あなたが私のマスターですか?─RE:I AM─   作:つきしまさん

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アナハイムの少女(UC0076>UC0077)
1話 宇宙(そら)から来るもの


 ジョーカー星団。星団歴三二三九年。カラミティ星宇宙域──

 

 スタント遊星の接近によりカラミティ星は大きな地殻変動をもたらされ星の崩壊がついに始まろうとしていた。

 カラミティに軍を進めた天照は作戦続行中にナイト・オブ・ゴールドから弾き出されラキシスを失う。 

 A.K.D総力によるラキシス緊急救出作戦の最中、一騎の友軍騎がカラミティから発生した強大な重力圏に囚われていた。

 

『全軍撤退せよ! 急速にカラミティ星が収縮を始めている! 爆発する恐れあり。全軍モーターヘッド撤退せよ! ヤクト・ミラージュ砲撃中止っ!! 全艦高速離脱っ!!』

 

 明滅するサイン。危険を告げるアラーム。激しい震動がコクピット内部を揺らす。

 背中に背負うスラスターを吹かせながら強大な重力圏から逃れようと一騎のモーターヘッドがカラミティ星の空ぎりぎりに留まっている。

 激しい混乱の中で一人の少女が制御を失いつつある騎体を必死に踏み留めていた。わずかな意識の乱れがモーターヘッドをバラバラに空中分解させてしまう。

 その限界はもう訪れようとしていた。

 

「離脱するんだリジ―!」

 

 切迫した呼びかけが卵型のコクピットルームにこだまする。

 限界を迎えた騎体がきしむような悲鳴を上げる。

 その瞬間、溶解した関節部分を曲げて腕が飛んでいた。赤い炎に包まれたソレははるか下のンビドー海の爆心地へ落下していく。

 瓦解する大地が宇宙からもはっきり視認できる。ブラックホールの様な重力場に飲み込まれ消滅していく様子は恐ろしい光景だ。

 ブースターが火を噴いて双翼の一基が破壊される。徐々に巨大な重力場へ引きずりこまれるように騎体は落下し始める。

 

「できませんマスター! バスター砲後に発生したカラミティの異常重力場に騎体が引きずり込まれます。限界圏内まで三八秒……」

「お前だけでも出るんだリジ―。死ぬことはない」

 

 焦るマスターの声が響き渡る。すでに選択の余地がないことをファティマはよく知っていた。

 もっとも生存率が高くマスターを生き残らせる手段はソレしかなかった。

 

「……ごめんなさい」

「何?」

「その命令は聞けません。私はマスターしかいない。あなたは私のすべてです。ここで死なせるなんてできません」

「リジ―! バカ野郎! ……一緒に帰るんだ。じゃなきゃ」

 

 その最後の言葉を少女は微笑んで受け止める。そして呟いた言葉は小さすぎてマスターには届かない。

 

「ありがとうマスター……私のこと忘れないで……」

 

 四──

 三──

 二……

 緊急脱出用のポッドがコクピットごと排出され、ぎりぎり重力場の圏外にいた騎体が赤い炎に包まれる。

 

「リジィーっ!!」

『こちら味方の脱出ポッドを回収した。緊急離脱する! カラミティ星が爆発するぞっ!!』

「行くな。あいつを置いていけるものかよぉっ!」

『黙れっ! お前のファティマがどんな思いでお前を助けたか……』

 

 味方騎が宙域を急速離脱する。

 最後の光を放ちカラミティが限界まで収束し星の命を散らす。

 ラキシスと共に虚海へと呑み込まれたナイト・オブ・ゴールドはカラミティ星の爆発に巻き込まれ、時空の果てに飛ばされる。

 そして同時にもう一人の少女が異次元の海へと放り出され長い漂流の旅へと出ることとなるのだが……

 

  

 どこまでも暗く光のない世界。時すら静止した空間は凍える冷たさですべてを凍らせる。

 破壊されたブラッドテンプルは残骸として虚空を漂う。

 血の十字架を背負ったマシンの中で体を丸め、意識を切り離した状態で少女は残された時間を計算する。

 吐き出す息は白く、凍り付くように寒い。

 ここがどこなのか? 

 それに答える者はいない。

 ここには時間さえも存在しないのだ。

 

「お前ももう、動かないのね……」

 

 少女の問いかけに長く連れ添った騎体は沈黙で答える。

 イレーザー・エンジンも停止している。

 あの爆発で生きていることが奇跡だ。

 それとも私はもう死んでいるのか?

