「エンパイアビー・ワーカー……っ!?」
10近い蜂の集団。どうしてこんな大量に現れて? あれ、しかも全ての蜂が鯛鮫Xさんに寄っていってる? ……まさか、顔の炎でか?
あれ火を扱ってる判定なのか、いやそもそも火気そのものに攻撃意識を持つのか?
だとしたらペンシルゴンの狙いって、MPK?
だけど。
「まさかMPK狙いか? だとしたらこんな低レベルの蜂共では俺をキルするには足らんぞペンシルゴンッ! 残念だったな。それに、このクラウンスパイダーの粘着糸も、俺のステータスならあともう少しで……っ!」
だよ、な。鎧まで着込んだハイレベルプレイヤーをこの蜂の集団てどうこうはさすがに無理だろう。
ところでその網ももとい糸って例のあのエリアボスの蜘蛛の?
……う゛、く、くりーみーな味わいが。
「【スーサイドクラブ】ってクラン知ってる?」
ポツリと。ペンシルゴンが零す。
すーさいどくらぶ? 俺は当然知らないけど、鯛鮫Xさんも知らないのか何も答えずペンシルゴンを睨むだけだ。
なんだ、何が言いたいんだコイツ。
「まあ知らなくても全然いいんだけど。……そこのクラン、なかなかに面白い検証してたんだよ。すっごく突飛なんだけどね。
彼らは色んな方向性の自死する方法を考えてるクランで。なんでも、エンパイアビー・ワーカーの巣に飛び込んだ事もあるって。
これが面白くってね!」
エンパイアビー・ワーカーの
面白い事?
「彼らはまず巣に入るため、巣の近くで、集団で獲物を捉えた際に取る特殊行動を利用した。さながらそれは現実の蜂達が、捉えた獲物を巣に持ち帰るそれと、似たものをね。
そのために。連れ去られやすいようにまず、巣の近くで体を蓑虫のように丸めて、周辺で火を焚いて誘き寄せたの。
そう、ちょうど今みたいね」
「? なに──まさ、が、……ぁあ゛つ゛、〜っ!」
「続けて、寄ってきた蜂達は麻痺毒で獲物をシビレさせて身動きを封じる」
「ぐ……っ……、……っ」
へー。さすがシャンフロはかみげーだなあ、とんでもない、うぅう、さいげんりつ……。
うえぇぇえっっつっっらっっっっ!!
……鯛鮫Xさんが蜂に群がられて、羽ばたきで顔の炎がかき消されてすぐ、何度も何度も突き刺されて。麻痺毒を何度か弾いたとして、けどあれだけ絶え間なく刺されたら、まあ。
案の定、ほんの数秒で鯛鮫Xさんが麻痺させられた。
「そうして巣へと持って帰るんだってさ。実はこれ、捕食攻撃に当たる行動。その中でもより特殊な方に分類されるんだって。
これの何が特殊かっていうと、巣に運ばれたプレイヤーが食らう捕食ダメージがね、──時間経過で倍加していくタイプの固定ダメージなんだよ」
「……っ!?」
どこまでも楽しげな含みを持たせたペンシルゴンの言葉に、もう喋れないのだろう鯛鮫Xさんが目を見開いた。
固定ダメージ、それも時間経過で倍に増える。コイツの事だからどの程度のものかも把握してるんだろうな。
きっと、いくら鎧を着込んでていても。レベルが高くても。
「耐久力なんていくらあろうが、HPがいくらあろうが、裸だろうが全身鎧だろうとも! 巣に入ったプレイヤーはひたすら麻痺させられたまま、一律30秒、だってさ! ありがとうイカした
それじゃ、サヨーナラ」
蜂達がその粘着糸ごと掴み、持ち上げていく。
そうして飛んで行く先には、ペンシルゴンの言う通り、しっかり目を凝らさないと分からないような木陰に、大きな巣の影が微かに見えた。
プレイヤーなんて何十と入れそうな大きな巣に鯛鮫Xさんが連れこまれていく。……なんって怖気が走る光景だ。
「あれ中どうなってるんだろうねぇ。──さてと」
あれ中どうなってるのってそりゃシャンフロだし、現実の巣みたいに蜂達たくさん蜂の子たくさんだと思う……ん?
