Q or…?   作:涛子

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【22】Blessing of fire(祝福の焔)

 

 ツリーの下の贈り物に歓声をあげ、豪勢で愉快な食事を終えたとなれば、次に来るのはやはり遊興というのがクリスマスの定番ではないだろうか。

 勿論、暖炉の側で聖書を読んだりジンジャークッキーをミルクで楽しむというのも魅力的ではあるが、遊び盛りの若者であるならば広大な銀世界を遊び尽くさないという手はないであろう。

 

「ほーらよ!! これでもくらいなロニー坊や!」

「お兄さまからのプレゼントだぜ!」

 

 暖炉で燃え盛る炎のような赤髪を振り乱し、威勢のある掛け声と共に雪玉を投げつけるフレッドの後方に続くようにして、片割れのジョージとハリーの『GQT』(グリフィンドールクィディッチチーム)が勢いよく駆け抜けていく。

 

「フレッド! ジョージ!! その呼び方はやめろって言ってるだ、うげっ!?」

「ッロン! そんなに前に出たら当たってしまうぞ!?」

 

 相対するのは、あけすけな挑発に苛立ち、吠えあげたロンの襟首を引っ掴むパーシー率いる、チーム『ポジショニング』である。リランはこちらのメンバーだ。

 どんなに大人しい子供でもクリスマスには少なからず心が躍らされるもの。ホグワーツで一、二を争うほどに()()()な少女であるリラン・エアクイルにも雪の魔法は等しく降り注いだようで、控えめではあるものの、嬉々として所詮雪合戦なる冬の風物詩に乗じていた。

 

(誰だ最初に雪で遊ぶことを思い立ったやつは。殺すぞクソッタレのアホ野郎!!!!!)

 

 ———否、乗じているように見えているだけであった。

 

 外面だけは一丁前でお馴染みである彼女の心は、白熱し佳境もかくやという周囲の状況と反しすっかりと冷めきっていた。

 一見すれば、寒さの余りに細かく瞬かれる目元も彼女の機嫌が負の方向に振り切られている時のみに起こる仕草であり、それはクィディッチの開幕戦時にも見られていた。

 つまり、リランが雪合戦に参加しているという今の状況は、あの時と同様に、断る間も無くあれよあれよと巻き込まれたというなんの面白みのない経緯によるものである。

 二度あることは三度ある。そんなことはリランも百も承知のうえであった。だからこそ、今までの忌々しい思い出から『お決まりのパターン』なるものを学び、そんな恐ろしい流れなど断ち切ってやると対策をとっていたのだ。

 対策といっても、双子の気配を察知した瞬間にその場を離れるだとか、喧しい声が聞こえたら即座に逃げるだとかといった、まぁ出来る限りに過ぎないものではあった。が、なんとも珍しいことにリランはこの方法によって幾度も逃れることに成功していた。

 では何故今回はダメだったのか? 言わずもがなリランの危機察知能力が死んでいたからと言うことに他ならなかった。

 まともなメンタルは朝の珍事により既に消耗し尽くされ、しかし慣れない贈り物に僅かな良心を揺さぶられ、殆ど初めてと言ってもいいクリスマスにリランの情緒はすっかり乱されてしまっていた。

 当然ただ呆然とミルク粥に浮かぶナッツを突っつくだけのすっぽぬけた状態では人間ブラッジャーと名高い双子を躱せる筈もなく。いつかの失態(ピーブズボコボコ事件)を見られた時と同じように流され……情けなくも今に至るのである。

 言い訳だろうがなんだろうが、誰だって朝っぱらからあんなものを体験すれば意識の一つや二つに莫大な弊害が起きるだろう。

 

(おのれ……氷漬けにしてくれる!!!)

