「! ゴブリン? いや!」
跳梁跋扈の森に入ってファステイアが見えなくなったころ。夜の暗がりにしても暗黒色のゴブリン、色もそうだが名前が違う『
なんだっていい! 手強いってのを見せてみやがれ! 杖無しじゃ威力は落ちるが、受けてみろ!
「ファイアボール! ストップブラスト! ファイアボール!」
目が合った直後にファイアボール、ストップブラストで対象の足場を砕いて動きを止め追撃のファイアボールを撃ち込む、MPバカ食いするが確かなコンボを喰ら……え?
「え?」
先行するファイアボールより先にナイトゴブリンの足元にストップブラストが炸裂する、直前。
斜め上空へと飛び上がる小柄な影が、遅まきに炸裂したストップブラストの閃光でありありと夜闇に浮かんだ。
コンボ不発! くそってかなんだいまの!?
「上? いったいどこニィッ!?」
左半身になんかがいきなりなんだ!? HPは、全然減ってない。いったいなんだ?
「枝? なんで」
足元をよく見たら折れた枝が数本転がっている。
なんで? いやこれそういや当たった感覚的に上からぶつけられた様な……!
「さっきのゴブリぃいい!?」
今度は右腕になんか巻きついて引っ張られた!? このああダメだ俺のSTRじゃ解けない引き摺られる──!
「ぶへっ」
顔面から木にぶつけやがったんにゃろ! HPは1割減と少なめだが頭部への衝撃(大)のせいでスタンだとう!? 動けぬえぇぇえええええっ!!
そういや何か右腕に、ってなんだ? 縄みたいだけどこれ蔦か? 右前腕をぐるぐる巻にしてやがるこれは、え? 解けてってかこれ巻取られてないか? まさか、
手強いって言うて多少硬かったり火力増してたりかと思えば、こんな夜闇に紛れて撹乱からの蔦による拘束技とか、想定外すぎる!
「ギッギ!」
! 近い、ってかこれ目の前?!
「エア・ク、ぐう!?」
右肩あ! くそスタンで呪文が間に合わない! だが感覚的に手斧じゃないぞいまのなんだ? いや目の前にいるんだ! 右腕の拘束解けてる今はなんでもいい! 見てろよこんちくしょう!
「あ!?」
俺が振り向くより先に、ナイトゴブリンは再び飛び上がっている。剣士スキルによる体当たり『チャージ』が外れる。
見上げてもすでに影すらない。というかめちゃくちゃ飛び回ってるのか、頭上のそこかしこでバキバキガサガサと木々が震えてやがる。
「ちょっこまかとっ」
ゲームとはいえこのセリフを吐くことになるとは思わなかったぜっ。
「っくあ!? くそっ」
またか! 焼き直しの如く頭上から枝の雨。これ今まさに手当たり次第にへし折って手当たり次第にぶん投げてんだな!? あ゛あーっ! チョコザイな!
「あっしま」
今度は左足首かちっくしょ引っぱんなっああだめだ抵抗が間にあわなっ、
「んぬがっ」
左足を宙に引き上げられる形でバランスを崩されたっ。辛うじて受け身は取れたからダメージはないものの、横にすっ転んだこの体勢はマズイとしか言えねえっ。
枝の雨と音で上に気を反らしてから低く低く足元を狙うって狡猾ぅうううう。
「ギャギャギャッ」
背後、それも上から!
今度は威力を載せてキメにきやがったな! ──膝をついちゃいるがよ、さっきと違って俺はスタンしてないぞ?
「エア・クッション! エア・リフレクトォ!」
背後でポフッと全ての衝撃を受け止めたエア・クッションの膜が、包み込んだナイトゴブリンをゴミのように吹っ飛ばした!
……エア・クッションで攻撃を受け止められる数秒間にのみ発動できる、エア・クッション許容範囲の衝撃を対象に跳ね返す新魔法『エア・リフレクト』。地に足着けて殴りかかってきてたなら大した効果にはならなかったろう。功をせいたな所詮はゴブリンッ。
木の幹に後頭部から叩きつけられてさっきの俺のようにスタンしてるマヌケに駆け寄る。テメエの落としたその頑丈そうな枝でまずはお礼参りだおらあっ。
「パぅぅワァー、ッスラッシュァあああっっ!」
無防備なその頭かち割ってやらあ!
なだらかな頭頂部に剣士スキルを載せた大上段っ。鈍い手応えっ。追加でスタンが入るっ。パワースラッシュはリキャストタイム中だが、スタミナはまだある。なぐれるぅぅぅうううう──!!
「おらあ! うらあ! はー、はー」
スタミナ切れた。まあ上げてないしな! だがお礼はしたぞ。
ありがとよ。夜のモンスターは手強い、ってのをよーく味合わせてくれてよ!
「お別れだ──ファイヤボールファイヤボール、ファイヤボールッッ!!」
散れっ!!
…………。
「『コモナの枝』? なんだこれその辺の物かと思ったらアイテムというか、いや武器扱いもできるアイテム?」
ナイトゴブリンを消し飛ばして。
経験値とマーニはただのゴブリンの倍という費用対効果の釣り合わない数値、あの縄として扱われていた蔦は消えたし、イラッとした、が。
この手に残った、ヤツの持ってたコモナの枝とやら。
『「コモナの実がなる枝。実よりも柔らかい。しかし折れたのなら一時ではあろうが、武器の代わりとして扱える程度の強度はある。長ければ槍、短ければ剣や短剣として扱える」』
フレーバーテキストによりゃ、これ武器にもなるアイテムか。しかも丈夫で? ちょい硬い? これより硬い実ってなんぞ……それでいて耐久、俺の杖よりねえかこれ。
しかし武器の代わりになるって、これあれ、今の何もない俺には最適なものでは?
「……許す!」
やたらと好き勝手痛めつけてくれたことはコイツで不問にしてやらあ。っけ。
あー。そういえばだいぶやられたなあってうげぇ。HP6割も持ってかれてるしMPなんて4しかねえじゃん。
ん? いやこのHPの減り方はさっき至近で魔法……いやいいやまあ。
HPMP共に酷く減っちゃいるけど、どうせ身一つ。手に入れたアイテムも所詮は枝。マーニもたかがしれてる。そもそも半裸のまま人目のあるとこに歩いて戻るくらいなら、デスしてギルドの1人部屋で目覚めたい。……デス、か。
痛みがないからか恐怖がない。目先のHPでしか考えてないからかな。VR上で直接操作してるアバター体に攻撃を受けるのと、ディスプレイ越しに操作キャラがダメージ受けるのと、違いは歴然だが、なんだそんな怖がるものじゃないんだな数値的には。
「よし。明日も別に予定はねえし」
唯一のアイテムMP回復ポーションをぐびり。さてまだ行けるとこまで行こう。今夜はとことん特攻プレーだ!
「ギッ」
「ギャギャギャ!」
「ギィギギッ」
「ギキキ」
「え」
思い至った矢先。ゴブリン3体とナイトゴブリン1体に前後から挟まれて囲まれ、って、え? なんで?
なんで急にこんなに現れた!
「あ」
いや? ああそうか。
そうか。シャンフロだもんな。
そうか。あんだけ音を出したらそりゃ集まるよね。
そうか。そして君ら組むのか。
そうか。
そうかあ。
「かかってこおおおおぉいっ! とどどまぬあんぶやぬ」
手斧1つ投擲して俺が避けた直後ロープで体勢崩してからの手斧2連投擲。俺は散った。
連携うめえなチクショゥメエエ──ッッッ!!