 すごく寒い……

 体を抱きしめ、迫る死を予測する。

 自害すれば苦しみから解放される。

 

「マスター……」

 

 ただ彼のことだけを考えた。 

 希望を抱くことはもはや空しい。

 それでも……それだけが自分の存在を確かなものとしてくれる。

 

 少女は眠る。

 不可思議な光に包まれる夢を見た。

 それははるか遠き、異なる次元世界の軌跡。

 青き星を砕くべく墜ちる巨大な質量をもつアクシズが押し戻される夢を見ていた。

 その夢が何であるのかはわからない。

 少女は観測する。

 その光が自分を導くものであることを知らぬまま。

 暗黒の闇を光が差し込んで残骸として漂う騎体を照らし出した。

 

 暖かい温もりに包まれる──

 

 少女は目覚める。

 異次元から差し込んだ光に手を伸ばす──

 

 

 パナマ沖──珊瑚の島に横たわるは鉄の巨人。海上封鎖された沖合に巡視船が浮かんでいる。

 

「──ご苦労様。ここからは我々にお任せください。野次馬も下がらせていただきたい」

 

 新たに到着した一行が現れ物々しい雰囲気に現場は包まれる。

 謎の漂流物の発見は島の住民を驚愕させたが、それ以上に驚かせたのは戒厳令が敷かれたことだった。

 警察、軍が出動し、さらに白衣の集団の到着だ。島出身の若い巡査が当直に当たっていた。

 

「失礼だがあなた方は?」

「アナハイム・エレクトロニクスの者です。回収に当たりますのでこちらの指示に従っていただきたい」

「わかりました……」

 

 白衣の男たちを見送り、巡査は何だっていうんだ? という目を漂流物であるロボットに向けた。

 

「モビルワーカー? いや、見たことがない型だ。こんなところにモビルスーツ? まさかな」

 

 会長から直々の出向命令を受けてきたのはウォン・リーだ。ウォンはアナハイム本社の幹部であり、会長の懐刀として知られている。

 

「ウォルター、進捗はどうかね?」 

 

 防護服を身につけた男たちに近づいて話しかけた。先着技術陣の全身を覆う防護服は放射線対策だが、ウォンは高級スーツである。

 現場の規則無視のウォンにウォルターは愛想笑いで返した。

 

「コクピットと思わしき部分はロックされているようです」

「コクピットが頭部にあるのかね?」

「そのようです」

 

 意外な答えにウォンはロボットの頭頂部から伸びた一本角に目を向ける。飾りなのか、何らかの用途があって角があるのかは不明だ。

 一見、コクピットは胸部かと思ったが思い違いか。ウォンは担当に質問を続けた。 

 

「いずこのモノか。所属を表すものはないのか?」

「不明ですね……表面が焦げ付いていて認識できません。こんなタイプの機械は初めて見ました」

「宇宙産か?」

「わかりかねます。持ち帰って調べないことには」

「だから来た。早いほどいい」

 

 集まっている野次馬たちをウォンは一瞥する。警備が島民からカメラを取り上げているのが見えた。

 さっさと回収して撤収するのが今日の役目だった。

 

「まずはこいつの正体が何であるのかを確かめよう。何でもいいからコクピットをこじ開けろ。爆薬を使っても構わん」

「ウォンさん、過激ですよ。傷一つつけずに持ち帰れとのことです」

「中に何が入っているのかも不明な機体だぞ? 反乱分子のテロリストが爆弾を抱えていたらどうする?」

「考えすぎです。まあ、空から落ちてきたとして、中に人がいるなら想像したくない中身かもしれないし。そりゃぐちょぐちょな……」

 

 ヘルメットの下でウォルターが顔をしかめて見せた。

 

「仕事を続けてくれ」

「やってますよ」

 

 手元の計器でマシンのコクピットを開けようとウォルターが調整を続ける。

 

「波長合いました! 開きます」 

 

 固唾をのんで見守る男たちの前で頭部のコクピットが開く。

 日差しの影の中にコクピットルームが存在する。

 

「女?」

 

 スーツが汚れることは気にせず、コクピットルームに身を乗り出してウォンは中を覗き込んだ。

 

「見たことがない計器ばかりだな……」

 