「まさかこんなに上手くいくなんて思わなかったから、準備が足りなくてさ。
いやあ君が居てくれてよかったよ、助かる助かる。ええーと、コレとコレとこの辺にコレとあとこうして」
あのペンシルゴンさん?
準備って言ってなんか、液体掛かけてるんですが。なんとなくガソリンスタンドとかで嗅ぐような感じの、それに近いような臭いがしない事もないやつ。なにこれ?
あのペンシルゴンさんっ?
縄の間に黒っぽい石とか粉とかなんか危なげな袋とかたくさん掛けたり詰めてるのは? 加えて今度はやたらマッドな色合いの液体をかけるのはなぜ? それなに?
あのペンシルゴンさんっ!?
なんで縄をたくさん継ぎ足してそんな長くするの? またなんか危なそうな液体出して、継ぎ足した縄にも馴染ませるようにかけながらさあっ? あ、ああ、そんな距離を置いちゃう? そして虫除けの香持ってちゃうのっ?!
って、なんでっ!? な、なんか言ってくれぇええっっ!?
「よーし! これで火種よし。それじゃ命名、スズキ爆弾! レッツゴーだっ!
タイサメXにトドメを刺すのは、蜂でも蜂の子でもない!
この私が! 君を使って華麗にキメてやるぜっ!
ッスゥー、──追加ぁっ! 1名様ご案内入りまーすっ!」
お、おおおおおおぉおおぉおーっっ!?
気付きたくなかった事をハッキリと口にしやがってぇ!
コイツ、俺を火種にあの巣ごと焼き払う気だぁあっ!!
「オーダーでーすっ!!」
あ、なんだその小瓶は?!
投げられ、近くで割れた小瓶の中身から微かなニオイが漂ってくる。
なんだこの変な、いや、いい匂いがするぞ?
「それ! 興味本位で作ったこの私のワンオフ! 貴重なものだからよっく嗅いでおきな少年!」
なんだその言い回し。ってかなんだワンオフって。
嗅いでおけって確かにこれはいい匂いだけど……そう。
なんかまるで香水みたいな──そういえば中学の頃、学校でキャンプとかいう楽しかったような7割面倒くさかった行事で爺ちゃん先生が、
『山で香水つけたらあかんぞー』
みたいな事を女子や女性教員に言ってたような。
なんでだっけな。
ああそうだ。
蜂 に 襲 わ れ る か ら
って言って──あ゛ああアアぁあ゛ア゛ッ!!
「おーおー、ビタンビタン暴れてる暴れてる。
いえいいえいーっ!
いいぞ、いいぞ、ス・ズ・キッ!
粋のいい餌っぽくていいよいいよ! あれだアレ、ゴカイみたいっ!」
芋虫だろこの場合! だれが釣り餌だっ!
あとこの期に及んでチアみたいな動きするなやめろ目を奪われるわっ!!
あ。
…………ああ、羽音が、羽音がたくさん聞こえ、る。
ぐっ。う、一発で麻痺った。あ、やめろ持ち上げるなぁ!
俺は猛毒より危険な爆発物だぞっ! 導火線付きだぞっ!!
お前らにとって持ってっても危ないだけけけえぇぇえーっっ!
ああ穴の中にぃ、巣穴に入るぅぅうううーっ!!
「ん゜」
びぇええええっなんかそこら中でうねうねうねうねうぬねねねねねねねね…………──っっ!!
あ、鯛鮫Xさんだこんちわー。
なんて場合じゃなあああ体力が減ってってるっていうか視界が赤くなってねってかこれもう燃えて燃えてーっ!
も、もうダメ……ん?
なんか、視界がうっすら白んだ?
