「さて、鯛鮫Xくん。
彼を解放して欲しかったら、1つだけ私の言う事を聞いてもらうよ?」
「……! なんだ……?」
何を言うんだろうか。
あまり強い要求、それこそ自死しろとかは、たぶん、さすがに拒否しそうだ。武装解除? それとも、ああ転移魔法とかか? ここから失せろとか?
少なくともペンシルゴンが悠々とココを出るための事をさせるはず。
「そう身構えないで。ホントに簡単なことだから。
その槍を、ゆっくりと地面に置いて、正座でもしてとにかく座って、5分の間、ジッとしてくれるだけでいい。
それで彼を解放するよ」
ウッソダー。
ぜっったい嘘だ。
「そんなことで? 信じられるかっ! 何を企んでいるっ」
めっちゃ同感。うおあお槍が首に当た、あたっちゃうっ!
「おっと。それ以上近付かないでね。もしあと一歩でも近付こうもんなら、彼をこの猛毒の槍でブスッとやっちゃうから。
あ・と。
ちなみにぃ。彼等を尾け歩いてた時に聞いたんだけどぉ」
鼻息荒く数歩歩いた鯛鮫Xさんを制し、やたらと間延びした、まるで小馬鹿にしたように語るペンシルゴン。ってか尾けてた?
エフィさんが気付かないってことは隠蔽スキルのような何かで隠れてた? 本当か? いったいいつから。
「このスズキ・SGって彼、シャンフロが初めてのVRゲームで、始めてまだまだ間もないんだってぇ!」
これ尾けてないな。初対面を装ってるのか? ……まあ会うのが2度目だとすると説明しないといけないからか?
でもビギナーだということを明かす必要がどこにある?
「っ! おまえっ! まだまだビギナーの彼を、そんな目に合わせてっ……!
何が可笑しい、何を笑うっっ!?」
何で怒ってんの? 何でガチに叫んでんの?
めちゃくちゃ情が湧いた感じの発言してない? ってか怒ってるぞ?
なんだ。何がこの人を駆り立ててる? そこまで俺を慮るのはなぜよ。
報酬を求めない積極的なPKKといい、ろくに知りもしない人質(笑)取られて、怒っている今といい。
「あっはっは! もぅ、怖い怖い。でもこんなの、ゲームの中のちょっとした意地悪みたいなものだよ? こんな事にそこまで怒るようじゃねえ。
シャンフロで正義の味方するには難儀じゃない?」
あー。PKという悪と戦い、そして今まさに窮地に立たされ屈しそうな。なるほど正義の味方。
…………うん。うん?
まさか。そうなのか?
「そんなこと関係あるかっ、何とでも言えっ! 俺はお前達PKが、誰かに迷惑をかけるのが許せないだけだ……!」
あー、そういう。
推測の域はまだ出ないけど、ははあー……。
……人それぞれダナー。
「迷惑ねえ……。私だってこんな事するつもりなんてサラッサラ無かったんだよ? だって私ソロだし。彼は4人パーティだったし。
だから。
だからだよ。彼がこんな事になってるのはね、私がこんなするつもりもない事をしてるのはね。鯛鮫Xくん」
「……なんだ」
間が開く。ゆっくりとペンシルゴンは縄を持つ手を持ち上げると、鯛鮫Xさん指差した。……いま暴れたら抜けられるかなこの縄。でも足蹴にされてるし身動きしたらバレる。その時点で、むむむ、くそう。
「君だよ。君のせいなんだ。君があそこに陣取っていたせいだよ」
「何、を──」
おお、ハッとした表情だ。俺には分からない、何だ?
「どこかで襲っちゃおうかなー、けど、きっと返り討ちに合うなー、じゃ、諦めよー帰ろーって思ったらさ。あんなとこで高レベルのPKKが邪魔してるんだから、頭抱えちゃったよ。
どうして同じプレイヤーなのに、同じゲームを自分なりに遊んでいただけなのに、絶対に勝てないようなレベル差のある相手から、一方的にキルされなきゃいけないんだっ!! ……ってね──で。
魔法使いで非力な彼が隙だらけだったから、ちょーっとだけね、こうして“ご協力”願ったって訳。せめてもの“抵抗”として仕方なく、ダヨ?」
あー。つまり、鯛鮫XさんがPKを通さない帰さないと出口を塞いでいた。鯛鮫Xさんがそもそもそうやって道を塞がなきゃ俺を人質にはしなかった?
でもそれペンシルゴンがPKじゃなければ良かっただけでは……
「屁理屈をっ……!」
「ええー? わたし、本当の事を言っただけなのに、ぐすっ、ひどいんだー」
「ぐく……っ。なにが、ひどい、だ。このぉ……っ」
まさしく屁理屈。だけどあざとく泣き真似するペンシルゴンからすれば、察してくれさえすれば、なんでも良かったのか。
自分を責めるように鯛鮫Xさんは項垂れて、マトモに反論できなくなった様子だし。
……この人、本気で正義の味方ロールプレイしてるのか。そしてそれを見抜いて、こんな他のプレイヤーからしたら茶番でしかないことをしてるのかペンシルゴン。
いったいどこで察したのやら。
あーあ。楽しそうにニコニコしてるなあ……。
俺、これ助かるのかなあ……。無理かなあ……。
ああ、俺の数時間がこの後消えるのか、泣きそう……
「んーで。どうする? 私の言う通りにしてくれる? それとも、彼ごと私をバッサリやる? 言っておくけど、私は君が言う事を聞かずにいるっていうなら、彼をしっかり盾にして戦うから。
だからなにって言うとねぇ。だってもし君の槍が彼を貫いたら、そしたらなんと、PKKの君が一転、PKデビューだよ? なんてこった!
