20時を回った。
シャンフロ世界も夜になっている。現実としっかりリンクしているんだな。
跳梁跋扈の森のエリアボス、『貪食の大蛇』攻略推奨Lv10までLv上げと行きたかった。でも、結構頑張って見たこともないくらい膨大な情報量の攻略サイトを見た時に、夜、モンスターが中々手強くなるってのを見た以上なあ。気付くのが遅かった。
別にデスしても失うのは、そんなにない。けどこの杖に愛着沸いちゃったし、初心者狩りするPKにあってやられたら癪。そもそもマーニが無くなるのは痛い。
もう少しデスペナ軽くて良くないか? 用心しろってことなんだろうが。
んじゃまあ、昼間やらなかった、やりたいことやるか。
「おお、わかりやすい見た目だ」
ちょっとした階段の上。出入口の扉の横に飾られた重厚な大斧と大剣が、ここは武器屋だと示してる。夜中、ランタンの灯りに浮かぶのも相まって少し雰囲気が重たい。
扉は雰囲気ほど全く重くなく、キィっと木が微かに軋むような音を伴って開いた。
幸い客は俺1人、だな。
「いらっしゃい開拓者さん。こんばんは」
「へ、あ、こんばんは」
……まあ客だしな俺。夜だしな今。ただほんと、自然にこういうことしてくるよなこのゲームのNPC。
えっと、メニュー開いて、ショップメニューをポチッとしてズラッと並んだ店売りの武器のなかに、と。
えーと、えーと? お、あった。
「『鉄の直剣』、あー。これが欲しい、です」
「? あんた杖持ってんのにか? なんだ、替えの杖を買うのかともう用意しちまってたよ」
「え」
たじろぐ。ただすぐ、ちょっと待ってな、と振り返って何やらゴソゴソガチャガチャしだしたおっさんNPC。そのふくよかな丸っこい背中を見ながら色んな意味で溜め息だ。
俺よりなんか慣れてないかこの人、人? 人かまあ。武器屋だから慣れてるって言われりゃそうだが。そうなんだが。
NPCだってホント忘れる。反応にリアリティありすぎて中々慣れない。まるで本物の人間を相手にしてるかのようだまったく。まだ初日、このゲームのクオリティには慣れそうにない、楽しませてくれるわあ。
ただたしかに。言われて見れば、少しの土汚れと1度
武器屋からのご最もな意見。買おうかな、どうしよう。
「ちょうど良そうなサイズがあったぞ。これならアンタの体格でもいいだろ。ほれ」
「え」
「ん?」
体格事にサイズ感あんのかそうですか。へー。VRってどこもこういうもんなのかな。
「いや、どうも助か、ります。じゃあはい、2000マーニ」
「おう確かに。剣士ギルドはこの店の裏からいきな。まっすぐ2本抜けて3本目を右にいきゃ目の前さ」
「へ? あ、そっすか。……あー、ありがとうございます」
鉄の直剣を差し出されたので購入。しかしギルドの場所までサラッと教わることになるとは、こっちの目的完璧理解されててビビるんですが。
つくづく、シャンフロすげえな……俺みたいな転職目当てで武器買ってくプレイヤー、やっぱ多いんだろうな。
「あ、杖」
言われた通りさっそく行くかと武器屋を出てから思い出すとか。戻んの面倒だしNPC相手とはいえあのリアリティ、少し恥ずかしい。いいやまたそのうちで。
でも修復だけあとで魔法使いギルドで依頼だしとくかなあ、換えを1500マーニで買うか、いや400マーニでとりあえず直してすますか。
一応+1武器。少しでも恩恵に預かって大事に使いたい。
教わった道を行こうとして、階段脇にずれて人影とすれ違った。
「やっぱ弓もやってみたいな」
「なんだ草餅。お前弓道部だったんだっけ?」
「遠距離攻撃ならあの蛇の毒糞も避けやすいだろ? 魔法もいいけど弓とかカッコイイって憧れが──」
「そしてラスアタ持ってくのか」
「おのれ草餅」
