「んー。はっー!」
朝だ。ベッドからひょいと降り自然と出たのは、あくびと背伸び。
頭が少し重い気がする。昨日は随分と集中して考えて必死になって。
めちゃくちゃ走り回って、皆生き残って勝って、記念撮影もして、休憩挟んでVR宴会して。皆でわちゃわちゃ騒いで騒いで。
「最高だったなあ……」
……きゅーさん(にくきう)が注文してくれたクラウンスパイダーの頭の蒸し焼きなんてあったが。それはそれだ。
それに。
店を出る時、肩がぶつかっちゃったネカマの人の目がめちゃくちゃ怖かったけどさ。その辺の不良なんか目じゃない位の、風格? 雰囲気といい、顔の傷ペイントと相まって怖すぎてキャラネームも見れなかったいや怖かった。
怒られた訳じゃないのに、謝ったら「いいさ」って言ってたけどあの目の迫力はやたらと……
ま、いいや。あの人とは何もなかったし。
さーて朝ご飯すませて……いい加減課題少しでもやろ。
きゅーさんとパスタさんは今日もシャンフロ。ユーさん(ユビフ)は今日ムリって、なんかめちゃくちゃ深刻な声で言ってたが。予定合わせますかと聞いたらテンション上げてくれたのは密かに嬉しかった。
しかしどうしよ。
とりあえずあの二人と合流、する? まあ昼にでもログインした時にメッセージ飛ばしてみよ。3人とはフレンドになったからメッセージ飛ばせるしな!
ディスプレイ越しのとも、現実のとも違う。
VRで接する初めてのフレンド、ゲーム仲間。
なんか気分上がるなあ!
「あ、おはよ母さん」
部屋を出ると玄関が近い。ちょうど出かけ間際か、ヒールを履こうとしている、スーツ姿の母さんがいた。
「あらおはよう。……まあ冬休みだからいいけど、遅起きの癖なんてつけないでね」
「ああー、うん、はい」
8時は過ぎてる。学校にいくなら7時30分には家を出るので正論でしかない。
はははー、はい。冬休み最高!
「でもよかった。楽しそうで。ゲームをしてから、なのも少し複雑な気もするけど、安心した」
「んえ? なにさいきなり」
「んーん。いいの。
ああゲームも良いけど、ちゃんと課題やって、家のこと多少なりやって外も少しなり歩いて、体動かしなさいね。VRゲームって体が健康じゃなきゃ、長いこと遊べないんだって聞くから」
「え、そうなの」
なんで? いやこれ手伝いさせる方便では……?
「一昨日テレビでチラッとね。そうらしいよ? それじゃあね、いってきます」
「ああ、うん。いってらー」
閉まる玄関扉の向こうに消える、母さんに手を振る。
……まあ、それなりに手伝いはするか。
…………
昨夜打ち上げで話になった中で、JGEのことと、サードレマから先、自身のアバターをどう強くしていく? 何をさせたい? と聞かれた。
シャンフロは新コンテンツとして超大型アップデートの予定、新大陸実装予定と先月、もう先々月だっけか? にあったっていうJGEで報じられたそうな。
でもそれが来るのはまだまだ先の話。時期は未定だ。
それにそもそも俺はまず新大陸とやらに行くよりも、サードレマから先の事を考えないといけない。
「うへー、ほんと毎度毎度重い重い……お、あった」
処理が追いつかず画面動作が重くなるほどの情報量を扱う攻略サイト。きっとシャンフロの、それも【ライブラリ】以外じゃ実際に作り上げるのは無理だろうな。
一々挟まる読み込み動作にイライラしながらも、ちょっと見たかった目的のページをようやく見つけ出した。
「サードレマから先は、うーん……」
今現在実装されているマップ、旧大陸には数字でいうと1〜15にあたる、
ファステイア、
セカンディル、
サードレマ(今ここ)、
フォスフォシエ、
ファイブル、
? なんで編集中なんだここだけ、
セブラセブル、
エイドルト、
ニーネスヒル、
テンバート、
イレベンタル、
トゥエルレム、
サーティード、
フォルティアン、
フィフティシア、
これらの街があって。
ファステイアからセカンディル、そしてサードレマへと。一本道を数字通りに進んできたわけだが、サードレマから先へは3つの街、フォスフォシエかファイブルか6の街(※仮称)、何処へ行くかを選ばなきゃならない。攻略するエリアもそれぞれ違うのでその事も含めてだ。
フォスフォシエには、【千紫万紅の樹海窟】を通り抜けて行くか。……きゅーさんが素材集めるって張り切ってたなあ。ハナカマキリのモンスター、ミミクリーなんたらって素材で、切断と瞬発力に補正乗る装備作れるんだっけ。パスタさんも甲虫種のクアビー? がどうって気にしてたか。