あ。あれれ? んんん? 正義のPKKが一転して狙われる立場……おおっ、これちょっとドラマティックじゃーんっ!
あっはははっ! ねえねえっ、やってみるっ? やってみようよっ! 私それはそれで見てみたーい!
いや? いっそやろーぜっ! ほらほらほらほらーっ!
って、あれ? ねー! たいさめえっくすくーん? 聞いてるー? ねー!
たーいさーめえっくすくーんっ!」
「──っっ!! っだまれぇぇええっっ!!」
正直横で聞いてて全力の魔法でぶっ飛ばしたくなるくらい、今のペンシルゴンは激しかった。
そんか鬱陶しい煽りに、鯛鮫Xさんが槍を乱雑に投げ捨てると、すぐ地面に膝をついた。
「っ、ふぅっ、〜っ! これでっ、満足かぁあっっ!!」
息を切らして怒鳴る鯛鮫Xさん──、だけど俺としては鯛鮫Xさんが槍を投げた瞬間に、すぐ傍で何やら
しかも。
だって、あの日見て、心底ゾッとした時と同じ顔をしてる。
あの顔だ。
深い深い、嗤い顔だ。
「うん! だって──最っ高の択を取ってくれたからねっ!」
喜悦を隠そうともしないペンシルゴンがそう言うと、突然、樹上から何かが鯛鮫Xさんに降り注いだ。
地面に伏してペンシルゴンを強く睨む鯛鮫Xさんはそれにまるで気付かず、直撃は避けられなかった。
「! んな、なんだこれはっ!?」
驚いてる、だけだな。なんだあれ。
くすんでるけど白い、網? 鯛鮫Xさんが暴れてるけど全然解ける様子が、離れる様子がない。むしろ絡まって、いや絡みついてる? いったいなんだ。
ふと、今日何度か嗅いだ覚えのある匂いが漂う。
これは確か、休憩しようと言う時に、きゅーさんやエフィさんが焚いてた、虫除けの香?
ペンシルゴンからだ。やはり相変わらず動けないので目線だけ向けると、奴は何かを鯛鮫Xさんに放り投げた所だった。
あ、ちょうど顔面に当たった。いやちょうどというかTECかな。ゲーム内だから正確に投げれたのか。
割れて中身が振り掛かってるけど、なんだあれ。
「っ! なん、何だこれは? おい俺に何をっ」
「さー! いってみよーっ!」
いや聞いてやれよ。まあコイツからしたらもう鯛鮫Xさんが何を言おうと関係ないのか?
鯛鮫Xさんの体はもうあの網みたいな何かで団子みたいになっていて、もはや動けるようには見えない。
なんとなーくわかる。彼はもう、助からないのだと。
「ファァィイアァアッ、ボゥウルッ!」
「ぐ、ぅ!? は、あうぉおおおああーっ!?」
ペンシルゴンの放った小さな火球。高レベルプレイヤーを拘束して攻撃するには、あまりにも取るに足らないそれが彼の顔面に当たると、瞬く間に業火が昇った。
なるほど。直前に当てたのは油みたいなやつか? そのものか。
首から下は分厚いあの鎧だからなんともなさそうだけど、うわー、油がかかった顔面だけやたら燃えてる……。
というか油ぶっかけて火を放つとかエッッグイなっ! そんな驚いてないけどさ。
非道を躊躇わないとんでもない奴なのは、シャンフロのリアリティでPKやりたくて、ってのたまった時からまあなんとなく……
おお、おお。怖いくらい頬つり上げて、笑ってるなあ……
「ぐ、ぐぅ! だがこんなものでは、俺はっ!」
燃えながら喋ってる……どんな感覚なんだろうか。なんにしてもすげえタフネス。
ただまあ確かに、アレだけじゃ仕留めるには足りないよな。
きっとレベル差だけなら50以上はあるだろうし、当然体力も相当ある。でも、ペンシルゴンがそこを計算に入れてないとは思えない。
そもそも鎧に油かかってないからあれ以上は燃えない、──ん?
なんだ、この音……たくさん、聞こえてくる?
あ……いや、いいやこの音はっ!?
見なくてもわかるぞっ! というか間違っても見たくないっ!!
あれだ、アイツらだっっ!
「は──な、なんでこんなにっ!?」
「アッハッハハハーッ!! 待っってましたあっっ!
さあっっ! 1名様あっ! ご案内入りまーっっす!」
エンパイアビーの群れだ!
大量の羽音が、俺達を囲うように集まってきてるーっ!?