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「魚見推しだったんですねジンさん──シルヴィは?」
「シルヴィア・ゴールドバーグ? あっちも当然世界トップならではの凄味はあるが、いや魚見は色々な意味で見てて参考になるからってのが大きいんだ。
俺としては今やってる世界戦でも、世界ランカー達との鬩ぎ合い、その攻防を、できるだけ多く見たいわけよ」
「あー。準々からもう高カード揃いですもんね今大会個人戦ももう」
シルヴィは当然だけど、魚臣、レオ、アメリア、と。アレックスを破ったルーカス、日本からまだ改崎と。目が離せない展開は間違いない。
ジンさんの目当は今夜22時放送の生インタビュー。すでに準決出場を決めた選手達、中でも魚臣のインタビューが見たいからか。……シルヴィは明日か。
「そうそう。GH好きとしては見逃せねない! ってな」
「ほらほらー。そう喋ってると遅れて色々と見逃す事になるよー?
リアタイしたいんでしょ? そして他にもやることあるでしょ? ジン」
「まあな。でもスズキさんがGH推しなのが嬉しくてな。あーあ。お前らがもう少し熱心になってくれたらなって」
「はいはいー」
「つれん……これよ。
そういやスズキさんもリアタイするのか?」
「あはは……。したいとこですけど、録画です。俺は家族が出かけたあとにデカイテレビで観たいので」
「あーそういうな。なるほどな」
「GH:B好き過ぎだねスズくんもジンさんも。私もやるのは楽しいけど、2人程観るのはそんな楽しいってはイマイチなあ……」
「んーむ。やっぱりそうか。同好の士、思いの外近くにいないのがなあ」
人それぞれですからね、これもまた。
エフィさん先導で1列になって、モンスター達を避けつつも駆け足気味に出口に向かう。
もうそろそろ、とエフィさんから言われて。ふと、ここ樹海窟へ来る時にされた、あの話を思い出した。
その話の時も帰り道だった、ってたしか言ってたっけ。
「そういえば、なんですけど」
「ん? どしたん?」
つい呟いていた。殿のきゅーさんが反応して、前にいるジンさんが首だけ振り返る。
言ってからなんだけどこれ続けて言ったら出てきそうな、いやまさかな。
「午前中も、帰る時に襲われたって言ってましたけど、出てこなかったなって、PK達」
「スズくーん。そういう思わせぶりなの俗に“フラグ”って言うんだゼ」
「そ、そうですか、そうですよねいや何でもないです」
「フラグねえ。勘弁して欲しいが、エフィ、実際どうだ? そういう雰囲気の奴いたか?」
「そういう雰囲気のやつねー。
プレイヤーとは実際2回くらいすれ違ったけど、別に無害なもんだったよ」
へー。いたんだ他プレイヤー。こうも視界が悪い樹海の中だと、スキルなしじゃやっぱり全然気付かないもんなんだな。
ただ個人的に、正直な所歩くのもやっとなくらい足場が悪いのもある。
足元に集中しないとコケそう……
「そうか。索敵ありがとよエフィ。続けて頼む」
「はいは──……えー。……ええ? ウッソなんでまだ……」
「エフィ?」
振り返ってジンさんと朗らかな顔で喋っていたのが、一転して、苦々しいというような顔に。
きゅーさんと顔を見合わせた。
「本当にフラグにしちゃった、とか……?」
「そんなまっさかあっ! ……いやいやいやそんなそんな」
嫌な予感って当たると言うけど、とりあえず。
渋面で完全に足を止めてしまったエフィさんにジンさんが近寄っていくので、つられてきゅーさんと俺も集まる。
「エフィちゃん大丈夫?」
「エフィ、何がいた?」
「俺が言ったばっかりにさっきのが本当に……?」
「いや、いやー大丈夫だよ。……そういう心配はない。むしろ安全だよ。あたし達にはね。
ほんとー。それこそ、ただの──
「お、おう。そう、か? そうか」
安心安全だと、でもそんな心底嫌そうに言われても……
3人して顔を見合わせているとエフィさんは足取り強く進んでいく。大股の歩きに置いてかれそうで、足早に着いていくと、どうやら出口は目前だったらしいトンネルが見えて。
そして、エフィさんの不機嫌の原因もそこでなんとなく分かった。
「……ああ、昼間の方々でしたか」
「そうだよ。こーんな時間までご苦労様だね」
「労いは結構。確かにPK共をひたすら狩り尽くしていますが、俺がしたくてしてること」
「ふーん。あ、そ」
この人が最前線、フィフティシアから来たっていう、
PKKプレイヤー【鯛鮫X】?