 技術屋の癖で機器類を確認するが、すぐにパイロットに目を向ける。生きているのか、死んでいるのかはまだわからない。

 パイロットの座席から細い手足が力なく投げ出されている。

 その華奢な身を包むのは体にフィットしたボディスーツと、その上からマントでゆったり包むようなデザインの服を着ている。

 細い首。小さな顔は子どものようにも見えたが驚くべき美貌であることが見て取れた。

 一流のモデルか何かであれば印象に残りそうだがウォンの記憶にはなかった。

 

「仕事が一つ増えたな……」

 

 生きている──

 生存を確認してウォンは衛星電話に回線を繋いだ。

 

 これはアナハイムが後にひた隠しにすることになる──もう一つのアナハイムの秘密となる少女の数奇な運命にウォンが巻き込まれた日であった。

 

 

「あのモビル……ワーカーの分析結果が出るまで徹夜だ、帰れん。上からの指示とはいえ辛い作業ですね。解析に分解までとは」

「主任、悪いがこれも仕事だ。私もパナマ出向からもう三日帰っていない」

 

 部下に返事を返すウォン・リーの眼下には巨大なロボットがあった。ガラス一枚を隔てた先に全長一六メートルほどの人型の巨人が横たわっている。

 北米にあるアナハイムの本社にソレは運び込まれ、厳重な警戒態勢と秘密厳守が保たれている。連邦政府にすらその正体を教えずにアナハイムが独断で動いていた。

 あれが宇宙から飛来したものであることは調査から判明していた。突如パナマ海上に出現した、という島の住民の証言も得ている。

 その口を閉じているように本社から指示が飛んで目撃者は十分な金を受け取っていた。

 

 破壊され動くことはないが、正体不明のロボットの心臓部であるエンジン部を開けた時の困惑はいまだに自分でも理解しがたいものであった。

 アナハイムが開発してきたどんなエンジンとも異なる機構を持つソレが高度な技術で作られたものであることを理解することができたが、動力源のエンジンがどのようなエネルギーを生み出していたのかがわからなかった。

 ジョーカー星団の無限の高炉であるイレーザーシステム……その光は失われ、動かぬブラックボックスとしてそこにある。

 ウォンは解析結果のプリントを手に取り眉をしかめる。

 

「この素子方程式は我々が知るモノではない。まったく異なる世界の……いや宇宙のモノだ」

「SFですか部長」

「アナハイムが生み出した製品、それこそネジの一本に至るまでわが社の製品は判別することができる。これはなんだ?」

 

 ウォンは手を伸ばし主任にデスクにあった部品の一つを見せる。

 アナハイムが作ったこのネジは普通の家電製品から戦艦に至るまで一般的に使われている代物だ。

 

「NL-19950 18mm?」

 

 主任が型番を答える。

 

「どんな製品にも共通規格の部品を用いることでアナハイムは汎用性を保ってきた。共通規格があるからアナハイムは地球でも宇宙でも製品を売ることができる」

「うん、そうですね」

 

 一般常識と主任が頷く。

 

「モビルワーカーも例外ではない。少なくとも部品の一つや二つはアナハイムの物を用いているはずだ。使わない方が難しいくらいだろう」

「うちの品質にはどこも勝てやしません。オリジナルを使うにしても相当手間でしょうね」

「我々の認識が及ばない新型の機動兵器。だからあれをモビルワーカーとは呼べん。どこか別の人間、勢力が造り上げた新型機動兵器と仮称する」

「モビルワーカーではない……じゃあやっぱりモビルスーツなのでは?」

「コロニーの連中が作ったマシンを地球の海に捨てると思うか? 失敗作だったとしても捨て置いたまま放置するとは思えん」

「じゃあ部長の言う宇宙の第三勢力だとしましょうか? その連中が地球に何らかの意思を示すということでしょうか?」

 

 それは侵略という意味だが、いまいち真剣みを感じない口調だ。

 デスクワーカーの研究者などそんなものだろう、とウォンは部品をネジ山に戻す。

 

「たとえ我々の知らない機動兵器を誰かが造ったとしてもそこにアナハイムの部品が使われていればわかる。しかしこいつは……何一つ該当するものがない。我々が知る部品の規格に一つも当てはまらない。どこで作られたかは知らんが、そいつらは戦争を起こす気かもしれん」

 