俺もユーさんも虫、大型、の点で引いたが。
「ストレージパピヨン……これの杖かな次は。でも虫かぁ……」
で──ファイブルには。
【栄古斉衰の死火口湖】を越えて行くか。……そういや。生産職的に鉱物のよく取れる栄古斉衰の死火口湖に、パスタさんはしばらく通い詰めるんだよな。しばらく先になるまでお別れかな、もしかして。
6の街には、【神代の鐵遺跡】のその出口を見つけ出すか。……同じ魔法職のユーさんがここを探索したがってたな。ユーさんと合流する日はきゅーさんがシャンフロできる時間かわからないと言っていたし、その時はこっちにいってみようか。神代っての気になるし。
どの街へ行くにしても最終的にはフィフティシアに全て繋がるけど、通る街や攻略するエリアがまるで違うのは大きい。
──この分岐点にて。単純かつ確実に自分のスタイルで攻略しやすい道を選ぶのか。“目指す先”を構築するに必要なアイテムやスキルを求めるか。選んだ“道”がフィフティシアにてプレイヤーの“唯一性”になると我々は考えます。この先のマップ情報は可能な限り掲載しているのでじっくり吟味して頂きたい。そしてもしクラン【ライブラリ】に興味がおありでしたらこち……
うーん? うん。
「唯一性かぁ……」
魔法使いは敵が近づく前に仕留めてこそな一面がある。
魔法は杖や一部は思考で変幻自在に操れる。どんな遠くにどんな相手がいても、強力な一撃を先制して射出あるいは出現させて叩き込み打ち倒す。
一方、スズキ・SGというアバターは、マルチが組みづらいという理由で、耐久に3割ほど振っている魔法使い。
魔法による圧倒的な火力は出せずそこそこで。振った耐久自体は要所で助けてくれはするが、適したレベル帯から3度強く殴られたら耐えられない。
でもMPというコストこそかかるが。
連鎖詠唱がそこそこの火力を段階的に引き上げる。
盾とエア・クッションが3度を、5にも6にも引き伸ばす。
これはこれで“スズキの強味”ではあるだろう。
俺じゃ反射的に動いて紙一重で避けられない。でも何かしらで盾を作り防いで凌いで、至近距離から出し得る高火力でぶっ飛ばせる。
今はこの路線を変えずにやっていこう。
「よし」
□■□■
諸用、まさしく諸々の用を済ませたり確認して魔法職ギルドを出た。
さーて、と。
宿屋できゅーさんと間ち合わせのため戻るか。
時間に余裕がまだある。ちょっと街をぶらついてみるかな。
幸い今日もシャンフロは快晴。
目の前は人の賑わう大通り。
露天も出ててそれぞれ冷やかすのも楽しそうだ。いや時間に多少余裕あるし遠いけど、あの城も間近で目にしたい、ああでもそれは可能ならパスタさん含めた皆と4人で行こうって話したし楽しみにとっておくか──なら、それよりも。
現実だと怖くて寄り付けないような、人気のない裏通りにこそ行こうかな!
いやゲームだからこそ気楽に入れるってもん。ワクワクしちゃうね。
あからさまな目付きでチラチラ見てくるヤツや、睨みながら近づいてこようとするやつもいるが。
杖をチラつかせれば、ふふふ、苦い顔苦い顔。
大きく舌打ちして、俺からみーんな、距離を取る。
いやあいくら怖い顔されても、ゲーム内でしかもその辺の連中じゃあな。貪食の大蛇とかマッドディグとか昨日のあの人に比べりゃなんてことないな。
ふっふっふ。
わーしかし雰囲気すげー。ファンタジーな裏通りって感じ。あーそこの暗がりに続く階段とか降りたい、なにがあるのやら。いきなり闇討ちキルとかされそうだからいかないけど……
「ななっ、そこの魔法使いのあんさん!」
「え、俺?」
振り返ればターバンのような布で顔を隠した、名前がないなNPCか、如何にも胡散臭いおっちゃん? いやお兄さん? のような若いようななんとも言えない雰囲気の人物。
シャンフロで敵意を向けられた時の、あの独特な“圧”の感覚はないから友好的なんだろうが……あれさっきそこ通った時アナタいました?
「ひそひそと話しますがね、へへ。……いーい魔法のアクセサリーあるから、見ていかんか?」
魔法のアクセサリー?
怪しい事この上ない胡散臭さ…………だけども、ほう?
ふふーん?
お城あったら見に行くやろ?観光気分。
路地裏、危険がなかったら練り歩きたい。