後半にちょっとだけ思うところがあって彼をね。ええ。
◆
サードレマからフォスフォシエに続くエリア、
【千紫万紅の樹海窟】。
そこは巨大な洞窟一杯に広がる樹海。地面から天井を埋め尽くす苔が光源であり、洞窟の中だというのに昼間のように明るい。
エリア全体に華花が咲き乱れ、巨木が乱立し、何メートルとあるキノコが群生する。ここは、立ち込める花や蜜の香りに誘われ蠢く、昆虫型モンスターの巣窟である。
「っぷは。
カマキリ(ミミクリー・マンティス)素材いまので揃ったか? ユリ」
「えーとね。……甲殻は充分。鎌はギリギリで揃ったかな? でも問題は羽根が全然足りてない、ってとこ。
けどそろそろ時間だから」
MPポーションを飲み終えたジンに問いかけられ、インベントリを見ていたレンジャー服を着た金髪碧眼の少女アバターの【ユリ】がそれを閉じ、帰らないとと返事をした。
ジンとユリとエフィネス、そして普段の面子の代わりに募集した野良プレイヤー【肉?(以下略)にくきう】による4人での千紫万紅の樹海窟、探索パーティである。
「そうか? ……そうだな。夢中になってたらそんな時間になってるとは、あっという間だな……」
AM11:47
今朝からシャンフロを始めてだいたい3時間近く。1時にはユリはリアルの所要で抜けるのだ。
となれば、帰り出すなら今だった。
「エフィッ、にくきうさんっ」
メニューウィンドウから時刻を確認したジンが声を張り上げ、樹上でもう一体のカマキリを仕留めてから何やら遊んでいた2人を呼んだ。
じゃれ合いながら2人が降りてくる。
ジンとしては、にくきうのコミュニケーション能力の高さは感じていたが、エフィとああも仲良くなるとは、と少々苦い思いだ。
ハッキリ言うと今現在のエフィネスは、
性 根 が 悪 い
と言って差し支えない厄介な人間であり。
それとこうも早々に仲良くできる類の人種は、何かしらトラブルメイカーな側面があるとジンは経験から学んでいた。
──まあ、悪いやつではないからいいけど。
もっとも。
エフィネスを受け入れてる様子はジンやユリにとって、とても好印象だった。
「ほーほー。ワーカー(エンパイアビー・ワーカー)と、
ハンター(エンパイアビー・ハンター)、
ストパピ(ストレージパピヨン)はだいたい終わりだネ。
あとは、カマキリの羽根かあ。あれ大変だね」
「そだねー。あたし達も今日初めてカマキリと戦ったけど、あのはやーい鎌の防御を抜けるのは難しーなー。
ユリちーの魔法弓で、いっくら曲がりくねらせても隙を狙っても、尽く防ぐんだもん。あたしの矢なんて論外だしね」
ミミクリー・マンティス、通称ハナカマともカマキリとも略される、花に擬態する術を持つハナカマキリ型の昆虫モンスター。
エフィネスの物理弓、ユリの鐡遺跡由来の魔法弓それぞれで、カマキリの高さのある背中を正直に狙うと、左右の長い鎌によりほぼほぼ防がれ。頭部を狙って目眩ましをしつつ狙っても、暴れと合わせて鎌を振り回し防ぐ。
よって結論は出ていた。
「物理弓や魔法弓でもなく、ちゃんとした魔法系が要るな。あの鎌の防御をすり抜けるのは今の俺達のAGIじゃ無理そうだし。
直接叩けるタイプ、発生の早い雷系統の魔法とか、動きをそもそも阻害する
「お、……んー」
「? きゅーちゃん何か気になることでもあった?」
「魔法なら宛が、って言いたかっただけ。止めたけど」
「えー? きゅーちゃん言っちゃいなよ」
「宛があるのか?」
「えーまー。そのー。
実は、フレンドなりたての人がね、魔法使いでして。ただLvまだ確か18とかだったしなー? ってさ」
昨夜の打ち上げでそんな話にも少しなった。スズキのLV低すぎ……と本人も落ち込んでいた事だ。
本来沼荒野探索を経てレベリングしてから沼荒野攻略する所を、急増の割に均整の取れたパーティでの連携により1発クリアしたわけで。
スズキは
