わ
ら
な
か
っ
た
にくきうさんの渾身の一撃で、僅かといえど浮かび上がったマッドディグ。顎をぶん殴られて吹っ飛んだその巨体が、泥沼に打ち付けられ泥の雨が跳ね上がった。滅多打ち最高!!とにくきうさんはそうのたまった。
……テンション跳ね上がってるんだなあと聞き流しておこう。
「──っ! 皆っ! 来ますっ! 備えてっ!」
ユビフさんの警告に、ハッとなった。
しまったっ。スムーズに削りすぎたし
すでにマッドディグの姿はどこにもない。土砂降りの泥に紛れていつの間にか潜っていたか。
急いで泥沼から離れようと動き出したにくきうさん。俺もと動こうとして、──泥にまるで足を引き込まれる感覚に襲われた。
これは、動きを封じられた!?顔だけ振り返れば防御態勢でいるパスタさんの前方で、にくきうさんも俺と同様か必死に腕を振り回して慌てている。
これは、まずい……!
「遅かった……!」
「あわわわぁあっっーっ!」
これが
……四駆八駆の沼荒野のエリアボス、マッドディグには“ソロ殺し”の別名がある。瀕死になった際に取る特殊攻撃で、高高度への“かち上げ”からの叩きつけという単純ながらエゲツないモノ。
これはよほど装甲を固くするか、コンマ何秒単位で絶妙なカウンターを入れるかしか凌ぐ方法はない。
厄介極まる確定行動。セカンディル到着時点のソロプレイヤーでは、防ぐのは困難とされている。
かち上げられるのは泥の中にいるプレイヤーからランダムで1人選ばれる仕様。
本来ならこの行動を取られる前にパスタさんだけを沼に残し、俺やユビフさんがチマチマと遠距離から削るはずだった。
装甲の厚いパスタさんを全員でサポートすれば凌ぎ得る、と俺達は踏んでいたのだが……。
地響きが始まる。こうなればいよいよ、かな。
「──にくきうさん、ヘイトは稼ぐ。……やるだけやる」
「うっ。まあ、やりすぎたよね私」
「パスタさんか、最悪俺が狙われてもどうにかなりますが……」
「最後の『ドライブスマッシュ』は余計だったなあ私っ……!」
装備とスキルで耐久値が高いパスタさんと、それなりの耐久とエア・クッションのある俺はいい。放り上げられても対応はできる、デスは免れる。
だが、にくきうさん、彼女が狙われるのはまずい。“紙”とまでいかないがそれに近しい彼女の耐久では、まず間違いなく足りないのだ。
どうにか動けないか……。
足を上げようとも捻ろうとも、沈むだけでどうやってもまるで足が動かない。俺よりSTRが遥かに高い、にくきうさんもまるでだ。
いっそアースフィンガーで、にくきうさんをふっ飛ばす?いや例えそれで今泥を抜けたとしても、狙われないためにはこの泥沼地帯そのものから出なければならない。
大声で辛うじて会話ができるくらい遠い、ユビフさんの位置まで行く手立てはない。
もうこの泥沼から逃げることはできないんだろう。
地響きが強まっていく。
動けず、焦る間に状況は進む。
「ぐぉなんて揺れだっ」
「ううぅぅううーっ……!」
「くっ、そ」
揺れは強くなり立つのもやっと。
やがて揺れがもっと強まり、まるで地面そのものが迫ってくる感覚に襲われた。
今だ。今にも来るっ──でも俺にじゃない。わかる。
この揺れは俺からは遠ざかってる。ならヘイトを稼ごうと声を上げ、盾を打ち鳴らすパスタさんに果たしていくか?
一際強く、全身が跳ね上げられたかと思うほど揺れた。
「ぁ、っ、──んき゛ゃぁあ゛あーっ!!」
まるで間欠泉のような勢いだ。
泥を巻き上げ飛び上がったこれが、マッドディグのかち上げ攻撃……!
「ああっくそがよぉおーっ!!」
「にくきうさぁああーんっ!!」
最悪のパターンか……!
見上げれば、にくきうさんはまだ、まだ上がっていく。
なんて飛距離。それに、想像よりずっと高い……っ!
「スズキさんいけぇぇええっ!
“受け止めろぉぉおおーっ”!」
「──!」
短剣を装備し直したパスタさんの“叫び”に、弾かれるように動き出す。
「アースフィンガーッ」
にくきうさんはマッドディグよりも遥か後方へと飛ばされている。そのマッドディグは俺の右手。パスタさんがスキルを使って“叫んだ”事で睨み合った釘付けの状態──そこを回り込まないといけない。
何度となく甲高く盾が打ち鳴らされ、激しい水音が響き木霊する中、アースフィンガーを繰り出し、繰り返す。
にくきうさんが落ちるだろう場所へと急ぐっ。
「ッ! アース、フ──ィンガァアッ!」
走れ、走れえっ!
絶対に助けるっ!
セーブテントなる超高級なアイテムは誰も持ってない。ここでデスしたら彼女はセカンディルからやり直しだ。
そんなの認められるか!!
今日の夜は、皆で祝杯あげるんだっ!
「ぅあうあううう、ひゃぁあ落ちっっ……!?」
「にくきっ」
何となくいま投稿したかった