セカンディル 1
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めちゃくちゃに高い位置に掛けられた吊り橋を渡る恐怖。どうにか渡りきって、遠目に見える街並みへと続く道中。これまでの森とは全く異なる、草原が広がり、彼方に連なる山脈にも未知が垣間見える雄大な景色。
イライラも忘れるね。すげぇや特に吊り橋、ゲームだからこそ平気でいられるけど、もしリアルだったら渡れる気がしねえや。風強すぎ怖すぎ揺れすぎだっての。
それに!
「Lv13! 新魔法2つ! 新スキル1つ! どうすっかなー! いや嬉しいなー!」
さすがエリアボス! Lv2つ上がったし、新魔法も増えたし! スキル1つ覚えてるし!
嫌なことあれば、嬉しいこともあるんだな!
【『
連続ではなく、同時に放てるようになる。MP消費は大きいけど、狙い通りの所に同時に当てられるのは威力に期待できる。
【『
火炎放射である。手や杖から放って焼き払う事もできる。なんて暴力的でロマンスがあるんだ! トラップにも出来なくはないし、中空から放って手をあけられる。これも色々できそう。
【『必死の護りLv1』:即死攻撃や即死魔法に対して防御行動を取れればLv×回数分即死を確率で回避判定】
即死あるのかシャンフロ……RPGならそりゃあるのか。このクオリティで即死技とか魔法想像するに恐ろしいんだが。しかし、それを回避できる、かもしれないスキルか。強い気がするけどLv上げ難しくないかこれ。
今日これからは店を見て回るのに忙しいから、試せたら試そ。とりあえず今はステ振りステ振り、盾も盾スキルもあるから防御より今はMPよりにと……
お。
「おおー、立派」
辿り着いた街の門。風に靡く垂れ幕はなんて書いてあるんだろうか。
ここが2つ目の街、
【沼渡りに備える街:セカンディル】か。
うひゃあ、何十メートルあるんだこの門。素人目にもわかる頑丈そうな構えだ。
ファステイアはまさにファンタジーな田舎街、って感じだったけど、あそこと比べるとセカンディルは都会って感じの雰囲気あるなあ。ホントの都会はサードレマとニーネスヒルらしいが、今から観るのが楽しみだ!
観光者気分だな。高い石造りの門を抜けた先はと。
「おお……」
お上りさんよろしく、左右をぐるりと見渡して声が出るくらい驚く。
ファステイアの街並みがホントに田舎に思える。小屋や2階建てがポツポツせいぜいだったあっちと違って、所狭しと連なる家々はどれも綺麗で、造りも土台からデカいのがハッキリしてる。ちょっとやそっとじゃビクともしないだろう。
家の周りにゃこんな景色皆無だ、アスファルトコンクリの味気なさよ!
それに、一見して分かるくらいプレイヤーの数が多い。パッと見える装備の質も、ファステイアで見た他のプレイヤーより良さそうだ。きっと装備もアイテムも、より良いものがここにあるはず。
セーブポイントを更新してさっそく見に行こう!
「えーと、宿屋やど──ャ゜ェ?」
門の端によってマップを開こうとした瞬間、ちょうど目の前を通り過ぎる槍持のプレイヤーの、そのフードの下がチラッと見えた。見覚えのある、しかしあまりにも信じられない人物と合致してついつい素っ頓狂な声が出て、
「──イェイ」
気づいた相手はチラッとコチラに目をやると、何気なく、しかし鮮やかな微笑みとウィンクを俺にくれて去っていった……
……え、ま、え? 今の? え?
あの、転校前の同級生達が煩いくらい羨望してやまない、女子が男子全員の机に写真集と雑誌と映像記録データを敷き詰められたことで記憶に焼き付いた、あのモデルでは!?
「あまね、とわ?」
ホンモノ? え、え。や、いや、いやいやいや。
いやいやいやいやいやいやいや。いや、ないって。
「えーと!! 宿屋宿屋どこかなー??」
そうだあれだフルスクラッチだっけな!! ひとつひとつアバターの細部を弄れるってあれ!! 俺には到底無理なものだったからやってないが!! あれだろ!! うん!! そうだ!! 間違いねえや!! あ!! 宿屋あったあ!! いくぜー!!
「あーでもびっくりした。再現度高すぎだろ」
イェイ、だってよ。しかもなんて自然にウィンクするんだ様になりすぎ。弾むような声だった、あれ完全に女性だったな、(目に焼き付けられた)写真や映像よりぶっちゃけキレーだったな。
フヘー……
□
「……あ」
セカンディルについたのは16時過ぎ。今17時過ぎ。
「しまったっ」
ベッドから跳ね起きる。横たわってボーッとしすぎた。夜になる前にマップ探索に行かなくては!
