あなたが私のマスターですか?─RE:I AM─   作:つきしまさん

11 / 16
11話 スタックコード:リズエラ(前編)

「今、君は起きたばかり、少しづつ、少しづつ慣れていこう」

 

 電子ノイズに混ざる波長パターンは揺らぎを示した。その電気信号の波でしかないものに「意思」があった。   

 彼は自らの内のコクピットに座るリズエラに焦点を合わせた。顔を認識し全知覚でリズエラを【視た】。

 白いパイロットスーツ。AEのロゴが入った最新のデザインがリズエラの身を包む。

 見られていることを意識しながら、ノイズ交じりの波長が同調してリズエラは「彼」の言葉を聴いた。

 

(──マーマ?)

 

 それは人の世界における母という存在を覚えた意思が発する言葉であった。

 非常に高度な知性にも似たものがマシンの中で生まれたのはつい先日のことだ。

 その「言葉」を聞くことができる人間は現実世界に存在しない。

 大気に流れる微量な電子から、あらゆるデータを読み解くファティマがその電子波を感知し脳波を同調することで「言葉」として認識することができる。

 マシンはリズエラの意思を受けて覚醒する。彼はすぐに外の世界の情報を収集し始めた。

 搭載された教育コンピュータに蓄えられたデータはすべてリズエラが打ち込んだものだ。彼にとってリズエラは母であり、先生であった。

 

「──さあゆっくりと目を開いてみよう。私が見るものを君も見る」

 

 RX-78はその視界を外に向けて開いた。周囲の空気を振るわせる音が工場内に響き渡る。

 センサーとカメラが同期してメサイアと同じ全方位視界のコクピットに外の世界が映し出される。

 彼にとっては初めての外界だ。

 細身の体を座席に沈みこませてマシンと意識をシンクロさせることにリズエラは集中する。同期した教育コンピュータに次の指示を下す。

 

「解析──解析!」

 

 ハロ二号機が実験データ収集のため主座席脇に用意した端末席に設置されている。

 リズエラと同期したRX-78に伝達される脳波を読み取り、ブレイン回路をハロの記憶媒体に形成する。

 ハロは脳波コントロールの媒体であり増幅器でもあった。パイロットの指示を受け取り、その脳波を利用してマシンをコントロールする。

 複雑化するMSのコントロールを制御することだけをハロは考える。

 パイロットの微量な脳波にベクトルを持たせ、速やかな運動を可能とする。

 ハロがなければMS従来の操縦システムでコントロールすることになるが、反応速度が増した機体をより円滑に動かすには脳波コントロールは不可欠なものとなっている。

  

 人をはるかに超えた反応と入力速度を示すリズエラにハロは無用だが、連邦軍から選出されたテストパイロットが来るというのでデータ取りに協力している。

 普通の人が「彼」を動かすのは少し大変だ。パイロットたちは教育コンピュータとハロの助けを必要とする。

 

「歩く練習を始めよう。初めは仮想シミュレーター。空気の抵抗に重力があるよ」

 

 初めて地面に立つマシンは戸惑う。その意思が伝わってリズエラはバランス制御のプログラムに微量な調整を加えた。

 操縦とプログラムの変更を同時に行うのだ。

 

(わっ!? )

「平気、一歩ずつ歩こう」

 

 RX-78のメインカメラが仮想空間に連動して接続されている。リズエラの調整によってほぼ現実の稼働体験同様のデータを教育プログラムに転送中だ。

 そのデータを同時に見るのは博士チームである。

 

「同期は完璧ですね」

「立ち上がりが遅い」

 

 モスクの傍らでクリスが呟く。容赦がない、とモスクはRX-78のコクピットに座るリズエラのモニタを見る。

 

「出来上がったばかりのシステムと機体にお嬢ちゃんも手間取ってるんだろう」

「彼女ならもっとうまくやれます」

「うん、そうだな……」

 

 トレノフが差し出したコーヒーのカップをクリスが受け取る。

 RX-78は仮装甲のデータをまとい重量も増して完成に近い姿で大地に立つ。機体にかかる負荷も現実と同様の数値を示す。

 初めの一歩を歩き出し、急速に送り込まれる膨大なデータをハロがフル稼働で解析する。

 リズエラはハロのサポートをしながら、そのプログラムに変更を加え、ガンダムが可能な動きのすべてを再現し教育コンピュータに覚えこませていく。

 MSの動きを最適化する。その基準はリズエラではなく、人間のパイロットのフォーマットにしなければならない。

 テストパイロットのデータは連邦の技官から受け取っていた。「彼ら」の能力に合わせた基準で仕上げを行う。

 