いやこれ、──あ。
う゛お゛っ!?
ついに引火しうひゃおぶあがあああああーっ!?
◇
「おおーっ! 試行錯誤の成果がでたでた。
かーぎやーっ!
ん、んんーっ。はー、疲れ……お? おお、きたきたー!」
爆ぜて、燃えて、次第に焼け落ち、崩れ行く巣の末路を見届けて。
仕込みの奔走と苦労が報われた、と。
ペンシルゴンが爽快感たっっぷりに伸びをしたその時、待っていた通知が。
鯛鮫Xをキルした事で大幅にレベルアップできて、おおはしゃぎした。
なにせ、32から71にまで跳ね上がったのだから。
まあひとまずはと、鯛鮫Xの槍を空っぽのインベントリで回収しつつその場を離れた。
鼻歌交じりに、弾むように歩くペンシルゴン。その胸中は実に晴れ晴れとしていた。
チラリと
でも! と、今は考えるのをやめた。
次会う時はじっくり腰を据えて、その気持ちをその言葉で聞いてみたいと想うに留めた。
それはさておき。
「ふんふんっこれは、へえー色々と、おっとこんなことも……!」
スキルやら魔法やらを一息に習得した上、大量に手に入れたスキルポイントもある。
しばらくは色々好きにやれそうだ、とステータスを見つめたあと。
スキルポイントをニヤニヤしながら割り振り、鯛鮫Xが投げ捨てた槍をおもむろに装備すると。我が物顔で振り回し、手に馴染ませた。
「んー。私にはすこし手に余るサイズ? ま、いっか」
強い防具や便利なアイテムの数々、膨大なマーニと色々あったろう。けれども、あの爆発と炎でロストしたのは容易に想像がつく。
だが、このプレイヤーメイドらしき槍があるなら問題ない。
気分としては、序盤、裏ワザで高レベルモンスターを撃破し、大幅にレベルアップして、加えて強い武器まで手に入れたようなもので、スキップしたくなるほどにご機嫌だった。
だが生じた問題みたいなモノは、おそらくは想像以上に大きいか。
鯛鮫Xはすでにフィフティシアにまで到達してる廃人プレイヤーらしかった。当然全てのアイテムや装備、マーニを持ってきていたはずはなく。
今頃、歯軋りしながらペンシルゴンを討つべく色々と駆けずり回っているだろう。
それはいい。気にはするが、問題はそこではない。
「うーん。とりあえず。
進むべきか、それとも一旦潜伏か、別の街を目指すか。どうしようかな?」
最も大きな問題。
鯛鮫Xという廃人をキルしたということで、どこかの廃人PKKが何人も動き出すかもしれないということだ。
……シャングリラ・フロンティアはソロで進むには非常に難しく設定されている。それはセカンディル、沼荒野のマッドディグが証明している。
サードレマ以降の各エリアやエリアボスもまた、相応にマルチならではの対処を求められる事が多いと聞く。
ならば。
フィフティシアにまで至るプレイヤーなら、それ相応に伝手があり。それこそ、鯛鮫Xの受けた仕打ちに大笑いするものもいれば、
当然、
報復に手を貸そうとする者も現れるだろう……
類は友を呼ぶと言うし。
──とある外道なクソゲーマーとプロゲーマー共とよく一緒にいるが。
ただやりたい風にやる、つまり“自分に正直で清廉な”己と、奴らはまるで違うのだ。友ではあるけど。
そう。一般に、類は友を呼ぶと言うし。
「──こんなに早々に、愉しくなってくるとはね」
格上達に狙われる可能性。
それそのものは実に面倒だが、
一方、
悪意を一身に浴びるというのも心地よいとは思う。
あれはあれで刺激的でなかなか堪らない、と、その愉しげな笑みは崩れず。
◇
……?
もしかして、ひょっとして──
「お、おお、お……ギ、ギリギリ……ッ!」
これぞまさしくっ!
『備えあれば、憂い無し』……っ!