サードレマを出て、千紫万紅の樹海窟に続くトンネルを歩きながら、
俺と合流する前に何があったかときゅーさんから、ジンさんが補足したりエフィさんが誇張して頬を捻られながら教えてくれた。
なるほど。そういう経緯で。
自衛のためと万一の保険として色々預けさせたり、買い物の内容について話すにも人目を気にしたって訳だったのか。
「そして逃げ切ったと。すごいですねジンさん、ワンパンでキルするなんて」
「そうそうっ! ジンの動き、相変わらず冴えてたよっ!」
「柔らかい後衛職の急所をバフ盛りしてぶん殴ったってだけだよ。そう褒めそやされる話じゃないって」
「その展開に持ってく立ち回りがネ。咄嗟にやれって言われたら私は真似出来る気がしなかったよ!」
「ヒューッヒューッ! リアルもシャンフロもジんうっ」
「うるさいぞエフィ、静かにしような?」
「てれはふひ」
「言ってろ。ったく……」
派手に声を上げたエフィさんの頬を捻って、ジンさんが黙らせる。
ちょいちょいエフィさんそれやられてるけど、それでも基本ニコニコしてるから、普段からそういうコミュニケーションなのか? 仲良いな。ジンさんはげんなりしてるけど。
でも。
今こうやって樹海窟へ向かってるけど、PKに襲われたってそれほんの数時間前の事なんだよな。しかも1人仕留めたっていう集団の残りがいる。
ジンさんとエフィさんの見た目ならそうそう見間違わないし、逆恨みでまた襲われそうな?
そんな不安を口にしてみたら、皆顔を見合わせて揃って苦笑いした。
「で、その後にね、──あ、ちょうどこの辺だったっけ?」
「ん? あー光苔がちょーっと見えてきてるね、この辺だよこの辺」
この辺で何が。
「この辺りで、逃げる俺達とすれ違うように樹海窟へ行こうとする【鯛鮫X】ってプレイヤーと会ったんだ」
「たいしゃーく、て、ん?」
「やー凝ってたよねぇ名前」
「きゅーちゃんの名前ほど奇抜じゃないよう?」
「──飲んでて、ネ」
「あー……」
たいしゃーくてん、たいしゃくてん、……帝釈天です?
え? “鯛鮫X”で“たいしゃーくてん”?
なんで? 聞いてやるな? そうですか。
「え、と。で、その鯛鮫X、さんが?」
「そいつ、『PKKのために来た』って言ってきてな」
「いぃやあ、驚いたよねー。しかもなんと、わざわざ最前線から来た、なーんていうプレイヤーだったんだよねー、ソイツ」
最前線? フィフティシアから? サードレマ近辺に?
「なんでまたわざわざ」
「スズくん分かる、分かるよ私達もそうなったから」
「いくらPKKにしたってこの辺りのPK相手じゃ、キルしたとこで最前線プレイヤーに旨味なんてカラっっきしだもんねー。イミフー」
「報酬目当てじゃないって言ってたろ」
「そうだけどさー。尚更じゃん、そんなの」
しかし鯛鮫Xさんは報酬目的ではなく。近頃、サードレマ近辺にPK達が大勢現れるようになったという話を聞いて、……俺も知らなかった話だけどそうなのか、……それを憂いて来たらしく。
「そこにいるなら丁度いい」
そして樹海窟に、圧倒的LV差を感じさせる速度で走り去ったと。
「だからもうとっくに、あの場にいたPK連中は残らずキルされてるだろうさ。
エフィとユリの見た目が探索・索敵向けだったにもかかわらず、気付かれるような距離で尾行するわ。スキル攻撃を甘く見て無防備に食らってアッサリ昏倒するわ。そんなお粗末な連中だったし。
あのハイレベルプレイヤーから逃れてるとは思えん」
「それはそれで助かりますけど。にしたって、変わった人だったよね」
「どーでもいいけどねー、あんなヤツ。正義漢気取ってるけど、やってる事ってレベル差で他プレイヤー潰してるってだけだしー。
相手がPKだとしても、どうなんだか」
エフィさんはやたら辛辣だな。
んー。そこまでじゃないけど。
「たぶん俺も苦手だな、そういうの……」
『シャンフロ始めたのは、この限りなくリアルな環境で──』
PKはシャンフロを遊ぶ上で、楽しみ方の1つでしかない。
それを目の敵にしてまでっていうのは、何か、違うと思う。
「え? そうなの?」
「そうなの、って。スズっちもそっかーあたしと同じ気持ちかーって喜んだのに、きゅーちゃん何が気になるのさー」
「んーと。正直に言うと意外だったって。スズくん一昨日キルされてるって言ってたから」
「え」
エフィさんとジンさんが振り向いて目で聞いてくる。
立ち止まってまでそう気になることか?