 手順はメサイアの時と同じです。初めてメサイアが起動した頃は博士と私もノウハウがなかったから少し大変でした。

 今ではメサイアも立派なお兄さん。弟ができて喜んでる。インダストリアル7時代からこのシミュレータも進化しました。

 

 その進化を促したのもリズエラによるところが大きい。あらゆるマシンとの同調を示すファティマの能力がこの時代の未成熟な技術の発展を促すものとなる。

 それはシミュレータ用のマシンに留まらず、あらゆる分野に転じることができるものであった。

 三人の博士たちがテスト中のRX-78を見守る。                                                       

 仮想空間の中で動くRX-78にトレノフが指摘しモスクが相槌をうった。クリスはあまりにも滑らかな機動をする機体に真剣な眼差しを注ぐ。

 

「次は無重力」

(うんっ!)

 

 ──ム―バブルフレームの実験機体となったメサイアのデータを取り込んだ最新のデザインをテム・レイが描き出した。

 マーサ・ビストがインダストリアル7から手土産に持ち込んだ、メサイアのム―バブルフレームの祖組骨格がその基盤となっている。

 アナハイムの基礎技術外にあるム―バブルフレームの運用は、メサイア開発に携わった技術陣を連れてくることで技術的問題の解決にあたっていた。 

 脳波コントロール・システムはコクピット周りのみの配置だ。

 メサイアのシンクロナイズド・コントロール・システム(S・C・S)はフレームにまでサイコミュ伝達機能が施されているが、RX-78はよりシンプルに機体のみのコントロールに重点が置かれている。

 

 各駆動系の稼働伝達に特化されていて、モスク・ハン博士のマグネット・コーティングの技術理論を用いることで、脳波コントロールによる機体の摩擦係数をほぼゼロコンマの領域に高めることに成功していた。

 メサイアが抱えていた、脳波コントロールによる機体の限界値稼働の問題はここでクリアされることとなった。

 最大出力のフル稼働で機体のフレームが歪み損壊するリスクからメサイアには稼働リミッターが設置されている。

 RX-78にも段階的なリミッターが設けられているが、トレノフ・ミノフスキーが細やかな調整を加えることでパイロットの力量に応じた力に設定される。

 

 そのエンジンのパワーは、クリス・マリアのエーテリアル・キャタライザーによって従来のMSをはるかに上回る力を生み出している。

 連邦が所有する初めてのガンダムは宇宙最強に相応しいモビルスーツとなって送り出されることになるだろう。

 メサイアと異なる設計思想を持つ機体は、四人の博士によってバランス調整が施され、実験機一号にしてすでに完成系に近いものとなって生み出されようとしていた。

 RX-78の指揮を執るテム・レイは三人の博士がいるラボではなくハンガーで忙しく走り回っていた。

 

「ニムエ、メサイアとRX-78の同期は終わっているのか?」

『はい、終わっています、レイ主任』

「うん」

『そういえばテストパイロットの人たちが来るんですよね? どんな人たちですか?』

「優秀だよ。今日到着する予定だが……」

『歓迎会しましょう』

「歓迎か……そうだな。悪くない」

『これ終わったら準備しますね』

「頼む」

 

 RX-78との同調模擬テストのためメサイア二号機に乗るニムエとの通信を切り、テムはRX-78の図面と向き合うとため息をついた。

 新しいプランの計画書がすでに仕上がって目の前にある。アナハイムの上層部も知らない新たな設計図である。

 

「ナガノ博士には毎回驚かされる……これほどのものをどうやって……」

 

 自らがこれまで培ってきたものを他の誰かに出し抜かれたという衝撃は、若干一八の娘に抜かれたという妬みよりも驚きの方が勝ったといえよう。

 彼女だけではない。師と仰いだミノフスキー博士までがこの計画に加わることとなった。

 メサイアに使われた技術の片鱗でも我が身に身につけようと勉強の日々となった。ただ求めるがままにどん欲にその知識を頭脳に詰め込んだ。

 そしてテム自身もあのディスクの存在によって、この時代にはあり得なかった発想の産物をMSに組み込むことになった。

 マシンと繋がるもう一つの頭脳となる存在。ハロにその運命を委ねることとなる。

 

 ジオンが秘密裏に開発中のサイコミュ搭載型のMSは、機体の大型化からモビルアーマー(MA)と呼べる巨大なサイズとなって一年戦争半ばから登場することになるが、この時代の連邦にはその技術すら知られておらず、ましてアナハイムですら未知の領域だ。

 連邦とアナハイムがサイコミュ技術関連に手を付けるのは、ジオンの侵攻を受ける一年戦争最中のことで、ニュータイプの目覚めを受けたアムロ少年が白いガンダムに搭乗し、数々の軌跡を描いた後のことだ。

 

 それに先んじてMSサイズに脳波コントロールのシステムを組み込んだクリス・マリア・ナガノの知識と技術力はどこから得たものであろうか?