 

 堪えれない舌打ちをマフラーに顔ごと埋めながら、リランは黙々と杖を振るった。覚悟していろと、切長の瞳を猫の様に吊り上げ、ハンデとして与えられた杖使用許可を存分に使い雪玉を量産していく。

 

「やっぱりリランに杖を使わせちゃうのはダメだってば、ッッ!?」

 

 小憎たらしい悪ガキウィーズリー共を、自分の印象を落とさずにとっちめられる合法的な機会だ。そう易々と見逃すわけにはいかない。

 そもそもユニコーンの呪いは積極的にリランへの嫌がらせを仕掛けてくるのだ。死ぬことよりもハリー・ポッターの日常での登場人物として適度に振り回される方が断然マシである。

 よくいえば、切り替えの早いタチのリランは大変大人気なかった。

 

「パーシーさん、ロンくん、追加の玉です」

 

 リランが、ひょいひょいっと杖先で空気を軽く混ぜるように振るう度にどんどんと雪玉が積み上がっていく。数の暴力に流石の双子も悲鳴をあげるが知ったことではないとリラン達は攻撃の手を緩めなかった。

 面倒くさい輩にいつもおちょくられる苛立ちも、監督生であることを意味不明に軽んじられる怒りもよくわかる。不憫な彼らにシンパシーを抱いてしまうのも致し方のないことだ。

 何もしていないハリーには申し訳ないと思わないでもないがこれは、いわば逆襲。はらしたい鬱憤がリラン達には存分にあるのだ。

 

「だからって僕たちみたいなマッチョマンが女の子相手に遠慮なしは不味いだろ!? っうおっと!!」

「どうした? 逃げてばかりじゃ勝負にならないよマッチョマンズ!!」

「よくいったパーシー!! そうだそうだーエセマッチョマンズ!! ぐへッッ!?」

 

 逃げ惑う双子を揶揄ったロンが報復のダブルスローに被弾した背後で、リランは遠慮なしにプロテゴを張った。寒いのは嫌なのである。

 

「ウベッ!!!」

「グワァ!?」

「あ」

 

 勝敗のつけどころがイマイチよく分からなくなってきた争いは、パーシーの存外に力強い大振りが双子の赤髪を真っ白に染め上げたことにより、試合終了を告げた。

 長引いた割には終わりが随分とさっくりしている。まだまだ暴れ足りない気がしないでもないが引き際は大切だ。

 しゅるしゅると勢いを失っていく怒りに、「ひと回りも歳下の子供相手に自分は何をやっているのだろうか」と、虚しさが込み上げてきた。顔を顰めたリランは遠い目のまま空を仰ぐ。

 

「…………」

 

 何が悲しくてこんな目に遭わなければならないのか。一体全体自分が何をしたというのか。少なくとも今世では何もしていない。強いて言うならば分厚い猫を被っているだけだ。

 陽光に煌めく白銀、弾けまわる瑞々しい笑い声、遠くから微かに響く讃美歌が微睡みとなんとも言えないやるせなさを誘う。

 引き篭ろうにもキメラがいた寮に戻る気は起きず、かといって図書室は司書が恐ろしい。大変便利であるが必要の部屋もあまり多用はしたくない。

 ピーブズを締め上げる為にやむなく入室したが、冷静に考えればあんな画期的な部屋をダンブルドアが知らない筈がない。

 否、絶対にあの好好爺は何らかの方法で校内を把握している。感づかれ邪推されるなど溜まったものではない。

 7階まで行くのが面倒くさいというのもある。というか、そこに行き着くまでにへそ曲がりなフィルチ管理人に合わない自信がない。もしかしたら道中でクィレルに出くわすかもしれない。今の注意散漫な状態で余計なことはすべきでない。

 何もせずともこの始末なのだ。右を見れば無垢な一年坊、左側には悪辣非道なクソ悪霊、前門の赤獅子に後門の一角獣とは全く惨いことである。

 喜びのままにはしゃぎまわるチームメイトを背後に、リランはきゅっと鼻をしかめた。

 

 

 ▼▽▼ 

 

 

 燻る炎の温もりがゆったりと満ちたグリフィンドールの談話室にて。

 ふかふかとした大きな肘掛け椅子に寄りかかったリランは、チェスに勤しむハリーとロンを凪いだ瞳で見つめていた。

 深紅を基調とした豪奢な室内は、自寮のスリザリンとは全く異なった暖かみに溢れる空間だった。勿論、スリザリンにも天蓋から差し込む月光だとか、湖の揺蕩うくぐもった反響音だとか、冷たい地下牢特有の良さはある。

 曲がりなりにも3年近く過ごした寮である。愛着とまではいかないまでも居心地の良さを見出せるくらいの興味は持っているつもりだ。

 ただし、いくら部屋が良くあっても共に過ごす人間達は本当に嫌いである。ねちっこく神経質で排他的かつ高圧的。上級生からの目立った嫌がらせ行為は無いが、それはそれ、これはこれ、嫌いは嫌い、QEDだ。