まあ、はい、と頷きを返すと怪訝な顔をされた。
そんな?
「確かに、それは意外だな」
「ってかきゅーちゃん、それ言って良かったの?」
「うん? あ、ごめんっスズくん私ってば勝手に」
「ああ、いえ別にそんな。俺としてはキルされた事自体は気にしてないので」
キルされた、ってVR的にデリケートな話題なのかそもそもわからないし。ディスプレイ越しだったなら割と「ドンマイ」の一言ですむし。
あーでもシャンフロだとキルするされるって、このリアリティとかアイテム全ロストとかもあって意外と大事だったか?
少なくとも吹聴する事ではないだろうけど。時と場合と話してる人によ、る。
……なんでみんなポカンとしてこっちを見てるんだ?
「あの、なんですか皆してそんなこっち見てきて」
「だってそれは、まあ、なあ?」
「うんうん。スズくん初心者なんだよね?」
「そうですよ? 今日でシャンフロ4日目くらいの」
「無理にあたしに合わせてる感じでもないねー。逆になんでそんな寛容なの? もしかしてMなの?」
「えむ? えむって?」
えむ?
「おおっと聞き返されたぞう?」
「色々控えとけよエフィ……。
今のは忘れろスズキさん。しかし本当に気にしてないのか? PKの話なんて聞こうもんなら、キルされたこと思い出して少なくともイライラしそうなもんだが」
そうなのか……。
なんか状況が状況だったし。アイツと他のPKが頭の中で別個なんだよね。
「全く気にしてない訳では。
その、色々あって、特に実害はなかったんです。キルされた事はされましたけど、その前のやり取りというかなんというか……」
何もかも覆すような仕掛けをして来そうな相手だった。やってる事は騙し討ちのそれで酷い、というか非道いやつだったけど。
それを堂々とやってのけて、こっちの全霊の一撃をそよ風みたいに流して、鮮やかに笑って立ちはだかって
その様を、素直に『すごい』と
イライラはする。思い出すと
けど、悪くはない気持ちなんだ。
「そうですね。アイツのことはムカついてますよ。これっぽっちも許してません。いつかまた巡り合って、戦うことになったのなら必ず。“やってくれたな、次は一泡吹かせてやる”って。
そう考えてるん、で、ってなんですかまた皆して」
なにその生暖かい眼差し。
「男の子じゃーんスズくん」
「男の子だねースズっち」
「変な奴だなスズキさん」
「あっれこれ馬鹿にされてる?」
いやいやいやいや、って皆して首振ったっていやちょっと。ジンさんなんかあからさまに、いま鼻で笑ってましたよねっ!?
なんか話は終わりみたいな空気で皆して歩き出してるけど!
いやちょっと、ええ……。
……くぅぅっっ!
「…………おのれペンシルゴン」
「あれー? スズくーん?」
「おーい男の子ーっ、置いてっちゃうよーっ?」
「っ。いきますよ! はい、今すぐいきますぅっ!」
なんなんだよもうっ。
面白くないが、今は置いておく。いや後で聞いても同じ様な反応されて誤魔化されそうだけどっ! ……気持ち、少し離れて歩いても何も言わないでほしい。
「どうしよーうずうずする」
「初対面相手に加減しろよエフィ」
「だってあれ絶対もっとこう」
「わかるわかる。でもその辺にしとこうねエフィちゃん」
「くぅー。助かったな男の子め」
…………もーちょい離れようか。
そうして数分後。
「さて、着いたな」
「よーしよし! さっきぶりっ!」
「カマキリ狩るぞーっ!」
トンネルを抜けた。
その先は洞窟の中とは思えないほど明るく、テレビとか博物館の作り物とか位でしか見たことのない、ジャングルのような光景が広がっていた。──それはいい。
一呼吸一呼吸、軽く目眩がしそうなくらい甘っ甘な蜜やら花やらの匂いが溢れている。──それもいい。
そこかしこを、蜜を抱えた蝶が、集団で固まって移動してる蜂が飛び回っている。巨大な木の枝や花畑にもモンスターらしき姿が見える。──あれ全部、デッカイ大型の昆虫モンスター……?
「これは──」
──それはしんどい……っ!!