 別宇宙より飛来したモータヘッド・ブラッドテンプルの解析情報をすべて灰色の脳に収めた彼女だが、その中にサイコミュに至る技術の片鱗があったのか?

 従来のモノコック構造、フィールドモーターを遥かに上回る機体構造体とエンジンの開発、どれをとっても遥か先の技術であることを示す。

 

 この世界よりも技術力の進んだ世界から突然抜け出してきたかのような感覚と言えばいいか。   

 メサイアの姿もその形になるまでに開発の歴史があったはずだが、そこだけすっぽ抜けてここに存在する。

 まるで異世界から漂着したオーパーツだ──もしくは全く異次元の技術や知識を外の世界から託されたのか?

 現実的ではない、妄想ともいえる思考にテムは苦笑いする。

 だが現実にモーターヘッドは地球に飛来しアナハイムの秘密のベールに隠された。解体されたブラッドテンプルは今も極秘のシェルターで眠り続けているはずだ。

 アナハイムとビスト財団の力を注ぎ込むほどの価値があったことは確かだ。その大きすぎるほどの力を自分たちは扱おうとしている。

 

「戦争の抑止力となりえるか……それとも恐怖を振りまく存在となるのか……」

 

 核兵器のように──かつての兵器「核」が辿ったのは恐怖と地球汚染の道だ。それは今もなお現存し、人類を抹殺する道具として存在する。

 テムは不吉な考えを振り払って作業する工員に指示を下す。

 

『リズ、限界値まで』

「──了解」

 

 コクピットにクリスの指示が響き応えを返した。

 リズエラとRX-78は仮想空間の中だが、本物の機体は博士たちがいる部屋から見下ろせるハンガーデッキにある。

 建造途中にあるモビルスーツのフレームはむき出しで無骨な鋼鉄のボディを冷たい空間にさらしている。

 機体には第一装甲さえ取り付けられていない。標本の骨格のようなム―バブルフレームの外見をさらしRX-78「ガンダム」が横たわっている。

 その下で数多のむき出しのチューブが伸びている。そこにはガンダム・プロトタイプ01の調整に勤しむ人々の姿があった。

 リズエラも見慣れたインダストリアル7の開発チームの面々だ。中心となるコクピットの中でリズエラがRX-78に語り掛ける。

 

「最終テスト。メサイアをセットアップ」

 

 仮想空間にメサイアのデータが召喚されてもう一機のMSが対面に現れる。大昔の騎士のような甲冑装甲にも似た姿に彼の動揺を感じ取る。

 スマートな装甲に身を包むRX-78とメサイアとの対比が際立っている。それが大人と子どもが対峙するような臆病さを彼にもたらした。

 マシンがマシンに恐怖する。その感覚を共有するのはリズエラだけだ。他の誰もそんな言葉を真剣に聞く者はいない。

 長い付き合いのクリスやニムエでもその感覚は理解からは程遠いものだ。

 

「準備はいいかな? お兄ちゃんをやっつけよう!」

(怖い……)

 

 マシンから伝わってくるのはピリピリした怯えの意思だ。それをリズエラはなだめる。彼の自我は幼児にも等しい。

 マシンの「感情」は機体スペックに直接影響するものではないが、微弱なエンジン波動の変調を感じる。

 感覚でマシンの心を直接感じ取れるファティマにとって、「彼」を安定させることは自身の能力を安定させるのに必要なことだった。

 メサイアは完成されたマシンだが、彼はまだ生まれたばかりで不安定になりがちだ。

 

「ニムエ、RX-78のスタンバイ完了」

『了解、いつでも行けますよ』

「この子、メサイアに怯えてる」

『ふふん? じゃあ私が勝っちゃうかもしれないですねー』

「そうはならない。一五秒後に戦闘開始」

『はーい』

 

 ふとニムエへの対抗心が浮かび上がってリズエラは通信を切る

 

「対抗する手段と作戦がある。君は「彼」よりも動くことができる。パワーで考えない。思い切っていこう」

(どうする? どうするの?)