 そう未知存在による侵略だ──ウォンの脳裏にパナマ沖の島で見た衝撃の瞬間が蘇る。

 空の胸部のコクピットと連結するようにあるロボットの頭部から現れた少女の記憶だ。

 最重要機密なので主任にもその存在は明かしていない。

 

「じゃあエイリアンですかねえ」

「そんなものがいるわけがない。人類が宇宙に飛び出して以来、謎のエイリアンが接触してきた事例は一つもない。つまりそんなものは存在しないのだ」

 

 だが、という言葉を言いかけてウォンは眼下の機動兵器──ロボットを睨む。

 未知の存在など彼は認めない。科学者として事実だけを見据える。

 

「人型二足歩行の機動兵器か……確か宇宙(そら)に行ってモビルワーカーを見てきた奴がいたな。中身も触ったこともあると言っていたが……」

 

 何処で聞いたのかも、名前も思い出せずに腕を組む。つい最近のはずだが……

 

「ナガノですか? あいつそういうの詳しいですね。でも、兵器部門の開発部長に噛みついたせいで飛ばされてますよ。資材課で今は冷や飯食ってますが」

 

 ウォンの独り言に夜食をほお張る主任が答える。

 

「そう言えばそんなのがいたな……そいつを呼び出せるか?」

「もうみんないませんよ、この時間じゃ」

 

 解析に残っている社員は徹夜覚悟で奮闘中だ。解体したロボットの部品一つ一つを広げてナンバーを割り振っている。 

 

「そうだな……ナガノをこちらに出向させろ。無駄飯食らいじゃないことを証明したら戻してやってもいい」

「それ、部長から本人に言いますか?」

「成果を出すなら考えるさ」

「じゃあ人事部の方に申請送っときます」

「そうしてくれ」

 

 もうやることはない。新たな解析結果が出るまで時間がある。

 

「出る」

「部長、どちらへ」

「外の空気を吸ってくる」

 

 新たな解析プリントを手に取る主任を背にウォンは頭を冷やしに外に出る。

 

 

「──本気で仰っておられるのですか? 連中はたかるハイエナですぞ?」

 

 社長室に呼び出されたウォン・リーの前に一人の男が立つ。この男の名はメラニー・ヒュー・カーバインだ。

 アナハイム会長にして、地球のみならず宇宙に拠点を持つ巨大企業にアナハイムを成長させた梟雄である。

 ウォン・リーは彼の腹心の部下だ。

 会長腰ぎんちゃくの社長はウォンと入れ替わるように会議に出席するため退室している。

 

「サイアムからの申し出だ。すでに例のことを嗅ぎつけていた。我々が回収した機体と娘のことをな。おそらくはカーディアス・ビストを送り込んでくるだろう。対策は考えている」

「は、リーク元はマーサ・ビストですか? 身内にオオカミを引き込んだようなものです」

 

 辛辣なウォンの物言いにメラニーは眉を動かしたのみだ。

 独自の財源を持ち、連邦政府と強い繋がりを持つビスト家はアナハイムのガン細胞とも言えたが、そのガン細胞を飲み込んでアナハイムは成長してきたのだ。

 お互いの尾を食らい合う蛇のように。

 

「子殺しの獣(ビスト)め。財団は何を要求しているのですか?」

「庇護だ。アレの情報を連邦に漏らすことはない。アナハイムが回収したものを守るためだそうだ」

「腹では何を考えているのやら……」

「こちらも手札をちらつかせて出方を見る」

「わかりました。その手札とやらは目を覚ましたのでしょう?」

「だから来てもらった。君が管理しろ」

「まったく人使いが荒いボスだ」

 

 与えられた役割にウォンは退室し研究室の扉を開く。

 診療所にその娘がいる。パナマで機体共々搬送の手続きをしたのはウォンだ。

 尋問して情報を引き出すのは彼の本業ではないが、これも仕事である。

 

「娘はどこだ?」

「先ほどまでベッドにいたのですが……」

「バカか!」

 

 ウォンは乱暴に吐き捨て室内の痕跡を探す。いるはずの娘が消えている。

 

「部屋をロックしていなかったのか?」

「していました。レベル4のセキュリティ・コードを使っていました。確認しています!」

 

 泣きそうな顔の看護師の相手をしている暇はない。レベル4のセキュリティを解除可能な装置でも持っていたのか?

