもがまろやかに凪いでいた。

 ピーブズも異変に気づいたのかヒクヒクと口元を引き攣らせている。

『目は口程に物を言う』。成程、昔の人間は上手いことをいったものだ。

 腹立たしい双子の片割れと同名の詩人に、心からの賛辞を送ったリランはふうと息をつく。

 人生において先人の偉大なる言葉は大体がその通りに実現される。個人的な意見だがこれはある意味真理であると思うのだ。

 

「……!? お、おい待て、落ち着けリラン!! これにはワケが——————」

 

 刹那。

 

スクージィィィィィィッッ(霊魂退散)!!!!!!!」

 

 オモダカの花弁の形をした翡翠色の稲光が、愚かな悪霊を戯言もろとも黙殺した。

 

 

 

 

 

 ▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 

 

 すっかり日も昇りきった午前八時。

 朝日がきらりと差し込む六畳ほどの一室で一組の男女が向き合っていた。

 二人のいる板張りの部屋は、隅の方に子供の背丈ほどの白いクリスマスツリーがあるだけで実に質素でありなんとも味気がない。

 せめて絨毯でも敷けば少しはマシになるであろうが、残念なことに既にウォールナットのフローリングは、男、もといポルターガイストのピーブズが膝を冷やすのに使っていた。

 ひたすらに身を縮こまらせ板の目を見つめるその顔は溢れんばかりの虚無満ちている。

 大人しいピーブズ。ホグワーツ生が眼を向くほどに字面も絵面も尋常でないが、もしも第三者がここに居たとすれば彼よりもそれを見下ろす少女の怒気に卒倒するだろう。

 切れ長の伏目がちな瞳を限界まで見開き、杖をレイピアのように携えた少女は水気を含んだ唇をそっと開いた。

 

「これは何ですか?」

「植物です」

「これは何ですか?」

「……触手キメラです」

「…………」

「…………」

 

(なんだこれ)

 

 沈黙が痛い。

 

 自分のやったことをこうも事務的に解いた出されるとなんだかとても居た堪れない。なんだろう、久々だよこんな感覚とピーブズは半ば意識を飛ばしかけるが、そんなことは意にも介さないリランは淡々と言葉を続ける。

 

「どういった植物で錬成しましたか?」

「イビセラ・ルテアをベースにプロボスキディアとハルパゴフィツム• プロカムベンスを合わせました」

「どういった植物で錬成しましたか?」

「…………ユニコーン・プランツをベースに悪魔の爪と獅子殺しを合わせました」

「それらはどういった特徴を持っていますか?」

「栗の花のような香りを放つ花は芳香剤に、若い実はピクルスにして食べることが出来ます」

「それらはどういった特徴を持っていますか?」

「………………イカ臭い匂いを放つ花は発情薬に、硬い実は動物の肉にめりこんで死に追いやることが出来ます」

「…………」

「…………」

 

(だからなんなんだよコレ〜〜!!!)

 

 美少女になじられる趣味はないんだよピーブズは!! 

 誰に言うでもなく弁解すればうなじあたりに突き刺さる視線が一層冷えたような気がした。

 

 ひたすらに木目を数えるピーブズには、今更自分のやらかしを知らぬ存ぜぬで決め込むつもりなどなかったのだが、リランはそう思わなかったらしい。

 

「……よそ見とは余裕だなァッ!!」

「オワ──ッッ!?」

 

 ズドーンだかピシャーンだか、とにかく激しい擬音とともに、いつの間にか習得したらしい練度の高いスクージが再び襲いかかってくる。

 まともに食らっては不味いと咄嗟によけた翡翠の呪文は、ピーブズの判断通り滑らかな床が盛大に焦げつくほどの威力だった。

 幽霊のくせに冷や汗がツゥと頬を伝う。

 

「テメェなんてことしやがんだァ!?」

「それはこっちのセリフだド畜生ォ!!!」

 

 本気で殺しにかかってきたリランに、ピーブズは立場も忘れ堪らず文句を飛ばしたが、負けず劣らずの怒声がすかさず張り上がった。

 