「それはね──」

 

 リズエラの言葉の後、両機は大地を蹴ってぶつかりあっていた。

 

 

 正午の日差しが定期的な影を町中に作り出す頃、開発地区に入り込んだエレカーから降りたのは連邦軍の制服を着た二人の士官たちだ。 

 彼らを出迎えたのは二人よりも高位の高級将官だ。思ってもいなかった歓迎に二人は即座に敬礼を返した。

 このような場所にいるのは違和感を覚えるような人物だが本物だった。

 

「貴官らを歓迎する。よく来た、ここが最前線だよ」

 

 そう言って口元を歪ませたゴップ将軍を前に二人は敬礼を崩さない。

 ジャブローのモグラとも暗喩される人物が辺境のサイド7にいる。

 地球連邦軍統合参謀本部議長という肩書を持つゴップがこの計画の事実上のトップということを示している。

 これから二人が就く任務の重要性を考えれば当然という考えにたどり着くのだった。

 

「来たまえ、案内しよう。君たちが乗るモビルスーツを見せよう」

「は……」

 

 二人は顔を合わせてゴップの後に続いた。

 厳重な警戒態勢と警備の厚さは通常の軍基地を上回るものだ。

 

「中尉、こりゃあアリ一匹侵入できそうもないな」

「そうですね」

 

 ささやく大尉に若い精悍な顔を向けて中尉は返す。

 通り過ぎた門の警備に立つ強面の兵士が油断なく見張っていた。

 

「ここからは重力がないぞ」

 

 施設の奥部に入り、出た回廊の壁際から見えるのは仮想起動実験中のRX-78だった。その下で多くの人々が動き回っている。

 

「これが新型のモビルスーツか……」

 

 初めて目にするMSを見下ろして中尉が口にする。連邦軍に配属されたガンキャノンとはまったく異なる機体がそこにあった。

 マグネットの靴底が金属音を立てる。無重力の空間から肉体を地面に繋ぎとめている。それはとても人を不安定にさせる感覚だ。

 

「RX-78。ガンダムが正式名称だ。ジオンのザクを遥かに超える力を持っている──」

 

 ゴップの説明を受けながら二人は身を乗り出すようにガンダムを眺めた。

 

「装甲もまだついてないのか?」

 

 手すりに手をついた大尉が見下ろす。中尉よりもニ、三歳上でひげも蓄えているので実際より五つは老けて見えた。

 

「ガンキャノンとは全然違うな。フレームの構築がまったく異なる。あれでザクよりも早く動けるのか?」

「ザクを撃退した機体をベースにしているそうですから、間違いなく最新ですよ」 

 

 メサイアに関する情報を大尉に返した中尉が通路の先から歩いてくる人物に注意を向けた。大尉も気が付いて顔を上げる。

 ヘルメットはかぶっていないがAEのロゴが入ったスーツを着ている。

 

「テム・レイ主任。彼がガンダム開発の責任者だ」

「あなたたちがケンプ中尉にヴェルツ大尉ですね」

 

 ゴップから紹介され、テムから差し出された手にケンプが反応してヴェルツも順番に握手を交わす。

 

「よろしく」

 

 軍人特有の力強い握手からテムは手を離す。

 

「連邦軍のエース二人にお越しいただき光栄です。RX-78の調整は万全の状態です」

「もう動けるのかね、アレは?」

「ええ。テスト調整さえ終わればじきに」

 

 ゴップが満足げに頷く。

 

「我々は共に戦闘機乗りですが、ガンキャノンでのシミュレーション訓練と実機訓練は地上で終えています。宇宙での実機体験はまだですがね。鉄騎中隊がやられてなけりゃ声はかからなかったかもしれん」

「自分は志願しました。ジオンのモビルスーツは脅威です」

「そうですか、私は月での戦いの現場にいました。戦死された方たちは無念なことでした」

 

 哀悼の言葉をテムが表す。

 

「ジオンのザクも見ました。ザクのデータを収集しての分析もしました」

「ケンプ中尉は技術士官でもある。役立ててほしいな。ヴェルツ大尉もだがね」

 

 ゴップがどうだ、という顔でテムを見る。それにテムは頷いて応える。

 

「希望通りの人材です。ご配慮感謝します、将軍」

「うん、紹介は済んだことだし、私はもう戻らねばならない。後は頼む。ジャブローに降りるのでね」

「お気をつけて」

 

 ゴップが役目は終わったと退場し、三人は見送った。

 実直なケンプに少し口が回るヴェルツ。案外悪くないコンビかもしれん。異なる性格のパイロットであることが望ましいと打診していた通りの人材だ。

 ハロとテストパイロットの相性と動作のデータを採集するのもテムの仕事の内である。

 

「ここにあるのはRX-78のプロトワンだけですが、プロトトゥーは組み上げラインを抜けて明日にでも動かせるようになるでしょう」

「プロトワンは動かせるのですか?」

 