よってにくきうは、この午前中までの野良パーティが解散した今日このあと。
勢いで引っ張ってきた年下……おそらく高校生くらいのまるで弟のような……スズキのレベリングを手伝うつもりだった。
「なんだそんなことか。構わないさ、そのくらいなら」
降って湧いた魔法使い募集案件にポロッと懸念含めてそのことを零すと、にくきうにとって意外なことにジンは乗り気であった。
「ええっ? ホントにいいんです? よっしゃやった! ……あー。
でもでも、装備も揃ってるかっていうとそのぅ。まだ、杖以外は初期装備で」
「18はあるんだろ? そりゃ火力はなきゃ困るが魔法使いでありゃな。背中の部位破壊にさえ集中してもらえりゃそれでいい。ヘイトは俺が引き受けられなくもないから、ソイツが初期防具でもどうにかできなくもないはずだ。
何よりにくきうさんのフレンドだっていうなら下手に野良募集して“ハズレ”引くより安心だよ。そのフレが良ければ大歓迎さ。な?」
なんてことない問題ない、とカラカラ笑いながらジンは2人へと振り向く。
「私はこのあと用事があるからお暇するけど、きゅーちゃんが呼びたいっていうなら問題無いと思うな!」
「ねーねーきゅーちゃん。そのフレンドって男? 中身男? ほーんのちょこっとだけ遊んでもいいぃいぃいいっ!?」
にくきうに詰め寄ったエフィネスは横手からひょいと頬を捻り上げられた。
「……ヒーンー(ジーンー)ふぃーはーるだからってこれはこはひとおほうーだ」
「余計なこと言うなよするなよって先に、
この、
手の、
中の、
この
「うえー。痛くないけど、何度も引っ張るなよもぅ」
「よしよし、エフィーよしよしー」
「ううぅ、ゆーりーちー。ありがとー……」
「友里、お前は甘やかし過ぎだっての……
まあいいや」
どうする? とにくきうは改めて目を向けられた。
ユリが落ちるなら、ジンやエフィネスと自身とスズキの4人パーティだ。
樹海という隠れる場所見落とす場所が多いこのエリアは、囲まれやすく不意打ちされやすい環境だ。
ジンのヘイト管理スキルや、ユリ同様索敵に長けたエフィネスがいるなら、その状況を回避できるだろうと安心できる。
なによりジンはにくきうから見て立ち回りが上手い。ステ振りは異なるが、同じ近接としてもう少し見ていたい所。
もっとも、にくきうにとって最もなにより、楽しそうというのが魅力的であった。
「よしよーし。そこまで誘ってくれるなら、お世話になりますねっ。ぜったいっ!」
「いいよいいよっ! あたし達におまかせー!」
「いや、確認はとれよ?」
今後の予定が決まった所で、帰路へと動き出す。
ユリとエフィネスの2人によりだいたいのマッピングはできている。
道中モンスターや他のパーティとの接触を避け、滞りなく進んでいく。
「……あの花畑のあの花、あれ擬態モードの」
「我慢だってのっ。行くぞ」
「はたほほひっはるぅうー」
「ごめんねーエフィ」
「午後! 午後に狩ろうエフィちゃん!」
一部、ミミクリー・マンティスの気配を感じてはその素材に後ろ髪惹かれながらも、一行は進んだ道を出口まで7割ほど引き返した。
出口が見えてくるだろう頃合い。
その時。
「ねえねえ、ジン」
「ん?」
「きゅーちゃーん」
「おっととぉ?」
エフィネスの傍を離れたユリがジンにとことこと近寄っていき、にくきうの隣を歩いていたエフィネスが腕に絡みつくように抱き着いてきた。
「エフィちゃん? いきなり抱きついてな」
「あたしの頬でも撫で回してて。さり気なくね」
耳元で、硬い声色で囁かれた。
当然にくきうには訳がわからない。なぜと肩にもたれているエフィネスの顔を覗けば真剣そのもの。
ここまで見た事がないくらい、冷たい目をしていて驚いた。
「2、3分ユリとスキルで様子見てたんだけど、あたし達の後をずっと着いてきてるのがいる。たぶん2人」
「え、なんでその人達着いてくるの」
