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森を完全に抜けると、緑のない乾いた大地に見たこともないくらい大きな蛇が現れた。
なんでか髪の毛が生えてるのは気になるが。まるで丸太みたいな太さのホースを幾重にも巻いたかのような、あの異様なデカさの前じゃ瑣末事だ。睨んでくる爬虫類独特の眼差しは見つめ返すだけで飲まれそうで、チロチロと見せる舌すらデカいしやたら長い。あれで絡め取られるだけでも逃れられないだろう。
「うおらいくぜヘビてめえええええーっ」
「……、……うわあ」
うわあ。
貪食の大蛇でっけえこえーもはやカッケェ、って俺が畏怖して感動した直後に、合図もなく突っ込むのかよ。
やべー。ブレイカーさんヤベェ……。VRゲームのマルチがどこでもこんなんだったら俺ずっとソロでいいや、って思う位の身勝手を地でいきやがる。
「おらおらー! どしたどしたー!?」
もっとも。
Lv22は伊達じゃないか。蛇のあの図体が大剣で切られるたびに大きく震えている。こりゃ楽勝そうでいいけど。
ただ見てるだけじゃあとで絶対めんどくさいこと、グチグチグチグチグチグチ言われるよな。確信がある。
仕方ないなあ。
「ファイアボ」
「そらあっ!」
「……ストップブ」
「ぐぅう!? なんだやるじゃねえかあ! うりゃあ!」
「…………んー」
邪魔!
やたらめたらと動き回られる。
ブレイカーさんが右往左往してタゲ取ってるもんだから、大蛇もそれにつられて弱点だろう頭が狙えない。だが何となく、動きは読めなくもない。
ブレイカーさんの位置取りから大蛇の動きに合わせて。
どうにか、狙いを、定め──た!
よしここっ
「ファ」
「隙だらけだぜえ!」
……直後にブレイカーさんが射線にまあ入る入る入る。
やっぱり無理せず傍観に徹して、いつでも行けるようにはしておくか。
「おい!! サボってねえで! 今のうちにお前も攻撃しろよなあ! 寄生かよ! 晒しちまうぞてめえ!」
「っ。……すみ、ません」
大っっっっっ変言いたい事はございますが、事実ではあるので仕方ない。
ひたすら危険だが、ここは多少無茶するかっ。
接近して、ぶち込む!
まずブレイカーさんが陣取る位置、大蛇の真正面、と反対側に大きく距離を取りながら移動。さて、と気を見計らって、たまらず息を飲む。
離れてるからこそよくわかる。あらゆる動作とそれが及ぼす規模のデカさ。
地面が冗談みたいにバカスカ砕けて砂塵が舞う。
大剣や蛇が何度となくぶつかり合う度、波打つように風が吹く。
余波だけで明白。
飛び込んだら死ぬ。
なんてスリルだ。
これがゲーム。
これがシャンフロ。
「ファイアボールっ」
駆けながらのそれ、我ながら驚くほどの絞り出すような声。
それでも。
唱えた通りに、杖の向いた先へ火球は飛ぶ。
近づいて、攻撃を避わして隙を見い出して、刃を叩きつける戦いは俺じゃできない!
近づいて、テキトーにぶっ飛ばすだけしかできねえよクソッタレが! やってやる!
……攻撃を避けてなんて考えるな。無理なものは無理だ。でも、呪文を唱えるだけで俺は戦えるんだから、口を止めるな!
放った火球はちょうど身動ぎした蛇の背を掠めていく。なんの痛快にもならないだろうが、当たった。
よし! もっと近寄れば戦える! こんなおっかない大蛇と!
すげえよVR!!
やべえなシャンフロ!!
「手を休めんな! トロイんだよもっと魔法使え!」
「……」
水をさされるってのはコレかな。アレがいなかったらなあ、けど居てくんないと戦いにならなかったかもだし。
だが言われるまでもない。
さらに近寄る。圧を感じる。今俺は蛇の攻撃圏内にいると肌でわかる。だがここなら絶対当たるっ!
「ファイアボール!」
尻尾よりにイイ当たり。蛇の動きが一瞬止まった! 頭を狙って畳み掛ける!
「ファイアボール、ファイアボール! っち、ファイアボール」
頭を狙った最初の2発は外れ。仕方なしに3発目を体に当てる。
瞬間、グッと体が重くなった。
これは?