店も見たかったがまず『沼地』で採れるっていう鉱石集めないと! ってピッケルとか諸々買わねえと!
「くそどうせ造り物なのに、中身どんなかわからんのに」
夢見すぎだおれー、VRだが目覚めろー、ホンモノじゃないぞー、もっと近くにー、なんて諦めろおれー。
………………
17時22分。夜は近いが、今からでも採掘出来ないことはないだろう。不幸中の幸いにアイテムは道中にMPポーション1つと、大蛇相手の後に解毒薬をなんでか1つ紛失したくらいと、余裕だしな。
「恐るべしVR」
天音永遠ショックがようやく抜けてきた。そうか、VRだからこそのなりきりってヤツかあれが。
どうやらまだ舐めてたぜVR。
そしてさすがシャンフロシステム。一個人の再現度、拘り抜かれた作業の末だとして、半端じゃねえや。
「あれかな」
『四駆八駆の沼荒野』。セカンディルから続く草原が、湿地へと顔を変えた辺りからがこのエリア。
名の通り、湿り気の強いここにはドロ沼と化してるエリアがあり。そこには点々と、鉄鉱石や珍しいと化石が出る鉱脈が起立している。金策と、装備作りに必要な素材集めのお時間だ。
「そーれ! っふ、ふっ!」
お目当ての鉱石が出るかはともかく、ピッケルを実際に振り上げて振り下ろす。気分は炭鉱夫。
「あー。スタミナ効率よ」
しかしスタミナを持っていく作業だ。2度3度とピッケルを振れば、スタミナ回復に数秒止まらねばならない。筋力がまあさほどもないのが原因か。これ魔法職には辛いねえ。
10分やって、出たのも石ころ10以上と鉄鉱石4つとお目当てその1の灰色鉄鉱が2つ。どうなんだこれ。出てんのかな。
この鉱脈以外も探してみるか。
そして。
移動し始めて1分もしていない。微かに聞こえてきたのは確か、
「ん? あれ今の、……あの爆竹か」
俺も持ってる『怯ませ爆竹』。店で試用した時に聞いた、どうしても体を一瞬ビクつかせるあれは、いったいどういう仕組みなのやら。
ともかく。あの爆竹が聞こえる、ってことは近くで誰か戦ってるんだろうか。
ふむ……なるほど!
「いくか!」
加勢に行くか! もしかしたらワンチャンそこからパーティに! そしてフレンドになれるかも! 遠目に見て邪魔そうなら、気づかれないうちに引き返せばいいだけだ! でもまあ挨拶くらいはするかな!
よし! これはチャンスだ、行け俺!
………………
こっちだな。あ、また聞こえた。こりゃこの大きめな沼直進する方がいいな。多少時間かかるけど迂回するより絶対早い、しかしもはや川だな沼の川だこんなん。うっしょこらしょ…………よしあともう少し、っていまドサッってなんだ間に合わなかった、──か?
「は、……っ!?」
何がチャンスだ。やばいやばいやばい……!!
服が汚れるのも構わず、咄嗟に低い岩に隠れられるよう泥沼に必死に伏せる。でも、目だけは離せない。
今の一瞬、間違いなく見えたのは。
「この、ふざけっ…………」
ホンの一瞬見えたそれに、まさかと思った。向こう岸の大岩の陰からドサリと転がり出てきた剣士らしきプレイヤー『シグマ・レガート』、彼を突き飛ばしたであろう
何やら状態異常を受けているのか、ハッキリ喋れず苦しげなシグマ・レガートさん。その声は、しかし誰かに確かな怒りを向けているのが伝わってくる。
まさかという疑念がますます確信を帯びて、次第に、震えが背筋を覆ってきた。
「ふふん。いよいよってその苦悶の顔、セリフ……いいねいいね! まあ、安心して散っちゃいなヨ。後のことは
「~っ!! ぜ、……た、ぃ許さな──」
「その程度の腕前なら、私は寛容になる事をオススメするけどねー」
トドメ、と。彼女が手に持つ槍を深く突き立てた音は、俺にもあるナニカの芯にも突き刺さるかのような錯覚を起こし、全力で声を押し殺した。
間違いない
バラバラに散っていく人型だったポリゴンに語りかけているのは、驚くべき事にその声は、さっき宿屋で何度も脳内でリフレインしていたあの声色そのもので。
あの時と違ってフードを取り払い、夕暮れがその芸術的な横顔を彩っているのは、あの、あの、あの、──あの天音永遠そっくりなアバターのプレイヤー、
「『アーサー・ペンシルゴン』……」
イェイ(チョロそ♪ここが街中で良かったネ)
外道節がんばる