 ケンプが問う。今の形でも動かせるのかという疑問である。

 

「ええ、今仮想シミュレーター実験が終わったところですが、そのデータを基に装甲を形成して取り付けます。プロトトゥのハンガーアップと同時に行いますので、お二人には搭乗テストを行ってもらいます」

 

 ケンプの問いにテムが返事を返しRX-78のコクピットに目を向ける。

 

「パイロットが乗っているのですか?」

「教育のためのパイロットが入っています」

「誰が乗っているんだ? おたくの技術員か?」

「いえ違います彼女は──」

「彼女?」

 

 テムが答えかけたところでRX-78のコクピットハッチが開いた。その挙動に三人の視線が集まる。

 その中から飛び出してきた球体が空中で弾みを止めた後、地面を弾みながらテムを認識して跳んだ。

 

「何だ?」

「わっ?」

 

 ケンプとヴェルツが思わず後ろに下がってハロを通す。

 

「ハロ!」

「おお、データの解析は完了したか?」

「した! した!」

 

 ハロを受け止めたテムにハロが返す。

 ふと風を感じてケンプは突然現れた存在に心を惹かれるのを感じる。それは柔らかい風となって三人の前に現れた。

 細身の白いパイロットスーツに身を包んだリズエラが重力のない通路を漂って二人の士官の間をすり抜ける。 

 風は香りを運んで殺風景だった世界が突然色づく。 

 ふわりとテム・レイの前でリズエラは着地してみせる。手には自分の紫のハロを抱える。

 

「リズエラがメサイアのパイロットです」

「初めましてリズエラ・カーバインです。連邦のテストパイロットの方々ですね」

 

 二人に向き直って挨拶するリズエラを呆気にとられた二人が迎えた。

 妖精のようだ──

 現実に存在する妖精のような少女に二人は一時言葉を失った。彼女から発せられた言葉さえも奇跡のようである。

 

「ウィリアム・ケンプです」

「エルヴィン・ヴェルツだ」

「ケンプ中尉とヴェルツ大尉」

 

 名乗りあう二人にリズエラは軽く会釈で返し、名前を呟く。紹介されずともすでに名前も顔も知っていた。

 話に聞いていたテストパイロットが来たからにはもう自分はお役御免である。

 

「新しいスーツはどうかね?」

「オールクリア。耐圧性は一二%上がってるけど、ガバガバ」

 

 とがった唇が不満の文字でテムをジト目で見る。テストついでに新しいスーツの試着をしたが評判は最悪と抗議する。

 

「うん、そうか? サイズは問題ないはずだが……」

 

 一般人類の体型を基本とするため通常規格のスーツはリズエラには適用できない。ファティマの体型は一般女性より遥かに華奢なのだ。

 

「シャワーを浴びたいデス。もー脱いでいいですか?」

 

 汗をかいて不快と眉を寄せるリズエラの横顔を男たちは眺める。そんな顔でさえも美しさに陰りはない。

 

「ああ、構わんよ」

「もう行きます」

「ああ、ありがとう。リズエラ」

 

 リズエラは軽く跳んで通路の向こう側に行くグリップを握った。

 

「レイ主任、彼女は……カーバイン家の?」

 

 縁者であろうか、というケンプの疑問にテムが答える。

 

「会長のご養女です。まだ学生ですがアナハイムの開発事業に参加なされています」

「才色兼備、というやつですか?」

 

 扉の向こうにリズエラの姿が見えなくなるまでケンプとヴェルツが見送った。

 スーツ部屋にたどり着き、ようやくリズエラは着ていたスーツを脱ぎ捨てた。放り出されたスーツとハロが宙に漂う。

 部屋と隣接したシャワールームに熱い飛沫が落ちる。汗をかいた体を洗い流しリズエラは機嫌を取り戻した。

 そして思い付きに微笑んで鼻歌を歌いだす。泡が舞い、白い湯気がその肢体を覆い隠して疲れを洗い流すのだった。

 シャワー室を出てリズエラがハロを拾い上げる。

 

「ねえ、ハロ、出かけようか?」

「出かける!、どこ行く?」

「アムロに会いに行くの。みんなには内緒ね」

「内緒、内緒! アムロ」

 

 紫のハロがピコピコ目を光らせて返事を返した。




10話後のあらすじを一部変更して挿入話をメインで展開します

俺、ガンダム二次の1シーズン投稿し終わったらFSS17巻と水星の魔女見るんだ

  • 水星の魔女は許す、FSSは許さん
  • FSSは許す、水星の魔女は許さん
  • 両方許されない 二次作を完結するまでな!
  • 好きなだけ堪能していいぞ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。