「お前のせいでこちとら処女喪失寸前だったんだぞ!? 呪文の一つや二つくらい甘んじて食らっとけってんだ!!!」

「だから!! 悪いことしたなって思ってたから受けてやったんじゃん!!」

「ア゛ア゛ン゛ッ!? 倫理破綻者の分際でなぁに逆ギレしてんだよゴルァ!! オーイ、だれかコイツの腐った脳みそン中に今すぐ塩酸をぶち込んでやれ!!! 手遅れになるぞ!!」

「お前の口の悪さの方が十二分に手遅れッ、んギャアァァァァァッッ!!?」

「うおあッッ!?」

 

 突然、ピーブズの頭の上に塩酸の雨が降り注いだ。数秒ほどで止まったソレにピーブズは低く舌を打つ。

 ダメージも何も関係ないのに塩酸程度の攻撃で悲鳴を上げてしまったことはかなり癪に触ったが、シュウシュウと煙を上げる床を眺めるリランの顔が青ざめていたのでまぁ良しとしよう。

 

「……必要の部屋(ここ)に連れ込んどいて何ビビってんのさ」

「うるさい」

 

 こんなに忠実だとは知らなかっただけだと喚くリランをハイハイと宥め、一席だけ用意されたロッキングチェアに誘導する。

 

「ちゃんと説明するからさ、とりあえず落ち着いてよ」

 

 また怒り狂われてはいけないと、ここに来る前に咄嗟に回収した彼女宛てのクリスマスプレゼントをいくつか膝の上に乗せてやった。

 流石のリランも贈り物を無碍には出来ないようで大人しく大きなチェアにちょこんと収まっている。

 その様は妖精じみた容姿もあり、なんとも庇護欲を誘うものである。酷い詐欺だ。ピーブズはやるせない気持ちのまま問いかけた。

 

「お前さ、生理ってまだだよね」

「なんて?」

「いいから答えろ」

「・・・・・・きてない」

「じゃあ、おっぱいとか張ったりする?」

「はれない」

「そっかぁ……」

「なんなんだ一体」

 

 どうしよう、思ったよりもリランの中の『男』の部分が大きかった。

 見た目は紛うことなき美少女だ。身長は少し高い方であるが、骨格は華奢で声色だってソプラノ。今は丸みよりも薄さが目立ち色気なぞカケラも見当たらないがそのうちソレはどうにかなる。

 問題は、女性ならば少しは気にするであろう質問にも躊躇なく平然と答えてしまったその中身だ。

 もっと言うならば、長い髪の毛と声色をどうにかすれば美少年でも通じてしまう程に性が希薄であることだった。

 普段ならばどうでも良すぎて気にもかけないコレが、今回の騒動に一番深く関わっていると言うのはなんとも皮肉な話である。

 さてどう切り出せばいいのやら。朗報とも悲報とも取れる事実は少なからずリランを混乱させるだろう。そして確実にまたアレ(スクージ)を撃ってくる。

 あんなもの積極的に受けるものではない。

 

(え、マジでどうしよう……他人(ひと)の気ぃ使うなんてことやったことないからわかんねー……)

 

 現在進行形で立派なロクデナシなピーブズには人の心がわからない。

 

「おい、話すなら早くしろ。朝食に遅れたらどうするんだ」

 

 本格的に頭を抱えたピーブズにとうとう痺れを切らした当事者(リラン)が、肌寒かったのか贈り物であろうニットのカーディガンを羽織ったまま急かし立ててきた。

 リランの奇抜な髪色とよく馴染むアッシュグレーとケーブル編みの凝ったデザインからして恐らく手作りだろう。あまりの熱意にピーブズはまじまじと見つめてしまった。

 

「随分、気合い入ってんねソレ」

「は? いや、コレはウィーズリーから、」

「ハァ!?」

「違う!! ウィーズリーの母親からだ!!」

「ア〜……」

 

 てっきりガチなのかと焦ったが、杞憂だったらしい。息子の友人に贈るにはクオリティが高すぎる気がしないでもないが恋愛が絡んでいなければオーケーだ。

 

「結局お前は何が言いたいんだ……」

「うーん、どっから話せばいいかって思ってたけど……うん、この分なら心配いらなかったぜ」

「腹立つなぁ……」

 