「付かず離れず距離保ってる。こっちの様子が伺えるギリギリ位。直感と経験から言うと、あれPKだ」
先週、エフィネス達パーティを襲ったというPKの話はにくきうも、狩りの合間の雑談で聞いている。
完全に同意はできないが、可能性は高そうだった。
「……私はどうしたらいい?」
「方針は今ユリとジンが決める。それまでは気付いてると思われないよう、ちょっとあたしとそれっぽくじゃれて欲しい」
「了解。えいっ」
「だからっへきゅーひゃんはでほほひっはらないへー」
エフィネスの言う通り、にくきうは自然体を装うべくジンの真似をした。
そうして、ユリが2人の傍へと戻り。方針をそれとなく伝えながらあくまでのんびりと歩く。
木々の合間を抜け、背の高い花畑も視界からなくなる。
太い木の根が比較的少ない、平坦に近しい開けた道に出ると、そこからはもう出口が見えた。
「走れっ!」
瞬間、叫んで走り出したジンを3人で追随する。
「──! 前方右手から3人っ!」
エフィネスと代わる変わるスキルで気配を探っていたユリが、走りながら警戒を呼び掛けた。
「おぉっしゃあ! 連携完璧っ!!」
「挟み撃ちだ観念しなあっ!!」
「今合図あったっけ……?」
出口を遮るように3人のプレイヤーが躍り出る。
【鐘星タクさん】【タツタフライ】【(“『、』”)】のその3名は、いずれも名前にPKの証たる『髑髏のマーク』が明示されていた。
重戦士といった様相の大斧と大槍を携えたプレイヤーが2人と、もう1人は魔法使いらしきローブ姿で長杖を構えている。
走る速度が緩まる。PKと遭遇した事で改めて緊迫していた。
にくきう達も、その前に現れたPK達も武器を取り出し構える──その最中、PK3人組を鈍足な装備と職業と判断したジンが動く。
エフィネスとユリと目線を交わし、歯噛みするにくきうに向き直って、
「にくきうさん」
「え、なに」
「2人、抱えて走ってくれ」
付いて来いと背を向けた。
「ラジャッ。そっちもよろしくぅ!」
「ハイストレングス」
「拳気・青」
ジンはユリのサブジョブによるSTRへ補正をかける付与魔法と、職業【
それに続けて。
にくきうの隣で、エフィネスが3矢を高々と放った。
そして。
「きゅーちゃんあたし達を頼んだっ!!」
スタミナ切れで前のめりに倒れ伏していくエフィネスを、にくきうは片腕を使い地面スレスレで咄嗟に抱え、
「エルストレングス、総身専心、──あとよろしく」
にくきうのもう片方の腕にしがみつくようにしながら、ユリがにくきうのSTRを引き上げる魔法と残るスタミナを譲渡する魔法を使い脱力していった。
「まっかせなさいってのっっ!!」
にくきうが2人をしかと両脇に抱え、ジンを追いかけるべく駆け出した。
その直後。
エフィネスが上空に高々と放った3本の矢が3人組の真上でバラけ、幾多の鏃となって直下していく。
矢に秘められたスキルは『アローレイン』。上へと放った矢を分身させ矢の雨を降らせるもの。
「──アローレインねぇ?」
「装備も見えねえってか?」
アローレイン。それは手数はあるがしかし、威力はなく、範囲もさほどではない。
それを敵も知っている。ゆえに魔法使いは矢が放たれた時点で後退して範囲から抜け、重戦士2人は今にも降り注がんとする矢を無視し、その直後に接敵するだろうジンに狙いを定めていた。
ジンの後方で、スタミナ切れを起こしたメンバー2人を抱える、にくきうにも目をやって彼らはしたり顔。
破れかぶれか──重戦士2人が鼻で笑いジン達を迎撃すべく得物を構え、魔法使いは「仕事なさそう」とぼんやり眺めていた。
「おら来イ゛っがア゛ァッ!?」
「うおおアァ゛ぁっ?!」
その油断を強かに穿つは『アローレイン』に秘められたスキル『全霊の一矢』LV7。
スタミナ全てを使用かつスタミナ回復開始まで2倍の時間を要する、