 故に、この獅子達の憩い場が余計に眩しくて仕方がない。暖色系の色合いといい寮生のアグレッシブな気質といい、根本から光り輝いている「滾った志」を四方八方から浴びせかけられているようで、少々暑苦しいのである。

 おまけに今一緒にいる連中も何故だかリランを慕っている。最初はどことなく刺々しい態度であったパーシーとロンでさえ、雪合戦を終えた途端にリランの側に寄ってきた。というか真っ先に寮へと連れ込んだのはこの2人である。

 さっさと退散しないからこんなことになるのだ。なんとも言えないむず痒い感覚に陥ったリランは、ソワソワと椅子に座り直すと大きなマグの底を抱え込んだ。

 

「ココアのおかわりはいるかい? まだたっぷりあるぜ」

 

 落ち着きのないリランの様子に目ざとく気づいたらしいフレッドが、トランプを切る手を止めリランに話しかけてきた。真っ青なセーターと赤毛の対比が目に痛い。

 

「僕たちは今からポーカーをやるつもりだけど……リラン、君はもう少し休んだほうが良いみたいだね」

 

 反応速度がまだおぼつかないリランがフレッドに応じようとした途端に傍からパーシーが口を挟んできた。

 先程までハリーに対してお節介なチェスレクチャーを講じていたのに、よくもまぁ気が回るものだとリランは苦笑混じりに息を吐く。

 

「せっかく雪合戦のリベンジが出来ると思ったのに……。ま、まだ時間はあるし休んどきなよ」

「おや? フレッド、オールメイドでの大負けが無かったことになってるよ」

「おいパーシー、胸んとこのイニシャルはピンヘッドのPで良いんだっけか? それともドンキー連敗記念にDに変えとくか?」

 

 リランのマグに何個かマシュマロを放り込み終えたパーシーの拳がフレッドの脳天に炸裂した。

 ブラックジャックだのヤニブだのと散々っぱらに遊んだと言うのにまだそんな体力があるのが不思議でならない。これが若さというものかとしみじみしているリランの隣にいそいそとジョージが近づいてきた。

 右手にはフレッドが配り終えていたらしいトランプを、左手にはリランのものより少し大きめのマグカップを握っている。片割れ同様に青いセーターを着た彼はなにやら大変上機嫌のようだ。

 

「……何か気になることでもありましたか?」

「ん? いや、なんか、お揃いじゃん。良いなーって思ってさ」

「お揃い……?」

「ウィーズリー家のセーター」

 

 ニコニコと見つめてくる視線に耐えかねたリランはジョージの予想外の答えに面食らった。成る程、確かに彼等の母親お手製の衣服を着ているという点はお揃いだろう。しかし、青地に黄色のセーターとアッシュグレーのカーディガンではかなりの差があるとは思うのだが。

 訝しげなリランの様子に気づいたジョージは何が楽しいのか目を細めマグを机に置いた。代わりにミンスパイの皿を引き寄せ、おもむろにトランプの手札を明かしてくる。

 

K(キング)が三枚に、10とJ(ジャック)……スリーカードか。初手にしてはかなり良い手札だな)

 

「良い手札」。本当にそれしか感想が出ない。意図が分からず考える余力もないリランは大人しくジョージに目線を送った。

 

「へへ、良い手札だろ?」

 

 ———さっき言ったな。

 

 あのウィーズリーと同じ感想になってしまったと、どうでも良い事までにも疲れた頭で鈍く苛立つリランは黙って頷く。ミンスパイを齧るジョージは相変わらず笑みを絶やさない。ガチャガチャと眩しい。

 

「今日は大分ツイてると思うんだ。クラッカーのオマケは大当たりばっかだったし、オールメイドじゃ一抜けだ。……雪合戦には負けたけど」

「そうですね」

「でもロンとパーシーは雪合戦に勝った。フレッドもトランプは大体ボロ負けしてたけど途中までは良い線いってたよ、ウン」

「はい、そうでしたね」

「パーシーなんてプティングのシルック銀貨を当てたんだぜ? ラッキーだろ?」

「そうだったんですね、すごい」

 