 緊急警報のベルを鳴らすか躊躇したがすぐに歩き出す。捜索に警備員を借り出す必要はなかった。目的の少女は通路を曲がった先で見つかった。

 数歩先に女が倒れている。

 

「おい……」

 

 警戒はするが、呼吸が荒いことから膝をついて肩を揺さぶった。

 身に着けているのは病人が着る白衣だ。明るい栗毛の髪が一房落ちて広がる。

 体を抱き起す。軽い。痩身で体の肉付きは若い娘としては少なすぎるくらいだ。

 

「アレルギー反応か?」

 

 袖をめくると肌に見える症状をアレルギーと判断する。化学繊維に対する中毒症状だ。このような症状を前にも見たことがある。

 医者ではないが、メラニーの意向があれば世界を飛び回る。

 戦場での医療現場に立ち会うこともあった。応急処置も心得ている。

 呼吸不全を起こしていることから緊急と判断する。抗薬の投薬が必要だ。それに服も着替える必要があった。

 ウォンは娘を抱きかかえ診療所に戻った。

 

「すぐに抗アレルギー薬を用意しろ。それと呼吸器はどこだ? この娘が着ていた服もあるだろう」

「服? ですか?」

「あるだろう。出せ!」

 

 ウォンはベッドに少女を寝かせると勝手に呼吸器を見つけて装着させる。

 

「まったくグズグズしおって! 担当医を早く呼び出せ!」

「は、はい!」

 

 白いカーテンが引かれて看護師が服を着替えさせている。慌てた担当医がようやく姿を現して、やれやれとウォンは一息つく。

 そして警備室への直電を取っていた。

 

 

「──名前、出身、家族構成、所属、階級を述べたまえ」

 

 尋問を執り行う警備員は元は連邦の憲兵士官だ。今はアナハイム抱えの警備員として不審者の身元を調べている。

 取り調べ中の不審者は宇宙から飛来したロボットの中から発見された当時の服を着ているが、拘束衣を上から着させられて手腕の自由は奪われている。

 どんな剛腕でも拘束されていれば身動きできないが、目の前の少女にソレが必要とは男には思えなかった。

 しかしこれも仕事である。繰り返し同じ質問で問う。

 彼には事の詳細は一切明かされていなかった。目の前の少女が何者であるのか──

 

「名前……」

 

 唯一反応したのは名前だけだ。

 

「名前を言え」

 

 高圧的な言葉が少女を打ち据える。尋問の様子をマジックミラーの向こうでウォンと会長が聞いている。

 こうした現場に会長自ら同行することは珍しい。多くの場合、彼はメッセンジャーであり代行者となる人物を立てる。

 

「……リズエラ」

 

 ようやく引き出した言葉は名前だった。

 うっすらと思い出したのはリズエラという名前だけ。

 

「所属、階級を述べよ! いかなる組織の者か! 貴様はテロリストか?」

 

 ぼうっとした顔でその言葉を聞くリズエラの表情に動きはない。

 強面の尋問官と二人きりで心理的圧力を強いているにも関わらずリズエラに動揺の気配はない。

 同年代の娘であれば平気でいることはできないだろう。取り乱したり、状況を良くしようと進んで名乗り出す。

 警備員の顔に焦りが浮かぶ。上司の上司どころかトップの会長が鏡越しに見ているのだ。

 名前以外、何も聞き出せなかったでは済まされない。

 

「ここで正直に話した方が身のためだぞ。監房に入れられれば二度と日の目を見れんのだ」

 

 軍や警察組織ならともかく、アナハイムの施設に監獄は存在しない。この部屋も警備員が使う一室を尋問部屋に改装したものだ。

 脅し、なだめ、説得、そしてまた脅しの文句を投げかけるが「何も覚えていない」と首を振るばかりだ。

 

「あなたは──」

「何だ?」 

 

 ようやく覚えていない、知らない以外の言葉を耳にして警備員は希望に顔を上げる。だが次に出た言葉はより混乱に導くものだった。

 

「あなたは──私のマスターですか?」

俺、ガンダム二次の1シーズン投稿し終わったらFSS17巻と水星の魔女見るんだ

  • 水星の魔女は許す、FSSは許さん
  • FSSは許す、水星の魔女は許さん
  • 両方許されない 二次作を完結するまでな!
  • 好きなだけ堪能していいぞ
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