 気色悪そうに鳥肌をさするリランを見たピーブズは決めた。リランは女っ気も恋の予感も見当たらない三十路の野郎だ。躊躇いも遠慮も必要ない。とっとと話して終わりにしよう。

 

「単刀直入に言います。———お前は永遠に処女を卒業出来ません」

「……………………????」

 

 

 ▼▽▼

 

 

「つまりお前は、私にかけられたユニコーンの呪いの副作用の一つがどこまで有効なのか調べたかったからクリスマス休暇を利用してわざわざあんな化け物をぶち込んできたと」

「うん」

「……そして検証の結果、挿入されかけた時だけ所謂『ご加護』が発動して一瞬だけ身体能力が向上することがわかったと」

「そゆこと」

「…………実験の感想は」

「アイツら処女厨拗らせすぎだよなァ〜〜〜!」

 

 七年前の襲いかかるマリアを滅多撃ちにしたリランの謎が漸く解けたと嗤うピーブズに、本日三度目のスクージが轟いた。

 

 

 

 

 

 

「ほんッッッとうに信じられない」

「別に被害者はお前だけだからいいじゃん」

「マジで死ね、世界の人口分だけ死ね」

「オー怖ッ! 誰かに聞かれてたらどうすんのさ」

 

 黒いスキニーに包まれた長い脚をピーブズはにやにやと追いかけた。

 さっきまで憤った足音を廊下中に響き渡らせていたのに大広間が近づくにつれて猫を被る姿が面白くてたまらない。

 つけ方がわからないと首を傾げていたハーマイオニー・グレンジャーからのプレゼントである白銀のヘアピンを律儀に差しているのも愉快極まりなかった。

 地下の寮から遠く離れた所まで行かなければブチ切れることもままならない臆病者に、普通の女の子は同性からのプレゼント一つで動揺なんてしないんだと教えてやりたい。全力で弄り倒したい。

 

(中身が童貞だからマリアも触手キメラもやられちゃったんかなぁ)

 

 喉元過ぎればなんとやら。ニワトリよりも能天気なピーブズはとことん懲りない阿呆であった。

 

 

 

 

 

 ▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 

 

 

 

「わぁ……」

 

 フワフワとした金の(あぶく)を纏ったもの、粉雪の散る真紅の花が咲いたもの、色とりどりのリボンが煌めくもの、どれもコレもが豪奢な総数十二本のクリスマスツリーを前にしてリランの怒りは消え失せてしまった。

 休暇前から準備されていたことは知っていたが凄いものは凄い。

 出来ることならずっと眺めていたいのだが、生徒の視線が少し気になる。少ないとはいえ学校に残るスリザリン生もきっと居る筈だ。

 面倒ごとはもう十分だ。宙に浮く繊細なスノードームを避けたリランはそそくさと自寮の長机に座った。

 

 机の上には、スモークサモンのカナッペやぷりぷりとしたエビのサラダ、丸々太った七面鳥のローストに山盛りの茹でポテト、はち切れそうなチポラータ・ソーセージが敷き詰められていた。

 奥の方にはたっぷりのバターで煮た豆とクランベリーソースが銀の器に並々と満ちている。

 昼に近い時刻とはいえ、散々に消耗しきったリランにはかなり酷なラインナップである。

 

(小腹が空くまでちょっと待とう)

 

 ご馳走を諦めるつもりなどないリランは、山のように置いてあった派手な柄のクラッカーの一つを手遊ぶことにした。

 凄いデカイなクラッカー。ドッと疲れが湧き上がってきたリランはボーっとしたまま天井を見上げた。

 弾けるダイヤモンドダストが何故だか目に染みて、こんなにクリスマスプレゼントを貰ったのは初めてだとか、永遠の処女とかいうパワーワードだとか、そろそろクィレルが死んでしまうだとか、ピーブズの姿が見えないなとか、とにかく色んなことが迫り上がり、鼻の奥がツンと痛くなる。

 

 ———上を向いても溢れそうだよSUKIYAKI。

 

 ……リランのクリスマスはまだ始まったばかりである。

 

 




リラン:永遠の童貞から永遠の処女に進化した

ピーブズ:永遠のクソ野郎

ユニコーンの呪い:永遠の処女厨

SUKIYAKI :永遠の名曲
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