小石だと高を括っていた所を重々しい爆撃じみた衝撃が襲い、重戦士2人は地面に叩きつけられ土煙が上がった。
その体力を削り切ることはできないまでも、頭を含めた全身に多数の重撃を浴びせたことで2人がスタンする。そのタイミングを計っていたジンが抑えていた速度を上げ加速した。
倒れた2人の間を抜け、土煙を突き破り。杖も構えずに硬直している魔法使いへと真っ直ぐに急接近。
その眼前に迫る。
「拳気・赤、黃っ」
「っ、エア・クッションッ!」
赤と黃の混合──緋色の拳気で火力を上げて殴り掛かかるジンとの間を、悲鳴混じりの魔法使いが張った空気の壁が遮断する。
殴り掛かろうとも確実に止められ、1秒も留まろうものなら反撃の魔法にさらされるは必至。
魔法使いの起死回生の一手に、ならば、とジンは地面を抉るように蹴り上げた。
前衛を張る近接職の補正も込んだSTRが、爆発的な勢いで人1人覆える砂煙を作り上げる。
魔法使いの壁は砂煙を防ぐもその視界を遮り、プレイヤーの意識を混乱させ、魔法の照準・発動を迷わせる。
壁と砂塵、それはだが数秒とせず消えていく。
視界が晴れる。それよりも、早く。
ジンは身につけたマントを脱いでいた。
「どこよ、ぅあっ!?」
杖を構えつつ後退しようとしていた魔法使いの顔面へと、ジンがマントを叩きつける。
ただ染色した布である。ダメージはない、が、立て続けに視界を奪われ反撃どころではなくなる魔法使い。
布の中で暴れる人型の、そのちょうど顎のあたりを、日常的に行う鍛錬の感覚で、的確に捉えて。
「緋色、拳気・青、混合──過重黒衝」
“確殺”を籠めた黒い拳が掬い上げた。
「ゃだ、っ」
「……逃げる上で、お前が一番邪魔そうだったんでな」
吹き飛びながらポリゴンと化す魔法使いに言い捨てたジンは、散乱する魔法使いの物だった様々なアイテムやマーニを口惜しく見つめながらも、中身が空になった自身のマントだけを素早く回収し翻ると。
ジンの背後を抜けて駆け込んでいった、にくきう達を追うようにして。ジンもまた出口のトンネルへと入り込んでいった。
「? あいつらまだこんなとこに……」
トンネルの中にまで張り巡らされた木の根や蔦が少なくなり、光苔が点々としだす、それは丁度サードレマと千紫万紅の樹海窟との中間地点といった辺り。
そこで、先に逃げた同パーティ3人が立ち尽くして居ることに遠目で気づく。
──待つなら街まで出てからでいいだろうに。
「しかし早いな、にくきうのやつ。俺もAGIもう少し上げるべきか?」
人2人抱えてたのにこうも距離を離したにくきうを見倣ってもう少しAGI上げようかなどと考えつつ、張らずとも声が届く位置まで追いつく、その寸前。
降りかかった強い“圧”に眉をしかめた。
「あ、ちょっと違いますよあの人は。私達のパーティリーダーですっ」
「おっと。それは失礼しました。そこの、ジンさんも。すみません俺の勘違いです」
にくきうが少し慌てた声を上げると、重くのしかかるような、大きなレベル差特有の“圧”が霧散した。
3人とは別にもう1人がいた。4人目は声からして男性。和風と中華風を折半したかのような鎧姿の青年【鯛鮫X】と読むに困窮するプレイヤーが、にくきうと向き合っており、ユリとエフィは数歩離れてトンネルの端に立っていた。
正体不明のプレイヤーからの謝罪に、ジンは軽く手を上げて応えると、しかめつらのエフィを隠すように立つユリに近寄っていく。
「……ジン」
「よくわからんが、大丈夫かエフィ。──ユリ」
「心配しなくていいよ、大丈夫。エフィのこれは、ほら
状況的にとは。疑問に思うもジンは、にくきうに着いてくるように近付いてきた鯛鮫Xに聞こうと口を開いた。
◆
この作品的に題するならサードレマ1.9
“彼”はエキス2から登場です。エキスパンション買うんだシャ民くっっそ面白いからマジに。
絶対PK連中多かった時代あるんだよねシャンフロってお話が続くんダゾ。よろしくおねがいします!