 だから本気で何だって言うのだろうか。殆ど適当に聞き流していたリランは怒りよりも困惑が大きかった。

 果たしてジョージ・ウィーズリーとはこんなにも電波全開全力野郎であっただろうか? トリックスターや人間ブラッジャーの面影があまりにもなさすぎる。

 

「な、こんなこと聞くのもヤボだけどさ、プレゼント沢山貰えた?」

 

 とうとう脈絡が死んでしまった。不明瞭でフワフワとした会話にリランは目眩を覚えた。

 最早答えるどころでは無いが、プレゼントの数なら去年よりも多かった筈。言葉は出ずとも間を持たせねばと、リランは適当ににっこりと笑い返した。

 リランの珍しい笑顔に、ジョージは一瞬目を見開き照れ臭そうに笑った。こういう時顔が良いと大変便利である。やっかみも二倍だがお得度も二倍のケースバイケース。面倒くさいものである。

 

「一年生のときは全然仲良く出来なかったし、去年はカードしか送れなかっただろ? だからさ、プレゼント贈ったりもらったり、遊んだりさ……クリスマスをリランと一緒に過ごせてんのがなんか、こう嬉しくて」

「……!!」

「ジュエルソープだっけ、アレ凄い気に入った! 折角だからフレッドの分を実家に送ったんだ。多分君宛のフクロウ便が直ぐに来ると思うよ」

 

 リランはジョージの言葉に衝撃を受けていた。一昨年は完全に浮いていて、セドリック以外にプレゼントは貰っていないし———クィレルからのカードなど最早呪いなので数には入れない———帰省もしていた。去年も似たようなものだった。

 それが今年はどうだろうか。初めて出来た女子の後輩であるハーマイオニーからは美しい白銀のピン留めを、ハリーとロンからはチョコチップ入りのトフィーと可愛らしいクリスマスカードを。セドリックからはなんと和柄のティーセットを。そしてウィーズリーの双子からは繊細な模様の羽を使った濃い蜂蜜色のペンを貰った。

 今日まで関わりの薄かったパーシーだって、沢山のマシュマロと一番大きなクッキーをくれたし、学校に使えるしもべ妖精という難しい立場であるアンリーも枕元にアプリコットの茶筒を贈ってくれた。

 ウィーズリー夫人だってそうだ。会ったこともない、ましてやスリザリン生……否、魔法界にとってすら異端な存在に、素晴らしい真心をくれた。

 こんなに沢山の贈り物は生まれて初めてだった。本当に初めてのことだった。

 クィレルのカードやらピーブズの悪行が霞むほどの祝福にリランは再びむず痒さに襲われた。

 思わずうつむき目を閉じると胸の奥がじわじわと痛み、そしてそれ以上に暖かくなるのを感じる。

 

「なぁ、リラン。さっきも言ったけどさ今日の僕らはめちゃくちゃツイてるんだ。それこそ君を落ち込ませてる悪いナニかを吹っ飛ばすくらいにはな」

「ジョージの言う通り! だからさ今日はずっと一緒にいて、ラッキーガールになっちまおうぜ!」

「!!」

 

 いつの間にかやってきたフレッドがジョージとは反対側にリランの隣へ座り、そっと肩を叩いてきた。

 バッと顔を上げれば、目の前にはお菓子を差し出し人懐っこく笑うロンと、親しみ深い眼差しのハリー、眼鏡に指を添え穏やかに頷くパーシーがいた。

 なんということだろう!! 彼らはただの無神経ではなかった。

 刹那、ズギャーンと冬の雷のような激しい一撃がリランの中心を貫いた。青い稲光が脳みそを走り抜け、軽快な鼓動を刻んだ。

 視界にはダイヤモンドの煌めきと天使の羽がパチパチと飛び散り、リランはまるで初めて運命の杖に出会った時のような衝撃を受けていた。

 

「……もう、十分すぎるくらいラッキーですよ」

 

 迫り上がる何かを飲み込んだリランのやっとのことで絞り出た一言は、いつもより少しばかり正直で、少しばかり幸せだった。

 

 

 





リラン:過去最高に疲れ、多分恐らく最高に幸せな筈
双子:やっぱり彼らは最高だぜ
監督生:なんだかんだ言っても兄属性。
ロン:なんだかんだ言っても光属性
ハリー:雪合戦もチェスでもすごく負けた。かわいそう
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