まさか今日会うことになるなんて思わなかったな。
「……あんた、まさかあれからずっといたのか?」
「まさか。さすがにそんな長時間は。数分ほど休憩は挟んでますよ。それこそついさっき、……ああ、だいたい2時間前に取ったので。まだしばらくは問題ありません」
「んんーと? それ……ほ、ほぼほぼぶっ通しじゃないですか」
「? 現状フィフティシアにいるプレイヤーからすると、改めて言われるほどそう変なことでは……」
……なんか、何も言えない。
噂には聞いてたけど、これが“廃人”なのかというのもそうだけど。
気まぐれだと思った。最前線のプレイヤーの気まぐれ。本気ではないと。だが実際は、PKKにここまで熱を入れてるとは思わなかった。
7〜8時間の間数分の休憩で問題ないとは、きゅーさんの言う通りとんでもないぶっ通しプレイだ俺からすれば。
いったいどんな生活してるんだ? この人。
「はあぁ。……通るけど、許可でもいるの?」
「まさか。ええ、どうぞ。俺はここ千紫万紅、唯一のこの出口を通ろうとするPK達を張ってるだけです。連中がそうしていたようにね」
そう言って鯛鮫Xさんは道を譲るように横へ移動し、なんか慇懃な一礼をして俺たちに通るよう促した。
不機嫌に鯛鮫Xさんを見ないよう歩き出すエフィさん。その後ろへとついて俺達も出口へ向かう。
スレ違って、数歩歩いて、
「ごめん。ちょっと待ってて欲しい。なんなら、先に行ってても大丈夫です」
どうしても気になって振り返った。
来た時と同様の姿勢になって、樹海窟を見据える鯛鮫Xさん。
その背中には、もはや俺達は眼中にないらしい様子が見て取れる。
彼はまたここで立ち続け、また
ならそれは、なんのために?
「? スズくん?」
「……すみません、ちょっと」
PKもPKKも、その行為は万人に好かれるものじゃない。各々が、やりたいからやってることだと思ってる。
PK達は対人戦がしたいから、単に嫌がらせで困った人間を見たいから、リアルには無い刺激を求めているからだろうとは思う。
PKKはそれを許せないからというのはあるだろう、そしてPKが溜め込んだアイテム等を懸賞金のように考えて欲しがってる事もあるだろう。
でもきっと、
「鯛鮫Xさん、1つだけ」
「……? まあいいですけど。
俺は見た目よりそう暇ではなく、気を張って色々“探って”います。これ以上は手短にお願いしたい」
スキルで索敵でもしてるのだろうか。きっと高レベルだからこそ範囲も相当なのか。
尚の事解らない。
そんなことができるまでこのゲームをやり込んでいるなら、なんで──なんでそんなに冷めた目をしてるんですか?
「アナタは、このゲームを、シャングリラ・フロンティアを、楽しんで──ぇぶ、む゛?」
いますか? と聞こうとして。なんか、あれ?
体に口にぎゅぅっと巻きついたこの、コレはなに?
「(縄? なん)んんんんんーっ!?」
ちょ、思いっきり引っ張りあげられて────ーっ!?
「スズくんっ?!」
「なんだなんだぁっ?!」
「うっそ」
「これは……っ!」
眼下に皆が遠のく中、高々と持ち上がる俺と入れ替わるように、大量の爆竹が雨のように皆に降り注ぐ様が見えた。
「さあ続けまして、縄傀儡【猿】ってね。
やあやあ2日ぶりスズキくん。ちょーっとお姉さんのために、人質として付き合ってもらうネ?」
ぺ、ぺぺぺ、──ペンシルゴンッッ!?
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