「なん、!?」
右側から大きな風音。咄嗟に左手を翳しスキル『ガードポイント』を発動。直後、左手の盾に蛇の尻尾が叩きつけられた。
甲高く弾ける音が全身を震わせる。盾にかけた防御スキルがその攻撃を受け止めて、威力を大きく減退している。
「う、わったた」
だが俺の体は衝撃で数メートル飛ばされた。幸い尻もちはつかず、すぐ体勢を整えて蛇へと向き直る。
目と目が合った──ここ、真正面じゃん。
「っっ」
目の前に誘導!? 完全に狙われてる!
圧がさらに増す。バックステップ、はダメだ、何をしてくるか分からないし、こんな至近距離からじゃ逃げられる気がしない!
逃げるように、隠れるように盾を体の前に出す。
大きく口が開かれた。鋭い牙が、粘液が、人1人丸呑みにするなど訳ない口腔。まるで俺を覗いているかのようだ。
来る、と何故か予感がした直後のこと。
「無視すんな蛇! っへ、ぁっしま、毒くそっ」
俺と反対側に位置するブレイカーさんの雄叫び、そして短い悲鳴。
蛇を背後から切りつけたが、この蛇ならではの毒糞による反撃を受けたっぽい。なんにせよ。
視線が一瞬でも逸れたことで圧が一気に下がった。
「ファイアボールッ」
その一瞬にまず一撃!
ファイアボール1発を顔面に叩き込めた。炎の粉塵が舞って隠れた顔面へ、さらにと立て続けに放つ!
「ファイアボール!」
2発目も頂き! 3発目を、
「ファイアボー」
「やりやがってえー!」
「ル!?」
ブレイカーさん!?
怯み続ける頭に3発目を撃ったとほぼ同時、復帰してきたブレイカーさんが飛びかかってってマジか今かよ!?
「あっぶ、てめ邪魔すんなヘタクソぉ!!」
「は──、っ……っ!!」
諸共吹っ飛ばしてやりたいと、心底思った。
いやコイツほんと…………
「ストレングス! チャージングスマッシュ! ……っい、──へへ、くらえカウンターブレイドォオッ!!」
ブレイカー何某の何やらスキルで強化した大剣を、攻撃を受け止めて発動するらしいカウンター系の合わせ技で、大蛇が轟断された。
オーバーキル、だったのかもしれない。あっという間に貪食の大蛇の全身がポリゴンと化し、消えていった。
「はあ」
いくつかの大蛇素材、レベルアップ通知。
だが、不安だらけだったボス討伐をなし得たのに、達成感、なんてない。協力した感覚もない。頼りきりになったつもりもない。
──とっとと行こう。
「おいおいてめさっきは」
「じゃ! おつかれっした! あざしたー! 急いでるんで失礼しますね!」
「は」
なんか言おうとしてるが知るか。パーティはすでに抜けている。せカンディル行って、セーブポイントでステ振りして、一旦落ちよ。
「待てよ!」
「っ!? なんです?」
肩を掴むな、強すぎてハラスメント出てんぞ。
一瞬通報するのも悪くないと思えるくらいだったが、一応はボスを倒せたのは間違いなくコイツのおかげ。さすがに通報まではできない。いやしたいが。
「解毒ポーション寄越せ」
「え」
え。
毒糞攻撃は、攻略サイト見てなくても、そもそも1度の戦闘中1度は必ず最後っ屁みたいに使ってくる攻撃。
見た感じあの蛇素材で作った全身装備までしておいて? 何度も倒した事があるのに?
……ふんたー。
「はい」
「早く寄越せよったく。……あー治った。クソが面倒くせえ攻撃しやがる、ナーフしろよホントこんなの」
お礼もなしか。まあいいけどさあ。
「つーか何勝手にパーティ抜けてんだよ。やめてくんね? そういうの迷惑だぞ」
──んー。んー?
「急いでるんで」
「はあ? お前オレがいなきゃ」
「い・そ・い・で・る・ん・で」
「うわウザ。寄生野郎かよなんなんだよ。はー、気持ち悪。とっとと行けよ急いでんだろ。あー嫌な奴手伝っちまったぜほんと最悪だわ!!」
言い捨てて森へと引き返す後ろ姿に、ファイアボール!! ……と、MPのある限り唱えなかった俺を、誰かめちゃくちゃ褒めて欲しい。
「……ブレイカー、ね」
二度と関わらないっ!!
ファステイア編〆。