「あーあいい所持ってくのほんと、草餅め」
「お前らもうそれ言いたいだけだろ……」
すれ違いで武器屋に入る3人組の楽しそうな会話……いいなあ。
暗くて顔はハッキリ見えなかったけど、笑っていることだけは声色でわかった。
いいなあパーティプレイ。
いいなあ茶化し合い。
けどフレンドの作り方わかんねえからなあ…………
オンラインゲームはディスプレイ越しにならやったし、もはや繋がりはないけどフレンドはいた。でもあれディスプレイ越しなんだなあ。
マルチの立ち回りとかマナー、VRのそれを調べてもオンラインゲームの時と変わらないのしか特に出てこねえのなんでだ。それでホントにいいのか。
誰か教えてくれ。
フレンド欲しい。この欲求が消えない限り、このアンニュイな気持ちが晴れることはしばらくなさそうだ。
目的地の剣士ギルドの明かりは当然と言えば当然付いていた。
扉を雑にノック。
「…………あれ。なんだよもう」
再びノック。なんですぐ出ないかね。
再三のノック。はやくしてくれー。
お、足音。
「あいよ!! こちら剣士ギルド。こんな時間でもアンタら開拓者に剣士の道をひ・た・す・ら示す手伝いをしてるが、どうしても今すぐ剣士ギルドに所属したいって訳でもなきゃ出直──所属志望な、ほらよ」
扉から勢いよく声を上げながら現れたのは、眼帯で右目を覆う金髪の男。いかつい風貌と怒涛の早口に言葉を差し込める気がせず、とにかくサイトで見た通り剣を男に見えるようにすることで用件はすんだ。
乱雑に剣士ギルドの紋章タグを俺に放ってサッサと向こうに引っ込んだが…………ええ、なにあれ。
「……おれのせいなのか」
22時近く。プレイヤーもNPCもまばら。遅い時間って訳ではあるが。
いやゲームだろこれ。けど、さすがのシャンフロだからかとも言える? こんな時間に急かしたと思えば、俺ならまあたぶん相手にもよるけど怒る気はするが。
まさかジョブにつこうとしてNPCに挨拶はされるわ怒られるわ。イライラするより先にビックリして冷静にもなる。
この分じゃ、騎士になれるのはやっぱり明日かな。
防御補正がつく騎士になるには、剣士、戦士、闘士のいずれかをメインジョブにしてモンスターを5体討伐しないといけない。その上でここの町長に話しかけて騎士に任命される、と。
夜のモンスターは、手強いんだよなあ。たぶん勝てないよあな。挑んだら今の俺じゃ勝てないよなあ。絶対負けるよなあ。この装備もアイテムもマーニも失うと痛いしなあ。
あ、そうだ。
一旦ログアウトして時間をはかり、現在。
失う物がないなら問題ない!!
「…………えー。とりあえず、その、預かりますが。宜しいので?」
「大丈夫だ問題ない」
「はあ」
MP回復ポーション1つ残して、アイテムと装備とマーニを全て魔法職ギルドに預けて。
結果、ハーフパンツ一丁の半裸姿の無一文。
失うものが無いから大丈夫だ問題ない。
現時刻24時。最前線はサーティードだったか。初心者の集うファステイアに、この時間にもなると始めたてのプレイヤーは……あんまりいない。
職員の白い目は気になるが、それ以上にゲーマーの端くれとして、手強いモンスターってのが気になる!
無手でも威力は下がるが魔法は使える、スキルも使える。キルされても失うものはない、ならなにも遠慮はいらない!
どんなのがいるのかねえ!
ギルドを飛び出してスタミナを軽く気にしつつダッシュ。あんまりいないけどちょっとはいるプレイヤーが視界にいたら全力ダッシュ。
でも例え凝視されても、俺は信じてる。この時間にログインしてるゲーマーなら、俺のこの特攻して手強いモンスターと戦いたい気持ちがわかるはずだ!
なにより! 俺以外にもやるやつはいる!!